国税組織で働くメリット・デメリットについて率直に語ります

国税組織

私は、東京国税局に国税専門官として採用され、国税の組織に15年ほど勤務しました。国税職員として働くことについてネット上では様々な情報が流れていますが、実際に組織の中で働いてみて感じた国税組織で働くメリット・デメリットについてまとめてみました。国税組織に就職を考えている方の参考になれば幸いです。

国税組織で働くメリット

世間体がよく安定している

まずもって身分が国家公務員であり、毎月給与が振り込まれ定年までクビになることもないため、世間的な信用は絶大です。ローンを組んだり家を借りる際に困ることはほぼありません。

入社した当時は給与もそれほど多くなく、仕事と収入が釣り合っていないと感じることもなくはないですが、毎年昇給があり、30代中盤くらいからそれなりの収入を得ることができます。

また、定年自体は60歳ですが、希望すれば年金が支給されるまで再任用職員として働くことも可能です。週4日勤務で残業も基本的にできないことになっているので、仕事内容にそれほどこだわりがなく安定を求めるのであれば、これほどよい職場はないと思います。最近は、部長や署長で定年退職した後に、ヒラの調査官として勤務する人も少なくないです。

多様な仕事に就くことができる

採用パンフレットを見ると海外長期出張者の案内が掲載されているかと思いますが、実際に私の同期でも、長期出張者として海外勤務していた人やOECD(経済協力開発機構)に出向する人がいました。人のめぐり合わせという運の要素もありますが、本人次第でキャリアが開ける部分は多分にあると感じます。国税組織に入って海外で仕事をしたいのであれば、長期研修でよい成績(上位5%)を収めて、なるべく早い時期に財務省や国税庁の国際業務課・相互協議室に異動すれば、そういったチャンスもつかめるのではないかと思います。

また、国税から出向して財務省国際局に勤務している同期もいます。海外に研修に行って英語能力の向上が必要であることを痛感し、毎日勉強していると言っていましたが、キャリアは本当に人それぞれだと思います。

私自身のことを言うと、法曹資格を有しているというわけでもなく、特に法律に詳しかったというわけでもないのに訴訟や審査請求の事務に従事しました。入社したときにこのようなキャリアを歩むとは思ってもいませんでした。

話は脱線しますが、税理士になってみて、国税だったらどう考えるのかという質問をしばしば受けます。税理士として活動するのであれば、内部の事情を知ることができるということもメリットなのではないかと思います。

研修が充実している

これも採用パンフレットに記載されていますが、そのとおりだというのが実感です。私自身は国税組織に勤務していた期間の約10分の1が研修期間でした。長期研修である「専科研修」や「国際科研修」だけでなく、2週間程度の海外取引の研修や訴訟研修なども受講する機会がありました。

なお、一番長い研修として大学院に派遣される「研究科」という研修があります。毎年、20名程度派遣されていたように記憶しています。私には縁がありませんでしたが、これも若いうちに財務省や国税庁に勤務すればそういう機会に巡りあえるのではないかと思います。

学歴は関係ない

国税の組織で働いている人は、様々なルートから入社します。多くは税務職員採用試験(高卒程度)や国税専門官採用試験(大卒程度)に合格して入社しますが、今では経験者採用試験に合格して入社する方も多いと聞きますし、昔入社した人だと国鉄の民営化により国税に来た人もいます。多様な選考で門戸が開かれていていて、中には東大卒の方もいましたが、入社して学歴が関係あるのかといわれると関係ないのではというのが私の実感です。

もちろん、高卒程度と大卒程度で初任給に差はありますが、それもいずれは差がなくなります。昇進試験を受けて出世するという仕組みはなく、ある意味実力主義なのではないかと思います。

なお、日本経済新聞の令和3年8月26日の夕刊に、勝栄二郎元財務省事務次官(現インターネットイニシアティブ社長)へのインタビュー記事が掲載されおり、財務省内の人事はどう決めるのでしょうかという質問に対して、「年1回の人事異動で各部局が誰それがほしいと要望します。Aという人は毎年各部局から引き合いがあり、Bという人はそうでもない状況が続けば、評価はおのずと決まってきます。」と語られていました。人事について私は分かりませんが、財務省の子会社である国税組織においても、このように人の評価がされているのかもしれません。

