国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
一般社団法人である控訴人は、前身である社団法人の時代から、■場の土地及び■地区の土地の所有名義人であり、これを国に貸し付け、国から受領した賃貸料を、本件■場の土地及び本件■地区の土地(本件各土地)の使用収益権者とされている会員に分配するとともに、そのうちの3%を控除して取得していた。
控訴人は、■に一般社団法人に移行したが、上記賃貸料及び分配金について、同移行後も、法人税、復興特別法人税及び地方法人税(法人税等)の申告対象としていなかったところ、処分行政庁は、平成30年3月27日、平成25年から平成28年までの各12月期の本件各事業年度について、平成25年4月1日から平成29年3月31日までの期間(本件期間)の上記賃貸料(本件各賃貸料)に係る収入(本件各賃貸料収入)が控訴人の収益に当たり、原判決別紙地権者目録記載の者(本件各受給者)に対する分配金(本件金員)の支払が法人税法37条の寄附金に当たるなどとして、①本件各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、②平成25年及び平成26年の各12月課税事業年度の復興特別法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、③平成27年及び平成28年の各12月課税事業年度の地方法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした(本件各処分)。
本件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件各賃貸料収入は、控訴人に帰属せず、本件金員の支払は寄附金に当たらないとして、本件各処分の一部の取消しを求める事案。
基本情報
・税目:法人税
・処分行政庁:沼津税務署長
・課税年度:平成25年12月期~平成28年12月期
・提訴裁判所:東京高等裁判所
・提訴年月日:令和5年10月4日
・判決日:令和7年5月29日
・結果:全部敗訴(納税者勝訴)
争点
・本件各土地の賃貸料の収受を目的とする入会権の存否
・本件各賃貸料収入は控訴人の収益として法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入されるか
判決書PDFデータ
原審はこちら⇩
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2023/pdf/13886.pdf
判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 原判決を取り消す。
2 沼津税務署長が平成30年3月27日付けで控訴人に対してした、平成25年4月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額3億6366万8515円、納付すべき法人税額9210万5300円及びこれに対する過少申告加算税額1377万9500円並びに復興特別法人税額921万0500円及びこれに対する過少申告加算税額135万5000円を超える部分を取り消す。
3 沼津税務署長が平成30年3月27日付けで控訴人に対してした、平成26年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額3億8320万6147円、納付すべき法人税額9687万7500円及びこれに対する過少申告加算税額1450万5500円並びに復興特別法人税額968万7700円及びこれに対する過少申告加算税額142万7000円を超える部分を取り消す。
4 沼津税務署長が平成30年3月27日付けで控訴人に対してした、平成27年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額2億9604万2727円、納付すべき法人税額7465万0700円及びこれに対する過少申告加算税額1117万2500円並びに地方法人税額328万4600円及びこれに対する過少申告加算税額46万7000円を超える部分を取り消す。
