国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
原告は、複数の預金口座において外国通貨である米国ドル及びユーロを保有していたところ、平成29年から平成30年にかけて、米国に所在する不動産をドル建てで購入するなどの複数の外貨建取引を行った。原告は、これらの取引につき、為替差益に係る所得はないとの前提で平成29年分及び平成30年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告を行ったが、税務署長は、それらの外貨建取引につき為替差益が生じており、当該為替差益が雑所得に該当するとして、本件各年分の所得税等について各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
本件は、原告が、上記各処分が違法であると主張して、各更正処分の一部及び各賦課決定処分の取消しを求める事案。
基本情報
・税目:所得税
・処分行政庁:麻布税務署長
・課税年度:平成29~30年分
・提訴裁判所:東京地方裁判所
・提訴年月日:令和4年9月16日
・判決日:令和7年2月5日
・結果:棄却
争点
・本件各不動産取引によって原告に為替差益に係る所得が発生し、実現したといえるか(原告は、本件外貨建取引のうち本件不動産取引以外の各取引については、原告に為替差益に係る所得が発生し実現したこと及びこれが雑所得に当たることを争っていない。)。
・為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法
判決書PDFデータ
判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 麻布税務署長が令和2年11月25日付けで原告に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、課税される所得金額のうち総所得金額が3億7348万2478円を超える部分及び納付すべき税額がマイナス817万0706円を超える部分並びに同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも令和4年3月23日付け裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
2 麻布税務署長が令和2年11月25日付けで原告に対してした平成30年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、課税される所得金額のうち総所得金額が2億3489万0020円を超える部分及び納付すべき税額がマイナス6661万4582円を超える部分びに同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要等
1 原告は、複数の預金口座において外国通貨(以下「外貨」という。)である米国ドル(以下単に「ドル」という。)及びユーロを保有していたところ、平成29年から平成30年にかけて、米国に所在する不動産をドル建てで購入するなどの複数の外貨建取引を行った。原告は、これらの取引につき、為替差益に係る所得はないとの前提で平成29年分及び平成30年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告を行ったが、麻布税務署長は、それらの外貨建取引につき為替差益が生じており、当該為替差益が雑所得に該当するとして、本件各年分の所得税等について各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
本件は、原告が、上記各処分が違法であると主張して、各更正処分の一部及び各賦課決定処分の取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め
関係法令の定めは、別紙1のとおりである(なお、各別紙中で定義した略称は、本文中においてもこれを用いる。)。
3 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。なお、枝番号のある書証は、特段の記載のない限り、枝番号を全て含む。以下同じ。)
(1) 原告が保有していた外貨建預金口座
原告は、平成17年から平成28年までに、次のアからクに記載した各金融機関において、原告名義の外貨建預金口座(以下、これらを併せて「本件外貨建預金口座」という。)を順次開設し、本件各年分において同各口座でドル及びユーロを保有していた。
ア 金融機関:株式会社■■銀行(以下「■■銀行」という。)■■支店(口座番号:■■■■■■■)(以下「本件口座」という。)
保有外貨:ドル及びユーロ(乙1)
イ 金融機関:■■銀行株式会社 (口座番号:■■■■■■■)
保有外貨:ドル(乙2)
ウ 金融機関:株式会社■■銀行 ■■支店(口座番号:■■■■■■■)
保有外貨:ドル(乙3)
エ 金融機関:■■銀行株式会社 (口座番号:■■■■■■■)
保有外貨:ドル(乙4)
オ 金融機関:■■■■ Bank, ■■■■■■ Account)(口座番号:■■■■■■■)
保有外貨:ドル(乙5)
カ 金融機関:■■■■ Bank, ■■■■■■ Account)(口座番号:■■■■■■■)
保有外貨:ドル(乙5)
キ 金融機関:株式会社■■銀行 ■■支店(口座番号:■■■■■■■■■)
保有外貨:ドル(乙6)
ク 金融機関:■■■■ Bank ■■■■■■■■■■■, Ltd.(口座番号:■■■■■■■)
保有外貨:ドル(乙7)
(2) 原告が本件外貨建預金口座を介して行った取引
原告が本件外貨建預金口座を介してしたドル建て又はユーロ建ての外貨建取引の内容及び経過並びに各取引後の残高等は、別表2-1及び2-2の①から⑨のとおりである。
