国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
税務署長は、①本件受託品事故損から本件増仕切委託手数料と実際の販売価格に対する委託手数料との差額(過大受領手数料)を控除した金額(本件差額)は法人税法37条1項の寄附金に該当する、②本件受託品事故損は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない、③本件分割及び本件合併(本件組織再編成)は同法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するため本件未処理欠損金額を原告の欠損金額とみなさないとして、本件各事業年度の法人税等及び本件各課税期間の消費税等について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各処分)をした。
本件は、原告が、①本件差額は法人税法37条1項の寄附金には該当しない、②本件受託品事故損は課税仕入れに係る支払対価の額に該当する、③本件組織再編成に法人税法132条の2を適用することはできないとして、被告を相手に、本件各処分(ただし、本件各更正処分についてはいずれも申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。
基本情報
・税目:法人税
・処分行政庁:下京税務署長
・課税年度:平成28年3月期~平成31年3月期
・提訴裁判所:大阪地方裁判所
・提訴年月日:令和5年1月21日
・判決日:令和8年5月21日
・結果:一部認容
争点
・本件差額が法人税法37条1項の寄附金に該当するか否か
・本件受託品事故損が課税仕入れに係る支払対価の額に該当するか否か (争点2)。
・本件合併による本件未処理欠損金額の引継ぎについて、法人税法132条の2の適用による否認をすることができるか否か
判決書データ
判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額7億0372万1080円を超える部分及び納付すべき法人税額1億5495万3700円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち加算税額2509万5500円を超える部分を取り消す。
2 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額7億2743万9535円を超える部分及び納付すべき法人税額1億6051万3300円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち加算税額1201万7000円を超える部分を取り消す。
3 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額7億1481万0784円を超える部分及び納付すべき法人税額1億5781万3300円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
4 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成30年4月1日から平成31年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額3億9623万2963円を超える部分及び納付すべき法人税額8199万2800円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
5 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち納付すべき地方法人税額736万8900円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち加算税額107万9000円を超える部分を取り消す。
6 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち納付すべき地方法人税額746万0100円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち加算税額52万7500円を超える部分を取り消す。
7 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち納付すべき地方法人税額733万円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
8 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成30年4月1日から平成31年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち納付すべき地方法人税額401万5800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
