国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
本件妻は、本件被相続人の相続に係る相続税の申告及び修正申告をしたところ、税務署長は、本件被相続人の配偶者として本件妻が取得した米国の遺族年金である「widow’s benefits」を受給する権利(「本件受給権」)が相続税法3条1項6号所定の財産に該当するものであり、その評価額を本件妻の課税価格に加算すべきであるなどとして、本件妻の本件更正処分等をした。
本件は、本件妻が、本件受給権はみなし相続財産に該当しないなどと主張して、本件更正処分のうち本件妻の上記修正申告に係る納付すべき税額を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。なお、本件妻は、■に死亡し、本件被相続人と本件妻との間の子らである原告らは、本件妻を相続するとともに、本件訴訟を承継した。
基本情報
・税目:相続税
・処分行政庁:岐阜北税務署長
・課税年度:令和2年
・提訴裁判所:東京地方裁判所
・提訴年月日:令和6年11月12日
・判決日:令和8年2月25日
・結果:棄却
争点
・本件受給権が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるか
・本件更正処分における本件受給権の評価額が正当であるか
・ 本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するか
判決書PDFデータ
判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
岐阜北税務署長が令和5年3月31日付けで亡■に対してした、■に開始した被相続人■の相続に係る亡■の相続税についての更正処分のうち、納付すべき税額116万1400円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
亡■(以下「本件妻」という。)は、夫である■(以下「本件被相続人」という。)の相続に係る相続税の申告及び修正申告をしたところ、岐阜北税務署長は、本件被相続人の配偶者として本件妻が取得した米国の遺族年金である「widow’s benefits」を受給する権利(以下「本件受給権」という。)が相続税法3条1項6号所定の財産(同項の改正の前後を問わず、同項各号に規定する財産を以下「みなし相続財産」という。)に該当するものであり、その評価額を本件妻の課税価格に加算すべきであるなどとして、本件妻の上記相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
本件は、本件妻が、本件受給権はみなし相続財産に該当しないなどと主張して、本件更正処分のうち本件妻の上記修正申告に係る納付すべき税額を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
なお、本件妻は、■に死亡し、本件被相続人と本件妻との間の子らである原告らは、本件妻を相続するとともに、本件訴訟を承継した。
2 関係法令等の定め
相続税法、相続税法施行令(令和3年政令第115号による改正前のもの。以下「施行令」という。)、相続税法施行規則(令和3年財務省令第17号による改正前のもの。以下「施行規則」という。)等の関係法令等の定めは、別紙1「関係法令等の定め」記載のとおりである。なお、別紙で定める略称は、以下の本文においても用いる。
3 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実。なお、枝番号のある書証は、特段の記載のない限り、枝番号を全て含む。以下同じ。)
(1) 当事者等
ア 本件妻は、本件被相続人(■生、■死亡)の配偶者であった者である。(乙A2)
イ 本件被相続人は、日本企業に就職した後、昭和53年に婚姻した本件妻と共に、米国に12年程度海外赴任し、その後日本に帰国した。本件被相続人は、■(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、同人の相続(以下「本件相続」という。)が開始した。(乙A2、3、弁論の全趣旨)
ウ 本件相続に係る法定相続人は、本件被相続人の配偶者である本件妻(本件相続開始日の当時65歳)と子である原告ら4名の合計5名であったところ、本件妻及び長男である原告■(以下「原告長男」という。)が本件相続により財産を取得した(以下、本件妻と原告長男を併せて「本件相続人ら」という。)。(乙A2、5、6)
(2) 米国の年金制度について
ア 概要
米国の年金制度の概要は、要旨次のとおりである。(乙C1)
(ア) 老齢・遺族・障害保険制度(Old-Age, Survivors, and Disability Insurance)においては、被用者及び年収が一定額以上の自営業者が、社会保障制度の加入対象者となる。
(イ) 保険料は、社会保障税として内国歳入庁が徴収し、年金給付は社会保障庁(Social Security Administration)が行う。
(ウ) 年金加入期間が10年相当以上ある場合、老齢給付金(Old-age benefits)の受給資格が得られる。
(エ) 米国の年金制度の加入期間が1年6か月以上ある者は、日米両国の年金制度の加入期間を通算して10年相当以上となる場合、米国の年金制度から老齢給付金を受けることができる。
(オ) 遺族年金制度がある。
イ 連邦規則集の規定
米国の年金制度が規定されている連邦規則集(Code of Federal Regulations)20巻(Title 20)は、老齢給付金及び「widow’s or widower’s benefits」について、要旨次のとおり規定している(なお、「widow’s benefits」又は「widow’s or widower’s benefits」は、「寡婦(・寡夫)給付」と訳す例(乙C2)もあるが、後記(イ)のとおり、老齢給付金の受給者等が死亡した場合にその遺族が年金を受給できる権利であるという性質に鑑み、本判決においては、以下「米国遺族年金」と訳すこととする。)。(乙C2)
(ア) 老齢給付金について(§404.311)
a 老齢給付金の受給資格は、次のいずれかの時点から開始される。
(a) 完全退職年齢に達している場合、申請の対象期間内の月のうち、一部だけでも受給資格要件を全て満たしている最初の月。
(b) 省略
b 老齢給付金の受給資格は、死亡月の前月で終了する。
(イ) 米国遺族年金について
a §404.335
次の(a)から(e)までの要件を満たす場合、完全な受給資格を持ち死亡した被保険者の寡婦又は寡夫として給付金を受ける権利がある。
(a) 被保険者の妻又は夫であり、次の(i)から(iv)までの条件のいずれかを満たしていること。
(i) 被保険者が死亡する直前まで、被保険者の妻又は夫としての関係が少なくとも9か月間継続していたこと。
(ii) 被保険者が死亡した月の前月に米国家族年金の受給資格があり、完全退職年齢に達している場合又は老齢給付金若しくは障害給付金のいずれも受給資格がない場合。
(iii)から(iv)省略
(b) 申請を行うこと。ただし、次の(i)から(iv)(省略)までの条件のいずれかを満たす場合は、再度申請する必要はない。
(c) 60歳以上である、又は50歳以上で障害を有しており、次の(i)から(iv)(省略)までの条件を全て満たしていること。
(d) 被保険者の基本年金額以上の老齢給付金を受給する資格がないこと。
(e) 結婚していないこと。ただし、1983(昭和58)年より後の月に対する給付金については、次の(i)から(iv)(省略)までのいずれかに該当する場合を除く。
b §404.337
(a) 米国遺族年金は、申請の対象となり、受給のための他の要件が全て満たされている最初の月から受給資格がある。
(b) 米国遺族年金の受給資格は、以下のうち最も早い時期に終了する。
(i) 被保険者の基本年金額と同額以上の老齢給付金の受給資格を得た月の前月。
(ii)及び(iii)省略
(iv) 亡くなった場合はその月の前月。
(c)及び(d)省略
c §404.338
