【法人税】東京地裁令和7年5月28日判決

判決イメージ 判決書(法人税)

国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。

事案の概要

国内外に子会社及び関係会社を有する企業グループの親法人である原告は、本件連結事業年度において、その保有する■■■■■の全発行済株式を、原告の完全子会社である■■■■■に対して売却し(「本件譲渡」)、その譲渡価格をもって法人税法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)61条の2第1項1号の定める「譲渡に係る対価の額」であるとして、本件連結事業年度の法人税の確定申告をしたところ、税務署長から、当該譲渡価格は適正な評価額よりも過少であり、その差額は有価証券譲渡利益額として益金の額に算入され、かつ、租税特別措置法(平成31年法律第6号による改正前のもの。)68条の88第1項に規定する国外関連者に対する寄附金の額に該当するため同条3項によりその全額が損金の額に算入されないなどとして、これを前提とする本件連結事業年度の法人税の増額更正処分(「本件増額更正処分」)を受けた。その後、原告は、本件連結事業年度の法人税について更正の請求(「本件更正請求」)をしたが、税務署長から、更正をすべき理由がない旨の通知処分(「本件通知処分」)を受けた。

本件は、原告が、本件増額更正処分(ただし、減額更正処分及び裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの。)には、本件譲渡に係る「対価の額」の認定に当たり、■■■■■が保有する同社の完全子会社である■■■■■の株式の評価を誤るなどした違法があると主張して、同処分のうち本件更正請求に係る請求金額を超える部分の取消しを求めるとともに、選択的に、本件通知処分の取消しを求める事案。

基本情報

・税目:法人税
・処分行政庁:門真税務署長
・課税年度:平成29年3月期
・提訴裁判所:東京地方裁判所
・提訴年月日:令和3年9月27日
・判決日:令和7年5月28日
・結果:全部敗訴(納税者勝訴)

争点

・本件譲渡時における■■■株式の「譲渡に係る対価の額」(法人税法61条の2第1項1号)
・本件譲渡に移転価格税制(措置法68条の88第1項)を適用せず寄附金課税(同条3項)を適用した点において、本件更正処分に法令適用の誤りがあるか否か

判決書PDFデータ

東京地裁令和7年5月28日判決

判決書テキスト

※以下は生成AIでテキスト化したものです。

主   文

1 門真税務署長が平成30年9月11日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度の法人税の更正処分(ただし、令和元年8月30日付け更正処分及び令和3年3月25日付け裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)のうち、連結所得金額マイナス■■■■■円を超える部分及び翌期へ繰り越す連結欠損金■■■■■円を超える部分をいずれも取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

なお、本判決においては、所得の金額又は納付すべき税額が増加する方向及び欠損金額又は還付金の額に相当する税額が減少する方向をプラス(増額)、所得の金額又は納付すべき税額が減少する方向及び欠損金額又は還付金の額に相当する税額が増加する方向をマイナス(減額)とみて、ある金額よりもプラス方向の部分を「超える部分」と表現する。

事実及び理由

第1 請求(第1項に係る請求と第2項に係る請求は選択的併合)

1 主文同旨

2 門真税務署長が令和5年3月22日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度の法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

第2 事案の概要等

1 事案の概要

国内外に子会社及び関係会社を■■■■■有する企業グループの親法人である原告は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度(以下「本件連結事業年度」という。)において、その保有する■■■■■(以下「■■■■■」という。)の全発行済株式を、原告の完全子会社である■■■■■(以下「■■■■■」という。)に対して売却し(以下「本件譲渡」という。)、その譲渡価格をもって法人税法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)61条の2第1項1号の定める「譲渡に係る対価の額」であるとして、本件連結事業年度の法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁から、当該譲渡価格は適正な評価額よりも過少であり、その差額は有価証券譲渡利益額として益金の額に算入され、かつ、租税特別措置法(平成31年法律第6号による改正前のもの。以下「措置法」という。)68条の88第1項に規定する国外関連者に対する寄附金の額に該当するため同条3項によりその全額が損金の額に算入されないなどとして、これを前提とする本件連結事業年度の法人税の増額更正処分(以下「本件増額更正処分」という。)を受けた。その後、原告は、本件連結事業年度の法人税について更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をしたが、処分行政庁から、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を受けた。

本件は、原告が、本件増額更正処分(ただし、後記3⑸エの減額更正処分及び同オの裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの。以下「本件更正処分」という。)には、本件譲渡に係る「対価の額」の認定に当たり、■■■■■が保有する同社の完全子会社である■■■■■(以下「■■■■■」という。)の株式の評価を誤るなどした違法があると主張して、同処分のうち本件更正請求に係る請求金額を超える部分の取消しを求めるとともに、選択的に、本件通知処分の取消しを求める事案である。

2 関係法令等の定め

関係法令等の定めは、別紙1「関係法令等の定め」記載のとおりである。なお、別紙において定める略称等は、以下の本文においても用いる。

3 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)

⑴ 当事者等

ア 原告は、■■■■■に設立された■■■■■で、関連する幅広い事業分野において、■■■■■等の開発、製造及び販売並びにサービス活動等を展開する内国法人である。原告は、国内外に子会社及び関係会社を■■■■■有する企業グループの親法人であり、本件連結事業年度において連結親法人(法人税法2条12号の6の7)となっている。(乙8)

イ ■■■■■は、■■■■■に所在する外国法人であり、後記⑵の外国の子会社の株式譲渡を通じた組織再編により、原告の企業グループの海外の■■■■■の持株会社から海外■■■■■の持株会社となった。■■■■■は、原告の国外関連者(措置法68条の88第1項)に該当する。(甲1、乙9)

ウ ■■■■■は、■■■■■に所在する外国法人であり、原告の企業グループの■■■■■地域の統括会社として当該地域の子会社の株式を保有する持株会社であった。■■■■■の全発行済株式(以下「■■■株式」という。)は、本件譲渡により、原告から■■■■■に対して売却された。(甲1)

エ ■■■■■は、■■■■■の製造販売等を営む■■■■■に所在する外国法人である。■■■■■の全発行済株式(以下「■■■株式」という。)は、■■■■■に保有されている。(乙9)

⑵ 本件譲渡の概要

ア 原告は、外国の子会社の株式に係る持株会社の機能を海外の各地域統括会社から■■■■■に統合するため、平成28年9月末頃、原告が保有する■■■株式を■■■■■に譲渡することを計画し、その売却価格等の検討を開始した。

イ 原告は、平成28年10月6日、■■■■■(以下「■■■■■」という。)との間で、■■■株式の価値評価に係る業務委託契約を締結した。(乙17の2)

■■■■■は、平成29年3月9日付け「■■■■■報告書」(甲2。以下「本件評価報告書」という。)により、連結ベース(■■■■■が保有している■■■■■を含む子会社の株式の価値も合算されているもの)の■■■株式の価値を■■■■■米ドルと報告した。その算定過程は、後記⑶のとおりであった。(甲2)

ウ 原告は、平成29年3月16日、■■■■■との間で、株式譲渡契約を締結し、■■■■■に対し、■■■株式を、本件評価報告書における評価額と同額である■■■■■米ドル(以下「本件譲渡価格」という。)で譲渡した(本件譲渡)。(乙35)

エ 原告は、平成29年3月16日、本件譲渡価格と■■■■■株式の譲渡に係る原価の額(■■■■■円)との差額■■■■■円を、会計上、有価証券譲渡益として、本件連結事業年度の益金の額に算入した。

オ 原告の■■■■■である■■■■■(以下「本件■■■■■」という。)から■■■■■の■■■■■に係る■■■■■をした■■■■■(以下「■■■■■」という。)は、本件■■■■■に対し、■■■■■付け■■■■■により、■■■■■による■■■■■の■■■■■に係る■■■■■や■■■■■及び■■■■■は■■■■■の■■■■■を■■■■■した。(甲39、乙32)