5 沼津税務署長が平成30年3月27日付けで控訴人に対してした、平成28年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額3億8498万8006円、納付すべき法人税額9130万0100円及びこれに対する過少申告加算税額1367万円並びに地方法人税額401万7200円及びこれに対する過少申告加算税額57万6500円を超える部分を取り消す。
6 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要(略称は特に断りのない限り原判決の例による。)
1 一般社団法人である控訴人は、前身である社団法人の時代から、■場の土地(本件■場の土地・登記簿面積29万9161㎡の原野又は山林)及び■地区の土地(本件■地区の土地・登記簿面積28万6522㎡の原野)の所有名義人であり、これを国に貸し付け、国から受領した賃貸料を、本件■場の土地及び本件■地区の土地(本件各土地)の使用収益権者とされている会員に分配するとともに、そのうちの3%を控除して取得していた。
控訴人は、■に一般社団法人に移行したが、上記賃貸料及び分配金について、同移行後も、法人税、復興特別法人税及び地方法人税(法人税等)の申告対象としていなかったところ、処分行政庁は、平成30年3月27日、平成25年から平成28年までの各12月期の本件各事業年度について、平成25年4月1日から平成29年3月31日までの期間(本件期間)の上記賃貸料(本件各賃貸料)に係る収入(本件各賃貸料収入)が控訴人の収益に当たり、原判決別紙地権者目録記載の者(本件各受給者)に対する分配金(本件金員)の支払が法人税法37条の寄附金に当たるなどとして、①本件各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、②平成25年及び平成26年の各12月課税事業年度の復興特別法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、③平成27年及び平成28年の各12月課税事業年度の地方法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした(本件各処分)。
本件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件各賃貸料収入は、控訴人に帰属せず、本件金員の支払は寄附金に当たらないとして、本件各処分の一部の取消しを求める事案である。
原審は、①本件各賃貸借契約の賃貸人は控訴人であり、本件各賃貸料は、控訴人が所有する本件各土地を国に貸し付けた対価であるから、その全額が当該事業年度の控訴人の収益の額に当たり、法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入される、②本件金員の支払に対価性を認めることはできず、経済的合理性も存在しないから、本件各受給者に対する本件金員の支払は法人税法37条の寄附金に当たり、本件各処分は適法であるとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。
2 関係法令等の定め
関係法令等の定めは、原判決別紙関係法令等の定めのとおりであるから、これを引用する。
3 前提事実(争いのない事実、後掲各証拠(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 控訴人は、■地区の■を目的とする法人であり、■に設立された「社団法人■」(以下、移行前の法人も「控訴人」という。)を前身とし、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の制定(平成18年法律第48号、平成20年12月1日施行)及び公益法人関係税制の改正に伴い、■に「一般社団法人■」に移行した。
原判決別紙地権者目録(平成25年から平成28年までのもの)記載の者(本件各受給者)は、いずれも■地区に在住する控訴人の会員であり、控訴人から、本件各土地を区割りして割り当てられた各土地(以下「区画地」という。)の使用収益権者と扱われている。
(2) 控訴人は、社団法人の時代から、本件各土地の所有名義人であり、本件各土地を■の■場等の目的で国に貸し付け、国から受領した賃貸料を、区画地の使用収益権者とされている会員に対し、その面積に応じて分配するとともに、そのうちの3%を「寄附金」又は「事務取扱費」の名目で控除して取得していた。(甲2、5~7、34、52、乙19)
