【所得税】東京高裁令和7年9月17日判決

判決イメージ 判決書(所得税)

国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。

事案の概要

原告は、複数の預金口座において外国通貨である米国ドル及びユーロを保有していたところ、平成29年から平成30年にかけて、米国に所在する不動産をドル建てで購入するなどの複数の外貨建取引を行った。原告は、これらの取引につき、為替差益に係る所得はないとの前提で平成29年分及び平成30年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告を行ったが、税務署長は、それらの外貨建取引につき為替差益が生じており、当該為替差益が雑所得に該当するとして、本件各年分の所得税等について各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。

本件は、原告が、上記各処分が違法であると主張して、各更正処分の一部及び各賦課決定処分の取消しを求める事案。

基本情報

・税目:所得税
・処分行政庁:麻布税務署長
・課税年度:平成29~30年分
・提訴裁判所:東京高等裁判所
・提訴年月日:令和7年2月18日
・判決日:令和7年9月17日
・結果:棄却

争点

・本件各不動産取引によって原告に為替差益に係る所得が発生し、実現したといえるか(原告は、本件外貨建取引のうち本件不動産取引以外の各取引については、原告に為替差益に係る所得が発生し実現したこと及びこれが雑所得に当たることを争っていない。)。
・為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法

判決書PDFデータ

東京高裁令和7年9月17日判決

原審はこちら⇩

【所得税】東京地裁令和7年2月5日判決
国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。事案の概要原告は、複数の預金口座において外国通貨である米国ドル及びユーロを保有していたところ、平成29年から平成30年にかけて、米国に所在する不動産をドル建てで購入するなどの複数の外...

判決書テキスト

※以下は生成AIでテキスト化したものです。

主   文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 麻布税務署長が令和2年11月25日付けで控訴人に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、課税される所得金額のうち総所得金額が3億7348万2478円を超える部分及び納付すべき税額がマイナス817万0706円を超える部分並びに同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも令和4年3月23日付け裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

3 麻布税務署長が令和2年11月25日付けで控訴人に対してした平成30年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、課税される所得金額のうち総所得金額が2億3489万0020円を超える部分及び納付すべき税額がマイナス6661万4582円を超える部分並びに同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第2 事案の概要

1 控訴人は、平成17年から順次開設した控訴人名義の複数の預金口座において外国通貨(以下「外貨」という。)である米国ドル(以下、単に「ドル」という。)を保有していたところ、平成29年から平成30年にかけて、米国に所在する不動産をドル建てで購入するなどの複数の外貨建取引を行った。控訴人は、これらの取引につき、為替差益に係る所得はないという前提で平成29年分及び平成30年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告を行ったが、処分行政庁である麻布税務署長は、それらの外貨建取引につき為替差益が生じており、当該為替差益が雑所得に該当するとして、本件各年分の所得税等について各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。

本件は、控訴人が、処分行政庁の所属する被控訴人に対し、上記各処分が違法であると主張して、各更正処分の一部及び各賦課決定処分の取消しを求める事案である。

原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、これを不服とする控訴人が控訴した。

2 関係法令の定め及び前提事実は、原判決の「事実及び理由」第2の2及び3のとおりであるから、これを引用する(以下、原判決を引用する場合、「別紙」を「原判決別紙」に、「別表」を「原判決別表」に、それぞれ読み替える。)。

本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被控訴人の主張は、原判決別紙2のとおりであるから、これを引用し、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」第2の5及び6のとおりであるから、これを引用する。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、原判決を次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから、これを引用する。