(3) 各不動産の購入に至る経緯
ア ドルの借入れ
原告は、平成29年9月15日から平成30年7月10日にかけて、下記(ア)から(エ)のとおり、■■銀行から、資金使途を「設備資金」として、ドルを4回にわたって借り入れた(以下、下記(ア)から(エ)の各借入れを順に「本件借入れ①」から「本件借入れ④」といい、これらを併せて「本件各借入れ」という。また、本件各借入れに係る各借入金を「本件各借入金」という。)。本件各借入金は、いずれも原告が指定した本件口座に入金された。
(ア) 本件借入れ①(別表2-1・順号101)
借入年月日:平成29年9月15日
借入金額:370万2427.00ドル
(イ) 本件借入れ②(別表2-1・順号123)
借入年月日:平成30年2月9日
借入金額:620万6952.00ドル
(ウ) 本件借入れ③(別表2-1・順号142)
借入年月日:平成30年4月16日
借入金額:215万4000.00ドル
(エ) 本件借入れ④(別表2-1・順号163)
借入年月日:平成30年7月10日
借入金額:220万5000.00ドル
イ 原告が行った各不動産取引
原告は、平成29年10月4日から平成30年7月10日にかけて、下記(ア)から(エ)のとおり、米国に所在する4つの不動産(以下、併せて「本件各不動産」という。)の取得費用の支払として、4回にわたり本件口座から送金を行い(以下、下記(ア)から(エ)の各送金を順に「本件送金①」から「本件送金④」といい、これらを併せて「本件各送金」という。)、本件各不動産を購入した(以下「本件各不動産取引」という。)。
(ア) 本件送金①(別表2-1・順号109から112)
送金年月日:平成29年10月4日
送金金額:369万2800.05ドル
<購入した不動産>
所在地:■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) 本件送金②(別表2-1・順号126及び127)
送金年月日:平成30年2月13日
送金金額:611万6982.00ドル
<購入した不動産>
所在地:■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(ウ) 本件送金③(別表2-1・順号143及び144)
送金年月日:平成30年4月16日
送金金額:225万4976.50ドル
<購入した不動産>
所在地:■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(エ) 本件送金④(別表2-1・各順号164及び165)
送金年月日:平成30年7月10日
送金金額:230万6678.38ドル
<購入した不動産>
所在地:■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(4) 本件訴訟に至る経緯
ア 確定申告
原告は、麻布税務署長に対し、本件各年分の所得税等について、別表1-1及び1-2の各「確定申告」欄のとおり記載した各確定申告書をいずれも法定申告期限内に提出した(以下、平成29年分に係る確定申告書を「平成29年分確定申告書」といい、平成30年分に係る確定申告書を「平成30年分確定申告書」という。甲1、2)。
なお、上記各確定申告書において、雑所得の金額は0円とされた。
イ 更正処分等
麻布税務署長は、原告の本件各年分の所得税等について税務調査(以下「本件調査」という。甲5)を行った結果、本件各年分に行われた別表3-1、3-2及び3-3の各取引(以下「本件外貨建取引」という。なお、本件外貨建取引の存在については争いがない。)につき、同各表の⑧欄記載のとおり、本件各年分に係る各確定申告に含まれていない為替差益(以下「本件各為替差益」という。)が実現しており、本件各為替差益は雑所得に該当するとして、令和2年11月25日付けで、本件各年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分をした(甲3、4)。
ウ 審査請求
原告は、国税不服審判所長に対し、令和3年2月25日付けで、上記イの各更正処分及び各賦課決定処分の一部の取消しを求めて審査請求をした。
国税不服審判所長は、令和4年3月23日付けで、原告の本件各年分の所得税等において、本件外貨建取引により生じた本件各為替差益が雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入されることを前提として、所得税法57条の3第1項の規定に従い為替差益の額を算定する場合、当該算定において円換算の為に使用する為替レートは、原告の主たる金融機関が適用する為替レートを使用して算定することが合理的であるから、本件外貨建取引ごとにその各取引金融機関が適用する各為替レートを使用して為替差益の額を算定した上記イの各更正処分及び各賦課決定処分には一部誤りがあるとして、平成29年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分につき、それぞれ一部を取り消し、その余の原告の請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。甲5)をした。
なお、以下においては、本件裁決による取消し後の平成29年分の更正処分を「平成29年分更正処分」といい、平成30年分の更正処分を「平成30年分更正処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分」という。また、本件裁決による取消し後の平成29年分の過少申告加算税の賦課決定処分及び平成30年分の過少申告加算税の賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各更正処分等」という。