本件■■■■■は、■■■■■付けで、■■■■■の■■■■■及び■■■■■に係る■■■■■の■■■■■について、■■■■■の■■■■■を■■■■■した上、■■■■■付け■■■■■により、原告に対し、本件■■■■■についての■■■■■を■■■■■に■■■■■した。(甲40、乙37、38)

⑶ 本件評価報告書における■■■株式の評価額の算定過程(甲2)

ア ■■■■■は、■■■株式の評価額を評価するに当たり、株式価値の分析のための基準日を■■■■■(以下「本件評価基準日」という。)とし、■■■■■の保有資産のうち、■■■■■株式及び■■■■■については、DCF法に基づき算定し、その他の事業等については、簿価純資産法に基づいて算定した。

なお、DCF法とは、将来のフリー・キャッシュ・フロー(企業の事業活動によって得られる経済的利益から事業活動維持のために必要な投資を差し引くなどして算定した金額。以下「FCF」という。)を現在価値に割り引いた総和(以下「事業価値」という。)に非事業用資産の価値を加算し、負債の時価を減算して企業価値を算定する手法である。

イ 本件評価報告書において、■■■株式の評価額は、以下のとおり算定されている(別表2-1の「本件評価報告書における算定額」欄参照)。

(ア) 事業価値 ■■■■■米ドル

(イ)  非事業用資産

a 余剰現預金 ■■■■■米ドル

上記金額は、■■■■■の現預金残高(後記⑷のCMSへの預け金を含む。)のうち、■■■■■額■■■■■米ドルと、■■■■■が平成29年1月から同年3月までに行った■■■■■への■■■金額■■■■■米ドルとを合計した金額である。

b ■■■■■の事業計画に反映されていない同社の■■■■■社の純資産相当額 ■■■■■米ドル

(ウ)  負債 ■■■■■米ドル

上記金額は、上記⑻aの■■■■■額である。

(エ)  評価額 ■■■■■米ドル

上記金額は、上記⑺の事業価値に、上記⑻a及びbの非事業用資産の価値を加算した上、上記⑼の負債時価を減算したものである。

ウ 上記イの算定結果を踏まえ、■■■株式の価値を含んだ■■■■■株式の価額は、■■■■■米ドルと算定された(別表2-2の「本件評価報告書における算定額(本件譲渡価格)」欄参照)。

⑷ CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の概要

ア CMSの概要

一般的に、CMSとは、企業グループ内において、親会社や金融子会社に設けた専用口座で、グループ全体の資金を一元的に管理・運用するシステムであり、グループ内の資金効率の最大化及び財務リスクの最小化を目的とするものである。(乙10)

イ 原告の企業グループにおけるCMSの概要

原告の企業グループにおいて構築されているCMS(以下「本件CMS」という。)においては、当該企業グループ全体の資金を一元的に管理等する■■■■■社が置かれ、その下に■■■■■の■■■■■社が置かれていた。そして、企業グループ内の各企業が所属する■■■■■の■■■■■に開設した専用口座に日々集約した預金は、■■■■■の■■■■■を経由して、上記■■■■■へ日々集約されていた。(乙11)

ウ ■■■■■が保有するCMS預け金について

■■■■■は、本件CMSにおける■■■■■地域の■■■■■である■■■■■(後に■■■■■に吸収合併され、本件評価基準日には、■■■■■)との間で、本件CMSについての金融取引に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結しており、同契約に基づき、本件評価基準日において、本件CMSに以下の預け金を保有していた(以下、この預け金を「本件CMS預け金」という。)。(乙12の1~3、乙13)

(ア) 普通預金 ■■■■■米ドル

(イ) 短期(■■■か月)の定期預金 ■■■■■米ドル

(ウ) 日本円建て外貨預金 ■■■■■米ドル(日本円を米ドルに換算した金額)

(エ) 合計額 ■■■■■米ドル

⑸ 課税の経緯等

ア 確定申告

原告は、法人税につき、法人税法4条の2に規定する連結納税の承認を受けているところ、本件連結事業年度の法人税について、前記⑵エの会計上の有価証券譲渡益■■■■■円をもって法人税法61条の2第1項の譲渡利益額として、本件連結事業年度の法人税の連結所得の計算上益金の額に算入し、法定申告期限内である平成29年7月21日付けで、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件確定申告」欄のとおり、確定申告(以下「本件確定申告」という。)を行った。(乙5)

イ 本件増額更正処分

処分行政庁は、原告に対し、平成30年9月11日付けで、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件増額更正処分」欄のとおり、本件増額更正処分をした(なお、同処分が後記エの減額更正処分及び後記オの裁決によりそれぞれ一部取り消された後のものが、本件更正処分である。)。

本件増額更正処分のうち本件譲渡に係る連結所得金額の計算に関する部分の理由は、①■■■■■株式の評価額は、本件評価基準日の本件CMS預け金の全額■■■■■米ドルを非事業用資産(余剰現預金)としてDCF法により算定した■■■■■米ドルであり、これを前提にした■■■■■株式の評価額は■■■■■米ドル(以下「処分行政庁評価額」という。)であって、原告の■■■株式に係る余剰現預金の算定方法には明らかな誤りがあり、処分行政庁評価額を前提とすると本件譲渡につき益金の額に算入される譲渡利益額の正当額は■■■■■円となるため、本件確定申告における原告計算額(前記ア参照)との差額■■■■■円を原告固有分の益金算入額として本件連結事業年度の連結所得金額に加算し、また、②本件譲渡価格が■■■株式の時価(処分行政庁評価額)に比して低額であることにつき相当な理由が認められないから、本件譲渡価格と処分行政庁評価額との差額は、■■■■■に対する法人税法37条7項の寄附金の額に該当し、上記差額の円換算額■■■■■円を原告固有分の損金算入額として本件連結事業年度の連結所得金額から減算するものの、③当該寄附金の額は、措置法68条の88第3項の規定により、その全額が損金の額に算入されないため、当該金額を本件連結事業年度の連結所得金額に加算するというものであった(別表2-1から2-3の「主位的主張」欄参照)。(甲58、乙4)

ウ 審査請求

原告は、平成30年12月7日、国税不服審判所長に対し、本件増額更正処分のうち本件譲渡に係る連結所得金額の計算に関する部分(前記イ)を不服として、審査請求を行った。

エ 更正の請求及び減額更正処分

原告は、令和元年7月1日付けで、処分行政庁に対し、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「更正の請求」欄のとおり、■■■■■から■■■■■等の金額について■■■■■等の■■■■■制度が適用されることなどを理由に、更正の請求をした。(甲7)

処分行政庁は、上記更正の請求に基づき、令和元年8月30日付けで、原告に対し、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「減額更正処分」欄のとおり、減額更正処分をした。(甲8、乙7)

オ 裁決

国税不服審判所長は、令和3年3月25日付けで、前記ウの審査請求に対する裁決(以下「本件裁決」という。)をした。本件裁決の内容は、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件裁決」欄のとおりであり、■■■■■が保有する本件CMS預け金のうち定期預金■■■■■米ドルを余剰現預金として■■■■■株式の評価額を算定すると■■■■■米ドルとなり、これに基づき■■■■■株式の評価額を算定すると、■■■■■米ドル(以下「裁決庁評価額」という。)となるなどとして、本件増額更正処分(前記エの減額更正処分によりその一部が取り消された後のもの)の一部を取り消し、その余の審査請求を棄却するものであった(別表2-1から2-3の「予備的主張」欄参照)。(甲9)

