国税不服審判所に情報公開請求をし、表題の裁決書を入手してみました。
事案の概要
請求人が、令和2年に上場会社の株式を譲渡したが、当該株式の譲渡契約において代金の一部として合意された当該会社の将来における業績に応じて算出される金額の支払を令和5年に受け、当該金額を令和5年分の雑所得として所得税等の確定申告をした後、当該金額は令和2年分の譲渡所得に該当するとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたところ、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案。
基本情報
・裁決番号:東裁(所)令6第185号
・税目:所得税
・管轄:東京国税不服審判所
・裁決日:令和7年4月21日
・結果:棄却
争点
本件価額調整金額は令和2年分の譲渡所得、令和5年分の譲渡所得又は令和5年分の雑所得のいずれに該当するか。
裁決書データ
裁決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、令和2年に上場会社の株式を譲渡したが、当該株式の譲渡契約において代金の一部として合意された当該会社の将来における業績に応じて算出される金額の支払を令和5年に受け、当該金額を令和5年分の雑所得として所得税等の確定申告をした後、当該金額は令和2年分の譲渡所得に該当するとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたところ、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
イ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定している。
ハ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、■■■■■■■■■■(以下「■■■」という。)との間で、■■■■、請求人が所有する■■■■(以下「対象会社」という。)の株式■■■■(以下「本件株式」という。)を■■■■又は別途合意する日において、以下の定めに従い■■■に譲渡する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(イ) 本件株式の譲渡価額は、1株当たりの譲渡価額■■■に本件株式の株数を乗じて算出された■■■■に、次の(ロ)の算出に基づく価額調整金額(以下「本件価額調整金額」という。)を加算して得られる額とする。ただし、本件価額調整金額が負の値の場合は、■■■■から本件価調整金額の絶対値を控除した額とする。
(ロ) 本件価額調整金額は、次の算定式により計算される1株当たりの価額調整金額(以下「本件1株当たり調整金額」という。)に本件株式の株数を乗じて算出された額とする。ただし、本件1株当たり調整金額は、1円未満は切捨てとし、マイナス1,000を下限、2,000を上限とする。
本件1株当たり調整金額=
■3か年平均EBITDA■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(ハ) 本件契約における「3か年平均EBITDA」とは、「対象会社の■■■から■■■までの3年間の営業利益の合計額に同期間の減価償却費の合計額を加えた金額を3で除したもの」を意味するものとし、その計算手法の詳細は、次のAないしCのとおりとする。
A 金額計算の元となる対象会社財務諸表の連結決算単位は、■■■末時点を基準とする。対象会社グループが関与する合併、会社分割、株式交換、株式移転等の組織再編により著しく業績が変化した場合には、金額計算の手法を別途協議する。
B 原則として、各年度末の有価証券報告書記載の決算数値を用いる。ただし、■■■までに決算期変更があった場合には、四半期報告書記載の決算数値を利用して、■■■までの所定の金額を計算する。
C 対象会社が■■■の子会社になったことにより対象会社が■■■に支払う経営サポート料並びにその他請求人及び■■■が合意した対象会社の費用は、営業利益の計算上、これを費用として扱わない。
(ニ) 請求人及び■■■は、対象会社の3か年平均EBITDA確定後30日以内に、次のAないしCに定める方法により、本件価額調整金額を支払う。
A 本件価額調整金額が正の値である場合
■■■は、本件価額調整金額を請求人名義の口座に振込送金することにより支払う。
B 本件価額調整金額が負の値である場合
請求人は、本件価額調整金額の絶対値に相当する金額を■■■が別途指定する銀行口座に振込送金することにより支払う。
C 本件価額調整金額が零の場合
本件価額調整金額に係る支払は行われない。
ロ 請求人は、本件株式の口座管理機関に対する振替の申請を行い、■■■■、■■■に本件株式を引き渡した。
ハ ■■■は、■■■■、請求人に対して■■■■■■を支払った。
ニ ■■■は、上記イの(ロ)の算定式に基づき、本件1株当たり調整金額を■■■と算出し、■■■■■、■■■■■を請求人に支払った(以下、■■■が請求人に支払った■■■■■を「本件価額調整金額」という。)。
(4) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、本件価額調整金額を雑所得の収入金額として、別表の「確定申告」欄のとおり記載した令和5年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、令和6年3月18日、本件価額調整金額は令和2年分の譲渡所得に該当するとして、令和5年分の所得税等について別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、令和6年5月28日付で、請求人に対し、本件価額調整金額は令和5年分の雑所得に該当するとして、本件更正の請求について、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、令和6年6月12日、本件通知処分に不服があるとして、審査請求をした。
2 争点
本件価額調整金額は令和2年分の譲渡所得、令和5年分の譲渡所得又は令和5年分の雑所得のいずれに該当するか。
3 争点についての主張
| 請求人 | 原処分庁 |
|---|---|
| (1) 本件価額調整金額の所得区分について
