国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
原告は、税務調査の指摘を受けて、平成29年12月期において、補助参加人との間に本件和解契約が成立し、補助参加人から本件和解契約に基づいて振込送金された本件振込金を当該事業年度の益金として算入する旨の修正申告をした。ところが、原告は、その後、原告と補助参加人との間で本件和解契約の成立に争いがあり、これが成立していないことを理由に、本件振込金に対応する当該事業年度の益金の額を減額して計算すると納付すべき法人税の額が過大になったとして、当該事業年度の法人税及び地方法人税について、それぞれ国税通則法23条1項1号に基づく更正の請求をしたところ、税務署長から、更正をすべき理由がない旨の各通知処分を受けた。
本件は、原告が、被告を相手に、本件各通知処分の取消しを求める事案である。
基本情報
・税目:法人税
・処分行政庁:博多税務署長
・課税年度:平成29年12月期
・提訴裁判所:福岡高等裁判所
・提訴年月日:令和7年6月10日
・判決日:令和8年1月20日
・結果:全部勝訴(納税者勝訴)
争点
・本件振込金の額が、法人税の益金に算入すべきでないものであったか否か
判決書PDFデータ
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判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 第1、2審を通じて、訴訟費用のうち、補助参加により生じたものは被控訴人補助参加人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
(以下、用語及び略語は、特に断らない限り、原判決の例による。)
1 本件は、被控訴人が、被控訴人補助参加人(以下、単に「補助参加人」という。)との間で成立した本件和解契約に基づき補助参加人から振込送金された1000万円(本件振込金)につき、平成29年1月1日から同年12月31日までの事業年度(平成29年12月期)の益金として算入する旨の本件修正申告をしたが、その後、本件和解契約は成立しておらず、本件振込金は益金に当たらないから、本件修正申告により納付すべき税額は過大であるとして、同事業年度の法人税及び地方法人税について、それぞれ国税通則法23条1項1号に基づく更正の請求をしたところ、博多税務署長(処分行政庁)から、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(本件各通知処分)を受けたため、被控訴人が、控訴人に対し、本件各通知処分の取消しを求めた事案である。
原審は、本件和解契約は成立しておらず、平成29年12月期において、被控訴人に本件振込金を取得する権利が確定的に発生していたとは認められず、所得の実現があったとみることはできないなどとして、本件振込金の額を法人税及び地方法人税の益金として計算するのは法人税法22条2項に従ったものではなく、これにより納付すべき税額が過大になったのであるから、処分行政庁は更正をすべきであり、本件各通知処分はいずれも不適法であるとして、本件各通知処分をいずれも取り消したところ、これを不服として、控訴人が控訴した。
2 関連法令の定め等、前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2ないし4のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決添付別紙2(原判決26頁)25行目冒頭を改行し、次のとおり加える。
「21条
内国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする。」
(2) 原判決4頁10行目の「振込送金」の後ろに「(以下「本件振込」ともいう。)」を、24行目の「税務調査」の後ろに「(以下「本件税務調査」ともいう。)」を、25行目の「反面調査」の後ろに「(以下「本件反面調査」ともいう。)」を加え、5頁12行目の「和解金4000万円」を「未払和解金4000万円(以下「本件未払金」ともいう。)」と改め、13行目の「■号」の後ろに「。以下「第1別訴」ともいう。」を、18行目の「乙6」の前に「以下「本件更正請求」ともいう。」を、6頁5行目から6行目の「■号」の後ろに「。以下「第2別訴」ともいう。」を、12行目の「■号」の後ろに「。以下「第3別訴」ともいう。」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原審と異なり、本件振込金は、被控訴人の現実の収入と認められ、益金として計上すべきであり、本件更正請求は国税通則法23条1項1号所定の要件を満たしているとは認められないから、本件各通知処分はいずれも適法であり、本件各取消請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は以下のとおりである。
2 認定事実
次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決12頁20行目の「■号」の後ろに「。以下「■訴訟」という。」を加える。