9 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
10 訴訟費用(補助参加費用を除く。)はこれを20分し、その7を被告の負担とし、その余を原告の負担とし、補助参加費用は原告補助参加人の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額0円を超える部分、納付すべき法人税額マイナス1252万3547円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額5億0516万6781円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額2億8950万9854円を超える部分及び納付すべき法人税額5803万7600円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
3 主文第3項に同旨
4 主文第4項に同旨
5 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち納付すべき地方法人税0円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
6 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち納付すべき地方法人税295万1200円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
7 主文第7項に同旨
8 主文第8項に同旨
9 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額1億7416万6700円を超える部分及び納付すべき地方消費税額4700万5200円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
10 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額1億6570万2200円を超える部分及び納付すべき地方消費税額4471万8100円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
11 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額1億6942万0700円を超える部分及び納付すべき地方消費税額4571万7900円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
12 下京税務署長が令和3年5月25日付けで原告に対してした、原告の平成30年4月1日から平成31年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額1億1959万8500円を超える部分及び納付すべき地方消費税額3227万2900円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
(注)以上については、所得の金額又は納付すべき税額が増加する方向 (欠損金額がある場合には、その額が減少する方向)をプラス、所得の金額又は納付すべき税額が減少する方向 (欠損金額がある場合には、その額が増加する方向)をマイナスとみて、ある金額よりもプラス方向の部分を「超える部分」と表現している。なお、還付金額については、納付すべき税額マイナスと表現している。
第2 事案の概要等
1 本判決で用いる略語:
本判決で用いる略語は、別紙1略語一覧表記載のとおりである。ただし、理解の便宜のため、括弧書きで略語を記載することがある。
また、関係者の氏名は、初出を除き、原則として名字のみで表記する。
2 事案の概要
原告は、■市場(本件■市場) における■等の卸売業者■等(本件各取引先)から販売を委託された受託物品の一部について、実際の販売価格よりも高い金額 (本件増仕切価格)を売買仕切書に記載し、本件増仕切価格からこれに基づく手数料額(本件増仕切委託手数料)を控除した金額を本件各取引先に送金することがあった。そして、原告は、このような取引につき、本件各事業年度の法人税等の確定申告において、本件増仕切価格と実際の販売価格との差額(本件受託品事故損)を「受託品事故損」との勘定科目で損金の額に算入するとともに、本件増仕切委託手数料の金額を「受託販売手数料」との勘定科目で益金の額に算入し、さらに、本件各課税期間の消費税等の確定申告において、本件受託品事故損を課税仕入れに係る支払対価の額に算入した。