控訴人は、■の一般社団法人移行後も、国との間で、本件各土地について、毎年、賃貸人を控訴人、賃借人を国、契約期間を4月1日から翌年3月31日とする賃貸借契約(本件各賃貸借契約)を締結した。(甲7の2、7の3、乙13)
(3) 控訴人は、本件各事業年度の法人税、平成25年12月課税事業年度及び平成26年12月課税事業年度の復興特別法人税並びに平成27年課税事業年度及び平成28年課税事業年度の地方法人税について、原判決別表1「本件法人税各処分の経緯」の「確定申告」欄、同別表2「本件復興特別法人税各更正処分の経緯」の「申告」欄、同別表3「本件地方法人税各更正処分の経緯」の「確定申告」欄のとおり申告し、本件各賃貸料収入及び本件金員の支払については、申告対象としなかった。本件各賃貸料及び本件金員の額は、原判決別表4「本件各賃貸料収入及び本件各受給者への支払内訳等」の各事業年度の「契約番号」の「12-1」及び「営2-1」の行の「賃貸料(受取)(a)」及び「本件金員(支払)(b)」の列のとおりである。(甲17、18、乙1~6、12)
(4) 処分行政庁は、平成30年3月27日、控訴人に対し、本件各賃貸料収入が控訴人に帰属し、法人税法22条2項により益金の額に算入すべきであるとし、本件金員が法人税法37条の寄附金に当たるなどとして、本件各処分をした。(甲19~21)
(5) 控訴人は、平成30年6月19日、国税不服審判所長に対し、本件各処分について、審査請求を行ったところ、国税不服審判所長は、平成31年4月22日、上記審査請求をいずれも棄却する旨の本件裁決をした。(甲22、23)
控訴人は、令和元年10月2日、静岡地方裁判所に本件訴えを提起した。
4 争点
(1) 本件各土地の賃貸料の収受を目的とする入会権の存否
(控訴人)
本件各土地を含む一帯の土地は、江戸時代から周辺の複数の部落の入会地として多数の部落民により材木等の採取を目的として利用されてきた。大正時代から養蚕のための植林をするようになり■地区では個人ごとに区画が割り当てられ、その後、本件各土地を含む広大な土地が■や■の■場などとして一括して賃貸されるようになったため、区画された面積に応じて賃貸料の分配を受けるようになった。
入会権の存在及びその内容は、その地域の慣習によって決まり、慣習は、地域をとりまく客観的事情とその変化に応じて変わってくるものであるから、本件各土地を賃貸して賃貸料を収受することは本件各受給者の入会権の目的となっている。
(被控訴人)
ア 明治20年頃から■が■山麓一体を■場用地として使用していた際、当時の入会権者が受領していたのは■や残飯、払い下げられた不用品であって、個々の入会権者が入会地を賃貸して賃料を受領していたとは認められない。本件各受給者が入会権を有しているとしても、その内容や目的に、入会地が第三者に賃貸された場合の賃貸料を収受する権能は含まれていない。
イ 入会地が第三者に賃貸されたことにより発生した賃貸料債権は、入会団体が法主体性を有しない場合は構成員に総有的に帰属することが観念できるが、入会団体が権利義務の主体となる法人格を有する場合は当該法人に帰属する。控訴人は、■当時の入会権者等の意思に基づき、入会地を含む土地の寄附を受けて当時の入会団体が法人格を有する社団法人として設立されたから、本件各賃貸料収入は、入会権者には帰属しない。
(2) 本件各賃貸料収入は控訴人の収益として法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入されるか
(控訴人)
控訴人は、本件各賃貸借契約の名義人であるが、本件各賃貸料収入に対する法的な支配を有しておらず、「単なる名義人」(法人税法11条)であって、本件各賃貸料収入に係る収益を享受していないから、本件各賃貸料収入は法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入されない。
(被控訴人)
控訴人は、一般社団法人として、構成員とは別個独立した法主体性を有し、自身の名義の固定資産を多数保有しながら、地域社会の共栄発展に資することを目的として、大規模に様々な事業を行っている実体のある法人である。
控訴人は、本件各土地の契約に関わる問題の協議会や賃貸料交渉などに定期的かつ継続的に出席して本件各賃貸料の交渉等の活動を行い、自らの名義で、国(■)との間で、昭和42年頃から本件各賃貸借契約を締結及び更新し、控訴人名義の本件口座に本件各賃貸料を振り込ませている。