(2) 原判決12頁20行目の「原告」から22行目末尾までを削除し、23行目冒頭を改行し、次のとおり加える。
「ケ 平成30年11月8日の本件反面調査の際、当時の補助参加人代表者であった■は、平成29年12月20日に本件和解契約を締結し、被控訴人に対して違約金5000万円を支払うこととなり、その一部として1000万円を同月29日に振込で支払ったものの、■としては納得しておらず、今後係争予定である、契約は締結したが条項内容が変更され、話が進まない、残金は現在係争中であり、払っていない旨説明した。(乙17)
コ ■は、平成31年3月1日の本件税務調査の際、補助参加人と協議を重ねた結果、本件和解金を受領することで合意した、被控訴人が本件和解契約書の提示を行わないため、1000万円の本件和解金を収入に計上していなかった、本件未払金については、期日までに入金がなく、再三の催促を行っても支払がなかったため、現在、補助参加人と係争中である旨説明した。(乙8)
サ 被控訴人は、処分行政庁担当者からの指摘を受け、平成31年3月18日、本件修正申告をした。
シ 被控訴人は、令和元年9月2日、■訴訟において、本件和解契約を締結していない旨の主張を記載した準備書面を提出した。(丙8)
ス 被控訴人は、令和2年8月20日、補助参加人を被告として、本件未払金の支払を求めて第1別訴を提起したが、他方で、同年9月24日、■訴訟において、本件和解契約は締結していない旨の記載のある■の陳述書を書証として提出した。補助参加人が、第1別訴において、被控訴人は■訴訟では本件和解契約の成立を否定している旨を主張、立証したところ、被控訴人は、令和3年3月、第1別訴を取り下げた。(乙7の1・2、丙9)
セ 被控訴人は、令和3年5月31日、処分行政庁に対し、本件更正請求をしたが、処分行政庁は、法人税について令和3年11月9日、地方法人税について令和4年9月15日、本件各通知処分をした。」
(3) 原判決12頁23行目の「その後、」を「ソ」と改め、25行目末尾を改行し、次のとおり加える。
「タ 被控訴人は、令和4年11月4日、■地方裁判所に対し、補助参加人及び■を被告として、本件未払金等の支払を求めて第2別訴を提起した。
チ 補助参加人は、令和5年1月31日決算において、本件未払金4000万円を損金から除外した上、これに沿って修正申告をし、同年2月23日、■地方裁判所に対し、被控訴人及び■を被告として、本件振込金の不当利得返還等を求めて第3別訴を提起した。(乙22、丙3、4)
ツ ■地方裁判所は、第2別訴及び第3別訴を併合審理し、令和7年4月17日、本件和解契約が成立していないとして、第2別訴について被控訴人の請求をいずれも棄却し、第3別訴について、補助参加人の請求のうち本件振込金の不当利得返還請求を認容する判決を言い渡した。(丙11)
テ 補助参加人及び被控訴人が、上記判決を不服として控訴したところ、■高等裁判所は、令和7年10月28日、同各控訴をいずれも棄却する判決を言い渡した。(丙12)
ト 本件口頭弁論終結時点において、被控訴人が補助参加人に本件振込金を返還したとの主張立証はされていない。」
3 検討
(1) 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(22条2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」という。)に従って計算すべきものとされている(同条4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、公正処理基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定した時の属する年度の益金に計上すべきものと考えられる(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)。もっとも、法人税は経済的な利得を対象とするものであるから、究極的には実現された収支によってもたらされる所得について課税するのが基本原則であり、ただ、その課税に当たって常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いため、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税するのが公正処理基準に沿うといえることからすると、上記の権利確定時の属する事業年度の益金として計上するとの基準は、その権利について後に現実の支払があることを前提として、所得の帰属年度を決定するためのものであるにすぎない(所得税に関する最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁参照)。そうすると、権利自体の存否についてなお係争中であっても、現実に収入があったと認めることができる状態になった場合には、その時点で所得の実現があったものとして所得を計上するのが公正処理基準に適合するものといえ、この理は、権利の発生根拠である契約が、意思表示の瑕疵により無効ないし取り消し得るものである場合だけでなく、意思表示が合致したかについて争いがあり、後に意思表示の合致がないとして契約の成立が否定される場合においても、別異に解すべき理由はない。
