税務調査実施の連絡があって日が経ち、事前に調整した日時になると自宅に調査官がやってきます。一般的な個人事業主の場合、調査当日はどのような流れで調査が進められるのか、元国税調査官である税理士が解説します。
調査当日の流れ
調査当日は、予め約束した時間ぴったりに調査官がやってきます。これは、早すぎると迷惑がかかるし遅すぎると心配をかけるからなのですが、実際は時間前には到着していて、近くで時間を潰してから自宅等に向かうことも多いです。
一般的な事業主の場合は、自宅での調査は1日(10:00~16:00)行われることが多いのですが、その流れは、だいたい以下のような流れで進んでいきます。
自己紹介・雑談
最初に税務職員であることを示す身分証明書の提示がされた後、雑談がなされます。調査官が自宅にやってきていきなり帳簿や領収書などを見ることはまれで、通常は天気や景気、趣味を話題にされることが多いです。その目的は、調査を受ける納税者の警戒心を解いて、その後の聴き取りをスムーズに行うことにあります。
現在までの経歴
「出身地」や「どこの学校を卒業したのか?」、「事業を開始するに至った経緯」などが聴かれます。
家族構成
家族構成や扶養親族が聴かれます。その趣旨は生活費の推計のためです。また、結婚している方であれば配偶者の旧姓を確認されることもあります。旧姓名義の口座が借名口座として使われていることもあるためです。
生活費・貯蓄額(借金)
生活費と貯蓄額(借金があれば借金も)について聴かれます。その趣旨は所得金額の推計のためです。つまり、所得=生活費+貯蓄額(又は-借金の返済)となるので、式の右辺の項目を確認するのです。生活費であれば、住宅ローン返済額・家賃、食費・雑費、電気・ガス・水道・電話、教育費・遊興費などについて、貯蓄があれば貯蓄先と金額、借金があれば借入先とその金額、理由が聴かれることになります。
事業概況
事業の全体像が聴かれます。具体的には、「扱っている商品・サービス」や「どうやって集客・販売しているのか?」、「決済方法はどうしているのか?」「外注はしているのか?」「人は雇っているのか?」などが聴かれます。
仕事の受注から決済までの流れ
仕事を受注してから決済されるまでの、「人」「物」「金」の流れと作成される書類について聴かれます。
例えば、屋根の修理業を夫婦二人で営んでいる場合、二人がどのような事務をしているのかや作成する書類、スケジュール管理はどうしているのか、決済方法などについて聴かれます。
得意先・外注先
特定の得意先・外注先があれば、「どうやって仕事を請け負っているのか(外注しているのか)?」「連絡先」「決済方法」などが聴かれます。
作成・保存している書類
作成・保存している書類について聴かれます(帳簿、見積書、請求書、領収書、銀行の通帳、手帳など)
決算書・申告書作成までの流れ
決算書や申告書はどのような書類に基づいて作成されたのか、いつ作成したのか、誰が作成したのかについて聴かれます。
準備調査時の疑問点の確認
準備調査とは、調査官が自宅に来る前に税務署の中で1日程度かけて、申告内容の分析や様々な資料との突合せを行い、実際に調査に行った際に、どのようなことを聴かなければならないのか、どのような資料を確認しなければならないのかをまとめることを言います。準備調査時の疑問点は事案によって異なるので一概には言えませんが、例えば、「なぜ例年と比べて売上・経費が変動しているのか?」、「減価償却資産の家事割合0%(すべて事業用)なのは本当なのか?」、「家族への給与支払は適正額か?」などがあります。
帳簿・領収書等の確認
以上のことを聴き取った後、帳簿や領収書の確認が行われます。パソコンを使っている場合には、パソコン内のデータも確認を求められます。また、不正がある場合、帳簿書類を保管している近くに書類があることが多いので、帳簿書類の保管場所の確認を求められることもあります。
1日では終わらないことも
確認すべき資料が多かったり、時間が少なかったした場合、自宅での調査が1日では終わらないことがあります。その場合は、調査官から帳簿書類等の借用を持ちかけられます。この借用については、国税庁HPに掲載されている「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」には、承諾なく強制的に借用することはない旨記載されています。
問10 調査担当者から、提出した帳簿書類等の留置き(預かり)を求められました。その必要性
について納得ができなくても、強制的に留め置かれることはあるのですか。税務調査において、例えば、納税者の方の事務所等に十分なスペースがない場合や検査の必要がある帳簿書類等が多量なため検査に時間を要する場合のように、調査担当者が帳簿書類等を預かって税務署内で調査を継続した方が、調査を円滑に実施する観点や納税者の方の負担軽減の観点から望ましいと考えられる場合には、帳簿書類等の留置き(預かり)をお願いすることがあります。
帳簿書類等の留置き(預かり)は、帳簿書類等を留め置く必要性を説明した上、留め置く必要性がなくなるまでの間、帳簿書類等を預かることについて納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うものですから、承諾なく強制的に留め置くことはありません。