以下のとおり、本件価額調整金額は譲渡所得に該当する。 イ 売買契約を有効に成立させるための要件である代金額は、民法上、契約時に「一定する」ことができればよいとされている。すなわち、代金額の計算式が一義的に固定されていれば、代金債権は、確定的に発生し、確実に行使可能な状況になる。 ロ 本件契約における価額調整条項には停止条件が付されておらず、本件価額調整金額の「決定方法」は、株式譲渡時において既に確定していたといえ、換言すると、本件価額調整金額を含む代金債権は、民法上、株式譲渡時において確定的に発生していたといえる。 ハ 本件契約に基づく株式譲渡価額は、令和2年当時に仮決めされていた1株当たり■■■■ではなく、飽くまでも令和5年に調整された後の1株当たり■■■■であるから、本件価額調整金額は譲渡所得の増減で反映させるべきである。 |
(1) 本件価額調整金額の所得区分について
以下のとおり、本件価額調整金額は、譲渡所得又は一時所得のいずれにも該当せず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得及び山林所得のいずれにも該当しないことから、雑所得に該当する。 イ 資産の譲渡によって発生する譲渡所得についての収入の原因たる権利が確定的に発生するのは、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時であり、本件株式の所有権が請求人から■■■に移転した時は、■■■■であること、他方で本件価額調整金額の収入すべき時期は、次の(2)のとおり、令和5年であることから、本件価額調整金額は、資産の譲渡によって発生した譲渡所得とはいえない。 ロ 本件価額調整金額は、上記イのとおり、譲渡所得には該当しないものの、本件契約に基づき本件株式に係る譲渡の対価としての性質を有することは明らかであるから、一時所得には該当しない。 |
| (2)本件価額調整金額の収入すべき時期について
上記(1)のロのとおり、本件価額調整金額を含む代金債権は、民法上、株式譲渡時において確定的に発生していたといえるから、本件価額調整金額の収入すべき時期は、本件株式の譲渡時である令和2年である。 なお、本件価額調整金額は株式譲渡の代金債権を履行するために支払われたことは明らかであるから、仮に令和2年分の譲渡所得に該当しないとしても、令和5年分の譲渡所得に該当する。 |
(2)本件価額調整金額の収入すべき時期について
本件1株当たり調整金額の計算に使用する値は、原則として、■■■■から■■■■までの各年度末の有価証券報告書の決算数値を用いることとなっているため、その算定の基礎となる期間の終期である■■■■末までに確定せず、■■■■以降に初めて確定するものであり、■■■■から■■■■までの間に、請求人において、本件価額調整金額を受領する権利が確定的に発生したものと認められることから、本件価額調整金額の収入すべき時期は、令和5年である。 |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
イ 譲渡所得とは、資産の譲渡による所得(所得税法第33条第1項)であるところ、資産の譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、売買交換等によりその資産の移転が対価の受入れを伴うときは、その増加益は対価のうちに具体化されるので、これを課税の対象として捉えたのが所得税法第33条第1項の規定である。
また、所得税法上、同一の原因に基づく譲渡所得が複数年にわたる場合の資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の控除の方法について定めた規定がないことなどを考慮すると、同法は、同一の原因に基づく譲渡所得が複数年にわたり計上されることを想定していないと解される。
以上のような譲渡所得に係る課税の趣旨や制度の仕組み等からすれば、ある所得が譲渡所得に該当するためには、その所得が譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものであることを要する。
ロ そこで、いかなる場合に譲渡に基因して譲渡の機会に生じた所得といえるかについて検討するに、所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額につき、原則として、その年において「収入すべき金額」とする旨を規定していることからすると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、当該権利発生の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される。
そして、資産の譲渡によって発生する譲渡所得について収入の原因たる権利が確定的に発生するのは、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時であり、収入の原因となる権利が確定的に発生したというためには、それが納税者に具体の所得税の納税義務を課する基因となる事由であることを考慮すると、単に権利の発生要件が満たされたというだけでは足りず、客観的に見て権利の実現が可能な状態になったことを要するというべきである。
したがって、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時に客観的に実現が可能になったということのできない権利は、当該資産に係る譲渡所得に当たらないというべきである。
(2) 検討
イ 本件価額調整金額の所得区分について
(イ) 上記(1)のとおり、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであることなどから、ある所得が譲渡所得に該当するためには、その所得が譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものであることを要する。そして、譲渡所得について、収入の原因たる権利が確定的に発生したというためには、客観的に見てその権利の実現が可能になったことを要する。
(ロ) 本件価額調整金額は、上記1の(3)のイ及びニのとおり、請求人が■■■に対し令和2年の本件株式の譲渡をする際に締結された本件契約の定めに基づいて、■■■■に支払われたものであるところ、本件株式は、上記1の(3)のロのとおり、■■■■に■■■に移転している。