(2) これを前提に、本件についてみるに、仮に、第2別訴及び第3別訴についての各判決が判示したように、回顧的に検討すれば、被控訴人と補助参加人との間で、本件和解契約に沿う和解契約が成立したとは認められないとしても、被控訴人は、本件振込金を現実に収受し、これを仮受金として計上しつつ、摘要欄には補助参加人からの和解金と記載し、本件振込の直後に本件振込金と同額の1000万円を関連会社へ送金し、その後も、1000万円を補助参加人に返還せず、本件税務調査時にも、本件振込金は本件和解契約に基づき入金されたものであるが、本件未払金については入金がない旨説明し、その後、本件未払金の支払を求めて第1別訴及び第2別訴を提起したものであること、被控訴人代表者である■は、原審において、補助参加人が本件未払金を支払わなかったことにつき、契約不履行と思っていた旨、本件和解契約の成立を前提とした認識を有していた趣旨の供述をしていること、補助参加人においても、本件振込金及び本件未払金を特別損失として計上した上、本件反面調査において、係争中ではあるが、本件和解契約を締結し、本件振込金を送金したものである旨説明し、その後、本件和解契約の効力を否定し、本件未払金の支払義務を争いながらも、第3別訴の提起に至るまで、5年以上にわたり、被控訴人に対し、本件振込金の返還請求訴訟を提起することはなかったこと、補助参加人の担当者であった■も、原審において、■から、本件和解契約書の修正に時間を要するため、とりあえず1000万円を先に支払うよう依頼され、本件発電所用地の手付金の趣旨で本件振込をした旨、及び■との信頼関係から、話合いで解決できると考えており、仮に協議が奏功しない場合は返還されるのであろうと思っていた旨を供述しており、本件振込金は基本的には被控訴人が取得すべきものと認識していたといえることからすると、被控訴人と補助参加人との間には、本件和解契約を締結してもおかしくないだけの事実経緯があり、少なくとも被控訴人は同契約が成立したと認識していたものであるとみられ、また、本件振込金は、本件発電所用地に係る紛賞解決のために被控訴人が取得すべきものとして振り込まれたものであり、被控訴人、補助参加人のいずれも、そのように認識していたと認められる。以上によると、本件振込金は、本件振込時点において、被控訴人の現実の収入となったと認められるといえ、その時点で所得の実現があったものとして所得を計上するのが公正処理基準に適合するものといえる。
そうすると、本件振込金は、平成29年12月期の益金の額に算入すべきであるから、本件更正請求が国税通則法23条1項1号所定の要件を満たすとは認められず、本件各通知処分はいずれも適法であると認められる。
(3) これに対し、被控訴人は、①本件振込は、単なる金員の移動にすぎず、「取引」(法人税法22条2項)に該当しない、②被控訴人は、本件振込金につき、負債勘定(仮受金)を増加させる会計処理を行っており、純資産は増加していないため益金を構成しない、③法的性質が不確定な入金があった場合でも、一旦は益金として申告・納税しなければならず、後に返還が確定しても、更正の請求期間5年が経過していれば、過大に納付した税金の還付を受けられない不利益を被ることになる旨主張する。
しかし、①既に説示したとおり、本件振込は、単なる金員の移動にすぎないとはいえない。また、②現実に収入があったと認められる状態になったといえるかは、いかなる会計処理がされたかではなく、実質的に判断すべきである。さらに、③本件振込金については、前述のとおり、益金の額に算入すべきであって、本件修正申告に客観的な誤りがあったものとはいえず、他方、法人税法における損失のうち債務については、その確定をもって損失と把握すべきであるから、本件振込金の不当利得返還債務が確定した場合、これに伴う事由に基づく会計処理としては、債務確定日(本件に即していえば、第2別訴及び第3別訴についての補助参加人勝訴判決の確定日又は本件振込金が現実に補助参加人に返還された日のいずれか早い方)の属する事業年度の損失とする処理、すなわち前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきである(最高裁令和2年7月2日第一小法廷判決・民集74巻4号1030頁参照)。
また、補助参加人は、被控訴人と補助参加人との間で本件和解契約が成立していない以上、誤送金の場合と同様、被控訴人は、本件振込金の返還義務を負うから、本件振込金は純資産の増加をもたらさず、益金ではないところ、これを益金として申告した本件修正申告は当初から誤りであったから更正するのが当然である旨主張するが、既に説示したとおり、本件振込金は被控訴人の現実の収入と認められる以上、主張は採用できない。
第4 結論
よって、原判決は失当であるから取り消し、被控訴人の本件各請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官 岡田 健
裁判官 佐藤 道恵
裁判官 武智 舞子