本件裁決に係る裁決書謄本は、令和3年3月27日以降、原告に対して送達された。

⑹ 本件訴訟に関する経緯

ア 本件訴訟の提起

原告は、令和3年9月27日、本件更正処分のうち連結所得金額マイナス■■■■■円を超える部分及び翌期へ繰り越す連結欠損金■■■■■円を超える部分の取消しを求めて、本件訴訟を提起した。

これに対し、被告は、原告が本件更正処分の取消しを求める部分のうち、本件確定申告における申告額を超えない部分については、更正の請求を経ずに取消しを求めるものであり不適法である旨の答弁をした。(顕著な事実)

イ 本件更正請求及び本件通知処分

原告は、前記アの被告の答弁等を受け、令和4年12月23日付けで、処分行政庁に対し、別紙2「本件連結事業年度の法人税に係る課税の経緯」の「本件更正請求」欄のとおり、本件連結事業年度の法人税の連結所得金額をマイナス■■■■■円、翌期へ繰り越す連結欠損金の額を■■■■■円とする内容の本件更正請求をした。(甲81)

処分行政庁は、令和5年3月22日付けで、本件更正請求について更正をすべき理由がない旨の本件通知処分をした。(甲99)

ウ 原告による訴えの追加的変更

原告は、令和5年6月19日付けで、国税不服審判所長に対し、本件通知処分の取消しを求める審査請求をした上、同審査請求を行った日の翌日から3か月を経過した後の同年10月18日、行政事件訴訟法19条2項、民事訴訟法143条に基づき、本件通知処分の取消しを求める請求(請求の趣旨第2項)を追加した(なお、同請求と請求の趣旨第1項に係る請求とは選択的併合の関係にある。)。(甲101、顕著な事実)

4 本件更正処分の根拠及び適法性に係る被告の主張

被告が主張する本件更正処分の根拠及び適法性は、別紙3「本件更正処分の根拠及び適法性に係る被告の主張」記載のとおりであり、原告は、後記5の争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を争わない。

5 争点

本件の争点は、本件更正処分及び本件通知処分の適法性であり、具体的には、以下の2点である。

⑴ 本件譲渡時における■■■株式の「譲渡に係る対価の額」(法人税法61条の2第1項1号)(争点1)

なお、争点1に関して、■■■株式の時価の算定において争いがあるのは■■■株式の評価額のみであり、具体的には、DCF法による■■■■■株式の評価における■■■■■の事業用現預金及び余剰現預金の額のみが争いとなっており、他の金額の計算等には争いがない。

⑵ 本件譲渡に移転価格税制(措置法68条の88第1項)を適用せず寄附金課税(同条3項)を適用した点において、本件更正処分に法令適用の誤りがあるか否か(争点2)

6 争点に関する当事者の主張

⑴ 争点1(本件譲渡時における■■■株式の「譲渡に係る対価の額」)について

(被告の主張)

ア ■■■■■株式の時価が処分行政庁評価額であること(争点1に係る主位的主張)

(ア) DCF法を用いて評価することの合理性

連基通2-3-4が準用する同4-1-5は、上場有価証券等以外の株式の評価方法についての原則的な取扱いを定めるところ、■■■株式については、連基通4-1-5⑴から⑶に該当しないため、同⑷により、本件譲渡時における「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」が、同株式の本件譲渡時における適正な価額といえる。連基通4-1-5⑷に定める「純資産価額等を参酌」する評価方法には、純資産価額に準拠する以外の評価方法も通常取引される価額を求める方法として一般的な合理性が認められている限りにおいて包含されるものと解されるところ、DCF法は、企業価値評価実務で広く用いられているものであり、株式価値の評価手法として一般的な合理性を有するものということができ、■■■■■が■■■■■の■■■■■事業を営んでおり、■■■株式には■■■■■の■■■■■が生じていたことからすると、本件譲渡時における同株式の適正な価額を算定する方法として、評価対象企業の■■■■■に着眼するDCF法を用いることは、合理的である。

これに対し、原告は、■■■株式及び■■■■■株式の価額は、連基通2-3-4が準用する同通達4-1-5⑷により、純資産価額方式に準じて評価すべきであるなどと主張するが、本件譲渡において、原告は、評価通達の例によって算定した価額によって■■■株式を評価していないから、そもそも連基通4-1-6の適用はないし、また、純資産価額方式では■■■■■の将来の収益獲得能力を適正に把握できないこと、原告自身が同株式の評価に当たりDCF法による方が適切と認識していたことからすると、評価通達(純資産価額方式)に基づいて同株式を評価することは、著しく不合理な結果を生じさせ、課税上の弊害をもたらすものであるから、原告の上記主張は理由がない。

(イ)  DCF法における事業用現預金及び余剰現預金の考え方

事業用資産に当たる「事業用現預金」とは、事業の運営のために現預金という形態そのままで保持する必要がある手元現預金のことをいい、当該現預金残高を現預金という形態のままで保持しないと、取引上の決済等の事業運営に支障を来し、DCF法で予測した将来業績の達成が困難になると考えられる水準の現預金に限られる。そして、非事業用資産である「余剰現預金」とは、評価対象企業の保有現預金から上記事業用現預金を除いたその他の現預金をいう。

事業用現預金の額の算定に当たっては、評価対象企業が評価基準日に保有する現預金について、その保有形態にも着目しつつ、当該現預金額が、当該評価対象企業にとって、「事業を継続的に運営していくための流動資産の一部として現預金という形態そのままで確保しておく必要がある手元現預金」であるとみるべき合理的な根拠があるか否かを慎重に検討すべきである。

CMSは、一般に、グループ内の参加会社の余剰資金を統括会社の口座に集め、グループ内の資金需要に応じて貸付けを行うものであるから、CMS預け金は、余剰資金の運用形態ということができる。したがって、事業用現預金の額の算定に当たり、評価対象企業が評価基準日時点で保有するCMSへの預け金については、その保有形態に照らし、基本的には余剰現預金と推定するのが相当である。

(ウ)  ■■■■■の事業用現預金及び余剰現預金の額

■■■■■は、本件評価基準日(■■■■■)において、合計■■■■■米ドルの現預金を保有していたところ、その内訳は、現金及び当座預金が合計■■■■■米ドル、本件CMS預け金が合計■■■■■米ドルであった。

CMSへの預け金は、余剰資金の運用形態ということができるから、基本的に余剰現預金と推定するのが相当である。処分行政庁は、本件CMS預け金について、本件評価基準日における将来の支出の予定の有無や、事業上の使途、タイミング、金額が不明であり、本件CMS預け金の全部又は一部が■■■■■の事業用現預金であると説明し得る合理的な根拠が見いだせなかったことから、これを事業用現預金と認める余地はないと判断した。他方で、本件評価基準日時点で■■■■■が保有していた現金及び当座預金については、その保有形態に照らせば、基本的には、事業を継続的に運営していくための流動資産の一部として現預金という形態そのままで確保しておく必要がある手元現預金とみることができ、特に、その全額を事業用現預金の額と算定することができないと解すべき事情はうかがわれなかったことから、処分行政庁は、上記現金及び当座預金の合計■■■■■米ドルを事業用現預金の額と算定した上で、■■■■■の保有する現預金残高から上記■■■■■米ドルを除いた■■■■■米ドル(本件CMS預け金)を余剰現預金と算定したものである。

このように、処分行政庁は、■■■■■の現預金の保有形態に着目して、慎重かつ抑制的にその事業用現預金の額の算定をしたものであり、かかる算定は相当性を有するものである。

(エ)  小括

■■■■■の事業用現預金は上記⑼のとおりであり、これを前提に■■■■■株式の株式価値をDCF法により算定すると、■■■■■米ドルとなり、これを基礎とする■■■■■株式の評価額は、処分行政庁評価額(■■■■■米ドル)と算定されるから、同金額が、■■■■■株式の客観的な交換価値である時価と認められる。