税理士資格が取得できる

勤務年数によって税理士試験の科目免除を受けることが可能です。官報合格された税理士の先生からは批判されることが多いですが、結局これがないと優秀な人材の確保が難しいという事情があるのではないかと思います。

ただ、税理士資格を取得できるということと、それを活用して開業なり転職するというのは別の話であり、自分の知っている限り、定年まで勤務してもその後に税理士なる人は多くなかったというのが印象です。また、国税組織はあくまでも歳入官庁であって官営の会計事務所ではないので、一般的な税理士に必要な経験を一通り経験するといったことは困難だと思います。

なお、財務省(主税局以外)に出向し長年勤務した場合、税理士試験の免除期間にカウントされないため、退職後に税理士資格を取得できない方もいらっしゃるようです。

子育て支援が充実している

男性がメリットと感じることは少ないのかもしれませんが、子育てしているママさん職員にとっては、使える制度がかなり多いと感じます。まず、妊娠前後については産前・産後休暇(産前は6週間、産後は8週間)という特別休暇がありますし、その休暇後は最大で3年間の育児休業(うち1年間は金額は多くないものの、共済組合から育児休業手当金が支給されます。)をとることができます。また、育休明けで働き始めてからも短時間勤務(もちろん勤務しない分の給与はでませんが)が可能で、子供の看護が必要な際に使える特別休暇も子供1人につき年間5日付与されますので、家庭と仕事の両立が無理なくが可能です。

私も、子供が生まれたときに1週間特別休暇を取得(強制的に取得させられます)して、有意義な時間を過ごすことができました。

自分の時間が確保できる(入社5年目くらいまで)

税務職員として採用されると、最初は税務署に配属されることになります。税務署の転勤はだいたい2~3年おきにあり、3回目の異動あたりから霞が関に行く人や国税局に行く人がでてきます。つまり、それまでは税務署勤務ということなのですが、税務署勤務の場合は系統(法人・個人・資産・徴収)によって異なりますが、基本的に残業はないですし、あったとしてもそれほど多いわけではありません。なので、仕事が終わった後の時間を自分の時間として利用することが可能です。

本人にやる気さえあれば、資格を取得して次のキャリアに進むといったことも可能です。ただし、税務の職場は飲み会が多いので(コロナ禍の今は分かりませんが)、お誘いをうまく切り抜ける処世術も必要になるかと思いますが…。

国税組織で働くデメリット

内向きで上位下達な組織

よく幹部の方が職員に向けて挨拶する際に、「明るく風通しの良い職場」というフレーズを口にします。私が入社した時からずっと言われているような気がしますが、裏返すと風通しが良いとは言えない部分もあるということなのではないかと思います。

税務署の組織は、上から下まで3~4階層のピラミッド構造であり、上意下達な、言い換えれば体育会系的な組織です。私が最初に赴任した税務署の署長からは、自分たちの時代は「期別が一期違えば虫けら同然」だったと言われたことがあります。

コロナ禍の現在は分かりませんが、飲み会も多く、だいたいどこの部署に異動しても、最初の顔合わせ、忘年会又は新年会、最後の解散会はマストであり、それ以外になんらかのイベントの際には打ち上げなどが入ってきますので、飲めない人や飲み会が嫌いな人にとっては辛いものがあると思います。

また、職員が外部の人と交流することは利害関係などからほぼできないような空気があり、どうしても内部の職員どうし交流することが増えることから、組織が内向きなところがあると感じます(それゆえか分かりませんが、職場結婚する職員は多いです)。高い守秘義務が課されていることから、SNSなどでの情報発信は匿名であってもNGです。

このような組織風土に馴染めない場合は、勤め続けるのが難しいかもしれません。

ストレスが多い

国税職員に適用される俸給表は、一般の国家公務員に適用される行政職の俸給表ではなく、それよりも1割ほど高い税務職が適用されることとなっています。これは、職務の複雑・困難性を踏まえてのことですが、給与が高い分のストレスはあると思います。