また、原告は、■100%子会社である本件分割後の旧■との適格合併(本件合併)をした。そして、原告は、平成28年3月期及び平成29年3月期の法人税等の確定申告において、旧■が有していた本件未処理欠損金額を、法人税法57条2項により原告の欠損金額とみなして損金の額に算入した。
これらに対し、下京税務署長は、①本件受託品事故損から本件増仕切委託手数料と実際の販売価格に対する委託手数料との差額(過大受領手数料)を控除した金額(本件差額)は法人税法37条1項の寄附金に該当する、②本件受託品事故損は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない、③本件分割及び本件合併(本件組織再編成)は同法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するため本件未処理欠損金額を原告の欠損金額とみなさないとして、本件各事業年度の法人税等及び本件各課税期間の消費税等について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各処分)をした。
本件は、原告が、①本件差額は法人税法37条1項の寄附金には該当しない、②本件受託品事故損は課税仕入れに係る支払対価の額に該当する、③本件組織再編成に法人税法132条の2を適用することはできないとして、被告を相手に、本件各処分(ただし、本件各更正処分についてはいずれも申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。
3 関係法令の定め
別紙2のとおり。
4 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番号を含む。)
(1) 原告(甲A1〜3、14)
原告は、■株式会社であり、■及びその加工品並びに■の売買及び販売の受託等を行う。■市が開設する本件■市場において、仲卸業者等に対して■等の出荷者から■等の販売委託を引き受け、受託物品の卸売を行い、その委託手数料を得ている。
(2) 原告の行う卸売(甲A4、14〜18、乙2)
ア 原告は、本件■市場において、仲卸業者等に対し、せり又は相対取引で受託物品の卸売を行っている。卸売の8割ないし9割を相対取引が占めている。
受託物品が販売されると、原告は、仲卸業者等に対し、実際の販売単価及び販売金額を記載した請求書を送付し、その販売金額の請求をする。また、原告は、本件各取引先に対し、販売された受託物品の販売数量、販売単価、販売金額(販売単価に販売数量を乗じた額)、委託手数料額及び差引支払金額(税込みの販売金額から委託手数料を控除した金額)を記載した売買仕切書を送付して受託物品の販売委託を仕切り、差引支払金額を送金する。
なお、原告が得る委託手数料は、受託物品の販売金額(税込み)の■%(■及びその加工品)又は■%(■及びその加工品)である。
イ 原告は、一部の受託物品について、売買仕切書(本件売買仕切書)に、実際の販売単価よりも高い単価(本件増仕切単価) 並びに本件増仕切単価に基づく販売金額(本件増仕切価格)、委託手数料額(本件増仕切委託手数料)及び差引支払金額を記載し、本件各取引先に対し、上記差引支払金額を送金していた(本件増仕切取引)。
本件増仕切取引において、原告は、本件増仕切価格と実際の販売金額の差額(本件受託品事故損)から、本件増仕切委託手数料と実際の販売金額に対する委託手数料との差額(過大受領手数料)を控除した金額(本件差額)を負担していた。そして、原告は、本件受託品事故損を「受託品事故損」との勘定科目に、本件増仕切委託手数料を「受託販売手数料」との勘定科目にそれぞれ計上していた。
(3) ■グループに係る一連の組織再編成
ア 本件組織再編成前の■グループの状況(甲A4、B2、4、6、乙3、35)
原告は、■の加工食品、冷凍食品、飲料品等の販売等を行う複数の子会社や孫会社を有し、原告を頂点とする企業グループ(■グループ)を形成していた。
旧■は、■輸入卸売事業(本件事業)を営む株式会社で、■グループの一員であり、本件合併の直前において、未処理欠損金額合計12億0888万7861円(本件未処理欠損金額)を有していた。原告と旧■との間には、本件合併の日■の属する平成28年3月期の開始の日(平成27年4月1日)の5年以上前から完全支配関係が存在した。
■グループの出資関係(本件組織再編成に関わる部分に限る。)は、本件組織再編成前の平成27年2月20日時点で、図1のとおりであった。
イ ■の100%子会社化(甲B17)
(ア) ■については、平成27年3月19日当時、その発行済株式総数の75%を原告が、25%を旧■がそれぞれ保有していた。
(イ) 原告は、平成27年3月19日、旧■から、同社が保有する■の株式の全部(発行済株式総数の25%)を剰余金の配当として受け取った。その結果、■は、原告の100%子会社となった。