イ ■■■■■株式の時価が裁決庁評価額を下回ることはないこと(争点1に係る予備的主張)

本件裁決は、DCF法における評価対象企業の保有現預金に関する事業用現預金と余剰現預金の区別について、まず事業を運営するために必要な資金としての事業用現預金の金額を求めるのが一般的であることを前提に、■■■■■の現預金等の資産の状況に照らし、本件CMS預け金のうち定期預金■■■■■米ドルを本件評価基準日における■■■■■の余剰現預金の額と認めたものである。

被告は、前記アのとおり、本件評価基準日における■■■■■の保有現預金のうち本件CMS預け金全額(■■■■■米ドル)を余剰現預金の額と認めるのが相当である旨主張するものであるが、仮に、かかる被告の主位的主張が認められないとしても、本件裁決の判断内容に照らし、少なくとも上記■■■■■米ドルについては、本件評価基準日における■■■■■の余剰現預金であると認められるべきである。これを前提にDCF法により■■■株式の株式価値を算定すると、■■■■■米ドルとなり、これを基礎とする■■■■■株式の評価額は、裁決庁評価額(■■■■■米ドル)となる。

したがって、■■■■■株式の時価が裁決庁評価額を下回ることはない。

(原告の主張)

ア DCF法により算定される■■■■■株式の時価が、本件譲渡価格であると認められるべきこと

(ア)  DCF法については、法令や通達には何らの規定もなく、その適用方法について複数の合理的な考え方があり得るため、DCF法により算定される株式価値についても、複数の合理的な評価額があり得る。他方で、法人税法上の時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する客観的な価額でなければならないから、本件において、原告の採用した本件譲渡価格が誤り又は違法であるというためには、不特定多数の当事者間の自由な取引において、処分行政庁評価額で時価を認定するという処理しか通常はあり得ず、本件譲渡価格が明らかに不合理であり、何らの合理性もないことが必要である。

(イ)  事業用現預金の額の算定は、財務上の経営判断としての将来予測として、「事業運営に支障を来し、DCF法で予測した将来業績の達成が困難になる」ことが起こらないレベルの現預金の絶対額を定量的に算定するものである。その事業用現預金の額の定量的な算定方法について、被告が依拠すると思われる、現預金の保有形態に基づき算定するとの方法は、講学上も実務上も一般に示されていない。

(ウ)  事業用現預金の額の算定は、評価対象企業の中長期的なビジネス上の視点に基づく経営判断の問題にほかならず、その経営判断を重視し尊重すべきことが実務上確立している。事業用現預金の額を、外部から入手可能な客観的情報のみに基づいて一義的に算定することは困難であり、■■■■■の経営や財務に関知せず経営責任も負わない第三者が専らその主観により同社の事業用現預金の額の算定をすることには意味がない。

(エ)  ■■■■■による本件評価報告書による■■■■■株式の評価は、大要、①評価基準日を含む直近■■■か月の■■■■■の現預金月末残高のうち■■■■■金額を事業用現預金の額として算定したが、②■■■■■は■■■■■にわたって■■■■■を■■■■■を有しており、保有する■■■■■が■■■■■可能性が考えられる旨の情報が寄せられたことから、③■■■■■の■■■■■額及び■■■■■への■■■■■予定金額の合計額■■■■■米ドルという金額は、同出捐があったとしても■■■■■の事業が問題なく継続できる金額と判断されたため、同額が余剰現預金に該当するとして、①で算定した事業用現預金の額を同額だけ減少させたものである。このような評価方法は何ら不合理なものではない。

(オ)  本件評価報告書の算定結果は、原告の企業グループにおいてキャッシュ化速度のための財務指標として広く用いられているキャッシュ・コンバージョン・サイクル指標(以下「CCC指標」という。)に基づき推定される■■■■■の■■■■■の額とも■■■■■する合理的なものであった。また、本件■■■■■及び■■■■■も、本件評価報告書の採用した■■■■■及び■■■■■を認めている。

(カ)  被告の主張する■■■■■の事業用現預金の額では、■■■■■は事業運営に支障を来し倒産するから、結論において誤りである。また、DCF法の適用において、余剰現預金の額は、事業用現預金の額を推定し、その額を評価基準日現在の現預金残高から控除して算出することが一般的であるが、処分行政庁は、■■■■■の事業用現預金の額について一切検討していなかったものであり、本件CMS預け金について保有形態のみを理由としてその全額を余剰現預金の額として扱う被告の主張は不合理である。さらに、本件CMS預け金のうち定期預金とされている部分の全額を余剰現預金であるとする被告の予備的主張も、失当である。

(キ)  以上によれば、原告が主張するDCF法の適用上の■■■■■の事業用現預金の額(■■■■■米ドル)及び余剰現預金の額(■■■■■米ドル)の算定は、DCF法の適用として通常あり得ない不合理なものであるとは認められず、むしろ十分な合理性を有するものである。したがって、■■■■■株式の法人税法上の時価が処分行政庁評価額であるとの事実は認定できないから、本件更正処分は、違法である。

イ 連基通の定める純資産価額方式に準じて算定された■■■■■株式の時価は、本件譲渡価格を上回らないこと

■■■■■株式及び■■■■■株式の価額は、連基通2-3-4が準用する同通達4-1-5⑷により、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」すなわち純資産価額方式に準じて評価すべきである。

かかる方法に従って■■■■■株式及び■■■■■株式の各価額を評価した結果は、■■■■■及び■■■■■の作成した■■■■■付け■■■■■報告書(甲56)のとおりであり、■■■■■株式の評価額は■■■■■米ドル(うち■■■■■株式の評価額は、■■■■■米ドル)と算定される。これは、処分行政庁評価額はもちろん、原告の主張する本件譲渡価格よりも低いから、■■■■■株式の時価が処分行政庁評価額又は裁決庁評価額であるとは認められない。

ウ 小括

以上によれば、■■■■■株式の時価が処分行政庁評価額又は裁決庁評価額であることを前提としてされた本件更正処分は、違法である。

⑵ 争点2(本件譲渡に移転価格税制を適用せず寄附金課税を適用した点において、本件更正処分に法令適用の誤りがあるか否か)について

(被告の主張)

移転価格税制の規定と国外関連者に対する寄附金の損金不算入の規定は、明らかに適用要件が異なり、その適用範囲は常に一致するわけではない。また、措置法68条の88第3項の「寄附金」が法人税法37条7項の「寄附金」と同義であることは、法文上明らかである。

本件譲渡価格(■■■■■米ドル)は、■■■■■株式の「譲渡に係る対価の額」(法人税法61条の2第1項1号)であり「その譲渡の時における価額」(同法37条8項)である処分行政庁評価額(■■■■■米ドル)及び裁決庁評価額(■■■■■米ドル)に比して低額であるところ、本件譲渡においては、原告が■■■■■株式を「その譲渡の時における価額」(時価)より低く譲渡したことにつき、通常の経済取引として是認できる合理的な理由の存在をうかがわせる事情は何ら認められない。したがって、本件譲渡価格と時価である処分行政庁評価額又は裁決庁評価額との差額は、措置法68条の88第3項に規定する国外関連者に対する寄附金として、その全額が損金に算入されないこととなるから、本件更正処分に法令適用の誤りはない。

(原告の主張)

国外関連者との間の資産の譲渡について、当該資産の時価をめぐる課税庁との見解の相違により資産の時価との差額が認定されるような場合にまで寄附金課税が適用されると解するならば、およそ国外関連者との間の資産の譲渡においては移転価格税制にいう「独立企業間価格」と寄附金課税にいう「時価」の双方が常に観念し得る以上、結局常に寄附金課税が適用されることとなり、移転価格税制が適用される余地はなくなるところ、そのような帰結は、国外関連者との間の資産の譲渡の場面において移転価格税制を事実上死文化させるものであり、およそ法令が予定するものではない。また、寄附金課税と移転価格税制の適用の選択が課税庁の自由裁量に委ねられるということも、およそ法令が予定するものではない。