また、控訴人は、本件各土地の所有者として長年登記され、本件各土地に対する実体の伴った所有権を有しているところ、本件各賃貸料収入は、本件各土地の使用の対価として受けるべき金銭という法定果実であって(民法88条2項)、所有者がその果実収受権を第三者に付与しない限り、元来所有者に帰属すべきものである。
控訴人は、本件各賃貸借契約の名義人として本件各賃貸料収入に対する法的な支配を有し、本件各賃貸料収入の源泉である本件各土地の真実の所有者であって「単なる名義人」ではないから、本件各賃貸料収入は、控訴人の収入として法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入される。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実に加え、後掲各証拠(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1) 本件各土地を含む■の広大な山林原野は、江戸時代から周辺の複数の部落の部落民により、材木、薪炭、萱、下草などの採取、鳥獣の狩猟、野畑、焼畑の栽培を目的として利用され、部落民の生活・経済に不可欠の存在となっていた。明治22年4月、町村制の施行により■村などが発足したが、本件各土地は旧■村の所有であったため、■地区の部落が本件各土地を管理した。(甲3、45)
(2) 上記(1)の山林原野が明治時代に■の■場として使われるようになると、部落民が山林原野への立入りを制限されることもあったが、■の合間を縫って立ち入るなど、部落民の利用も続けられ、明治42年9月18日には、部落と■との間で■場覚書が作成され、部落民に対する見返りとして、■が、■部隊の糧食品等の調達などを部落民に委託することもあったほか、農作業・山仕事が繁忙な夏期の■を避けることなどを約束し、利用を制限された部落民に補償することもあった。(甲45)
(3) 大正時代に入ると、養蚕のための植林が行われるようになり、■地区では、本件各土地において、個々の部落民が一定の範囲の土地を独占的に使用収益することができるようにするため、部落民に特定の区画地が割り当てられ使用収益が認められた(以下、区画地の使用収益が認められた■部落の部落民を「地権者」という。)。また、山林原野を開墾した場合はその開墾者名が記録され、開墾した範囲についてその者が地権者として使用収益できるものとされた。(甲13、14、46、47)
(4) 本件各土地を含む一帯の土地は、■地区のある■村の所有とされており、その後、昭和3年頃、■地区の部落民であり地権者である■外262名に売却されるなどしたが、開墾された本件各土地が部落民の転出等によって烏有に帰し荒れ地と化すことが懸念されたため、社団法人を設立してこれらの土地の所有権を法人に移転することとされ、■に控訴人が設立された。(甲3、35、48、49)
本件各土地については、いずれも同年3月31日売買を原因とし控訴人を所有者とする同年7月15日付け所有権取得の登記がされたが、これによって、地権者の区画地に対する使用収益が制限されることはなかった。(甲2、36、41、乙19、弁論の全趣旨)
(5) 本件各土地を含む一体の土地は、戦後、■により接収され、その後、■場及び■地区の用地として使用されることとなり、そのための賃貸借契約が毎年締結されることとなった。その際、昭和45年頃までは、国との賃貸借契約締結、賃貸料の請求・受領に関することを控訴人に委任する委任状及び承諾書が地権者の連名で作成されており、賃貸借契約書において、賃貸人である控訴人は地権者である「■外241名」の「代理人」と表示され、控訴人を所有者、「■外241名」を耕作者とする借料調書が添付されていることもあった。(甲7、9、11、12、25~32)
■による接収後も、地権者は、建築用材として桧や杉等を植えるなどして区画地の使用を継続し、本件各土地付近を撮影した空中写真によれば、昭和23年において本件各土地が区割りされて使用されている様子が確認でき、昭和58年においても本件■地区の土地の一部は■による使用のため区割りが不明になっているものの本件各土地内に多数の区画地が並び、区画地ごとに植樹されている様子がうかがわれる。(甲1、15、38、39、41)
