課税処分を取り消すために訴訟をするかを検討する際に知っておきたいこと

争訟

審査請求をしたが棄却された場合などにおいて、課税処分を取り消すために訴訟をするかを検討する際に知っておきたいことをまとめてみました。

訴訟が提起できる期間

課税処分の取消しを求める訴訟はいつでも申立てができるわけではありません。裁決があったことを知った日の翌日から6か月以内に地方裁判所に対し訴訟を提起する必要があります。また、審査請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がないときも訴訟を提起することができます。

訴訟提起

出典:「審判所ってどんなところ? 国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし

訴訟を提起できる裁判所

課税処分の取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する地裁、処分をした税務署長の所在地を管轄する地裁、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高裁の所在地を管轄する地裁に提起することができることになっています。なので、例えば、山形税務署長が管内の納税者に対して行った処分の取消の訴えは、被告(国)の普通裁判籍を管轄する東京地裁、山形税務署長の所在地を管轄する山形地裁、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する仙台高裁の所在地を管轄する仙台地裁に提起することができます。

なお、国税庁に開示請求をして入手した「課税関係訴訟事件一覧表(令和4年4月1日現在)」から、納税者が第一審で提訴した裁判所を集計してみたところ、全体の件数は504件あり、その内訳は上位5番目までが、東京地裁が290件(57.5%)、大阪地裁が72件(14.3%)、福岡地裁が18件(3.6%)、神戸地裁が16件(3.2%)、名古屋地裁が13件(2.6%)という結果でした。

東京地裁と大阪地裁で約7割を占める結果となっております。両裁判所には行政事件を専門に扱う部があることや、租税事件を専門に扱う法律事務所が東京と大阪に集中していることなどが要因なのかもしれません。

代理人をつけるか

代理人をつけるかは任意となっており、代理人をつけずに自分で訴訟をすることも一応可能です。ただし、代理人をつけるのであれば弁護士でなければなれません。

もし私が代理人を探すのであれば、税務訴訟資料を見て納税者が勝訴している事件の代理人をピックアップして探すと思いますが、納税者が勝訴している事件の代理人を見てみると傾向があり、いわゆる四大法律事務所や租税を専門にしている法律事務所、法務局で訟務検事を経験していた方が代理人を務めていることが多いように感じます。

費用

訴訟を提起する際には訴額に応じて手数料を納付する必要があります(参考:裁判所HP「手数料等早見表」)。また、代理人を付けた場合については、代理人に対する報酬も当然ながら発生することになります。

期間

国税庁に開示請求をして入手した「課税関係訴訟事件一覧表(令和4年4月1日現在)」から、第一審、控訴審、上告審の各審級における終局までの期間(「判決日等」から「提訴年月日」を差し引いたもの)を集計してみたところ、以下のとおりでした。第一審、控訴審、上告審の終局までの期間の平均値を単純に足すと、1187日(約3年4カ月)という日数になります。

第一審

終局までの期間(第一審)

判決のあった件数は357件あり、平均値が697日(約2年)、中央値が624日(約1年9カ月)、最小値が28日、最大値が3184日(約8年10カ月)でした。ちなみに、第一審で終局までの日数が最大の判決は神戸地裁平成30年11月14日判決になります。

控訴審

終局までの期間(控訴審)

判決のあった件数は220件あり、平均値が250日(約8か月)、中央値が220日(約7カ月)、最小値が89日、最大値が919日(約2年6カ月)でした。

上告審

終局までの期間(上告審)

件数は117件(上訴日がわからないものを除く)あり、平均値が240日(約8か月)、中央値が207日(約7カ月)、最小値が61日、最大値が858日(約2年5カ月)でした。

最高裁に上告や上告受理申立てをしてもその大部分は口頭弁論が開かれないまま棄却・不受理されることが多いですが、弁論再開や判決がある事件については1年半くらいで最高裁から通知されることが多いというのが個人的な感覚です。なお、口頭弁論期日が指定されたり、判決があったことが確認できた下記の事件の平均値は616日(約1年8カ月)でした。

労力

主張・立証に要する労力は事案ごとに異なることから一概には言えませんが、口頭弁論が約2か月おきに開かれることが多く、それに対する準備が必要となります。

民事訴訟(第一審)手続の流れ

出典:裁判所HP「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書

勝訴率

ここ10年の納税者の勝訴割合は、約7%程度となっています。

訴訟の終結状況

出典:国税庁HP

課税訴訟で勝訴するためには

私見になりますが、課税処分の取消しで訴訟になる事件は、基本的に審査請求を経た事案であることから、「確実に勝てる事案」というのはなく、「争ってみないと分からない事案」か、「勝つのが難しい事案」のいずれかになるかと思います。争っても勝てない事案なのであれば時間やお金を無駄にしてしまいますので、まずは「争ってみないと分からない事案」なのか見極めることが重要だと考えます。また、代理人によって勝敗が左右されることがあることから、勝訴に導ける弁護士先生を探して引き受けてもらうことも重要だと思います。