質問応答記録書とは何か?署名・押印を求められた場合の対応策

税務調査

税務調査時に「質問応答記録書」と呼ばれる文書に署名・押印を求められることがあります。そもそも、質問応答記録書とは何なのか、疑問点や対応策について、元国税調査官である税理士が解説します。

質問応答記録書とは

調査官が何らかの課税ができると考えた場合、要件を充足していることを立証しなければなりませんが、納税者が保管している帳簿や原始記録といった証拠だけでは立証が難しいことがあります。質問応答記録書はそういった場合に、調査官が納税者に対して質問して聴き取った内容の要旨を文書にし、立証するための証拠とするものになります。

いつ作成されるのか?

質問応答記録書はすべての税務調査において作成されるわけではなく、将来審査請求や訴訟で争う可能性の高い事案について作成されます。個人の場合、具体的には「重加算税を賦課する」場面に作成されることが多いです。

売上の一部だけを申告する「つまみ申告」がされている場合がどきどきあるのですが、その場合に重加算税を賦課するためには、過少に申告した行為を立証するだけでは足りず、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことを立証する必要があります。

そのため、調査官は納税者に対して、住所、氏名、生年月日、職業といった人定質問と呼ばれる質問のほか、例えば、確定申告書・決算書の作成過程や真実の所得は把握していたのか、意図的に隠ぺい・仮装をした理由などの質問をし、それに対する回答を記載した質問応答記録書を作成します。

どのように作成されるのか?

質問応答記録書作成は、通常職員2名で行います。1人が質問をして、もう1人が記録者として質問応答記録書を作成します。自宅や税務署内で、手書き又はパソコンで作成します。

質問と回答が終わり、質問応答記録書の原案ができると、そこに書かれている内容が回答者に対して読み上げられた上で提示され、記載内容に誤りがないかを確認された後、署名及び押印が求められます。

写しはもらえるのか?

質問応答記録書は行政文書なので、写しをもらうことはできないことになっています。ただし、「個人情報の開示請求」という申告書の写しを入手するための手続きと同じ手続きを使えば、時間と費用はかかりますが入手することは可能です。

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署名・押印は拒否できるのか?

質問応答記録書への署名・押印については、任意となっており、拒否することも可能です。その場合、質問応答記録書には理由と拒否した旨が記載されます。拒否したからといって罰則などもありません。

ただ、署名・押印を拒否した場合に質問応答記録書自体が証拠として価値を持たないかというとそういうわけではありません。私が税務訴訟を担当した事件においては、署名・押印が拒否された質問応答記録書を書証として提出したことがあります。

どう対応すべきか

調査官が質問応答記録書を作成する際には、課税要件を充足できるように事前にある程度ストーリーを考えた上で作成に臨むことが多く、実際の回答とは少々異なっていたとしても、要件に当てはまるような回答をしたかのように作成してしまうことがあります。

また、署名・押印をして回答内容を認めたものを、後に否認するのはかなりハードルが高いという現実がありあす。

なので、質問応答記録書に署名・押印をする際には、上記のような事情を踏まえた上で、重加算税が争点となっているのであれば、回答に以下の単語が使用されていないか、またその評価に双方争いがないのかをよく検討してから署名・押印すべきです。

仮装」「隠ぺい」「破棄」「改ざん」「虚偽」「除外」「架空」「意図的な集計違算」「偽造」「変造」「脱漏

署名・押印を拒否するのであれば、調査に非協力で署名・押印を拒否しているのではなく、しっかりとした理由があって拒否していることを示すために、質問応答記録書に拒否する理由を書かせるべきだと考えます。

それと、事実関係を明確に思い出せないとか、行為をしたときの認識や意図について明確に言語化できない場合はあいまいな回答はせずに、後日整理して回答するという対応をとるのがよいかと思います。

なお、国税庁が作成した「質問応答記録書作成の手引」は、調査官が質問応答記録書を作成するにあたって参考にするものですので、一度目を通しておくことをお勧めします。

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