(a) 毎月の給付金は被保険者の基本年金額と同額である。被保険者が62歳になる前に死亡し、1984(昭和59)年の後に初めて受給資格を得た場合、特別基礎年金額を計算して毎月の給付額を決定することができる。
(b)及び(c)省略
ウ 社会保障給付の生活費調整
米国では、社会保障給付による購買力がインフレによって損なわれないよう、支給される社会保障給付額について、毎年、生活費調整(Cost-of-Living Adjustment)が行われている。生活費調整は、消費者物価指数が一定程度上昇した場合に適用されるものであるため、生活費調整により、社会保障給付額が増加することはあっても、減少することはない。実際にも、生活費調整は1975(昭和50)年以降実施されているが、2010(平成22)年、2011(平成23)年及び2016(平成28)年を除き、いずれの年も給付額を増加させており、生活費調整によって社会保障給付額が減少した年はない。(乙C3、4)
エ 米国遺族年金の受給方法
米国遺族年金は、解約(支給の取りやめ)自体は可能であるが、解約した場合、解約返戻金が支給されることはなく、また、年金形式に代えて一時金として支給を受けることはできない。(乙C5)
(3) 本件妻による本件受給権の取得
ア 本件被相続人は、本件相続開始日の属する令和2年当時、老齢給付金を受給していた。(弁論の全趣旨)
イ 本件妻は、本件被相続人の死亡により、前記(2)イ(イ)aの規定に基づき、米国遺族年金(widow’s benefits)を受給する権利(本件受給権)を取得した。本件受給権に係る令和2年の受給額は、月額1587米国ドル(年換算すると1万9044米国ドル)であった(以下、この1万9044米国ドルを「本件受給額」という。)。(乙A1、4、弁論の全趣旨)
(4) 本件訴えの提起に至る経緯
ア 本件妻は、令和3年2月2日、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「当初申告(期限内)」欄のとおり記載した申告書を岐阜北税務署長に提出した。(乙A5)
イ 岐阜北税務署長は、同税務署所属の調査担当者による調査を実施し、本件妻に対して調査結果を説明したところ、本件妻は、本件受給権を除く相続財産等の課税価格の一部に誤りがあったとして、令和4年12月28日、岐阜北税務署長に対し、本件相続税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を岐阜北税務署長に提出した。(乙A6)
ウ 岐阜北税務署長は、令和5年2月10日付けで、本件妻に対し、前記イの本件相続税について、別表1の「過少申告加算税の賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。(乙A7、弁論の全趣旨)
エ 岐阜北税務署長は、本件受給権がみなし相続財産に当たること等を理由として、令和5年3月31日付けで、本件妻に対し、別表1の「更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分」欄のとおり、更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件賦課決定処分)をした。(甲A1)
岐阜北税務署長は、本件更正処分において、本件受給権の価額を評価するに当たり、相続税法24条5項で準用する同条1項3号ハの「余命年数」として厚生労働省の作成に係る完全生命表を踏まえて算出した24年を、「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」として本件受給額を、「予定利率」として令和2年における米国の社会保障年金信託基金の実効金利である2.6%(以下「本件実効金利」という。)を、それぞれ用い、別表2のとおり、本件受給権の価額を3594万3922円と評価した。
オ 本件妻は、令和5年6月22日、本件更正処分等に不服として、国税不服審判所長に審査請求をした。(甲A2)
カ 国税不服審判所長は、令和6年5月22日付けで、本件妻の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。(甲A2)
キ 本件妻は、令和6年11月13日、本件訴えを提起した。(顕著な事実)
(5) 米国の社会保障年金信託基金の実効金利について
米国における老齢・遺族・障害保険制度においては、現役世代が納付する社会保障税によって高齢者に対する年金給付を行うとともに、高齢化による将来の支出増加に備え、毎年の社会保障税の歳入が歳出を上回る分を社会保障年金信託基金(Old-Age, Survivors, and Disability Insurance Trust Fund)に積み立てている。(乙C6)
この社会保障年金信託基金の運用利回りである実効金利は、当該基金が保有する証券のポートフォリオ全体を反映し、その年に獲得した利息をその年の平均保有資産水準で除して算出されるものであり、米国の社会保障制度において社会保障税として徴収された金額の運用利回りの実績として公表されているところ、2020(令和2)年における社会保障年金信託基金の実効金利は、2.6%であった(本件実効金利)。(乙C7、弁論の全趣旨)
(6) 平均余命年数及び邦貨換算レートについて
ア 厚生労働省が作成した平成27年の第22回完全生命表(女)(本件相続開始日において公表されていた最新のもの)における65歳女性の平均余命年数は、24.24年である。(乙C8)
イ 本件相続開始日である■における、本件妻の取引金融機関である株式会社■銀行の米国ドルの対顧客直物電信買相場(以下「TTB」という。)は、106.70円である。(乙C9、弁論の全趣旨)
4 本件更正処分等の根拠及び適法性に係る被告の主張
被告が主張する本件更正処分等の根拠及び適法性は、別紙2「本件更正処分等の根拠及び適法性に係る被告の主張」記載のとおりであり、原告らは、後記5の争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を争わない。
5 主な争点
(1) 本件受給権が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるか(争点1)
(2) 本件更正処分における本件受給権の評価額が正当であるか(争点2)
(3) 本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するか(争点3)
なお、原告らは、本件受給権の金銭的評価が不可能であること等を理由に、本件受給権が「財産」(相続税法3条1項柱書き)に当たらないとも主張しているが、同項柱書きが「当該各号に掲げる財産」と規定していることからすれば、「財産」に当たるか否かは、同項6号該当性に係る争点1の判断により決せられるべきものであり、主な争点としては記載しないこととした。
6 主な争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件受給権が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるか)について
(被告の主張)
ア 意義
「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)とは、次の(ア)から(ウ)のような同号の沿革からすれば、法令等の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利をいう。
(ア) 昭和25年法律第73号による全部改正前の相続税法(昭和22年法律第87号。以下「旧相続税法」という。)においては、旧厚生年金保険法(昭和16年法律第60号)に基づく遺族給付について、「被相続人の死亡により相続人その他の者が取得する定期金に関する権利(旧相続税法4条5号及び6号に掲げるものを除く。)」(旧相続税法4条7号)に該当し、相続財産とみなされることを前提に、保険給付として支給を受ける金銭(養老年金を除く。)を標準として租税公課を課さない旨規定していた旧厚生年金保険法29条により相続税が課税されないものと解されていた。