エ 原告は、令和4年9月16日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
4 本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被告の主張
本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被告の主張は、別紙2のとおりである。
5 争点
(1) 本件各不動産取引によって原告に為替差益に係る所得が発生し、実現したといえるか(争点1)。なお、原告は、本件外貨建取引のうち本件各不動産取引以外の各取引については、原告に為替差益に係る所得が発生し実現したこと及びこれが雑所得に当たることを争っていない。
(2) 為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法(争点2)
6 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件各不動産取引によって原告に為替差益に係る所得が発生し、実現したといえるか)について
(被告の主張)
ア 外貨建取引に係る為替差益については、邦貨を基準として所得の発生・実現を判断すべきであること
所得税法は、包括的所得概念を採用し、経済的利益について、原則として外部から流入しない経済的価値や保有資産の増加益等の未実現利益を除き、人の担税力を増加させる利得の全てを所得として認識し、課税の対象としている。
そして、経済的価値を収入として認識するためには、認識する対象を客観的数値(貨幣価値)に係る一つの基準によって測定せざるを得ないのであり、我が国における貨幣価値を法定通貨の単位である円(邦貨)により一律に測定することは、所得税法が当然に予定していると解される。このことは、換算規定として同法57条の3第1項が置かれ、同項において、外貨建取引を行った場合の所得金額の計算について、「当該外貨建取引の金額の円換算額」によると規定していることからも明らかである。
よって、外貨建取引に係る為替差益についても、邦貨を基準として所得の発生・実現を判断すべきである。
イ 本件各不動産取引に係る為替差益について
外貨建取引における為替差益につき所得が実現したといえるためには、それが未実現利益ではなく、当該外貨建取引の収入の原因たる権利が確定的に発生したといえる必要があるところ、外貨建預金をもって外貨建取引により資産を購入した場合には、当該外貨の為替変動リスクの影響を受けない新たな経済的価値が外部から流入したことにより、それまでは評価差額にすぎなかった為替差益に相当するものが所得税法36条1項の「収入すべき金額」として実現したものと考えられるため、当該経済的利益(為替差益)は、所得として認識しなければならない。
これを本件各不動産取引についてみると、本件各不動産取引によって、それまでの保有資産のうち本件各不動産の取得に要したドルの占めていた部分が、新たに保有することになった本件各不動産に置き換わり、それ以降、ドルの為替変動リスクによってその円換算額が影響されない価値として保有されることが確定する。
そうすると、ドルの為替変動リスクを負っていた間の円換算額の増減分の価値、すなわち、本件各不動産取引時点における為替レートによる本件各不動産の取得価額の円換算額から、その取得のために要したドルの取得時の円換算額を控除した差額に相当する経済的価値の流入が生じ、その経済的価値こそが、本件各不動産取引から生ずる為替差益にほかならないから、当該為替差益は、各取引の時点においてその収入の原因となる権利が確定し、実現したといえる。
そして、本件各不動産取引によって発生、実現した為替差益の額を計算すると、別表3-1の順号109から112並びに3-2の順号126、127、143、144、164及び165の各⑧欄(「本件各為替差益(円)」)欄の金額となり、これらの金額が、本件各年分における所得として発生し、実現したものといえる。
(原告の主張)
ア 外貨建取引では邦貨を基準に所得の発生を判断すべきでないこと
所得の発生の判断において、邦貨と外貨のいずれを基準とすべきかについて、所得税法は、何らの定めを置いていない。同法57条の3第1項は、飽くまで所得が発生・実現する場合を前提に、所得金額の円換算方法を規定したものであり、所得の発生の基準を邦貨とする規定ではない。
租税法は、経済活動(経済現象)を課税の対象としているところ、経済活動は、一次的には私法によって規律されているものであるから、租税法律主義の目的である法的安定性を確保するためにも、課税は、私法上の法律関係に即して行われるべきである。そして、私法上、外貨建取引が行われる場合、外貨を基準として所得の発生を判断することが、私法上の法律関係に即しており、外貨を邦貨に換算した上で所得が発生したかを判断することは、当事者間の意思に反し、私法上の法律関係に抵触する。
さらに、外貨建取引につき、外貨を邦貨に換算した上、邦貨を基準として所得が発生したかを判断すると解した場合、納税者には何ら経済的利得はなく、かつ、現金収入もないにもかかわらず、単に為替レートに変動があったことのみを理由として納税を迫られる結果となる。この結果は、租税公平主義又は租税平等主義に反する。
現に、国税庁の外貨建債券の償還に係る質疑応答事例(甲8)及び外貨建仕組債の円貨償還に係る文書回答事例(甲9)では、外貨を基準として所得の発生の有無を判断する旨の解釈が示されている。
イ 本件各不動産取引における所得の発生・実現について
所得税法36条1項は所得の実現について権利確定主義を規定しているところ、権利確定主義における「権利の確定」があったといえるためには、①当該権利が発生したこと及び②当該権利の実現の可能性が増大したことを客観的に認識できるようになったことが必要である。
(ア) 権利の発生について