仮に、措置法68条の88第3項の「寄附金の額」を、法人税法37条8項及び7項の「寄附金の額」と同義に解するとしても、同条8項の「実質的に贈与又は無償の供与をした」場合に該当するか否か、つまり、寄附金の額の定義にいう「通常の経済取引として是認することができる合理的な理由が存在しない」ものか否かは、課税庁が認定した資産の時価と譲渡対価との間に客観的な乖離がある事実それ自体で判断されるものではなく、そのような乖離がある場合であっても、その乖離の程度や譲渡対価の決定の経緯等の諸般の事情を考慮することにより決せられるべきである。

本件についてこれをみると、本件譲渡価格は、処分行政庁評価額と比べてもわずか■■%程度しか乖離しておらず、その決定経緯に鑑みても、原告において、本件譲渡価格が■■■■■株式の時価を下回るとの認識は一切有していなかった。そうすると、本件譲渡においては、資産の時価と譲渡対価の間の乖離の程度や譲渡対価の決定の経緯等の諸般の事情をみても、およそ原告から■■■■■に対する贈与を推認させる事実は存在せず、同差額が寄附金の額に該当することはないというべきである。

以上のとおり、本件譲渡における差額については、「その行為について通常の経済取引として是認することができる合理的な理由が存在しない」とはいえず、寄附金課税の要件を充足しないから、寄附金課税ではなく移転価格税制が適用されるべきであった。

したがって、本件譲渡における差額に寄附金課税を適用した本件更正処分には、法令の適用を誤った違法がある。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

⑴ 本件CMSの基本的な仕組み

ア ■■■■■は、本件CMSにおける■■■■■地域の■■■■■である■■■■■との間で、金融取引に関する本件基本契約を締結しており(前提事実⑷ウ参照)、本件基本契約において、原告の定める「■■■■■」に従って金融取引を実施することなどを合意していた。「■■■■■」とは、原告の企業グループにおける■■■■■の圧縮及び資金効率の向上を目的として、グループ資金を■■■■■に集中して管理するための仕組みを定めるものであり、本件評価基準日においては、■■■■■付け「■■■■■(■■■■■)」(甲108。以下「本件■■■■■システム」という。)が適用されていた。(甲111、乙13)

本件■■■■■システムIV章1条は、同システムに参加する企業(以下「各参加企業」という。)に対し、■■■■■に口座(以下「■■■■■口座」という。)を開設しなければならない旨定めるとともに、原告が地域ごとに指定する銀行に資金集約のための口座(以下「■■■■■対象口座」という。)を開設しなければならない旨定めている。(甲108)

■■■■■は、本件■■■■■システムの定めに從い、■■■■■地域の■■■■■である■■■■■に■■■■■口座(以下「■■■■■口座」という。)を開設するとともに、原告が■■■■■地域について指定した■■■■■(以下「本件銀行」という。)に、■■■■■対象口座(■■■■■名義の本件銀行■■■■■支店口座番号■■■■■。以下「■■■■■銀行口座」という。)を開設していた。このうち、■■■■■口座■■■■■は、■■■■■が■■■■■されるにすぎず、■■■■■な■■■■■があるのは■■■■■銀行口座のみである。(甲111、弁論の全趣旨)

イ ■■■■■銀行口座については、■■■■■と本件銀行との間で、■■■■■を含む■■■■■地域の各参加企業が本件銀行に開設する■■■■■対象口座について、■■■■■を実施するための契約(甲109。以下「■■■■■実施契約」という。)が締結されており、■■■■■も同契約の定める内容に従うことに同意していた。(甲111)

■■■■■実施契約においては、■■■■■である■■■■■が本件銀行に開設する口座(■■■■■名義の本件銀行■■■■■支店口座番号■■■■■。以下「■■■■■銀行口座」という。)と、各参加企業の■■■■■対象口座との間で、■■■■■が実施されることが合意されている。具体的には、各■■■■■の■■■■■時点において、①■■■■■対象口座の残高が■■■米ドルを■■■■■場合、残高が■■■米ドルになるまで自動的に■■■■■銀行口座から資金が補充され、②■■■■■対象口座の残高が■■■米ドルを■■■■■場合、残高が■■■米ドルになるまで自動的に資金が■■■■■銀行口座に移動されるという取引が実施される。なお、■■■■■銀行口座に集約された資金については、別途、■■■■■法人である■■■■■(以下「■■■■■」という。)と本件銀行との間で締結された契約に基づき、■■■■■が本件銀行に開設する口座(以下「原告■■■■■資金集約口座」という。)に資金が集約される。(甲109〔3、5頁〕、110〔3頁〕、乙11〔4頁〕、弁論の全趣旨)

ウ ■■■■■な■■■■■としては、■■■■■を含む■■■■■地域の各参加企業の■■■■■対象口座(■■■■■の場合は■■■■■銀行口座)における預金は、■■■■■銀行口座を■■■■■して、原告■■■■■資金集約口座に集約されている。他方で、本件CMSに基づく資金管理としては、■■■■■対象口座と■■■■■銀行口座との間で実施される■■■■■に基づく■■■■■の結果が、各参加企業の開設した■■■■■口座(■■■■■の場合は■■■■■口座(■■■■■))の■■■■■として■■■■■される。各参加企業のCMS預け金という場合、■■■■■口座に■■■■■された残高を意味する。(乙11〔4頁〕、甲110〔2頁〕、111〔2頁〕)

エ 各参加企業の■■■■■口座の普通預金及び定期預金の金利は、本件■■■■■システムIV章6条により、原告及び■■■■■が決定することとされている。平成28年10月末日時点における■■■■■口座(■■■■■)に係る普通預金と定期預金の利率は、それぞれ、■■■■■%及び■■■■■%であった。(甲117、118)

各参加企業がCMS預け金に係る定期預金を中途解約する場合、本件■■■■■システムIV章7条により、■■■■■を■■■■■こととされている。もっとも、実際には、中途解約時までの期間に係る利息計算が■■■■■ではなく■■■■■の利率に基づき行われるものの、これとは別に■■■■■が請求される例はなく、そのような実務運用が本件CMSに関与する者の共通認識となっていた。また、中途解約された定期預金は、最大■■■日、最短■■■日で引出しが可能であった。(甲110〔4、5頁〕、121、123)

■■■■■末における■■■■■口座(■■■■■)の定期預金の満期は■■■か月とされており、満期到来時には、当該定期預金の残高は、■■■■■口座(■■■■■)の普通預金の残高に■■■■■の■■■■■が変更されていた。(甲118、120)

⑵ ■■■■■に係る実務運用の概要(甲111〔3~5頁〕)

ア 特定の日(以下「該当日」という。)についての■■■■■は、該当日の取引により■■■■■銀行口座に生じる入金と出金の差額を■■■■■で計算した上で、当該差額(すなわち該当日に生じた■■■■■銀行口座の■■■■■の■■■■■)を埋める形で、■■■■■銀行口座から■■■■■銀行口座への出金又は■■■■■銀行口座から■■■■■銀行口座への入金が自動的に行われる(甲109〔3、5頁〕)。当該■■■■■は、該当日の■■■■■のタイミングにおいて上記入金と出金の差額を計算して、該当日に おける■■■■■の送金額を確定させた上で、実際の■■■■■の■■■■■は該当日の■■■■■頃に行われる。このため、該当日の■■■■■頃に行われる■■■■■による送金を■■■■■に含めて考えた場合、原則として、該当日の■■■■■銀行口座のは一致し、該当日の■■■■■時点(該当日の■■■■■頃において該当日に係る■■■■■による■■■■■が完了した時点をいう。以下同じ。)では■■■■■となる。