(イ) 旧相続税法の全部を改正して制定された相続税法(昭和25年法律第73号。以下「制定時の相続税法」という。)においては、同法3条1項6号に規定する「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当する権利とは、恩給法に基づく扶助料に類する年金のように、法令等の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利をいうものと解されていた。
(ウ) そして、制定時の相続税法は、昭和29年法律第39号による一部改正(以下「昭和29年改正」という。)により、制定時の相続税法3条1項6号に規定する「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」という文言に「(恩給法(大正12年法律第48号)の規定による扶助料に関する権利を除く。)」と付加され、恩給法の規定による扶助料に関する権利が除かれた。昭和29年改正は、恩給法の規定による扶助料に関する権利と性質を同じくする厚生年金保険法による遺族年金、労働者災害補償保険法による遺族補償費、国家公務員共済組合法による遺族給付等がそれぞれの法律において非課税とされていることについて、これらの「非課税」に相続税の非課税を含むと解した上で、これら遺族年金等を受給する権利と恩給法の規定による扶助料に関する権利との均衡を図る必要があるとの観点から、相続税法3条1項6号に規定する「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」から恩給法の規定による扶助料に関する権利を除くことにより、恩給法による扶助料に関する権利についても相続税を非課税としたものであった。
イ 本件におけるあてはめ
本件受給権は、連邦規則集の規定に基づき本件被相続人の遺族である本件妻が直接取得した米国遺族年金を受給する権利であるところ、当該遺族年金は、連邦規則集の規定に基づき、被保険者が死亡した場合に、一定の要件を満たす当該被保険者の配偶者に対し、当該配偶者が死亡するまで毎月支給されるものであるから、法令等の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利に当たる。
したがって、本件受給権は、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たり、相続税の課税財産となる。
(原告らの主張)
ア 意義
(ア) 「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」とは、被相続人に帰属すべき権利又は同人の出捐に基づいて発生した権利が、被相続人の死亡に直接起因して他者に移転した実体のある場合をいう。
このような定義は、相続税法3条1項1号から5号が、被相続人が掛金又は保険料を負担した場合(同条1、3~5号)又は被相続人に支給されるべきであった退職手当金等(同条2号)を対象としていることと整合する。
(イ) 厚生年金保険法による遺族年金等の国内公的年金につき、個別法において設けられている非課税規定(厚生年金保険法41条、国家公務員共済組合法49条、地方公務員等共済組合法52条等)は、国内公的年金に係る支分権が非課税であることを定める規定であり、国内公的年金に係る基本権が非課税であることを定める規定ではない。
そして、被告が主張する定義を前提とすると、国内公的年金に係る基本権もみなし相続財産に該当し得るものであるところ、基本権に係る非課税規定が設けられていないにもかかわらず、国内公的年金に係る基本権については、実務上、非課税として扱われているのであって、被告が主張する定義は、これと整合していない。
イ 本件におけるあてはめ
「みなし相続財産」として相続税の課税対象になるためには、本件についていえば、本件被相続人に帰属すべき権利又は同人の出捐に基づいて発生した権利が同人の死亡に直接起因して請求人(相続人等)に移転した実体のある場合に当たることが必要であるところ、本件受給権のような公的年金制度の場合には、このようなことは全く想定できない。
したがって、本件受給権は「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たらない。
(2) 争点2(本件更正処分における本件受給権の評価額が正当であるか)について
(被告の主張)
ア 適用される条項について
本件受給権は、その目的とされた者が死亡するまでの間、定期的に金銭その他の物の給付を受ける権利である「終身定期金」(相続税法24条1項3号柱書き)に当たるから、同条5項が準用する同条1項3号ハによって評価すべきである。
そして、本件受給権は、解約自体は可能であるものの、解約した場合に解約返戻金が支給されることはなく、また、年金形式に代えて一時金として支給を受けることはできないから、相続税法24条1項3号イ及びロに規定する金額がない。
したがって、本件受給権の価額は、相続税法24条1項3号ハの規定を準用して評価することとなる。
イ 相続税法24条1項3号ハによる評価について
本件受給権については、次の(ア)から(ウ)のとおり読み替えるなどした相続税法24条1項3号ハによって評価すべきであり、その評価額は、別表2「本件受給権の価額の評価明細書」のとおり、1万9044米国ドル(本件受給額)に余命年数である24年に応ずる令和2年の実効金利2.6%(本件実効金利)による複利年金現価率17.689を乗じたものを邦貨換算した3594万3922円(1ドル=106.70円換算)となる。
したがって、本件更正処分における本件受給権の評価額は正当である。
(ア) 「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数」(相続税法24条1項3号ハ)について
「余命年数」は、施行令5条の9及び施行規則12条の6により、厚生労働省の作成に係る完全生命表に掲げる年齢及び性別に応じた平均余命(1年未満の端数があるときは、これを切り捨てた年数)をいう。
本件において余命年数の算出の対象となる者は、本件被相続人の死亡により本件受給権を取得した本件妻(本件相続の当時65歳)であるところ、本件相続開始日において公表されていた最新の厚生労働省の作成に係る完全生命表における65歳女性の平均余命は24.24年であることから、「余命年数」は24年となる。
(イ) 「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」(相続税法24条1項3号ハ)について
A 「当該契約に基づき」との文言は、契約に基づくもの以外のものについて相続税法24条1項3号を準用する同条5項に鑑み、「当該権利に基づき」と読み替えるのが相当である。
B 仮に、将来の「給付を受けるべき金額」が権利の取得時に判明していない場合に権利の評価が一切許されないとすると、当該権利が課税財産に含まれるにもかかわらず、相続税額の計算が不可能になるという不都合が生ずるが、相続税法がそのような不都合を予定しているとは解されない。
そして、相続税法24条1項3号ハの趣旨が、将来、余命年数の間にわたって給付を受けるべき金額の合計額を相続開始時点における現在価値に引き直して算定するという権利の評価の方法を規定するものであることに照らし、同号ハは、将来の「給付を受けるべき金額」が権利の取得時に判明していない場合には権利の評価を一切許さないという趣旨を含む規定ではなく、そのような場合には、合理的な評価の方法を用いて「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」を算出することを許容するものと解するのが相当である。
本件についてみると、本件受給権に基づいて支給される遺族年金の金額は、米国社会保障庁から毎年年末ないし翌年初めに送付される「Your New Benefit Amount」という書類を受領しなければ翌年の受給額を知ることはできず、本件妻が本件受給権を取得した時には、将来の生活費調整を織り込んだ「給付を受けるべき金額」は判明していなかった。もっとも、権利取得時に判明している金額(本件受給額)をもって毎年一定の給付を受けるものと同様に取り扱うことは合理的である上、相続税法24条1項3号の趣旨に反するものではない。また、米国の生活費調整は、消費者物価指数等が一定程度上昇した場合に適用されるものであるため、これによって社会保障給付額が増加することはあっても減少することはないから、本件受給額は納税者に有利な金額である。