そして、上記1の(3)のイの(ハ)のとおり、本件価額調整金額の計算の基礎となる「3か年平均EBITDA」とは、「対象会社の■■■から■■■までの3年間の営業利益の合計額に同期間の減価償却費の合計額を加えた金額を3で除したもの」を意味するものであり、本件株式が■■■に移転した後の3年間の営業利益及び減価償却費の合計額が確定した後でなければ算定できない仕組みになっている。
また、上記1の(3)のイの(ニ)のBのとおり、本件価額調整金額に係る算定式の値が負の値となった場合、■■■から請求人に対する支払はなく、本件価額調整金額の絶対値に相当する金額を請求人が■■■に対して支払うものとされている。
上記各事実を併せ考えると、本件株式が請求人から■■■に移転した時においては、本件価額調整金額は確定しておらず、その支払の有無も確定していなかったのであるから、本件株式が移転した時に、客観的に見て本件価額調整金額に係る権利の実現が可能になったということはできない。
そうすると、本件株式の譲渡の対価として、本件契約の定めに基づいて■■■から請求人が受領する本件価額調整金額に係る所得は、本件株式の譲渡に基因するものではあるが、譲渡の機会に生じたものとはいえないのであるから、本件価額調整金額は譲渡所得には該当しない。
(ハ) そして、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得及び山林所得のいずれにも該当しないことは明らかであるから、一時所得に該当するか否かを検討する。
一時所得は、その範囲を臨時的又は偶発的な所得に限定するために非対価性要件が定められ、「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質」を有する所得は一時所得から除外するものとされている(所得税法第34条《一時所得》第1項)。このように、所得税法第34条第1項が資産の譲渡の対価としての性質を有する所得を一時所得から除外する趣旨は、そのような性質を有する所得は臨時的又は偶発的に生じたものとはいえないことにあると解されるのであり、このような同項の趣旨に照らすと、同項の「資産の譲渡の対価としての性質」を有する所得には、資産の譲渡と反対給付の関係にあるような給付に限られるものではなく、資産の譲渡と密接に関連する給付であって、それがなされた事情に照らし偶発的に生じた利益とはいえないものも含まれると解するのが相当である。
これを本件についてみると、上記1の(3)のイ及びニのとおり、本件契約上、本件株式の譲渡価額は、■■■■に本件価額調整金額を加算又は本件価額調整金額の絶対値を控除した額と定められていたこと及び本件価額調整金額は本件契約の定めに基づき請求人に支払われたものであることが認められる。
そうすると、本件価額調整金額の支払は、本件株式の譲渡と密接に関連するものであって、それがされた事情に照らし偶発的に生じた利益といえないものであり、所得税法第34条第1項にいう「資産の譲渡の対価としての性質」を有するものであるということができる。
したがって、本件価額調整金額に係る所得は所得税法第34条第1項にいう「資産の譲渡の対価としての性質」を有する所得であるということができるから、本件価額調整金額は、非対価性要件を満たすものではなく、一時所得には当たらない。
(ニ) 上記(ロ)及び(ハ)のとおり、本件価額調整金額は譲渡所得、一時所得、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得及び山林所得のいずれにも該当しないから、本件価額調整金額は雑所得に該当する。
ロ 本件価額調整金額の収入すべき時期について
上記(1)のロのとおり、所得税法は、収入の原因となる権利が確定的に発生した時点で所得の実現があったものとして、当該権利発生の時期の属する年分の課税所得を計算するという、いわゆる権利確定主義を採用しているところ、上記イの(ロ)のとおり、請求人が本件株式を■■■に譲渡した■■■■時点では、本件価額調整金額は確定していない。
そして、上記1の(3)のイの(ハ)及び(ニ)並びに同ニのとおり、本件価額調整金額は対象会社の「3か年平均EBITDA」確定後30日以内に支払うものとされ、「3か年平均EBITDA」は対象会社の■■■■から■■■■までの3年間の営業利益等を対象としたものであるところ、本件価額調整金額は■■■■に■■■から請求人に支払われたものであることからすると、本件価額調整金額の収入すべき時期は令和5年である。
ハ 小括
以上のことから、本件価額調整金額は、令和5年分の雑所得に該当する。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、代金額の計算式が一義的に固定されていれば、代金債権は確定的に発生し、確実に行使可能な状況になること、本件契約における価額調整条項には停止条件が付されておらず、本件価額調整金額を含む代金債権は、民法上、株式譲渡時において確定的に発生していたといえることから、本件価額調整金額は譲渡所得に該当する旨主張する。
しかしながら、本件契約は、本件契約及び価額調整条項の効力の発生に停止条件を付しているものではないものの、本件価額調整金額につき、本件株式が移転した時にその権利が客観的に見て実現が可能になったということができないことは、上記イの(ロ)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、本件価額調整金額の収入すべき時期は、本件株式の譲渡時である令和2年であって、本件価額調整金額は株式譲渡の代金債権を履行するために支払われたことは明らかであるから、仮に令和2年分の譲渡所得に該当しないとしても、令和5年分の譲渡所得に該当する旨主張する。
しかしながら、本件価額調整金額が譲渡所得に該当しないこと及びその収入すべき時期が令和5年であることは、上記イ及びロにおいて既に述べたとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
(3) 本件通知処分の適法性について
上記(2)のハのとおり、本件価額調整金額は令和5年分の雑所得に該当し、また、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件価額調整金額が令和2年分の譲渡所得に該当するとしてされた本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法である。
(4) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。