所得とは、人の担税力を増加させる経済的価値と解されるところ、原告は、本件各借入れによって一時的に調達したドルを使用して本件各不動産を取得したにすぎず、本件各不動産の取得によっても、原告個人の資産として計上される資産の勘定科目が手段である外貨預金から本来の目的である不動産に変化しただけであり、取引の前後で原告の純資産の増加はなく、資産状況に実質的な変化はないから、新たな経済価値は流入しておらず、人の担税力を増加させる経済的価値は生じていない。
被告は、本件各不動産取引によって、取引前に保有していたドルが為替変動リスクの影響を受けることのない不動産に置き換わったなどとして、当該為替差益に係る新たな経済価値の流入があったなどと主張するが、本件各不動産はドル建ての資産であり、原告は、本件各不動産取引後においても、本件各不動産につき引き続き為替変動リスクを負っているのであるから、被告の主張は、前提を欠く。
したがって、本件各不動産取引につき、為替差益に係る所得は発生していない。
(イ) 権利の実現について
本件各借入れは、本件各不動産を取得する目的で行われたものであり、原告は、当該目的に従い、本件各借入れによって一時的に調達したドルを使用して本件各不動産を取得したものである。そうすると、本件各不動産の取得は、当初から想定されていた取引にすぎず、本件各不動産の取得のタイミングでドルからドル建て資産に転換しただけであって、為替差益に係る所得の実現可能性が高まったものではない。
したがって、仮に、本件各不動産取引によって為替差益に係る所得が発生していたとしても、本件各不動産取引から為替差益に係る所得が実現したとはいえない。
なお、このように解したとしても、本件各不動産を譲渡する際に為替差益について課税することが可能であり、課税漏れ等の課税上の問題が生じることもないし、また、このような帰結は、企業会計基準において、外貨建債券等に係る受取外貨額を、円に転換することなく当初から予定されていた外貨による資産の取得に充てた場合、当該換算差額は繰り延べるとの取扱いが規定されていること(日本公認会計士協会「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針(令和元年7月4日改訂)」(以下「本件実務指針」という。)。甲14)や、所得税基本通達57の3-2の注書きの4が「本邦通貨により外国通貨を購入し直ちに資産を取得し若しくは発生させる場合の当該資産、又は外国通貨による借入金に係る当該外国通貨を直ちに売却して本邦通貨を受け入れる場合の当該借入金については、現にその支出し、又は受け入れた本邦通貨の額をその円換算額とすることができる。」としていることとも整合する。
(2) 争点2(為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法)について
(被告の主張)
ア 所得税法は、2回以上にわたって取得した同一銘柄の有価証券で雑所得又は譲渡所得の基因となるものを譲渡した場合に係る有価証券の取得費等の計算に関して、総平均法に準ずる方法を採用している(所得税法施行令118条1項)。
有価証券は、その種類や銘柄の異なるものが一定数存在するものの、一般的な動産である商品や製品とは異なり、物理的な劣化による価値の減少が想定されない上、同一銘柄の有価証券は代替性を有し、その取得時期や取得費等が異なっても資産としての物的性格は基本的に変わらないと考えられるので、これらを等価とみて単価を平均する評価方法を適用することとしたものと解される。
外貨は、有価証券と同様、種類の異なるものが一定数存在するものの、物理的な劣化による価値の減少が想定されない上、同一種類の外貨は代替性を有し、取得に要する費用が異なっても資産としての物的性格は基本的に変わらないと考えられるから、為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定においても、有価証券の例にならい、単価を平均する総平均法に準ずる方法を適用するのが最も合理的である。
したがって、本件各為替差益に係る外貨一単位当たりの取得時の円換算額の算定においても、総平均法に準ずる方法によるべきである。
イ 原告は、暗号資産の取得価額の計算に関する所得税法施行令119条の2第2項を根拠として、本件各不動産取引に係る為替差益につき個別法を用いるべきである旨主張するが、同項に規定された「一時的に必要な」取得とは、全世界的に本邦通貨又は外貨と直接交換することができない暗号資産を取得するために必要となる他の暗号資産の取得といった、極めて限定的な取引を対象とするものである。
そして、本件各不動産は、ドルと直接交換できるものであり、本件各借入れに係るドルの取得は、本邦通貨又は外貨と直接交換することができない資産を取得するために必要なものとはいえないことや、原告は、本件各借入れの直前において本件各借入金の総額の4倍以上ものドルを保有していたことなどからすると、本件各借入れに係るドルの取得は、同項の「一時的に必要な」取得に当たらない。
さらに、所得税法施行令119条の2の施行日は平成31年4月1日であり、同条の規定は本件各年分の当時施行されていなかったのであって、本件各年分に行われた本件各不動産取引に関して、同条の規定を根拠にすることはできない。
したがって、原告の主張には理由がない。
(原告の主張)
ア 所得税法施行令119条の2第2項は、暗号資産の取得価額の計算に関し、暗号資産を購入する際に、その暗号資産がいずれの暗号資産交換業者においても邦貨及び外貨と直接交換することができないことから、これらと直接交換することが可能な他の暗号資産を介在して取引を行うため、一時的に当該他の暗号資産を有することが必要となる場合、一時的に必要な暗号資産の譲渡原価の計算における取得価額は、個別法(当該暗号資産について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法)により算出する旨を定めている。