したがって、「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」は、本件相続により本件妻が受給することとなった米国遺族年金の月額である1587米国ドルを年換算した1万9044米国ドル(本件受給額)となる。
(ウ) 「当該契約に係る予定利率」(相続税法24条1項3号ハ)について
A 本件受給権は契約に基づかない権利であるから、「当該契約に係る予定利率」は存在しない。もっとも、相続税法24条1項3号ハは、「当該契約に係る予定利率」が存在しない場合には権利の評価を一切許さないという趣旨を含む規定ではなく、そのような場合には基準年利率(利付国債に係る複利利回りを基に計算した年利率をいう。)等の合理的な評価の方法を用いることを許容するものと解するのが相当である。
B 平成22年法律第6号による一部改正(以下「平成22年改正」という。)によって、相続税法24条1項が予定利率を用いて定期金に関する権利の価額を評価することとされた趣旨は、制定時の相続税法24条1項で定めていた所定の倍数や倍率を用いた評価方法では、評価時点における金利水準等を反映できない結果、かかる評価方法に基づく評価額が実際の受取金額の現在価値に比べて非常に低いものとなってしまうこと等に対応するためである。
このような沿革からすれば、相続税法24条の定める定期金に関する権利の評価方法は、契約で定まった予定利率を用いること自体に合理性があるのではなく、評価時点における金利水準等を加味して当該権利の現在価値を適切に算定することを念頭に置いたものであるから、同法3条1項6号に規定する定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のものの価額の評価について同法24条1項3号ハを準用する場合に、「予定利率」に代わる合理的な利率として採用すべき利率は、必ずしも、当該利率による運用の結果に基づいて定期金給付額が定まるものであることまで要するものとは解さないとするのが相当である。
予定利率とは、一般に、生命保険会社が保険料を計算するときに想定した運用利回りのことをいうこと、本件受給権が米国遺族年金を受給する権利であることからすると、上記の評価に当たり採用すべき利率は、米国遺族年金に関する運用利回りを用いるのが合理的である。この米国遺族年金に関する運用利回りは、米国社会保障庁によって、社会保障年金信託基金がその年に獲得した利息をその年の平均保有資産水準で除して計算した実効金利として公表されている。
したがって、本件受給権の評価額を算出する際の基礎となる「予定利率」は、令和2年における社会保障年金信託基金の実効金利である2.6%(本件実効金利)とするのが相当である。
ウ 原告らの主張に対する反論(「余命年数」について定める施行令5条の9及び施行規則12条の6が相続税法24条1項3号の委任の範囲を逸脱していないこと)
(ア) 「当該契約に関する権利を取得した時」において「終身定期金の目的とされた者」があと何年生きられるかは誰にも分からず、同人の余命年数は判明していないから、施行令5条の9及び施行規則12条の6が「余命年数」について、各年齢の者が平均してあと何年生きられるかという期待値である「平均余命」と定めることには合理性がある。また、相続税法24条1項3号ハの「余命年数」として「平均寿命」を用いるとの考え方を採ることは、同号ハの「当該契約に関する権利を取得した時」において「その目的とされた者」が完全生命表上の平均寿命を超える年齢であった場合の「余命年数」の計算方法が明らかでなく、採用し難い。そして、厚生労働省の作成に係る完全生命表は、特に重要な統計として、統計法に基づき基幹統計に指定されているものである。
これらによれば、相続税法24条1項3号ハの「余命年数」を上記生命表に掲げる「平均余命」と定めることは、「余命年数」を定めることを委任した同号ハの趣旨ないし目的に反しないことは明らかである。
(イ) 原告らは、平成22年改正において考慮されたのは「平均寿命」であって「平均余命」ではないと主張する。
しかしながら、平成22年改正において、「平均寿命」という文言を用いているものの、「平均余命」という概念と明確に区別した上で、「平均寿命」という文言を選択して使用したことをうかがわせる形跡はないから、相続税法24条1項3号の改正経緯で考慮されたのは「平均寿命」であって「平均余命」ではないということはできない。また、平均寿命だけでなく、全年齢の平均余命についても昭和25年以降一貫して伸びていることからすれば、「余命年数」を「平均寿命」と定めることは、平均寿命を踏まえるという平成22年改正の趣旨に反するものではない。
そして、制定時の相続税法24条1項3号は、終身定期金の評価方法につき、終身定期金を平均寿命までの年数を限度に評価する趣旨のものではなかった。さらに、平成22年改正は、平均寿命の伸長等や社会情勢の変化等を踏まえて終身定期金の評価方法を改めたものであるが、平均寿命までの年数を限度に評価する趣旨ではないという終身定期金の評価方法の考え方を上記改正が変更したことをうかがわせる形跡はない。
以上によれば、原告らの上記主張は理由がない。
(原告らの主張)
ア 相続税法24条1項3号を準用できないこと
本件受給権は、相続財産とみなすために必要な、①被相続人に本来相続税の対象となるような金銭の負担がなく、②当該負担に見合う解約返戻金又は一時金もなく、③余命年数にわたり受け取ることができる年金総額も決まっておらず、その現在価値が測定不能であるから、相続税法24条5項により同条1項3号を準用することはできない。
イ 相続税法24条1項3号ハによる具体的な評価が違法であること
(ア) 「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数」について
A 「余命年数」について定める施行令5条の9及び施行規則12条の6は、次のとおり、相続税法24条1項3号の委任の範囲を逸脱しており無効である。
授権規定たる相続税法24条1項3号の文理から、余命年数が平均余命であるということはできない(授権規定の文理)。また、相続税法24条1項3号が下位法令に委任したのは、主として、法律によって定めると迅速性に欠けるという点にあり(下位法令への委任の趣旨)、委任に当たっては租税法律主義の要請がある(委任命令により制限される権利利益の性質)ことからすれば、委任命令の制定に当たり、行政機関に対して自由で広範な裁量が認められるべき場面ではない。
そして、将来、余命年数の間にわたって給付を受けるべき金額の合計額を相続開始時点における現在価値に引き直して算定するという相続税法24条1項3号ハの趣旨に加え、終身定期金に係る将来の給付額の総和をあらかじめ確定することはできないが、基本権の価値は将来の給付額の総和を超えるものではないから、相続開始時点で将来の給付額を見込むものでなければならないこと等からすれば、相続税法24条1項3号の「余命年数」については、生存する高い蓋然性が認められ、その間にわたる将来の給付が確実に見込まれる年数をいうべきであり、その算出に当たり、50%程度の生存率にすぎない平均寿命を用いることは不合理である(授権法の趣旨等)。
B 原告らの主張は、「余命年数」として具体的な年数を明らかにする必要はないことを前提とするものであり、その解釈としては、相続税法24条1項3号ハの趣旨に基づき、余命年数の間にわたって給付を受けるべき金額が実際の受取金額に照らして合理的なものとなるか否かを問題とすべきである。例えば、相続人が著しく高齢である場合には、定期金に関する権利の評価額を零とすることも否定されない。
C 被告は、終身定期金の評価方法を定める相続税法24条1項3号を改正して平均余命を用いることとした平成22年改正の趣旨が平均寿命の伸長等にあると主張するが、平均余命と平均寿命とは別の概念である。また、平成22年改正前の相続税法24条1項3号が平均寿命までの年数を限度に評価するものではなかったとしても、平成22年改正により同号の評価方法が根本的に改められたのであるから、平成22年改正前の条文に基づいて同改正後の条文の解釈を論ずること自体が誤りである。
