租税関係の判例を効率的に調べるには何をどのように調べればよいか?

争訟

法令解釈や類似事件の参考にするために、判例・裁判例、裁決例を調べる必要がある場合、何をどのように確認すれば効率的に調べられるのか、実際に問題を解決しなければならない実務家向けにまとめてみました。

金子租税法と判例データベース検索で当たりをつける

租税の世界で基本書といえば、金子宏教授の「租税法」が最もメジャーな存在だと思います。租税の基本原則や各種税法の様々な論点が詳細かつ簡潔に記載されており、出版社のHPでも「実務にも役立つバイブル」評されている本ですが、何かの論点の判決を調べる際には、この金子先生の「租税法」の該当論点の箇所に引用されている判決(裁判所、判決日、掲載誌)をチェックするとともに注釈に書かれている論文を読み、論文に引用されている判決もチェックします。

次に、下記のような有料の判例データベースで、上記でチェックした判決を検索するとともに、調べたい論点に関するキーワードを入力して検索し、拾いもれている判決はないか確認していきます。

なお、判例データベースについては頻繁に使うわけではない方もいらっしゃると思います。お金を払うのが惜しいという方は、公立の図書館で契約しているところを検索すれば結構ありますので、探して利用するという手もあります。

LEX/DBインターネット

LEX/DBインターネット

株式会社TKCが提供しているデータベースで、租税だけでなく民事法、民事特別法、公法、社会経済法、刑事法のすべての法律分野が収録されています。データベースの中の「税務総合判例検索」では、明治24年以降に出された税務関係判決と国税不服審判所裁決事例が、「国税不服審判所裁決検索」では、昭和45年以降の裁決事例がテキストで収録されています。

判例秘書

判例秘書インターネット

株式会社LICが提供しているデータベースで、TKCが提供しているものと似ているのですが、判決書の原典や最高裁判例解説、判決に関連する法律雑誌(「判例タイムズ」、「ジュリスト」、「金融・商事判例」など)の評釈なども確認することができます。

各種裁判集もチェック

判例データベースで引っかからない判決や最近の判例などは、下記にあたってみます。

税務訴訟資料

税務訴訟資料

税務大学校のHPには、国税に関する租税関係行政・民事事件裁判例が掲載されており、令和4年8月時点では、課税関係については平成19年分~令和2年分が公開されています。それ以前のものは、各地の図書館に冊子又はCD-ROMで所蔵されており、国会図書館には、昭和25年5月分から所蔵されています。

税務訴訟資料は、国税に関する判決が網羅的に収録されていることから、判決日などは分かっているけど判例データベースに引っかからない判決については、こちらに当たってみるのがよいかと思います。

なお、HPに公開されている税務訴訟資料は、判決があってから早くても1年半以上経ってから公開され、確認できるようになるまで時間がかかるというのが難点です。

裁判所HPの裁判例検索

裁判例検索

裁判所のHPでは、「最高裁判所判例集」、「高等裁判所判例集」、「下級裁判所裁判例速報」、「行政事件裁判例集」、「労働事件裁判例集」、「知的財産裁判例集」の検索ができます。行政事件裁判例集の検索メニューの「事件種別」には「租税」という項目があり、これにチェックして検索することで租税関係の裁判例を検索することも可能です。

裁判所HPで公開されている判決は数が少ないですが、最高裁の判決に関しては、当日中にアップされ最も速報性があります(最高裁の判決日については裁判所HPの「最高裁判所開廷期日情報」で確認できます。)。また、最高裁の判決には下線が引かれており、判例の射程範囲を探る上での手がかりになります。

最新の判例は、書籍や判例データベースには反映されていないものもありますので、裁判所HPでの確認もやってみるべきかと思います。

なお、山中理司弁護士のblogに掲載されている下記の文書によると、
判決言渡日の翌々日までに、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞及び日本経済新聞にのうち2紙(地方面を除く。)に判決等の判断が掲載された事件については、「下級裁判所裁判例速報」に判決書が掲載され、それ以外であっても先例性のある事件については「行政事件裁判例集」に判決書が掲載されることになっているようです。

訟務月報

訟務月報検索システム

法務省HPでは、訟務月報という法務省訟務局が作成している月刊の判例情報誌に掲載された判決が検索できる「訟務重要判例集データベースシステム」というものが提供されています。判決だけでなく、担当者の解説記事も掲載されており、事件に対する国側のスタンスを垣間見ることができますので、判例データベースの評釈情報に訟務月報が掲載されている場合は、解説も読んでみるべきだと思います。

公表裁決事例集

公表裁決事例集

国税不服審判所のHPには、先例となるような裁決の全文が掲載されており、令和3年9月時点では、平成4年~令和2年12月分が公開されています。また、国税不服審判所が設置された昭和45年から、これまでに裁決した事例のうち、法令の改廃、判決結果等を勘案したところで、参考となる裁決事例の要旨が関係税法別に掲載されています。

裁判例がない事件や移転価格の事件の裁決などは、参考になると思います。

判例は法律雑誌もチェック

最高裁の判決の中でも、最高裁判所民事判例集に掲載されるような事件については、事件の調査を担当した最高裁調査官(キャリア裁判官)が解説を執筆しているものがあり、判決を読み解く上で重要な資料となります。この解説は以下の書籍や雑誌に掲載されるため、判例データベースの評釈情報にこちらの解説が記載されている場合は是非とも収集しておきたいものになります。

・「法曹時報」の「最高裁判所判例解説」
・「最高裁判所判例解説」(上記の法曹時報の解説を1年分まとめたもの)
・「法律時報」の「最高裁新判例紹介」
・「ジュリスト」の「時の判例」

参考サイト

国立国会図書館のリサーチナビというサイトは「租税関係判例の調べ方」という記事があり参考になります。

また、東京大学法科大学院ローレビューのサイトに「民事判例の『実践的』読み方について」という記事が掲載されており、最高裁の判決文を読む際の参考になります。