同条は、暗号資産取引の中には、暗号資産を介してのみ取引ができるものが存在しており、その取引を行うために一時的に暗号資産を保有することとなる場合に、従来保有している暗号資産に加えてこのような一時的に保有する暗号資産を含めて取得価額を平均化してしまうと、従来保有している暗号資産の取得価額を正確に把握することができなくなるおそれがあるといった趣旨から規定されたものである。
イ そして、所得税法上、外貨と暗号資産は、いずれも不特定の者に対して使用することができる財産であり、かつ、譲渡所得の基因となる資産に該当しないという共通した性質を持つものであるところ、為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定においても、取得価額を平均化することが実態に合わないといえるような場合には、所得税法119条の2第2項が採用する個別法によることが相当である。
具体的には、当該外貨が①特定の資産に対する交換手段として限定された保有であり(目的拘束性)、②その保有が一時的であること(時間的接着性)が具体的に特定されている場合には、個別法によることが相当である。
ウ 当てはめ
本件各借入れは、原告が本件各不動産の取得のために■■銀行に対しそれぞれ融資の依頼をしたものであり、借入れの目的は「設備資金」、すなわち、本件各不動産の取得であることが明記されており、原告は、■■銀行との契約上、本件各借入金を本件各不動産の取得のために用いることが義務付けられていた。そして、本件各借入れの後、本件各借入金を原資として本件各不動産の取得に要する費用の支払が速やかに行われた。これらの事実からすれば、本件各借入れは、①目的拘束性、②時間的接着性の要件を満たしている。
したがって、本件各不動産取引に係る為替差益の算定に当たっては、ドルの取得時の円換算額の算定につき、個別法を用いるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件各不動産取引によって原告に為替差益に係る所得が発生し、実現したといえるか)について
(1) 為替差益に係る所得の把握において基準とすべき通貨について
ア 所得税法は、包括的所得概念を採用し、およそ人の担税力を増加させる経済的利得の全てを所得として構成するものとしているところ、外貨の為替レートの変動に基づく利益である為替差益も、人の担税力を増加させる経済的利得に当たるから、所得を構成するものといえる。
イ また、為替差益による所得を把握するためには、対象となる貨幣価値を基準となる通貨単位で測定する必要があるところ、所得税法が我が国における法定通貨である邦貨(円)を基準として課税の範囲や税額の計算方法を定めていることや、同法57条の3第1項が外貨建取引の金額の円換算額は当該外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として所得の金額を計算する旨規定していることなどからすると、同法は、邦貨を基準として(すなわち、円換算することにより)所得を測定することを当然に予定しているといえる。
したがって、為替差益による所得の把握においても、邦貨を基準とすべきであり、外貨を円換算することによってその所得を把握するのが相当である。
ウ この点に関し、原告は、外貨建取引について邦貨を基準として為替差益に係る所得を把握することは当事者間の意思に反する、私法上の法律関係に抵触するなどと主張するが、課税の基準とすべき通貨をどのように定めるかは、取引の当事者の意思に委ねるべき性質のものではないし、また、邦貨を基準として為替差益に係る所得を把握したとしても、当該外貨建取引に係る契約内容に何ら変更等が生じることはなく、私法上の法律関係に抵触するものではないから、原告の主張には理由がない。
(2) 為替差益に係る所得の発生ないし実現について
ア 為替差益につき、「収入すべき金額」(所得税法36条1項)に該当するためには、当該為替差益に係る経済的利得が何らかの形で実現することが必要である。例えば、単に外貨を保有し続けている状況において、為替レートの変動により当該外貨につき為替差益が生じたとしても、そのことだけでは、当該為替差益は所有資産の価値の増加(評価差額)にすぎず、未実現の利得であって、「収入すべき金額」に該当しない。
もっとも、当該外貨につき為替差益が生じている状態において当該外貨を用いて不動産等の資産を購入した場合、すなわち、当該資産の取得等のために払い出された外貨の払出時における円換算額から当該外貨の取得時の円換算額を控除した差額が正である場合には、当該外貨が当該資産に置き換わったことにより、当該為替差益に相当する経済的価値が確定し、所得として実現したといえる。仮に当該資産の購入時に当該外貨を新たに取得して(すなわち、その時点で円を当該外貨に両替して)当該資産を購入する場合には、当該為替差益を含む金額の円が必要となるのであり、当該外貨は当該為替差益分を含む経済的価値を有し、その価値によって当該資産を購入したと認められることからも、上記のように、当該為替差益に相当する経済的価値が確定し、所得として実現したということができる。
したがって、当該為替差益は、「収入すべき金額」に該当する。
イ この点に関し、原告は、外貨建借入金について同一の金融機関、同一の通貨、同一の金額等で借換えを行う場合には為替差益に係る所得を認識しないとした国税不服審判所平成28年8月8日裁決(甲11)や、外貨建債券の償還の場面で券面額と同一の金額が同一の外貨で支払われる場合につき為替差益に係る所得を認識しないとした国税庁の質疑応答事例(甲8)等を挙げ、資産状況に実質的な変化がない場合は、為替差益に係る所得は実現しないとした上で、外貨で外貨建ての不動産を購入する場合には、当該不動産は取引後も引き続き為替変動リスクを負っているのであるから、資産状態に実質的な変化はないなどとして、所得は実現していない旨主張する。