また、■が使用する本件各土地を含む■場用地については、昭和55年7月15日付けで、「■■場民公有入会地の使用に関する協定」が取り交わされており、本件各土地を含む■場用地が「入会地」であるとし、「入会行為を行う者」は、草、萱、山野菜、芝、桑の採取などをできるとされている。協定を交わした組合の組合員は、毎週土曜日の午後及び日曜日のほか、5月15日から7日間、6月1日から7日間、7月15日から7日間、8月1日から10日間、11月20日から10日間、12月1日から10日間を特別立入日とし、「入会地」に立ち入ることができるとされている。控訴人も、この協定を締結した組合の組合員であり、地権者は、上記協定に従って本件各土地のそれぞれの区画地に立ち入っている。(甲54、57)
(6) 控訴人は、国から本件各土地に係る賃貸料の支払を受けると、控訴人名義の専用の口座(本件口座)において管理し、地権者の使用収益する区画地の面積に応じた配分額を算出し、そのうちの3%を「寄附金」又は「事務取扱費」の名目で控除して取得した上、地権者に対し、残りを分配金として支払った。控訴人においては、定款において貸借対照表及び損益計算書の承認が総会の決議事項とされているほか、毎年、過年度の収支計算書及び来年度の収入支出予算書が控訴人の通常総会に議題として上程され、控訴人の支出について承認の議決がされているにもかかわらず、分配金の支払については、上記収支計算書及び収入支出予算書に計上されることはなく、総会による承認は得ていなかった。(甲4、6、17、18、33、34、52、59ないし63)
後記(8)のとおり、地権者の地位を引き継ぐ世帯主がいない場合、控訴人がその地位を承継するため、当該地権者が受領していた分配金は、以後、控訴人が取得している。(甲36、57)
控訴人は、地権者の存在しない土地も所有して国に賃貸し、国から賃貸料の支払を受けているが、当該賃貸料については、本件口座とは別の控訴人名義の本勘定口座(本件本勘定口座)において管理している。(弁論の全趣旨)
(7) 控訴人は、一般社団法人移行前から、本件各土地に係る賃貸料及び地権者に対する分配金の支払について、法人税等の申告の対象としていなかった。(弁論の全趣旨)
控訴人は、一般社団法人移行後に本件各賃貸料収入を含む国からの賃貸料収入について、国に対し直接貸し付けられる不動産の貸付業(法人税法施行令5条1項5号ホ)に当たり、非営利型法人が行う収益事業課税の対象となる「不動産貸付業」から除外される旨の申告をしたが、処分行政庁は、(a)控訴人が、会員が支払うべき建物更生共済掛金を肩代わりするなど特定の個人に特別の利益を与えていたことから、法人税法施行令3条1項3号に規定する要件を満たさないとして、非営利型法人に該当せず、法人税法2条9号に規定する普通法人に該当するとした上で、控訴人が非収益事業に係る収入であると判断していた本件各賃貸料以外の賃借料収入を所得金額に加算し、また、(b)-ⅰ 本件各賃貸料収入が控訴人に帰属し、法人税法22条2項により益金の額に算入すべきであるとして、これを所得金額に加算するとともに、(b)-ⅱ 本件金員が法人税法37条の寄附金に該当するとして、同条1項の規定により寄附金の損金不算入額を所得金額に加算した上で(原判決別表5「被告主張額計算表(法人税)」の「加算」⑤及び⑧欄、同別表8「別表5の『⑤本件各賃貸料収入の計上漏れ額』の計算過程」、同別表9「別表5の『⑧寄附金の損金不算入額』の計算過程」各参照)、他の否認項目を含め、同別表1「本件法人税各処分の経緯」、同別表2「本件復興特別法人税各更正処分の経緯」及び同別表3「本件地方法人税各更正処分の経緯」の各「更正処分及び賦課決定処分」欄記載のとおり、平成30年3月27日付けで本件各処分を行った。(甲18~21、乙76~80、弁論の全趣旨)
(8) 現在の■地区は、北区、南区、東区、西区に分かれ、これら全体が■連合区とされている。それぞれの区においては総会や役員総会が開かれており、控訴人は、■地区の自治振興に対する助成事業として、支援金・助成金を支出するなどしている。本件各土地に係る地権者は、平成30年当時、北区に40名、南区に34名、東区に65名、西区に42名が居住しており、■地区外に地権者は存在しない。(甲52、60ないし63、67)
控訴人の構成員たる会員の資格は、■地区に居住する世帯主又は世帯主が指名した者であって、一戸を構え独立の生計を現に営む者であること、控訴人の目的及び趣旨に賛同し、入会したものとされている。(甲4)