(イ) 「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」について
被告は、「当該契約に基づき」との文言を「当該権利に基づき」と、「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」との文言を「給付を受けた相続開始時の受給額」と、それぞれ読み替える。
しかしながら、「平均額」は、受給者が受給開始後死亡するまでの総額をその期間で割った金額であるから、支給総額が相続開始時に判断できなければならないが、受給者がいつまで生存するか、支給額がどう変動するか、日本及び支給国の財政事情で大きく変動するから、これを算定することは不可能である。相続税法24条5項が同条1項3号を準用しているからといって、無理矢理計算するために要件を変えることが許容されるものではない。このように、相続税法が「平均額」と定めているのに、被告は、平均額とはなり得ない数字を任意に取り出し、他に合理的なものが見つからないとして、具体的な受給額をもって平均額と強弁している。
上記のような二重の読み替えは納税者の予測可能性を超えて拡大解釈するものであり、租税法律主義に反する。
(ウ) 「当該契約に係る予定利率」について
次のとおり、予定利率と実効金利は、形式的にも実質的にも異なるものであるから、予定利率を実効金利と読み替えることはできない。
A 予定利率は契約において生命保険会社等が約束した利率であり、基本的に変更できないものであるから、その総額が計算可能となる。
他方、実効金利は常に変動し、公的年金に関する大きな制度変更も懸念されるため、将来の予想はつかないし、これに基づく総額の算定も不可能である。
B 予定利率は一般に保険会社が想定した運用利回りであり、契約者から払い込まれた保険料を予定利率で運用することが保険給付の前提となっているから、予定利率による複利運用を想定することには合理性がある。
他方、米国の年金制度は、現役世代が納付する社会保障税によって高齢者に対する年金給付を行うことを基本としているところ、社会保障年金信託基金の積立ては、高齢化による将来の支出増加に備え、毎年の社会保障税の歳入が歳出を上回る部分を積み立てているにすぎないから、実効金利によって運用された当該基金が現実に米国遺族年金給付の支払に充てられるか否かさえ明らかでない。そのため、同基金の運用利回りと各回の年金給付との間に直接の関連性はない。
C 被告の主張する基準年利率の定義からすれば、本件受給権の関連では米国の国債に基づいて計算される年利率がこれに相当するというべきであり、実効金利が「予定利率」に代わる合理的な利率であるということにはならない。
ウ 小括
したがって、本件更正処分における本件受給権の評価額は、違法なものである。
(3) 争点3(本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するか)について
(原告らの主張)
国内公的年金受給権については、次のア及びイのとおり、相続税の課税対象外となっているにもかかわらず、次のウのとおり、合理的な理由なしに、本件受給権を含む国外公的年金受給権についてのみ相続税が課税されている。このように、国内公的年金受給権を非課税とし、国外公的年金受給権に課税する運用は、差別的課税に当たり、憲法の定める平等原則に違反する。
ア 相続税法3条の規定の推移
制定時の相続税法では、みなし相続財産の対象に恩給法の規定による扶助料に関する権利が含まれることとなったが、仮に、被告の主張するように、定期金に関する権利を定めた相続税法3条1項6号が、広く法律に基づく定期金を対象とするものであれば、上記扶助料に関する権利を明記する必要はなかったはずである。
そうすると、当時の立法者としては、公的年金受給権については、みなし相続財産の対象に当たらないものと認識していたというべきである。
イ 評価規定の要件改正によって公的年金について評価ができなくなったこと
平成22年改正により、終身定期金の価額に関する評価規定が改正され、相続税法24条1項3号のとおり定められた。もっとも、国内外の公的年金受給権については、同号の定める①解約返戻金の額(同号イ)、②一時金の額(同号ロ)、③予定利率による金額(同号ハ)のいずれも制度上算定することができず、評価規定である同号を適用することができなくなった。
そのため、国内外の公的年金受給権は、いずれも相続税法24条1項3号による評価をして課税することができないものとなった。
ウ 国内公的年金と国外公的年金の差異がないこと
被告は、国内外の公的年金に関する社会保険料の二重払いの問題に対応するため、諸外国との間で社会保障協定を締結し、日本と諸外国における就労期間を通算することを可能にするなどしてきたところ、税制面において、国内公的年金の差別に差別的に取り扱う合理的な理由はない。
また、被告は、各国の公的年金制度には様々な違いがあると主張するが、本件で問題となっている米国の公的年金は、社会保険(公的年金)に基づく、被保険者の死亡に起因する遺族の固有の公法上の受給権という法的性質のものであり、日本の公的年金と同質のものである。
以上のとおり、国内公的年金とは異なり、国外公的年金に差別的に課税することに合理的理由はない。
(被告の主張)
年金制度全体やその中での遺族年金の位置付け、遺族年金の支給水準等が国によって様々であることを踏まえると、国外の遺族年金受給権を、国内の遺族年金受給権と同様に、一律に相続税の課税財産としないことは必ずしも適当ではないというべきであって、国内の遺族年金受給権と国外の遺族年金受給権との間の取扱いの差異は合理的な理由に基づくものであるから、差別的課税ということはできない。
したがって、本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することは、平等原則に違反するものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件受給権が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるか)について
(1) 「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)該当性
ア 判断の枠組み
相続税の課税の対象となる財産は、相続又は遺贈により取得した財産であるところ(相続税法2条)、実質的には相続又は遺贈により取得したものと同視すべき財産であるのに、法律的には相続又は遺贈により取得した財産とはいい難いものがある。しかしながら、法律的にみて相続財産又は遺贈により取得した財産でないからとの理由でこれを一律に相続税の課税対象から除外するのでは、相続税負担の不均衡とほ脱を許すことになりかねない。そこで、相続税法は、法律的には相続又は遺贈による取得財産に該当しないものであっても、実質的に相続又は遺贈による取得財産と同視すべき幾つかのものについて、これを相続又は遺贈により取得したものとみなして(みなし相続財産)課税財産に取り込むことによって、相続税負担の回避を防ぎ、実質的な負担の公平を図っているものと解される。
相続税法3条1項6号の文理に加え、同号が上記の趣旨で設けられた規定であることからすれば、同号の定める「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」とは、法令等(外国の法令を含む。以下同じ。)の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利をいうと解するのが相当である。
イ 本件における検討
本件についてみると、本件受給権は、米国連邦規則集の規定(連邦規則集§404.335)に基づき、本件被相続人の遺族である本件妻が直接取得した米国遺族年金を受給する権利であるから(前提事実(2)イ(イ)、(3)イ)、法令等の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利であると認められる。