ウ ■の100%子会社化(甲B15、18、20)
(ア) ■については、平成27年2月20日当時、その発行済株式総数の49%を原告が、30%を■が、21%を個人株主■ら3名がそれぞれ保有していた。
(イ) 旧■は、平成27年2月20日、■の個人株主■ら3名から、同人らが保有する■の株式の全部(発行済株式総数の21%)を、代金合計1億6590万円で購入した。旧■は、同日、原告から、上記株式購入代金のうち1億6000万円を借り入れた。
(ウ) 原告は、平成27年3月28日、■から、剰余金の配当として、同社が保有する■の株式の全部(発行済株式総数の30%)の交付を受けた。
(エ) 原告は、■に旧■との本件合併をしたことにより、旧■が保有する■の株式の全部(発行済株式総数の21%) を承継した。これにより、■は、原告の100%子会社となった。
エ 旧■の100%子会社化(甲B16)
(ア) 旧■については、平成27年3月6日当時、その発行済株式総数の80%を原告が、20%を■がそれぞれ保有していた。
(イ) 旧■は、平成27年3月6日、■との間で、同社が保有する旧■の株式の全部(発行済株式総数の20%)を、代金1億5648万円で購入する旨の株式譲渡契約を締結し、同月10日、その代金を支払い、遅くとも同日には、■が保有する上記株式を取得した。これにより、旧■は、原告の100%子会社となった。
旧■は、同日、原告から、上記株式購入代金のうち1億4000万円を借り入れた(なお、当該借入金と上記ウ(イ)の旧■からの借入金を併せたものが「本件借入金」である。)。
オ ■の原告の子会社化(甲B20)
(ア) ■については、■当時、その発行済株式総数の55%を旧■が保有しており、原告は、その当時、■の株式を保有していなかった。
(イ) 原告は、■に旧■との本件合併をしたことにより、旧■が保有する■の株式の全部(発行済株式総数の55%)を承継した。これにより、■は、原告の子会社となった。
カ 本件組織再編成の実施
(ア) 本件分割(甲B19)
旧■は、■、旧■を新設分割会社、新■を新設分割設立会社とする新設分割(本件分割)を行った。新■は、本件分割に際し、その発行する新■の株式全部を旧■に交付したが、旧■は、同日、原告に対し、その新■の株式全部を剰余金の配当として交付した。その結果、新■は、原告の100%子会社となった。
他方、新■は、本件分割により、旧■から以下の資産、負債、雇用契約その他の権利義務を承継した。本件分割後に旧■に残された資産及び負債は、本件土地、■の株式(上記ウ(イ))、■の株式(上記オ (ア)) 及び本件借入金であった。
a 旧■の営んでいた■輸入卸売事業(本件事業)に係る一切の流動資産
b 本件土地、■の株式及び■の株式を除く本件事業に係る一切の固定資産
c 本件事業に係る一切の商標権
d 本件借入金を除く本件事業に係る一切の債務
e 旧■が締結している本件事業に係る一切の契約に関する契約上の地位及びこれらに基づき発生した一切の権利義務
f 旧■が締結している本件事業に係る一切の雇用契約に関する契約上の地位及びこれらに基づき発生した一切の権利義務
g 法令上承継可能な本件事業に係る免許、許可、認可、承認、登録、届出等
(イ) 本件合併(甲B20)
原告と旧■は、■、本件分割の効力が生じることを停止条件として、原告を吸収合併存続会社、旧■を吸収合併消滅会社とする吸収合併(本件合併)を行った。本件合併は、法人税法2条12号の8のイの適格合併に該当する。
原告は、本件合併により、旧■から、本件土地、■の株式、■の株式及び本件借入金を承継した。
キ 本件組織再編成後の■グループの状況
■に本件組織再編が実施された後の■グループの出資関係(本件組織再編成に関わる部分に限る。)は、図2のとおりである。
(4) 原告の確定申告
ア 法人税等(乙3)
原告は、下京税務署長に対し、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税について、別紙3及び4の各「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに提出した。
原告は、本件各事業年度の法人税の確定申告において、本件受託品事故損を損金の額に算入するとともに、本件増仕切委託手数料を益金の額に算入した。
また、原告は、平成28年3月期及び平成29年3月期の法人税の確定申告において、法人税法57条2項に基づき、本件未処理欠損金額を原告の欠損金額とみなして、同条1項に基づきこれを損金の額に算入した。
イ 消費税等(乙5)
原告は、下京税務署長に対し、本件各課税期間の消費税等について、別紙5の各「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を、いずれも法定申告期限までに提出した。