一方、地権者は、会員のうちの過半数を占め、その地位は、控訴人が設立された■当時から現在に至るまで、地権者が亡くなった場合は世帯の新たな代表者(世帯主)がこれを引き継ぐ形で承継されている。その地位を地権者以外の第三者に譲渡することはできず、生前に他の地権者に譲渡がされず引き継ぐ世帯主がいない場合は控訴人がこれを承継した。前記(5)のとおり、地権者は、現在も区画地に立ち入るなど、その使用収益を続けている。控訴人の代表理事も地権者の一人である。(甲36、46、47、52、55ないし57、60ないし63)
(9) 地権者は、本件各処分がされた後、これが確定して控訴人が法人税の負担を余儀なくされる事態を想定し、平成30年6月15日、地権者の7割に当たる128名が集まり、その総意により、同年度から、分配される賃貸料の40%を本件各処分に従った場合の法人税の支払に充てるため、従来の3%に加えて控訴人に取得させることを決め、そのとおりの運用が続けられている。(甲67)
2 本件各土地の賃貸料を目的とする入会権の存否について
(1) 入会権は、一般に、一定の地域の住民が一定の山林原野等において共同して雑草・秣草・薪炭用雑木等の採取等の収益をする慣習上の権利であり、入会権は、権利者である入会部落の構成員全員の総有に属するとされる(最高裁昭和34年(オ)第650号同41年11月25日第2小法廷判決・民集20巻9号1921頁)。入会権は、入会部落(入会集団)の総有権又は総有的収益権であり、個々の構成員は、入会部落の統制の下に入会地を利用する権利を有するものであるから、部落が入会集団として入会権を取得するには、部落が「実在的総合人」として成立し存在することを前提とし、部落による内部的統制が行われていることが必要であって(最高裁昭和53年(オ)第861号同57年1月22日・裁判集民事135号83頁参照)、部落による内部的統制が消滅すれば、入会権は消滅する(最高裁昭和37年(オ)第1365号同42年3月17日第2小法廷判決・民集21巻2号388頁)。
入会権には、共同所有の特殊形態というべき共有の性質を有する入会権(民法263条)と用益物権の特殊形態というべき共有の性質を有しない入会権(同法294条)があり、近代的な所有権制度の導入に当たって、入会地が入会集団以外の者の所有とされても、入会集団の解消や入会慣行の廃絶がない限り、入会権は消滅せず、共有の性質を有しない入会権として存続することになるとされている。
また、入会権は、時代とともに利用形態に変化が見られるのが一般的であり、①入会集団が全体として産物を取得する直轄利用形態、②入会地を分割して個々の入会権者に割り当ててその個別的利用を許す分割利用形態、③入会集団が個々の入会権者又は入会権者でない者と契約を締結して入会地の利用を許す契約利用形態があるとされている。
(2) これを本件についてみると、前記1(1)~(3)のとおり、本件各土地は、江戸時代から■地区の部落民により、材木、薪炭、萱、下草などの採取、鳥獣の狩猟、野畑、焼畑の栽培を目的として使用収益されてきたものであり、明治時代に■の■場地になっても、部落民による使用収益は続けられており、部落と■との間では■場覚書が作成され部落民はその使用収益が制限されることに対する見返りを得ていたほか、大正時代には、部落民に特定の区画地が割り当てられて個別利用も行われるようになったことからすると、本件各土地について、■部落が「実在的総合人」として存在し、部落による内部的統制が図られてきたと認めるのが相当である。そうすると、本件各土地には■地区の部落民による入会権が成立しており、大正時代に区画地が地権者に割り当てられたことにより、地権者を入会権者とする分割利用形態の入会権になったものと認められ、■地区にこのような入会権が成立し存続してきたことは、昭和63年に控訴人が発行した「■の歴史」と題する文献(甲45)からもうかがわれるところである。