しかし、上記裁決及び質疑応答事例に係る各事例は、各取引の前後において、資産の保有形態等に形式的な変化はあるものの、当該資産が同一の為替変動リスクにさらされているという状態に変化はなく、実質的な変化がないと評価できるものである一方、不動産は、周辺の地価や取引相場、物価の変動等による価値の変動が生じ得るものであり、外貨(為替変動リスク)から独立した価値を有しているから、外貨が不動産に置き換わったことは、資産状態に実質的な変化がないとはいえない。
したがって、外貨で不動産を購入する場合と、上記裁決及び上記質疑応答事例に係る各事例とを同列に考えることはできない。
ウ また、原告は、①企業会計基準である本件実務指針(甲14)の取扱いや、②所得税基本通達57の3-2の注書きの4の規定を根拠として、当初から資産の購入を予定して借入れを行い、借入れ後に資産を購入する場合には、同一通貨ベースでの連続した一つの取引と考えることができるから、当該取引による為替差益に係る所得は実現していない旨主張する。
しかし、上記①については、法人税法は、収益の額等につき、別段の定めがある場合を除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によるとしている(同法22条4項)のに対し、所得税法には同様の規定は置かれておらず、本件実務指針の取扱いが所得税法の法解釈を拘束する根拠はないというべきである。
そして、上記②については、所得税基本通達57の3-2の注書きの4は、「本邦通貨により外国通貨を購入し直ちに資産を取得し若しくは発生させる場合の当該資産、又は外国通貨による借入金に係る当該外国通貨を直ちに売却して本邦通貨を受け入れる場合の当該借入金については、現にその支出し、又は受け入れた本邦通貨の額をその円換算額とすることができる。」と定めるところ、これは、外貨建取引の直前又は直後において外貨と邦貨との交換がされた場合には、一般に、為替差損益がほとんど発生していないことを踏まえ、簡素化の観点から、実際に外貨と交換した邦貨の額を円換算額とするとの例外的な取扱いを認めたものと解され、本件各不動産取引のように、取引の直前又は直後において外貨と邦貨との交換がされていない事例において参考になるものではない。
(3) 本件各不動産取引について
本件各不動産取引は、本件口座に保有していたドルを用いて外貨建取引により不動産を購入する取引であるところ(前提事実(3))、上記(1)、(2)において説示したとおり、仮に各取引時において為替差益が生じている場合、すなわち、本件各不動産の取得等のために払い出されたドルの払出時における円換算額から当該ドルの取得時の円換算額を控除した差額が正である場合は、当該差額(当該為替差益)に係る経済的利得が実現したものとして、当該為替差益は、所得として実現しており、雑所得の金額の計算上、「収入すべき金額」に該当する。
なお、実際の本件各不動産取引による為替差益の有無及び額については、争点2(為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法)についての検討を経る必要があるから、争点2に係る判断の後に改めて検討する(後記3)。
2 争点2(為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法)について
(1) 本件外貨建取引に伴い発生した各為替差益に相当する経済的利得の価額は、各取引のために払い出された外貨(ドル又はユーロ)の払出時における円換算額から当該外貨の取得時の円換算額を控除した差額として算定されるが、本件外貨建預金口座への外貨の預入れは複数回にわたっており(前提事実(2)・別表2-1及び2-2参照)、当該外貨の預入れごとに為替レートが異なるため、当該外貨の取得時の円換算額をどのように算定するかが問題となる。
このように、預入れ時の為替レートが異なる外貨が混在している場合において、払い出す外貨の取得時の円換算額をどのように算定するかについては、法において直接の定めはないものの、外貨の性質等を考慮し、基本的には、法定評価方法の中から、適用すべき評価方法を採用するのが合理的である。
(2) 所得税法は、2回以上にわたって取得した同一銘柄の有価証券で雑所得又は譲渡所得の基因となるものを譲渡した場合に係る有価証券の取得費等の計算に関して、総平均法に準ずる方法を採用しているところ(所得税法施行令118条1項)、これは、有価証券はその種類や銘柄の異なるものが一定数存在するものの、一般的な動産である商品や製品とは異なり、物理的な劣化による価値の減少が想定されない上、同一銘柄の有価証券は代替性を有し、その取得時期や取得費等が異なっても一単位ごとに認められる権利や性質、価値などは基本的に変わらないと考えられるので、これらを等価とみて単価を平均する評価方法を適用することとしたものと解される。
そして、外貨も、有価証券と同様、種類の異なるものが一定数存在するものの、物理的な劣化による価値の減少が想定されない上、同一種類の外貨は代替性を有し、取得費等が異なっても一単位ごとに認められる権利や性質、価値などは基本的に変わらないと認められ、有価証券の上記の性質と同様の性質を有するといえるから、2回以上にわたって取得した同一種類の外貨について、為替差益の額を算定する際の取得時の円換算額の算定においては、有価証券と同様に、単価を平均する総平均法に準ずる方法を適用するのが最も合理的である。
したがって、本件各為替差益に係る外貨一単位当たりの取得時の円換算額の算定においても、総平均法に準ずる方法によることが相当である。