原告は、本件各課税期間の消費税等の確定申告において、本件増仕切委託手数料を課税資産の譲渡等の対価の額に該当するとして消費税の課税標準額に計上するとともに、本件受託品事故損を課税仕入れに係る支払対価の額に計上した。
(5) 本件各処分(甲A6)
ア 法人税等
下京税務署長は、原告に対する調査の結果に基づき、別紙3及び4の各「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税の各更正処分 (本件法人税各更正処分及び本件地方法人税各更正処分)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(本件法人税各賦課決定処分及び本件地方法人税各賦課決定処分)をした。
下京税務署長は、本件法人税各更正処分において、本件差額が法人税法37条1項の寄附金に該当するとした。
また、下京税務署長は、平成28年3月期及び平成29年3月期の法人税の各更正処分において、法人税法132条の2に基づき、本件未処理欠損金額を原告の欠損金額とみなさなかった。
イ 消費税等
下京税務署長は、原告に対する調査の結果に基づき、別紙5の各「更正処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(本件消費税等各更正処分) 及び過少申告加算税の各賦課決定処分(本件消費税等各賦課決定処分)をした。
下京税務署長は、本件消費税等各更正処分において、過大受領手数料は課税資産の譲渡等の対価の額には該当しないとしてこれを消費税の課税標準額から減算するとともに、本件受託品事故損は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとしてこれを課税仕入れに係る支払対価の額から減算した。
(6) 本件訴えに至る経緯
ア 原告は、令和3年8月24日、国税不服審判所長に対し、本件各処分の取消しを求めて審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、令和4年8月19日、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同裁決に係る裁決書謄本は、同月25日に原告に到達した(乙6)。
イ 原告は、令和5年1月21日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
5 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件差額が法人税法37条1項の寄附金に該当するか否か (争点1)
(2) 本件受託品事故損が課税仕入れに係る支払対価の額に該当するか否か (争点2)。
争点1及び争点2に係る被告の主張は別紙6 (被告第9準備書面)のとおりであり、原告の主張は別紙7(原告準備書面A-7) のとおりである。
(3) 本件合併による本件未処理欠損金額の引継ぎについて、法人税法132条の2の適用による否認をすることができるか否か (争点3)
争点3に係る被告の主張は別紙8(被告第10準備書面)のとおりであり、原告の主張は別紙9 (原告準備書面B-5)のとおりである。
第3 争点1(本件差額が法人税法37条1項の寄附金に該当するか否か)についての当裁判所の判断
1 事実認定
(1) 認定事実
前提事実に加え、各項記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件■市条例や本件受託約款等の定め
(ア) 本件■市場は、■市が本件■市条例により設置したものであり、■市は、本件■市条例及び本件■市条例施行規則において、売買取引及び決済の方法等について規定している(乙2、9)。
本件■市条例■条■項は、卸売業者は、受託物品の卸売をしたときは、委託者に対し、売買仕切書及び売買仕切金を送付しなければならない旨、同条■項は、卸売業者は、売買仕切書には、卸売をした物品について、品目、■及び数量(■号)、卸売決定価格(■号)等を正確に記載しなければならない旨規定する。また、本件■市条例■条は、卸売業者は、卸売をした物品の卸売代金の変更をしてはならない旨、ただし、市長が正当な理由があると認めて承認したときは、この限りでない旨規定する。(乙2)
本件■市条例施行規則■条は、本件■市条例■条ただし書に規定する正当な理由があると認めるときとは、本件■市条例施行規則■条各号に掲げる場合であって、■市職員の確認を受けたときとする旨規定し、同条■号は、「市場取引の経験から予見することができない瑕疵がある場合」を、同条■号は「表示され、又は読み上げられた量目と内容量が著しく相違している場合」を、同条■号は「条例第■条第■項第■号の規定により卸売をした場合にあっては、当該卸売前に仲卸業者又は売買参加者に提供した情報の内容と現品の内容が著しく相違している場合」をそれぞれ掲げる。(乙9)