したがって、本件受給権は、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に当たり、相続により取得したものとみなされるから、相続税の課税財産となる。
(2) 原告らの主張について
ア 原告らの主張する「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」の定義について
原告らは、相続税法3条1項1号から5号までの規定との整合性を理由に、同項6号の「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」とは、被相続人に帰属すべき権利又は同人の出捐に基づいて発生した権利が、被相続人の死亡に直接起因して他者に移転した実体のある場合をいうと主張する。
しかしながら、相続税法3条1項6号には、同項1号及び3号から5号における「被相続人が負担した保険料」や「被相続人が負担した掛金又は保険料」、同項2号における「被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与」のように、被相続人に帰属すべき権利又は同人の出捐に基づいて発生した権利の存在を前提としていることをうかがわせる文言はない。
また、相続人等が法令等によって定期金に関する権利を取得する場合においても、実質的には相続又は遺贈により財産を取得したものと同視すべき状況が生ずることがらすれば、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」を前記(1)アにおいて説示したように解することは、相続税負担の回避を防ぎ、実質的な負担の公平を図るという相続税法3条の趣旨にも沿うものである。
そうすると、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」について、被相続人に帰属すべき権利又は同人の出捐に基づいて発生した権利が他者に移転した実体のある場合に限るべきということはできないから、原告らの主張を採用することはできない。
イ 被告の主張する定義は、国内公的年金の基本権が非課税とされている課税実務と整合していない旨の原告らの主張について
(ア) 相続税法の改正の経緯等について
制定時の相続税法3条1項6号は、「被相続人の死亡に因り相続人その他の者が恩給法(大正12年法律第48号)の規定による扶助料に関する権利その他定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のものを取得した場合においては、当該定期金に関する権利を取得した者について、当該定期金に関する権利」として、恩給法の規定による扶助料に関する権利はみなし相続財産である旨定めており、また、同号にいう「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」とは、法令等の規定によって相続人等が直接取得する定期金に関する権利をいうと解されていた。(乙B1)
昭和29年改正後の相続税法3条1項6号においては、「被相続人の死亡に因り相続人その他の者が定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの(恩給法(大正12年法律第48号)の規定による扶助料に関する権利を除く。)を取得した場合においては、当該定期金に関する権利を取得した者について、当該定期金に関する権利(括弧内省略)」と改められ、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」の文言はそのままに、恩給法の規定による扶助料に関する権利がみなし相続財産から除外された(乙B13)。このような昭和29年改正の趣旨は、制定時の相続税法3条1項6号が「恩給法の規定による扶助料に関する権利その他定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」を相続税の課税対象としていたところ、恩給法には同法の規定による扶助料に関する権利を非課税とする旨の規定はない一方、同権利と性質を同じくする厚生年金保険法による遺族年金等がそれぞれの法律において非課税とされていたことを踏まえ、恩給法の規定による扶助料に関する権利を課税対象から除くことにより、厚生年金保険法による遺族年金等を支給する権利と恩給法の規定による扶助料に関する権利との均衡を図ることにあった(乙B14~16)。
昭和29年改正の上記経緯のとおり、相続税法は、同改正の前後を通じて、厚生年金保険法による遺族年金等が相続税の課税対象となることを前提としており、厚生年金保険法等の個別の規定により遺族年金等が課税対象から除かれているものと整理されていた。
(イ) 厚生年金保険法等における非課税規定について
原告らは、国内公的年金の個別法における非課税規定として、厚生年金保険法41条2項を例示した上で、このような個別法の規定は、支分権について非課税とする規定である旨主張する。
しかしながら、厚生年金保険法41条2項は「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。」と定めており、その文理からすれば、各回の給付に係る所得税等についてのみ非課税とする旨を定めているものとは解されない。
また、厚生年金保険法による遺族年金は、遺族の生活安定に必要な資金であるといった政策的配慮から例外的に非課税とされているところ、その趣旨は、相続税の課税についてもあてはまる。
そして、上記の趣旨に加えて、遺族年金に係る基本権の経済的価値は、将来にわたって受け取るべき遺族年金の金額を取得時の現在価値に引き直した金額の合計額として把握することができることからすれば、厚生年金保険法41条2項等の非課税規定について、基本権と支分権とを区別して、支分権についてのみ定めた規定であると解することは、その実態にもそぐわないものといえる。
以上からすれば、厚生年金保険法41条2項は、遺族年金について、各回の給付を所得税等の課税対象としないのみならず、将来受給する分を含めて、相続税の課税対象としない趣旨を含む規定であると解するのが相当である。このことは、厚生年金保険法のみならず、他の公的年金に係る非課税規定についても同様である。
(ウ) 小括
原告らの主張は、国内公的年金の基本権が個別法の規定により非課税とされているものではないとの見解を前提とするものであるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、厚生年金保険法による遺族年金等について相続税の課税対象から除かれているのは、原告らの主張する見解を前提とするものではないから、原告らの主張は採用することができない。
2 争点2(本件更正処分における本件受給権の評価額が正当であるか)について
(1) 準用される条項について
ア 前記1のとおり、本件受給権は、相続税法3条1項6号の定める「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たるから、同法24条5項が準用する同条各項の規定が準用される。
イ そして、本件受給権は、被保険者の基本年金額と同額以上の老齢給付金の受給資格を得るなどの事情がない限り、本件妻が死亡するまで、定期的に金銭が支給されるものであり(前提事実(2)イ(イ)b、c)、その目的とされた者が死亡するまでの間、定期的に金銭その他の物の給付を受ける権利である「終身定期金」(相続税法24条1項3号柱書き)に当たるから、同条5項が準用する同条1項3号によって評価するのが相当である。
ウ そして、米国遺族年金に係る受給権は、解約自体は可能であるものの、解約した場合に解約返戻金が支給されることはなく、また、年金形式に代えて一時金として支給を受けることはできない(前提事実(2)エ)。そうすると、本件受給権には相続税法24条1項3号イ及びロに規定する金額がないから、本件受給権の価額は、同号ハの規定を準用して評価することとなる(相続税基本通達24-4参照)。
エ 原告らは、本件受給権の現在価値を測定することができないから相続税法24条5項により同条1項3号を準用することはできない旨主張するが、後記(2)のとおりその現在価値を評価することができるのであって、原告らの主張を採用することはできない。