イ もっとも、本件銀行の記帳上は■■■■■付けで記録されるものの、実際の入金は該当日の■■■■■のタイミング以降に発生するもの(例えば資金の移動に時間がかかる小切手の入金)も存在するところ、そのような入金は、該当日の■■■■■には間に合わない。そのため、上記アの例外として、該当日の■■■■■時点における■■■■■銀行口座の■■■■■が■■■■■とならないことがある。当該金額は、■■■■■として該当日の■■■■■に繰り越された後、当該■■■■■の■■■■■により、まとめて■■■■■銀行口座に移動されることとなる。

ウ ■■■■■における日々の事業上の取引においては、■■■■■が顧客に対して有する売掛債権について入金がある場合は、当該顧客の口座から■■■■■銀行口座に売掛金相当額が振り込まれ、■■■■■が取引相手に対して負う買掛債務について出金を行う場合は、■■■■■銀行口座から当該顧客の口座に対して買掛金相当額が振り込まれる。該当日において■■■■■銀行口座からの■■■■■が生じる場合、上記アのとおり該当日の■■■■■の■■■■■時点での■■■■■銀行口座の残高は■■■■■により原則として■■■■■となっているから、当該■■■■■時点で、当該■■■■■相当額が■■■■■銀行口座に残っていないこともある。その場合、■■■■■口座■■■■■の■■■■■の範囲内であれば、本件銀行の■■■■■(■■■■■)をもって、で上記■■■■■に対応することができるとされている。

⑶ ■■■■■の保有現預金について

ア 各参加企業は、取引等に基づく出入金について、原則として■■■■■対象口座を用いることが原告によって推奨されており、■■■■■においても、売掛債権等の回収及び買掛債務等の支払は、原則として全て■■■■■銀行口座において対応している。

もっとも、■■■■■は、従業員給与や関税の支払の都合上、主として■■■■■外の市中銀行において米ドル以外の通貨建ての口座も有しており、かかる市中口座については、■■■■■の対象とはなっていないものの、本件基本契約及び本件■■■■■システムに基づく資金集中管理の対象に含まれるため、■■■■■は、当該市中口座については■■■■■外の現地国における従業員給与や関税の支払に必要となる最低限の金額のみ入金し、それを上回る額の金銭については、定期的に担当者が■■■■■で■■■■■を行うことにより■■■■■銀行口座に移動することとし、これにより資金集約を図っている。(以上につき、甲111〔4、5頁〕)

イ ■■■■■は、本件評価基準日(■■■■■)において、現預金合計■■■■■米ドルを保有しており、その内訳は、以下のとおりであった。(前提事実⑷ウ、弁論の全趣旨)

現金及び当座預金 ■■■■■

本件CMS預け金 普通預金 ■■■■■

定期預金 ■■■■■

外貨預金 ■■■■■

合計 ■■■■■

(単位:米ドル)

このうち、現金及び当座預金の合計■■■■■米ドルは、①■■■■■の対象である■■■■■銀行口座に預けられていたもの(■■■■■米ドル)と、②■■■■■が主として■■■■■外の市中銀行に有している口座に米ドル以外の通貨建てで預けられていたものとに大別される。(甲122)

上記①の■■■■■銀行口座に預けられていた預金については、該当日の■■■■■に間に合わなかった入金が■■■■■として■■■■■に繰り越され、当該■■■■■が■■■■■の現金又は当座預金として計上されたものであり、■■■■■の仕組み上の技術的な理由により生じたものである。

また、上記②の■■■■■が市中銀行に有している口座に預けられていた預金については、同社が■■■■■で営む事業において、従業員に対する給与や関税を支払うために必要となる最低限の金額として、現地国の市中銀行において保有していたものである。(以上につき、甲111〔6、7頁〕)

⑷ CCC指標について

ア 原告の企業グループにおいては、■■■■■から、キャッシュ重視の経営の促進を図る一環として、キャッシュ化速度を可視化するための財務指標であるCCC指標(キャッシュ・コンバージョン・サイクル指標)が導入されている。原告の企業グループにおいて採用されているCCC指標は、「■■■■■」及び「■■■■■」という2つの数値として計算されるところ、その計算方法は、次のとおりである。

■■■■■:■■■■■

■■■■■:■■■■■(■■■■■であれば■■■■■)

■■■■■は、■■■■■の前提として計算されるものであり、■■■■■は、■■■■■や■■■■■のために■■■■■を■■■■■してから、その■■■■■や■■■■■を■■■■■て■■■■■に■■■■■されるまでの■■■■■を示すものである。(以上につき、甲67)

イ ■■■■■につき、■■■■■末直近1年間の各四半期末において、各期間における実績値と標準日数(■■■日)を用いて計算した■■■■■は、それぞれ、■■■■■米ドル、■■■■■米ドル、■■■■■米ドル、■■■■■米ドルであり、■■■■■は、それぞれ、■■■■■、■■■■■、■■■■■、■■■■■であった。当該■■■■■に、当該四半期ごとの1日当たりの■■■■■(■■■■■)を乗じた金額、すなわち、標準日数(■■■日)ではなく各期間における実日数に引き直して計算した■■■■■は、それぞれ、■■■■■米ドル、■■■■■米ドル、■■■■■米ドル、■■■■■米ドルと算出される。(甲35、71)

2 争点1(本件譲渡時における■■■■■株式の「譲渡に係る対価の額」)について

⑴ 法人税法61条の2第1項1号の「有価証券の譲渡に係る対価の額」の意義等

ア 法人税法22条1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、益金の額から損金の額を控除した金額とする旨定め、同条2項は、資産の無償譲渡も収益の発生原因となるものとしているところ、その趣旨は、法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される。そして、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡の場合にも、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるところ、たまたま現実に収受した対価がそのうちの一部のみであるからといって適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、無償譲渡の場合との間の公平を欠くことになるから、その趣旨からして、この場合に益金の額に算入すべき収益の額には、当該資産の譲渡の対価の額のほか、これと当該資産の譲渡時における適正な価額との差額も含まれるものと解するのが相当である(最高裁平成6年(行ツ)第75号同7年12月19日第三小法廷判決・民集49巻10号3121頁参照)。

イ 法人税法61条の2第1項は、同法22条2項又は3項の「別段の定め」として、内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入するものと定め、ここにいう譲渡利益額とは、その有価証券の譲渡に係る対価の額(同項1号)が譲渡に係る原価の額(同項2号)を超える場合におけるその超える部分の金額をいい、譲渡損失額とは、その有価証券の譲渡に係る原価の額(同項2号)が譲渡に係る対価の額(同項1号)を超える場合におけるその超える部分の金額をいう旨定めている。かかる規定が、有価証券の譲渡において認識すべき収益の額について、同法22条2項と異なる取扱いを行う趣旨で設けられたものとは解されないことからすると、同法61条の2第1項1号にいう「有価証券の譲渡に係る対価の額」とは、当該有価証券の譲渡時における適正な価額、すなわち時価をいうものと解すべきである。そして、時価とは、財産の客観的な交換価値をいい、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。

ウ 以上を前提に、本件譲渡時における■■■■■株式の時価の算定の基礎となる■■■■■株式の評価額について検討する。

⑵ DCF法を用いた■■■■■株式の評価について

ア DCF法は、評価対象企業について将来期待することができる経済的利益を当該利益の変動リスク等を反映した割引率により現在価値に割り引いて株式価値を算定する手法であり、収益に着目して企業価値を評価するインカム・アプローチの代表的な評価方法である。具体的には、評価対象企業の事業計画に基づき将来のFCFを見積もり、年次ごとに割引率を用いて現在価値の総和(事業価値)を求め、当該事業価値に非事業用資産の価値を加算して企業価値を算出し、企業価値から有利子負債の時価を減算して株主に帰属する価値(株式価値)を求める手法である(前提事実⑶ア、乙51、59)。