⑴ 原判決18頁20行目末尾に改行の上、次のとおり加える。

「 これに対し、控訴人は、「貨幣とは、商品の価値尺度や交換手段として社会に流通するものを指すところ、その性質に照らせば、貨幣自体の価値の増加又は減少を観念することはできない(そして、この理解は、その貨幣が日本で強制通用力を有する円貨であるか、外貨であるかを問わず妥当する)」旨を説示する東京地方裁判所令和2年(行ウ)第323号同5年3月9日判決(甲37)を挙げつつ、例えば、1000ドルの資産を1000ドルで売買する取引につき、当該1000ドルを支払った場合、同時点の為替レートが1ドル150円であるとすると、1000ドルの債務の弁済のために1000ドルを支払ったこと(15万円の債務の弁済のために15万円を支払ったこと)について所得が発生することを観念することができないなどと主張するが、一般に邦貨と外貨との為替レート(交換比率)が変動し得るものであることに伴い、前記⑴イ(原判決引用部分)のとおり、所得税法上、邦貨を基準として外貨を円換算することによって為替差益に係る所得を把握することが相当であることを前提にして検討すると、上記の例に従って取引時の為替レートにより1000ドルの資産を円換算して150万円の資産とみるとき、例えば当該取引の支払に充てる1000ドルをあらかじめ為替レートが異なる時点(1ドル140円)において14万円で取得している場合には、上記資産の価額(15万円)と当該取引の支払に充てた外貨の取得価額(14万円)との差額について為替差益が発生したものと観念し、これを「収入すべき金額」(所得税法36条1項)に算入することができるというべきであるから、これに反する控訴人の主張は採用することができない。

また、控訴人は、本件において問題となるのは、居住者が保有する外貨について所得が発生したといえるか否かであり、所得税法において所得の発生を邦貨で測定する旨を示唆する規定は存在しないとした上で、外貨(貨幣)については経済価値の増加を観念し得ず、本件においては所得の発生が認められない旨主張するが、そもそも周辺の地価や取引相場、物価の変動等により外貨(為替リスク)から独立した価値を有する本件各不動産を外貨(ドル)をもって取得した本件において、その支払に充てたドルにつき、これをドルとして保有するままでは円との関係で評価差額にすぎなかったものが本件各不動産取引を通じて為替差益として実現し得ること(すなわち、所得が発生し得ること)は前記⑵ア(原判決引用部分)のとおりであり、本件では、例えば、控訴人において外貨(ドル)での取引を中心に事業を行っているなど、所得の発生の有無における判断の尺度として邦貨(円)を用いるのが相当でないと認められるような特段の事情があるという主張がされているわけでもないから、所得の発生の有無を判断するに当たっては、前記⑴イ(原判決引用部分)のとおり、邦貨を基準として所得を測定することが相当であって、控訴人の上記主張は採用することができない。」

⑵ 原判決20頁3行目末尾に改行の上、次のとおり加える。

「 なお、控訴人は、所得税法37条1項(必要経費)の規定を挙げつつ、外貨の取得原価については、これを「直接要した費用の額」とすべき旨を主張するが、本件では、前記1⑶(補正後の原判決引用部分)のとおり、本件各不動産の取得等のために払い出されたドルの払出時における円換算額から当該ドルの取得時の円換算額を控除した差額が正である場合に当該差額を為替差益として観念するものであって、例えば、本件各不動産の価額を収入金額に算入するとともに本件各送金に係る外貨の取得価額を必要経費に算入するという手法で経済的利得が実現したものと観念しているわけではないから、控訴人の上記の主張を直ちに採用することはできず(なお、控訴人は、外貨についての、商品の価値尺度や交換手段であることを前提としており、外貨そのものが資産に該当すると主張しているわけでもない。)、同規定については、前記⑴(原判決引用部分)のとおり、法定評価方法の中から適用すべき評価方法を採用するに当たっての一要素として考慮されるにとどまるものというべきであるところ、同一種類である限り代替性を有し、取得費等が異なっても一単位ごとに認められる権利や性質、価値などが基本的に変わらず、物理的な劣化による価値の減少が想定されない外貨について、有価証券と同様に、単価を平均する総平均法に準ずる方法を適用することが最も合理的であることは、上記説示のとおりである。」

2 その他、原審及び当審における控訴人の主張を検討しても、前記1の結論を左右しない。

3 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第23民事部

裁判長裁判官 古谷 恭一郎

裁判官  渡邉 和義

裁判官  島村 典男