(2) 相続税法24条1項3号ハによる評価について
ア 「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数」(相続税法24条1項3号ハ)について
(ア) 「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者」について
相続税法24条1項3号ハの趣旨は、その規定内容に照らすと、将来、余命年数の間にわたって給付を受けるべき金額の合計額を相続開始時点における現在価値に引き直して算定するという権利の評価の方法を規定するものであると解される。したがって、余命年数の算出の対象となる「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者」(同号ハ)及び「同号の終身定期金に係る定期金給付契約の目的とされた者」(施行令5条の9)とは、終身定期金に係る定期金給付契約に関する権利を取得した者を意味すると解される。そして、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」の価額の評価について、相続税法24条5項が同条1項3号ハを準用していることからすれば、余命年数の算出の対象となる者とは、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」を取得した者をいうと解するのが相当である。
本件受給権を取得したのは本件妻であるから、余命年数の算出の対象となる者は、本件妻である。
(イ) 「余命年数」について
「余命年数」は、相続税法24条1項3号ハの規定を受けて定められた施行令5条の9及び同条の規定を受けて定められた施行規則12条の6により、厚生労働省の作成に係る完全生命表に掲げる年齢及び性別に応じた平均余命(1年未満の端数があるときは、これを切り捨てた年数)により算出されることとなる。
そして、本件相続開始日において、本件妻は65歳であったところ(前提事実(1)ウ)、当時公表されていた最新の完全生命表における65歳女性の平均余命年数は24.24年であり(前提事実(6)ア。財産評価基本通達200-3参照)、1年未満の端数を切り捨てた年数は24年となる。
(ウ) 小括
以上より、「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数」は、必要な読み替えを踏まえ、24年となる。
イ 「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」(相続税法24条1項3号ハ)について
(ア) 「当該契約に基づき」について
「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」の価額の評価について、相続税法24条5項が同条1項3号ハを準用していることからすれば、同号ハにいう「当該契約に基づき」との文言は、「当該権利に基づき」と読み替えるのが相当である。
(イ) 「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」について
A 相続税法は、その22条において、財産の評価の原則として、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によることとし、具体的な評価方法については解釈に委ねる一方で、定期金に関する権利を含む一部の財産については、同法23条から26条において特別の定めを置いている。相続税法がこのような特別の定めを置いている趣旨は、一部の財産については、一定の財産的価値を有しているとしても、時価を把握することが困難であるなどの理由から、具体的な評価方法を解釈に委ねるのではなく、これを法定したものと解するのが相当である。
そして、取得の時における時価の評価についての特別の定めとして置かれた相続税法24条1項3号ハの趣旨は、将来、余命年数の間にわたって給付を受けるべき金額の合計額を相続開始時点における現在価値に引き直して算定するという権利の評価の方法を規定することにある。
B 前記Aのとおり、相続税法は、取得の時における時価について、具体的な評価方法を原則として解釈に委ねおり、同法24条1項3号ハの趣旨は、相続開始時点における現在価値に引き直して算定するという権利の評価の方法を規定することに主眼がある。
また、「給付を受けるべき金額」が権利の取得時に判明していない場合に、相続税法24条1項3号ハによる権利の評価が一切許されないとすると、権利を取得した時において定期金給付事由が発生している終身定期金給付契約に関する権利を相続又は遺贈により取得した結果、当該権利が相続税の課税財産に含まれるにもかかわらず、当該権利の評価が不可能になり、ひいては相続税額の計算が不可能になってしまうという不都合が生ずる。
以上のとおり、相続税法における財産の評価の仕組みに加え、同法24条1項3号ハによる権利の評価が一切許されないとした場合に不都合が生ずることを踏まえると、同号ハの規定は、権利の取得時において将来の「給付を受けるべき金額」が判明していない場合には、合理的な評価の方法を用いて「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」を算出することを許容していると解するのが相当である。そして、このことは、同法3条1項6号により、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」が相続又は遺贈によって取得したとみなされる場合においても同様である。
C 本件についてみると、前提事実(2)ウ及び証拠(乙C4)によれば、米国遺族年金の支給金額は、毎年、生活費調整の要否が検討され、生活費調整がされる場合にはその分が支給金額に加算されるものであり、受給期間中、変動(増加)し得るものであって、個々の受給者は、米国社会保障庁から毎年年末ないし翌年初めに送付される「Your New Benefit Amount」という書類を受領しなければ、生活費調整を踏まえた翌年の受給額を知ることができないと認められる。そのため、本件妻が本件受給権を取得した時において、将来の生活費調整を織り込んだ「給付を受けるべき金額」は判明していなかった。
ところで、本件受給権に基づき支給を受けるべき金額は、被保険者の基本年金額と同一であり(前提事実(2)イ(イ)c)、本件妻は、本件相続開始日の属する令和2年に老齢給付金として月額1587米国ドル(年換算すると、本件受給額と同額である。)を受領していた(前提事実(3)イ)。
そして、米国では、支給される社会保障給付額について、毎年、生活費調整が行われており、生活費調整により、社会保障給付額が増加することはあっても、減少することはないのであるから(前提事実(2)ウ)、本件受給権に基づいて給付を受けるべき金額の年額は、本件受給額を下回るものではなかった。
さらに、相続税法24条1項3号ハが定める「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」は、将来にわたって受け取るべき年金の金額を現在価値に引き直すに当たり、その算定に用いる1年間に給付を受けるべき金額について、毎年異なる場合であっても、毎年一定の給付を受けるものと同様に取り扱うという趣旨のものであると解されるところ、上記の趣旨に反するものではないのみならず、生活費調整による加算分を算入しない分、評価上の安全性が考慮されたものといえる。
以上のような米国遺族年金の給付の仕組み及び相続税法24条1項3号ハの趣旨等に照らすと、「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」について、将来の生活費調整を織り込んだ給付を受けるべき金額に代わり、本件妻が本件受給権を取得した時に判明していた本件受給額とすることは、合理的なものということができる。
したがって、「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」は、本件相続により本件妻が受給することとなった米国遺族年金の月額である1587米国ドルを年換算した1万9044米国ドル(本件受給額)と評価すべきである。