イ DCF法においては、事業価値に非事業用資産を加算して企業価値を算出することになるところ、非事業用資産とは、一般に、評価対象企業の事業と直接関係しないもので、同企業におけるFCFの創出に貢献しておらず、同企業の事業上、その処分について制約のない資産をいう(乙52、54)。余剰資金、遊休不動産、投機目的の有価証券等が非事業用資産の典型例として挙げられる(甲53)。

企業の営業活動に必要な現預金は、必要運転資本の一部と考えられるため余剰資金には含まれず、営業活動に必要な現預金を超えて保有している現預金が、余剰資金として事業価値に加算されることになる。余剰資金は、評価基準日現在の現預金残高のうち必要運転資金(事業用現預金)の額を推定し、その額を控除して算出するのが一般的であり、この場合の必要運転資金(事業用現預金)の額を推定する方法としては、①対象企業の過去の現預金残高の推移を分析して必要資金を推定する方法、②売上債権、在庫、仕入債務等の支払サイトから必要現預金残高を推定する方法、③同業他社との比較分析によって必要残高を推定する方法がある(甲23)。

このように、事業に必要な現預金について運転資金(事業用現預金)として扱い、事業に必要な水準を超えた余剰現預金を非事業用資産として扱う方法が主流かつ理論的にも望ましいとされる一方で、実務上は、保有現預金を全て余剰現預金と考えて非事業用資産として扱う場合もあると指摘されている(乙77)。また、事業に必要な資金の水準は、債権の回収条件や債務の支払条件等によって異なり、評価対象企業の経営者の判断により決定されるべきものであるとの指摘もある(乙52)。

ウ 継続企業の評価方法としては、企業が将来生み出すキャッシュ・フローを全て現在価値に割り戻して合計するDCF法が価値評価の手法として適しており、確かな根拠のある将来キャッシュ・フローが入手できる限りにおいてはDCF法が最も正確に企業価値を推定できる手法であるとされている(乙68)。

本件において、■■■■■は、■■■■■の■■■■■を■■■■■にわたって■■■■■をしており、■■■■■な■■■■■が■■■■■できるとされていたこと(乙3〔35番〕)からすると、本件譲渡時における■■■■■株式の評価に当たっては、将来の■■■■■に着眼するDCF法を用いることが適切であると認められる。

⑶ 本件評価報告書における■■■■■株式の評価の合理性について

ア ■■■■■による本件評価報告書(甲2)において、■■■■■の余剰現預金の額は、■■■■■米ドルと算定されているところ、この金額は、■■■■■額■■■■■米ドルと■■■■■への■■■■■金額■■■■■米ドルとの合計額である(前提事実⑶イ)。

このように余剰現預金の額が決定された背景として、■■■■■において、本件評価基準日を含む直近■■■か月間における■■■■■の現預金の月末残高推移を参照して月次の■■■金額(■■■末の■■■■■米ドル)を事業用現預金の額とし、これを控除した■■■■■米ドルを余剰現預金の額として算定したところ、原告の担当者から、■■■■■については■■■■■にわたって■■■■■を有しており、保有する■■■■■が■■■■■を■■■■■可能性が■■■■■ある旨の説明を受け、さらに、上記の■■■■■額及び■■■■■への■■■■■金額に係る情報が提供されたことから、これらの合計額を余剰現預金とみなすことができると判断したことが認められる(甲28)。

イ 以上のとおり、■■■■■は、■■■■■の保有現預金の月末残高推移を参照する方法により事業用現預金の額を推定した上で、■■■■■に係る個別具体的な事情を勘案して上記推定結果を調整し、余剰現預金の額を上方修正したものである。対象企業の過去の現預金残高の推移を分析して必要資金を推定する方法は、事業用現預金の額を推定する方法の一つとされている上(前記⑵イ①)、■■■■■による上記のような算定過程に特段不合理な点は見当たらないから、■■■■■による余剰現預金の額の算定が合理的根拠を欠くものであると直ちにいうことはできない。

ウ 加えて、■■■■■の事業については、①■■■■■を顧客とするいわゆる■■■■■の■■■■■ビジネスを行っており、売掛債権の回転日数が平均して約■■■日と比較的■■■■■である一方、買掛債務の回転日数は平均して約■■■日と比較的■■■■■であり、これに対応する必要があること、②■■■■■の製品は■■■■■の使用を前提としており、顧客へのアフターサービス対応のため、■■■■■の在庫を保有する必要があること、③■■■■■ビジネスという■■■■■事業の特性上、顧客の要求水準が高く、何らかの問題が発生した場合には即時の対応が求められることなどから、事業を円滑に遂行するためには、買掛債務の支払や棚卸資産の維持、突然の資金需要に対応するために手元に現預金を保有しておく必要性が高いといえる。このため、■■■■■においては、従前から、■■■■■及び■■■■■という■■■■■から■■■■■という■■■■■を控除することにより求められる■■■■■が、既に投下済みの資金に加えて追加で必要となり得る資金需要の指標を示すものと捉え、■■■■■と同程度の現預金を、■■■■■の事業に必要な現預金として保有しておくとの経営方針を採用していたことが認められる(以上につき、甲64〔4~7頁〕)。

■■■■■の事業用現預金の額を推定するに当たっては、以上のような事業の特性を踏まえる必要があるところ、■■■■■末の直近1年間の各四半期末における■■■■■の幅が、■■■■■米ドルから■■■■■米ドルの間(各四半期を標準日数である■■■日とした場合)又は■■■■■米ドルから■■■■■米ドルの間(各四半期につき実日数を用いた場合)であったこと(認定事実⑷イ)からすると、本件評価報告書における事業用現預金の額である■■■■■米ドル(■■■■■米ドルー■■■■■米ドル)は、かかる幅の中に収まっており、■■■■■の事業用現預金の額として一定の合理性を有するものということができる。

エ 被告は、CCC指標に基づき算出した■■■■■の金額を基にDCF法における事業用現預金の額を推定することには合理性がなく、CCC指標に基づき算出した■■■■■の■■■■■の金額をもって本件評価報告書における■■■■■の事業用現預金の額の相当性が裏付けられるものではない旨主張する。

しかし、原材料を仕入れて生じた買掛金を支払うタイミングと、製品を作り販売して生じた売掛金を回収するタイミングとに差がある場合、企業は、その差を埋めるために一定の現金を保有する必要があり、そのような現預金は、■■■■■の一部、すなわち事業用資産の一部となると解すべきである(甲72)。このような観点から、事業用現預金の額を推定する方法の一つとして、売上債権、在庫、仕入債務等の支払サイトから必要現預金残高を推定する方法(前記⑵イ②)が挙げられているものと解される。また、事業に必要な資金の水準は、債権の回収条件や債務の支払条件等によって異なるし、これを見誤った場合には経営上の重大な事態を惹起しかねないことからすると、ある企業において事業に必要な資金をいくらと見積もるかについては、当該事業の特性を踏まえた当該企業の合理的な経営判断を尊重するのが相当である(前記⑵イ参照)。

そして、前記ウ①から③で述べたような事情により、手元に現預金を保有しておく必要性が高いという、■■■■■の事業の特性も踏まえると、■■■■■において、■■■■■と同程度の現預金を事業に必要な現預金として保有しておくとの経営方針を採用することは合理的なものといえるから、事業用現預金の額を検証する際に■■■■■を参考とすることにも合理性があるというべきである。被告の上記主張は、■■■■■と事業用現預金の理論的な相違を述べるものにすぎず、これを採用することはできない。