(3) その後、前記1(4)のとおり、■に控訴人が設立され、■地区の部落民による共有とされていた本件各土地について、同年3月31日売買を原因として同年7月15日付けで控訴人に所有権取得の登記がされたが、控訴人の設立は、開墾された本件各土地が部落民の転出等によって荒れ地に戻ることが懸念されたことがその理由とされ、入会地としての本件各土地の価値を維持していくことが目的であったと考えられる。地権者の区画地に対する使用収益はその後も何ら制限されず(1(4)、(5))、また、地権者の地位は、その世帯の代表者(世帯主)が引き継ぐ形で承継されており(1(8))、控訴人の設立によって部落による内部的統制が失われたことをうかがわせる事情もないことからすると、控訴人が本件各土地の所有者になったことによって、本件各土地に係る入会権が消滅したということはできず、このことは、昭和55年7月15日付けで取り交わされた「■■場民公有入会地の使用に関する協定」においても、本件各土地を含む■場用地が「入会地」であると明記されていたこと(前記1(5))からもうかがわれる。
控訴人が本件各土地について所有権移転の登記をした際の登記原因は売買になっているものの、控訴人が設立された経緯からすると、■地区の部落民である地権者に対して相当の対価が支払われたとは認め難く、その実態は贈与であったというべきであるが、いずれにしても、控訴人が本件各土地の所有権を取得したことは否定できず、これによって、地権者が有していた本件各土地に係る入会権は、入会権者である地権者が第三者である控訴人の所有する土地を利用する用益物権の特殊形態というべき共有の性質を有しない入会権(民法294条)として存続することになったと認められる。
(4) 前記1(5)のとおり、本件各土地を含む一体の土地は、戦後、■により接収され、その後、■場及び■地区の用地として使用されることになったが、地権者は、建築用材として桧や杉等を植えるなどして区画地の使用収益を継続したほか、■場及び■地区の用地として国との間で毎年賃貸借契約を締結して賃貸料を得るようになったことが認められる。当時、当該賃貸借契約は、控訴人が地権者の代理人として締結しており、国から受領した賃貸料は、地権者に分配され、控訴人はそのうちの3%を「寄附金」又は「事務取扱費」の名目で控除して取得したにすぎず、控訴人が賃貸料を地権者に分配するに当たって収入支出予算書に計上せず総会の承認を得ることもなかったのであって(1(6))、当該「寄附金」又は「事務取扱費」は、その金額からしても控訴人が賃貸借契約の手続をしたことに対する事務手数料というべきものであるから、当該賃貸借契約の締結以降、本件各土地に係る入会権の中に、入会集団が入会権者でない者(国)と契約を締結して入会地の利用を許す契約利用形態のものが加えられたというべきであり、当該賃貸料を収受することが、本件各土地に係る入会権の目的となったと認められる。
その後、国との賃貸借契約は、契約書面上は控訴人が賃貸人として締結されるようになったが、国から受領した賃貸料は、控訴人の総会の承認を得ることなく地権者に分配され、控訴人はそのうちの3%を事務手数料として控除して取得するという実態には何らの変更もなく、控訴人が賃貸人とされたのは、本件各土地の所有者が登記簿上控訴人とされているため、本件各賃貸借契約締結に係る事務を担当していた■が要請したものと認められ(弁論の全趣旨・原審における被控訴人の第3準備書面)、手続上の理由にすぎないものというべきであるから、これによって、賃貸料の収受が入会権の目的外とされたということはできない。
(5) 平成30年時点の本件各土地に係る地権者は、合計181名にとどまり(1(8))、■地区全体としてみると、入会地の存在意義が低下していることは否定できないが、控訴人が一般社団法人に移行した後も、本件各土地は、地権者による使用収益が認められ(1(8))、国から受領した賃貸料は、控訴人の総会の承認を得ることもなく地権者に分配されているほか、地権者は、本件各処分がされた後、これが確定して控訴人が法人税の負担を余儀なくされる事態を想定し、平成30年度から、分配される賃貸料の40%を従来の3%分に加えて控訴人に取得させることを決めるなどしているから(1(9))、本件各土地の地権者の集まりというべき地権者集団が、法人である控訴人とは独立してその支配を受けることなく存在し、かつての部落に代わる入会集団としてその内部的統制も維持されているものと認められる。
そうすると、本件各土地に係る入会権の利用形態も時代の流れとともに変容しているものの、本件各土地には、今日においても地権者を入会権者とする入会権が存在しており、本件各賃貸料は当該入会権の目的とされていると認めるのが相当である。
3 本件各賃貸料収入は控訴人の収益として法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入されるか
