税務署の調査官は自宅に税務調査に伺う前にどのような準備をしているのか?

準備調査 税務調査

個人に税務調査が入る場合、通常であれば1~2週間くらい前までに税務署から日程調整の連絡があります。約束した日時になると税務署の調査官が自宅にやってきますが、調査官は何も準備をせずにいきなり行って調査しているわけではなく、税務署の中で様々な資料を収集して検討し、準備してから調査に臨んでいます。今回は、自宅での実地調査の前に調査官がどのような準備をしているのか、一般的な個人事業主を調査する場合を例に解説します。

準備に費やす時間は半日~1日程度

個人の自宅に伺う調査は、大きく「一般調査」と「着眼調査」に分けられます。

「一般調査」とは、簡単に言うと1~2日程度納税者の自宅に伺って行う実地調査のことで、「着眼調査」とは「一般調査」の簡易版で、調査する項目を絞って半日程度納税者の自宅に伺って行う実地調査のこといいます。

納税者の自宅に伺う前に、「一般調査」であれば準備に1日程度、「着眼調査」であれば準備に半日程度費やすことが多いです。

税務署内で行う準備

では、どのような準備をしているのかというと、「一般調査」か「着眼調査」で濃淡はありますが、おおむね以下のようなことを行っています。

申告書・決算書のコピー

申告された内容を把握するため、まず税務署に保管されている申告書・決算書をコピーします。実地調査をする場合、通常3年分が調査対象になりますので、その年分コピーします。

申告内容の比較・検討

コピーした申告書・決算書の数字をエクセルに入力して、数字の推移を見てみます。そうすると、売上に比例しない経費(固定費)が増えているとか、ある年だけ大きな金額の経費項目が計上されているとか分かりますので、そこから疑問点を洗い出します。

同業者の比較

調査官が税務署の中で使っているパソコンは、KSK(国税総合管理システム)というコンピューターシステムにつながっています。

国税総合管理(KSK)システム

出典:国税庁レポート2020

KSKシステムとは、税の申告及び納付事績、各種の情報を入力することにより、国税債権などを一元的に管理するとともに、これらを分析して税務調査や滞納整理に活用することを目的とした税務行政事務の基盤システムなのですが、このシステムにアクセスすることにより、同業者の所得率や経費率を把握すること可能となっており、これにより同業者との比較を行います。

法定資料や税務署が独自に収集した資料と申告内容との突合

法定資料や税務署が独自に収集した資料と、調査対象者の申告内容を突き合わせてみます。

法定資料

法定資料とは、法律で税務署に提出が義務付けられている資料で
例えば、

・「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」
「生命保険契約等の一時金の支払調書」
「給与所得の源泉徴収票」
「財産債務調書」 

といったものがあります(全部で60種類あります)。

税務署が独自に収集した資料

法律で提出が義務付けられている資料以外にも、下記のような資料があります。

他の納税者の調査で収集した資料

他の納税者を調査した際に、経費として支払った情報を資料とすることがあります。例えば、外注費として支払った相手先や日付、金額といったものですが、相手側からするとそれは売上になりますので、この資料の情報のとおり、売上が計上されているか確認します。

「売上、仕入、費用及び リベート等に関する資料」

税務署では、「売上、仕入及びリベート等に関する資料の提出方について」という資料を法人及び個人の事業者に送付して、任意に取引に関する情報を収集しています。

一般資料せんの提供

金額が数万円~数十万円以上の売上、仕入、外注費、リベートといった取引について、取引先の住所、氏名、取引年月日、取引金額、決済方法、取引銀行、品名等の情報の提出を求めるものです。

職員が収集した探聞情報

税務署の職員は、日ごろから税務調査に活用できる情報の収集に努めており、例えば、広告や新聞のちらし、駐車場の台数、出張した際に昼食をとった店の状況など、生活の中にある情報を資料化しています。

内観調査

現金で決済される業種、例えば飲食や理容・美容室、パチンコ、風俗といった業種については、売上を抜いても足がつきにくいという特徴があります。そこで、調査が実施される前に、お客さんのふりをして現金で決済し、店の状況や取引の流れを事前に観察したりします(内観調査)。ちなみに、内観調査は、調査官が自腹を切っているわけではなく(そういう場合もありますが)、税務署の予算を使って行います。

タレコミ

税務署には、この人が脱税しているといった情報が電話や手紙で寄せられます。その大半は根拠のないガセネタであることが多いですが、会社の元従業員や元配偶者など、内部の人でないと知りえない信頼性の高いと考えらえる情報もなかにはあります。

公開情報の収集

税務署でなければ収集できない情報以外にも、以下のような一般の方でも入手可能な情報も収集します。

住民票、戸籍謄本、固定資産課税台帳、登記事項証明書

申告書の扶養家族の記載からある程度は家族の状況が分かりますが、正確には分からないことから、住民票や戸籍謄本を取り寄せて、家族の状況を確認します。また、不動産所得がある場合には、所有している不動産の情報を得るために、固定資産課税台帳(名寄帳)や登記事項証明書を取り寄せたりもします。

インターネットからの情報

ホームページやブログを開設している場合にはもちろんのこと、著名な方であれば掲示板への書き込みなども確認します。また、不動産を所有している場合、グーグルマップでその物件を確認してみたり、過去のネット情報を確認したい場合は、インターネットアーカイブにアクセスして情報があるか確認したりします。

SNS

TwitterやFacebook、YouTube、InstagramなどのSNSをやっている方であれば、過去に投稿した内容を確認したりします。

本人に聴取する事項の整理

資料の収集や申告内容との突合せを行うと、疑問点がでてきます。調査当日に効率的に調査を行うために、本人に聴取すべき事項を整理して、それをどのような順番で聴取すべきかシミュレーションして調査に臨みます。