オ 以上によると、本件評価報告書における■■■■■株式の評価には、相応の合理性を認めることができる。

⑷ 処分行政庁による■■■■■株式の評価の合理性(被告の主位的主張)について

ア 被告は、事業用現預金について、事業の運営のために現預金という形態そのままで保持する必要がある手元現預金のことをいうとした上で、CMSへの預け金が余剰資金の運用形態であるとの理解を前提に、処分行政庁が、本件CMS預け金を事業用現預金と認める余地はないと判断し、■■■■■の保有現預金のうち、現金及び当座預金の合計■■■■■米ドルを事業用現預金とし、これを除いた■■■■■米ドル(本件CMS預け金)を余剰現預金と算定したことについて、■■■■■の現預金の保有形態に着目して慎重かつ抑制的にその事業用現預金の額を算定したものとして相当性を有するものである旨主張する。

イ そこで検討するに、各■■■■■の■■■■■時点において、■■■■■対象口座である■■■■■銀行口座の残高が■■■■■であった場合には、口座残高が■■■米ドルになるまで自動的に■■■■■銀行口座に移動され、逆に、■■■■■口座の残高が■■■■■であった場合には、口座残高が■■■米ドルになるまで自動的に■■■■■口座から資金が補充されるという本件CMSの仕組み(認定事実⑴イ)に照らすと、■■■■■銀行口座に預けられた資金は、事業に必要な資金であるか余剰資金であるかを問わず、全て■■■■■により■■■■■銀行口座に集約されることになるのであるから、かかる■■■■■による入出金の結果を■■■■■口座(■■■■■)に■■■■■した残高である本件CMS預け金について、余剰資金の運用形態であると即断することは相当でない。

そして、該当日の■■■■■に間に合わない入金があった場合、該当日の■■■■■時点における■■■■■銀行口座の残高は■■■■■とならずに■■■■■に繰り越されるところ(認定事実⑵イ)、本件評価基準日における■■■■■の現金及び当座預金も、■■■■■外の市中銀行に米ドル以外の通貨建てで有していたものを除くと、前日の■■■■■に間に合わなかった入金が残高として繰り越されたという■■■■■の仕組み上の技術的な理由により生じたものであった(同⑶イ)。このように、■■■■■の保有する現金及び当座預金と本件CMS預け金との違いは、事業に必要な資金であるか余剰資金であるかの判断に基づくのではなく、飽くまで入金のタイミングという技術的な理由によるものにすぎないと解される。

しかも、本件評価基準日を含む■■■■■において、本件CMS預け金の普通預金からは、1回当たり■■■■■米ドルを超える出金が複数回あり、1日当たり■■■■■米ドルを超える出金がされた日もあったのであり(甲48)、これらは■■■■■の買掛債務の支払等に充てられたものと認められる(弁論の全趣旨)。このような本件CMS預け金の利用状況に照らすと、処分行政庁が事業用現預金の額と判断した■■■■■の現金及び当座預金の合計■■■■■米ドルだけでは、同社の事業上の資金需要に対応することができないのは明らかである。

以上のような本件CMSの仕組みや利用状況に鑑みると、現預金の保有形態に着目して事業用現預金の額を算定し、本件CMS預け金の全額を余剰現預金とした処分行政庁の算定方法に合理性があるということはできない。

ウ 加えて、前記⑶ウで説示したような事情から、■■■■■は、手元に現預金を保有しておく必要性が高く、このため、■■■■■と同程度の現預金を事業に必要な現預金として保有しておくとの経営方針を採用していたのであり、■■■■■の事業用現預金の額を推定するに当たっては、このような同社の事業の特性とこれを前提とした同社の経営方針を踏まえる必要がある。

■■■■■末の直近1年間の各四半期末における■■■■■が、■■■■■米ドルから■■■■■米ドルの間(各四半期を標準日数である■■■日とした場合)又は■■■■■米ドルから■■■■■米ドルの間(各四半期につき実日数を用いた場合)であったこと(認定事実⑷イ)に照らすと、■■■■■の保有現預金のうち、現金及び当座預金の合計■■■■■米ドルのみを事業用現預金とした処分行政庁の判断は、■■■■■の幅に照らして著しく少額であり、■■■■■の事業の特性を十分に踏まえたものではないといえるから、かかる観点からも合理性を有しないというべきである。

エ 被告は、事業用現預金と余剰現預金の区別に当たり、評価対象企業が評価基準日時点で保有する現預金の全額を余剰現預金として扱う方法も実務ではよく利用される方法として許容されていることからも、本件CMS預け金の全額を余剰現預金とすることには合理性がある旨主張する。

しかし、保有現預金の全額を余剰現預金として扱う方法は、事業用現預金の額を算定するよりも簡便で実務的に使いやすいとの理由によるものと考えられ(乙77、78)、関係当事者間において異議がない場合等の簡便な方法としてこれを用いるのは格別、企業のFCFの創出に貢献しない資産を非事業用資産として事業価値に加算するというDCF法の考え方(前記⑵イ)からすれば、余剰現預金の額は、飽くまで保有現預金の額から事業用現預金の額を除いて算定することが基本というべきであり、既に述べたような本件CMSの仕組みや利用状況に照らせば、被告が指摘するような方法が実務上許容されていることは、本件CMS預け金の全額を余剰現預金とすることを正当化する理由にはならないというべきである。

オ 以上によると、処分行政庁による■■■■■株式の評価が合理的なものとは認められない。

⑸ 本件裁決における■■■■■株式の評価の合理性(被告の予備的主張)について

ア 被告は、本件CMS預け金のうち定期預金■■■■■米ドルを本件評価基準日における■■■■■の余剰現預金の額と算定した本件裁決の判断内容に照らし、少なくとも■■■■■米ドルは■■■■■の余剰現預金であると認められるべきである旨主張する。

イ そこで検討するに、本件CMS預け金のうちの定期預金は、①満期が■■■か月であり、満期到来時には■■■■■口座(■■■■■)の普通預金の残高となること、②中途解約の際、■■■■■の利率に基づき利息が計算されるものの、これとは別に■■■■■等の■■■■■は発生しない実務運用となっており、中途解約された定期預金は、最大■■■日、最短■■■日で引出しが可能であること(認定事実⑴エ)からすると、本件CMS預け金のうち、定期預金と普通預金との間には、機能的に有意な差異はないと解される。したがって、本件CMS預け金のうちの定期預金について、普通預金と区別する合理的な理由はないといえる。

そして、■■■■■末の直近1年間の各四半期末における■■■■■が、■■■■■米ドルから■■■■■米ドルの間(各四半期を標準日数である■■■日とした場合)又は■■■■■米ドルから■■■■■米ドルの間(各四半期につき実日数を用いた場合)であったこと(認定事実⑷イ)に照らすと、■■■■■米ドルを■■■■■の余剰現預金とし、残る■■■■■米ドルを事業用現預金であるとすることは、■■■■■の事業の特性とそれに基づ<現預金の必要性を適切に踏まえたものとはいい難いから、■■■■■米ドルを余剰現預金とする本件裁決における判断にも合理性があるとは認められない。

ウ よって、本件裁決における■■■■■株式の評価も、合理的なものとは認められない。

⑹ 小括

以上によると、本件譲渡時における■■■■■株式の時価について、これを本件譲渡価格とすることには相応の合理性が認められる一方、処分行政庁評価額又は裁決庁評価額とすることは合理的なものとは認められないから、本件更正処分は、上記時価の評価を誤ってされたものであって、違法である。

第4 結論

以上の次第で、争点2について判断するまでもなく、本件更正処分のうち本件更正請求に係る請求金額を超える部分の取消しを求める原告の請求は理由がある。よって、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官 篠田 賢治

裁判官 高部 祐未

裁判官金澤康は、退官のため、署名押印することができない。

裁判長裁判官 篠田 賢治

(別紙1~2)省略
(別表1-1~2-3)省略