(1) 法人税法11条は、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と定め、法人税法においても実質所有者課税の原則の適用があることを確認している。同条は、複数の法人のうち収益を享受する者に法人税を課すことを定めているが、法人税法は、法人の所得に担税力があるとしてこれに法人税を課すものであるから(5条)、収益を享受しない法人に法人税を課すことができないことを当然の前提としているというべきである。
また、法人税法11条は、基準としての明確性や法の予測可能性の見地から、課税物件の帰属を私法上の法律関係の枠内で捉えてその形式(外観上の法律関係)と実質(真実の法律関係)とがかい離している場合に、実質に即してその帰属を判定すべきことを定めたものと解するのが相当であり、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であってその収益を享受しないか否かについては、当該名義人が当該収益を法的に支配しているか否かが判断の要素になるというべきである。
(2) これを本件についてみると、本件各賃貸借契約は、賃貸人を控訴人として締結されたものであるから、本件各賃貸料収入に係る収益は、法形式上は控訴人が享受するものであるが、前記2のとおり、本件各土地には、本件各賃貸料を目的とする入会権が存在しており、控訴人は、本件各土地の所有者であるものの、本件各賃貸料は、入会権者である地権者に帰属するものとして、控訴人の他の財産が混入しない専用の本件口座に分別管理され、収入支出予算書に計上せず総会の承認を得ることもなく地権者に分配されており、控訴人は、事務手数料としてそのうちの3%を取得したにすぎない。また、本件各土地について、国との間で毎年取り交わされる賃貸借契約も、当初は、控訴人が本件各土地の地権者を代理して締結していたものであり、その後、控訴人が賃貸人とされたのは、本件各土地の所有者が控訴人であることを踏まえた手続上の理由によるものにすぎない。そうすると、控訴人は、本件各賃貸料収入に係る収益を法的に支配しているとはいい難く、本件各賃貸借契約も、実質的には国と地権者との間において締結されたものであって、控訴人は、本件各賃貸借契約における単なる名義人にすぎないというべきであり、本件各賃貸料収入のうち地権者に支払われた本件金員に対応する部分の収益を享受していないと認めるのが相当である。
前記1(7)のとおり、控訴人は、一般社団法人移行後に本件各賃貸料収入を含む国からの賃貸料収入について、国に対し直接貸し付けられる不動産の貸付業(法人税法施行令5条1項5号ホ)に当たるとして、非営利型法人が行う収益事業課税の対象となる「不動産貸付業」から除外される旨の申告をしたが、賃貸料収入について法人税が課されることを回避する手段として行われたものにすぎず、上記判断を左右するものではない。
したがって、本件各賃貸料収入のうち本件金員に対応する部分を控訴人の収益として法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入することはできない。
4 本件金員が法人税法37条の寄附金に当たるとされたことについて
本件各処分は、本件各賃貸料収入が控訴人に帰属することを前提として、地権者に支払われた本件金員が法人税法37条の寄附金に当たるとするものであるが、本件各賃貸料収入が控訴人に帰属すべきものでないことは、前記3のとおりであるから、この点についての本件各処分も違法というべきである。
5 税額の計算について
前記3及び4のとおり、本件各賃貸料収入のうち本件金員に対応する部分を控訴人の収益として法人税法22条1項所定の「益金の額」に算入することはできず、本件金員が法人税法37条の寄附金に当たるということもできないから、平成25年から平成28年までの各12月期における納付すべき法人税額及びこれに対する過少申告加算税額、納付すべき復興特別法人税額又は地方法人税額及びこれに対する過少申告加算税額は、別紙のとおりとなる(弁論の全趣旨)。
6 以上によれば、控訴人の請求には理由があるから、原判決を取り消し、本件各処分のうち、別紙の各金額を超える部分を取り消すこととして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第21民事部
裁判長裁判官 永谷 典雄
裁判官 伊藤 由紀子
裁判官 吉田 光寿
(別紙)省略