私の経験を言うと、新人のときに、研修の一環として窓口で納税者の方の相談に応じ、申告書を作成して示したところ、納税者の方が激高し、作成した申告書を目の前でぐしゃぐしゃに丸められて投げつけられたことがあります。また、確定申告会場で怒鳴られることや電話で2時間近く延々と同じこと繰り返し説明しつづけたこともあります。

外からだけストレスを受けるのであればまだいいのですが、内からもストレスを受けることもあります。例えば、新人だった時に、その人しか処理ができない事務をタコつぼ化したような人が担当していたことがあり、その人と対応するのがかなりのストレスだったことがあります。

ただ、職場の人間関係については、年に一度の定期人事異動で3~4割程度入れ替わるので、合わない人がいても一年我慢すればなんとかなることが多いですし、入社して最初の研修(専門官基礎研修)でもそのようなことを言われた記憶があります。

税務職員であれば、上記のようなことはだいたい一度は経験することになるかと思いますが、メンタル面が弱い人にとってはつらい部分があると思います。

異動の希望が叶うかは運ゲー

毎年3月になると、「身上申告書」という異動の希望を作成して上司に提出することになっています。それには、勤務地の希望と仕事の希望をそれぞれ第三希望まで記載することになっており、子育てや介護で勤務地を希望する場合は考慮してもらえるという印象があります。

また、英語ができる職員は、比較的早く英語を使うことが多い部署に異動していたように記憶しています。

しかしながら、全般的に仕事の希望については、所属している組織の幹部の経歴に左右される、つまり運ゲーの要素が強いというのが私の実感です。私自身は、なぜか第三希望に書いた希望が叶うことが多かったです。

個人のキャリアの8割は偶然の出来事によって決定されるということも聞きますが、組織で働く以上はこのような偶然とうまく付き合っていく必要があると思います。

なお、国税出身の弁護士・税理士の品川芳宣先生は、税のしるべ(2022年8月1日)で以下のように語られていました。

サラリーマンが出世できるか否かは、「運3分、上司3分、実力3分」であると言われる。確かに、どんな組織であっても、その組織の人事については、その時々の組織が対峙する状況(景気、不景気もめ)、その時における人事の組合せ(辞める人が多いか少ないかも含め)等によって異なってくるから、それによって動かされる人は運に左右されることになる。また、どの組織においても、その組織の長とその部下によって構成されるが、その長の能力や好み、部下との相性や部下の能力等によって、その人事も左右されることになる。そして、最後の「能力」は、最も重要な要素であると考えられるが、それも、前記の運や上司との関係によって、正当に評価されるとも限らない。

(中略)

要は、サラリーマン社会において人事異動によって与えられる「ポスト」は、まさに与えられるものであって自分の力ではどうにもならないものである。しかし、どの「ポスト」も、それぞれ重要な職務が与えられているはずであるが、その職務を全うできるか否かは自分自身の能力にかかっている。然すれば、その職務を全うできれば、自己の能力を高めるためのチャンスにもなるはずである。要は、「災い転じて福となせ」ばよいのである。結局、「人間万事塞翁が馬」ということになる。

時代の変化に取り残されがち

国税職員が自席で使うパソコンは、情報漏洩を防ぐ観点からインターネットとは接続されておらず、ツールやアプリを取り込むことはできないことになっています(インターネットを閲覧する場合は専用のパソコンで閲覧します)。なので、例えば事務の効率化を図るためにPythonなどのプログラミング言語をマスターしたとしても、それを内部で使う機会はほぼありません(システム開発する部署にいる場合は別なのでしょうが)。逆に使わなくても仕事自体は何とかなることが多いので、民間であれば使うであろうソフトも使うことがなく、時代の変化に取り残されがちなのかなと思います。

しかしながら、どの部署にいってもoffice製品、中でもExcelは使うことはあるので、関数やマクロをマスターして使いこなして効率化に貢献できれば、使いこなせる人が少ない分、他の職員よりも比較的容易に頭一つ抜きん出ることが可能だと思います。