(3) 原告は、暗号資産の取得価額の計算に関する所得税法施行令119条の2第2項を根拠として、本件各不動産取引に係る部分については、外貨の取得時の円換算額の算定において個別法を用いるべきである旨主張する。
ア 確かに、暗号資産は、外貨と同様に、物理的な劣化による価値の減少が想定されず、同一の種別である限り代替性を有し、取得価額が異なっても、一単位ごとに認められる権利や性質、価値などは変わらないといえるため、外貨と類似の性質を有するということができる。
もっとも、所得税法施行令119条の2が、暗号資産の取得価額の計算につき、取得価額を平均化する方法(総平均法又は移動平均法)を原則としつつも(同条1項)、例外として、「暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得」につき、平均化の対象に含めないものとしたのは(同条2項)、暗号資産の中には、全世界的に通貨(外貨を含む。)との交換ができず、特定の暗号資産とのみ交換できるものがあるところ、このような暗号資産の交換等のために一時的に必要となった暗号資産を含めて取得価額の平均化をすることは実態に合わないためであると解される。したがって、同項の規定が適用されるのは、暗号資産の中でも、全世界的に通貨との交換ができないという限られた暗号資産の交換等の場面に限定されると解される。(以上につき、乙23、32参照)
イ これを本件各不動産取引についてみると、まず、本件各不動産は、通貨(ドル)と一般的に交換可能である。
そして、原告は、本件借入れ①の直前である平成29年8月31日において、本件外貨建預金口座に5901万8616.04ドルを保有していたところ(別表2-1・順号100の⑤欄参照)、この金額は、原告が本件各不動産の取得のために行った本件各送金の総額1437万1436.93ドルの4倍を超える金額である(前提事実(2)、(3))。しかも、本件各証拠によっても、原告が本件各借入れ前に保有していたこれらのドルをもって本件各不動産を購入することができなかったとの客観的な事情は見当たらない。
そうすると、本件各借入金につき、本件各不動産取引のために「一時的に必要」なドルの取得であったということはできない。
ウ 原告は、所得税法施行令119条の2第2項の「一時的に必要な」の解釈等に関し、①本件各不動産取引の前から原告が本件各不動産を購入するに足りるドルを保有していたことは「一時的に必要な」取得に該当するか否かの判断に影響を与えない、②■■銀行との契約上、本件各借入金を本件各不動産の取得のために用いることが義務付けられていた、③原告が本件各借入れ前から保有していたドルは、外国為替投資事業の結果として保有していたものであり、不動産事業とは区別する必要があり本件各借入れの必要があったなどとして、本件各借入れが同項の「一時的に必要な」ドルの取得である旨主張する。
しかし、暗号資産(A)を購入するために暗号資産(B)を購入する場合において、当該暗号資産(B)の購入以前から当該暗号資産(A)を購入するに足りる十分な量の暗号資産(B)を有していたときは、当該暗号資産(B)の購入は「一時的に必要な」取得に当たらないと解するのが文理解釈として自然かつ合理的であり、また、為替レートの変動を踏まえた利益操作を防止する観点からも相当である。
さらに、仮に、原告が■■銀行との間で、本件各借入金を本件各不動産の取得のために用いる旨の契約上の義務を負っていたとしても、それらの義務は本件各借入れに係る各金銭消費貸借契約を締結したことによって生じたものにすぎず、原告が本件各借入れ前に保有していたドルを本件各不動産の取得のために用いることができなかったことを基礎付ける事情ではない。
しかも、本件各借入金が入金された本件口座は、本件各借入れ及び本件各送金以外の取引にも用いられており(乙1)、原告が本件各不動産取引と他の取引とで使用する口座を区別していた様子はうかがわれない上、仮に原告が使用する口座につき何らかの区別をしていたとしても、そのような主観的な事情は、本件各借入金が本件各不動産取引のために「一時的に必要」な取得であったことを基礎付ける事情とはいえない。
したがって、原告の上記①から③の主張は、いずれも理由がない。
(4) 小括
以上によれば、本件外貨建取引のうち本件各不動産取引に係る部分についても、所得税法施行令119条の2第2項に準じて個別法を用いることはできないというべきであり、本件各為替差益の算定における外貨の取得時の円換算額の算定は、総平均法に準ずる方法によるべきである。
3 本件各為替差益の額
(1) 上記2(1)のとおり、本件外貨建取引に伴い発生した各為替差益に相当する経済的利益の価額は、各取引のために払い出された外貨(ドル又はユーロ)の払出時における円換算額から当該外貨の取得時の円換算額を控除した差額として計算される。
そして、本件外貨建取引の円換算においては、本件外貨建取引の取引日における外国為替の売買相場として、原告の主たる取引金融機関である■■銀行が適用する対顧客直物電信売相場(TTSレート)と対顧客直物電信買相場(TTBレート)の仲値(TTMレート)を用いることのが相当であるところ(所得税基本通達57の3-2参照)、これを前提として、各取引のために払い出された外貨(ドル又はユーロ)の払出時における円換算額を計算すると、その額は、別表3-1、3-2及び3-3の各⑤欄「取引日における円換算額(円)」のとおりとなる(乙1の2、弁論の全趣旨)。
また、各取引につき、本件外貨建預金口座に入金された外貨の種類ごとに総平均法に準ずる方法により取得時の額を算定すると、その額は、別表3-1、3-2及び3-3の各⑦欄「換算レート(⑥)による円換算額(円)」のとおりとなる。
(2) したがって、本件各為替差益の額は、別表3-1、3-2及び3-3の各⑤欄「取引日における円換算額(円)」から各⑦欄「換算レート(⑥)による円換算額(円)」をそれぞれ控除した額となり、その金額は、別表3-1、3-2及び3-3の各⑧欄「本件各為替差益(円)」のとおりとなるから、これらが本件各為替差益の額であると認められる。