そして、■市の定める■事故品処理に関する取扱要綱■条は、本件■市条例施行規則■条各号に該当する「事故品」について、事故の内容は、(1)腐敗、(2)選別不良、(3)量目不足、(4) 表示の相違、(5)品質不良、(6)化学公害とする旨定めており、本件受託品事故損に係る定めはない。(甲A59)
なお、卸売業者が卸売市場法施行規則7条に基づき提出すべき事業報告書の様式(同規則別記様式第2号)には、損益計算書の「受託品事故損」との勘定科目について、「受託物品の受領後卸売業者の責に帰すべき事由により生じた損失は、受託品事故損勘定で処理・・・すること」との注意書きが付されている (乙4)。
(イ) 本件受託約款17条は、委託者は、委託物品の卸売について、指値その他の委託条件を付すことができる旨定める。また、本件受託約款18条は、原告は委託物品の販売につき、指値その他の委託条件がある場合において、その条件どおりに委託物品を販売することのできないときは、遅滞なくその旨を委託者に通知し、その指図を受けることとする旨定める。さらに、本件受託約款25条は、原告は、受託物品の卸売をしたときは、当該卸売をした物品の品目、■価格、数量及び価格と数量の積の合計額等を記載した売買仕切書を委託者に送付するものとする旨定める。(乙8)
また、原告と本件各取引先との売買基本契約書7条には、原告は、販売委託の対象とされる商品の販売後直ちに、本件各取引先に対し、毎・販売単価毎の販売数量、販売単価、販売金額(販売数量×販売単価)等を記載した売買仕切書を送付して販売報告を行う旨定められており、本件受託品事故損に係る定めはない (甲A14、乙8)。
イ 受託物品の販売の基本的な流れ
本件各取引先は、原告に向けて■等を出荷すると、原告に対して出荷通知書を送付する。
原告の卸売の8割ないし9割を占める相対取引において、原告は、出荷物の到着日当日又はその翌日に、仲卸業者に対して出荷物を引き渡す(その引渡しの日が販売日とされる。)。原告と仲卸業者は、販売日の前日までに、受託物品の販売数量及び販売単価を合意する。そして、原告は、仲卸業者に対して請求書を送付し、販売金額(販売単価×販売数量)を請求する。
他方、原告は、受託物品が販売されると、本件各取引先に対し、その品目、販売数量、販売単価、販売金額、委託手数料額、差引支払金額等を記載した売買仕切書を送付し、差引支払金額を支払う。本件増仕切取引における本件売買仕切書には、本件増仕切単価、本件増仕切価格及び本件増仕切委託手数料が記載される。(以上につき、甲A16〜18、証人■3〜5頁、証人■25〜27頁、証人■25、26頁)
ウ 本件受託品事故損が生ずる取引における仕切価格の決まり方
(ア) 仕切価格の決まり方の類型
本件受託品事故損が生ずる取引において、原告と本件各取引先との間でどのようなやり取りが行われ、実際の販売金額よりも高い仕切価格(本件増仕切価格)が決まるのかについては、原告の担当者や担当部署の方針、対象となる商品、本件各取引先との関係性や対応等により異なり得るが、おおまかに分けると、①仲卸業者等への販売金額が決まる前(出荷時等)に、本件各取引先から何らかの価格(単価) 又は指標が明示又は黙示に示され、仲卸業者等への販売後、特段の交渉なく原告が上記価格等に基づく金額を仕切価格とする場合と、②仲卸業者等への販売金額が決まった後に、原告の担当者が本件各取引先の担当者と何らかの交渉を行い、具体的な仕切価格が決まる場合がある(甲A35〜37、乙12〜18、証人■ 証人■ 証人■ なお、「会社負担稟議書(産地要請)」の書式の右上部分には、販売日と交渉時期の先後に応じ、「販売前」と「販売後」のどちらかに○を記入するものとされている。甲A15-1など)。
(イ) 事前に価格等が示される場合 (①の場合)の流れ
例えば、■担当執行役員の■は、本件各取引先とのやり取りについて、大阪国税局の職員に対し、次のように説明している(乙12から抜粋。なお、甲A35もおおむね同旨であるが、「価格交渉は指値で交渉」するとしている。)。
「通常、担当者が集荷のため出荷者に電話し、担当課長が価格交渉を行います。価格交渉は市況の確認を行うために■新聞、他の市場、■ブロック、■ブロックで確認します。市況はこちらから聞くこともあれば、相手から言われることもあります。産地から『市況に合しといて。』との要請があり、市況情報を基に価格を決めています。交渉日時は■等産地からの運送時間にもよるので前日の場合もあれば、前々のものもあり、特に決まってはいません。交渉が終われば出荷者は出荷し、■ごろには■へ到着し、■からのセリにかけられます。その日の午前中には、仕切単価を出荷者に対して電話で報告します。相対の場合は、■等との価格交渉が終わり、荷が届くまでに仲卸業者と交渉し、量と価格を決めています。産地要請の希望価格と実際の販売価格に赤字の差が出た場合は、事故損となり会社負担稟議書(産地要請)を作成します。仕切単価とは、実売単価です。しかし、事故損が発生した場合は、産地要請価格となります。」