(ウ) 小括
以上より、「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」については、必要な読み替えを踏まえ、1万9044米国ドル(本件受給額)となる。
ウ 「当該契約に係る予定利率」(相続税法24条1項3号ハ)について
(ア) 前記イ(イ)A及びBと同様に、相続税法における財産の評価の仕組みに加え、同法24条1項3号ハによる権利の評価が一切許されないとした場合に不都合が生ずることを踏まえると、同号ハの規定は、「当該契約に係る予定利率」が存在しない場合であっても、これに代わり、合理的な評価の方法を用いることを許容していると解するのが相当である。
そして、「当該契約に係る予定利率」が存在し得ない「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」の価額の評価について、同法24条5項が同条1項3号ハを準用していることからすれば、同法3条1項6号により、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」が相続又は遺贈によって取得したとみなされる場合においても、相続税法は、合理的な方法により上記評価を行うことを許容していると解するのが相当である。
(イ) 本件についてみると、本件受給権は契約に基づかない権利であるから(前提事実(3)イ)、「当該契約に係る予定利率」は存在しない。
この点、平成22年改正によって、相続税法24条1項が予定利率を用いて定期金に関する権利の価額を評価することとされた趣旨は、制定時の相続税法24条1項で定めていた所定の倍数や倍率を用いた評価方法では、評価時点における金利水準等を反映できない結果、かかる評価方法に基づく評価額が実際の受取金額の現在価値に比べて非常に低いものとなってしまうこと等に対応するためであった。このような沿革からすれば、相続税法24条の定める定期金に関する権利の評価方法は、当該権利の現在価値を評価時点における金利水準等を加味して適切に算定することを念頭に置いたものといえる。そして、予定利率とは、一般に、生命保険会社が保険料を計算するときに想定した運用利回りのことをいい、給付される保険金の額を直接算定するものではないことも勘案すると、同条5項により同条1項3号ハを同法3条1項6号に規定する定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のものの価額の評価について準用する場合に、「予定利率」に代わる合理的な利率として採用すべき利率は、必ずしも、当該利率に基づいて定期金給付額が直接定まるものであることまで要するものではないと解される。
以上を加えて、本件受給権が米国遺族年金を受給する権利であることからすると、「当該契約に係る予定利率」に代わるものとしては、米国遺族年金に関する運用利回りである実効金利を用いるのが合理的である。
(ウ) 以上より、「当該契約に係る予定利率」に代わるものとして、令和2年における社会保障年金信託基金の実効金利である2.6%(本件実効金利)を用いるのが相当である。
エ まとめ
本件相続開始日における本件受給権の価額の評価に当たっては、前記アのとおり、「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数」については24年を、前記イのとおり、「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」については本件受給額を、前記ウのとおり、「当該契約に係る予定利率」については本件実効金利をそれぞれ用いて評価することが相当である。
そして、本件相続開始日における本件妻の取引金融機関が公表する米国ドルの対顧客電信買相場(TTB)106.70円を前提に(前提事実(6)イ。財産評価基本通達4-3参照)、本件受給権の評価額についてみると、別表2「本件受給権の価額の評価明細書」のとおり、1万9044米国ドルに余命年数である24年に応ずる令和2年の実効金利2.6%による複利年金現価率17.689を乗じたものを邦貨換算した3594万3922円となる。
本件更正処分における本件受給権の評価額は、これと同額であり、正当なものといえる。
3 争点3(本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するか)について
(1) 厚生年金保険法による遺族年金等については相続税の課税対象とならない一方、本件受給権については相続税の課税対象となること、このような取扱いの相違は、前記1(2)イのとおり、厚生年金保険法41条2項等の個別法における規定の有無によるものである。そして、本件受給権を含む国外公的年金受給権について、個別法に規定を設けてこれを課税対象としないものとするか否かについては、立法府の総合的な政策判断等に基づく裁量の範囲に属する事柄であるというべきである。
そして、証拠(乙C14、15)によれば、遺族年金の性格は、①遺族の生活変化に対する一時的支援、②現役期遺族や遺児に対する中長期的な所得保障、③老齢年金の代替・補足(高齢遺族の所得保障)、④死亡した者が獲得した年金受給権の遺族への継承に整理されるところ、各国の遺族年金において、前記①から④のいずれの性格を含むか、どの性格を重視するかは国によって異なること、その支給水準についても、受給期間や受給額の算定方法が国によって様々であることがそれぞれ認められるのであって、年金制度全体やその中での遺族年金の位置付け、遺族年金の支給水準等は国によって様々であるということができる。このことに加え、厚生年金保険法による遺族年金等については、遺族の生活安定に必要な資金であるといった政策的配慮から例外的に非課税としたものであることを踏まえると、様々な性格を有する国外の遺族年金受給権を、国内の遺族年金受給権と同様に、一律に相続税の課税財産としないとすることは必ずしも適当ではないというべきである。そうすると、米国遺族年金の受給権である本件受給権について、相続税の課税対象としない旨の規定を設けなかったとしても、そのことから直ちに立法府の裁量の範囲を逸脱し、これを濫用したこととなるものではない。
そして、本件受給権について相続税の課税対象としない旨の個別の規定が設けられていないことを前提に、本件受給権が相続税財産に当たるものとして行われた本件更正処分等についても、合理性を欠くということはできない。
したがって、本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するとはいえない。
(2) なお、原告らは、国内公的年金受給権については、いずれも相続税の課税対象外になっていることを前提として、本件受給権に合理的な理由なく相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反すると主張するが、本件受給権を始めとする国外公的年金受給権について相続税の課税対象となり、その評価が可能であることについては、前記1及び2において説示したとおりである。
したがって、原告らの主張は、その前提を欠くものであり、採用することはできない。
4 本件更正処分等の適法性
(1) 以上を前提として本件妻の相続税の納付すべき税額を計算すると、別紙2「本件更正処分等の根拠及び適法性に係る被告の主張」の1記載のとおりとなり(納付すべき税額につき、同別紙の1(2)カ(ア))、本件更正処分における納付すべき税額(別表1の「納付すべき税額」欄)と同額になるから、本件更正処分は、適法である。
(2) そして、本件更正処分が適法である場合に賦課すべき過少申告加算税の額は、別紙2の3(1)記載のとおりであるところ、本件妻は、本件相続税について、納付すべき税額を過少に申告していたものであり、納付すべき税額を過少に申告していたことについて通則法65条4項1号に定める「正当な理由」があるとはいえないから、これと同額の過少申告加算税を課した本件賦課決定処分も適法である。
第4 結論
よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