4 本件各更正処分等の適法性
以上を前提として、本件各更正処分等の適法性について検討する。
(1) 本件各更正処分について
ア 原告の平成29年分の所得税等に係る納付すべき税額は、別紙2の1(1)に記載のとおり、4324万9100円であり、この金額は、平成29年分更正処分における納付すべき税額(甲5・27ページ「裁決後の金額B」⑦欄)と同額である。
イ 原告の平成30年分の所得税等に係る納付すべき税額は、別紙2の1(2)に記載のとおり、4406万6900円であり、この金額は、当該金額は、平成30年分更正処分における納付すべき税額4236万7800円(甲4・14ページ「更正後の額」④欄。別表1-2の「更正処分等」欄の「納付すべき税額」⑪欄)を上回る。
ウ したがって、本件各更正処分は、いずれも適法である。
(2) 本件各賦課決定処分について
本件において、通則法65条4項1号の「正当な理由」は認められないところ、本件各年分において原告に課されるべき過少申告加算税の額は、別紙2の3に記載のとおりであり、平成29年分につき259万4000円、平成30年分が581万8000円であるところ、これらの金額は、本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額(甲5・27ページ「裁決後の金額B」欄の「過少申告加算税」④欄、甲4・1ページ目「過少申告加算税」欄)と同額である。
したがって、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。
第4 結論
よって、原告の請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 篠田 賢治
裁判官 高部 祐未
裁判官 金澤 康
(別紙1)
関係法令の定め
1 所得税法36条
所得税法36条1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入額に算入すべき金額は、別段の定めがある場合を除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
2 所得税法57条の3
所得税法57条の3第1項は、居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引)を行った場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨の表示に換算した金額をいう。)は当該外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする旨規定している。
3 所得税法施行令118条
所得税法施行令118条1項は、居住者が2回以上にわたって取得した同一銘柄の有価証券で雑所得又は譲渡所得の基因となるものを譲渡した場合には、雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額又は譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、当該有価証券を最初に取得した時(その後既に当該有価証券の譲渡をしている場合には、直前の譲渡の時)から当該譲渡の時までの期間を基礎として、当該最初に取得した時において有していた当該有価証券及び当該期間内に取得した当該有価証券につき所得税法施行令105条1項1号(総平均法)に掲げる総平均法に準ずる方法(以下「総平均法に準ずる方法」という。)によって算出した一単位当たりの金額により計算した金額とする旨規定している。
4 所得税法施行令119条の2
(1) 所得税法施行令119条の2第1項は、所得税法48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)の規定によるその年12月31日において有する同項に規定する暗号資産の評価額の計算上選定をすることができる評価の方法は、次に掲げる方法のうちいずれかの方法によってその取得価額を算出し、その算出した取得価額をもって当該期末暗号資産の評価額とする方法とする旨規定している。
ア 総平均法(暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、その年1月1日において有していた種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額とその年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。)(1号)
イ 移動平均法(暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、当初の一単位当たりの取得価額が、再び種類を同じくする暗号資産の取得をした場合にはその取得の時において有する当該暗号資産とその取得をした暗号資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によって改定されたものとみなし、以後種類を同じくする暗号資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年12月31日から最も近い日において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。)(2号)
(2) 所得税法施行令119条2第2項は、同条1項各号に規定する取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まないものとする旨規定している。
(別紙2)省略
(別表1-1~3-3)省略