また、■担当執行役員の■は、大阪国税局の職員に対し、「まず、電話で各担当者が■などの相手先の担当者と話をし、その情報を上司(管理職:課長等)へ報告します。管理職は、その情報をもって相手先担当者と価格交渉を行い決定しています。」「1,000円が高いというより、出荷される時点でこの値段で売ってくれという要請で、産地の値段や運搬費、維持費、重油代などの■コストを加味しての要望がある。」などと説明している(甲A36から抜粋、乙15も同旨)。
(ウ) 販売後の交渉で仕切価格が決まる場合 (②の場合)の流れ
例えば、■担当執行役員の■は、仕切単価に係る本件各取引先とのやり取りについて、陳述書(甲A55の1) において、次のように説明している(証人■の証言もおおむね同旨。なお、乙16も特にこれと矛盾するものではない。)。
「産地との間の『仕切価格』については、その日の商品が全て売れ終わった時点で、産地と交渉して決めます。産地との間の仕切価格は、産地が了解している『市況』から差がないところで決めて、産地から仕切金額の承諾を得ます。具体的には、例えば『330円』で仕切る場合は、産地に『330円で仕切る』ということを伝え、承諾を得ます。産地に了解を得ない金額で仕切ることはありません。『市況』より低い仕切金額を伝えると、産地からは、『それは問題だね』とか『低すぎる』と言われるか『他の市場と比べて目立つ』などと言われます。例えば、『市況』が330円のときに、300円などと言うと、安すぎるのでダメだと言われますので、『330円で仕切る』と伝え、承諾を得ます。」
また、■次長の■は、要旨、販売日当日の午前■頃から午前■頃までの間に、本件各取引先の担当者から、「今日の相場はこれぐらいです。」といった形で仕切価格 (1200円などといった具体的な金額)の希望が伝えられること、その価格が販売単価を大きく上回る場合、同担当者に「3桁の販売になっています。」などと販売状況を大まかに伝えるなどし、仕切価格について交渉するが、交渉の余地がない場合が多いことなどを説明している(甲A54、証人■5、6、24〜27頁等)。
さらに、■部長の■は、■が担当者であった時の話として、要旨、販売日の朝に本件各取引先の担当者と連絡を取り、仲卸業者等への販売価格を報告し、仕切価格について交渉すること、販売価格が本件各取引先の希望額を下回る場合、その担当者は、その価格では無理や、他の市場ではこの値段であるなどとして、販売価格よりも高い価格で仕切るよう求めてくることがあり、そのような場合は、その担当者が求めてきた価格で仕切っていたことなどを説明している(証人■6、7、14〜16、25、26頁等)。
エ 本件受託品事故損の負担についての原告内部の手続等
(ア) 原告は、30年以上前から本件受託品事故損を負担しており、その全額を経費に算入していた。原告は、当初、本件増仕切取引に係る交渉記録を残していなかったが、平成12年頃の大阪国税局による税務調査において、記録を残さずに本件受託品事故損を負担していたことについて指導を受けた。その後、原告は、担当者が指値差損稟議書(現在は「会社負担稟議書(産地要請)」)を作成し、営業部門及び管理部門の役員や部課長の決裁を経て、本件受託品事故損を負担していた。なお、原告は、本件に至るまで、本件受託品事故損の損金算入につき税務署長から否認されたことはない。(甲A9、57-2、乙19、証人■2〜6頁)
(イ) 原告は、平成27年2月、■市長による検査を受け、■に提出する販売原票に販売単価ではなく本件増仕切単価が記載されている事例があったことについて指摘を受けた。これに対し、原告は、本件受託品事故損について、開設者の承認を受け、開設者の指導を仰いで対応していくこと、販売原票に「差額負担」を明記することといった改善措置を講じる旨の改善報告書を提出した。
また、原告は、平成29年11月、■による検査を受け、平成27年の上記検査時における指摘と同様の指摘を受けた。これに対し、原告は、これまでと同様に販売原票に「差額負担」を明記するなどの改善措置を講じる旨の改善報告書を提出した。(以上につき、乙20)
(ウ) 卸売市場法は、もともと、卸売業者が卸売の相手方として出荷物を買い受ける自己買受けを禁止していたが(平成30年法律第62号により削除される前の卸売市場法40条)、同条は、平成30年法律第62号(令和2年6月21日施行)により削除され、自己買受けが解禁された(甲A42〜44)。
原告は、令和7年7月から、本件受託品事故損が発生することとなった時点で受託販売から自己買受けに切り替え、本件各取引先からの買付金額と仲卸業者等への販売金額の差額を譲渡損失として経理している(証人■14〜20頁)。
オ 本件各取引先による出荷の停止等
本件各取引先は、原告の仕切価格に不満がある場合などに、以下のとおり、出荷を停止したり出荷量を減らしたりしたことがあった(証人■7〜9、27頁、証人■8〜10、29、30頁、証人■7〜10、21〜23、25〜30頁)。
(ア) ■の事案(甲A60、63、証人■7〜10、21〜23、25〜30頁)
原告は、ある■から■3ケースの販売を受託し、令和7年5月8日、仲卸業者に対して1ケース2500円で販売した。本来であれば、その販売金額が決まった後、原告の担当者が■の担当者に販売単価を伝え、仕切価格を交渉するが、上記■については、仕切価格の交渉が行われなかった。すると、同日午後2時頃、■の担当者が原告に電話をかけ、商談中のため折り返し電話をした原告の担当者に対し、「■としては2500円と4000円じゃ、2500円なら送らんだもんで。『寄こせ、寄こせ』といったって2500円のところへ好んで送る■は、どこにもねぇと思うよ。」などとして、他の市場では4000円で売れているので、2500円でしか売れなかった原告には、同月10日以降■を出荷しない旨述べた。また、■の担当者は、■を出荷してくれるのかと尋ねる原告の担当者に対し、「■は送らねぇように修正効くよ。明日は少ねぇから、いくらでも調整効くで。」「一気に減ったで、いくらでもよそへくれるで、いいよ。」などと述べて、■の出荷量を減らすことを示唆し、さらに、「ほうかい、それではすべて失敗をして行くだ、な。いろんなものをすべて失敗をして行くだ。そうやってそうやって。」と述べた。
そして、令和7年5月10日以降、上記■から原告への■の出荷がなくなり、同月12日から19日までの間、同■から原告への■の出荷もなくなった。
(イ) ■の事案(甲A61、証人■9、10頁)
原告は、令和7年4月以降、ある■から■の出荷を受けていた。原告の担当者は、同年5月9日、上記■の担当者に対し、他の市場の相場も下がってきていることから、母の日(同月11日)以降、■の単価を下げたいと伝えたところ、その担当者は、単価が下がるなら原告に出荷する意味がない旨述べた。そして、同月12日以降、上記■から■の出荷がなくなった。そのため、原告の担当者は、同月23日、上記■へ出向いて謝罪し、同■の希望する価格で仕切ることを約束したところ、同月26日から、再度■が出荷されるようになった。
上記■の出荷する■については、令和7年4月1日から5月10日までは、本件受託品事故損を負担しない日の方が多く、これを支払う場合であっても1ケース当たり523円ないし1080円であったが、出荷が再開された同月26日から同年6月30日までは、連日本件受託品事故損を支払い、その金額は1ケース当たり681円ないし1813円であった。
(ウ) ■の事案(甲A62)
ある■は、原告に対し、■について、令和5年5月15日に販売を開始するよう申し出るとともに、■市場の初売りの市況価格を伝えた。これに対し、原告は、上記■が示した価格帯を踏まえ、同月22日から■の販売を開始する旨回答し、同日から販売が開始されることとなった。しかし、その出荷量は、前年の令和4年と比べて約33%に減少し、翌令和6年の出荷量も、令和5年と比べて約15%の増加にとどまり、令和4年の出荷量まで回復しなかった。
カ 卸売業者の差額負担等に関する記事等
(ア) 業界紙の記事等
a ■新聞の「■」と題する記事(甲A11)
「■の利益が減少している) 要因のひとつが、■が必要になっていること。・・・■されているものとみられる。」
b ■新聞の「■」と題する記事(甲A13)
「■た。■を終了。・・・■とし、営業活動■していた。」
c ■のホームページに■付けで掲載された「■」と題する記事(甲A20)
「■を注目している・・・■においては、本来、■するのであり、■ことになる。ところが、実際には■としては、■際には、■社としては■すれば、その後、■らだ。そうなれば、■に卸売会社に伝える。卸売会社■したいが、実■。その場合、卸売会■があるか■ことになる。■だ。」
d ■のホームページに■付けで掲載された「■」と題する記事(甲A19)
e ■の「■」と題する記事(甲A58)
「■いる。表面上、■になっており、■いたのである。」「■が行われて■がある。■である。■すでに始まっている。」「■は、■している。・・・問題なのは、■っていた。■ことだ。」■出していた。
(イ) 実態調査やパブリックコメントにおける「指値」に関する意見
a 平成18年度農林水産省委託事業として実施された「卸売市場における先進的な取組事例(平成18年度卸売市場整備新基本方針実施状況実態調査委託事業)」(甲A10)
ある■卸売業者は、ヒアリングに対し、■とっては■であり、卸売業者に■となっている。」などと回答している。
b ■卸売市場による■卸売市場条例の改正に際しての意見募集に対する意見(甲A12)
ある卸売業者は、「現在、出荷者の大型組織化に伴う指値と、同じく大型化するスーパー量販店への販売価格の差額が卸売会社における販売損失理由の大半を占めており、その損失額は各会社共に年々膨らんでいく一方です。」などという意見を寄せている。
(2) 事実認定の補足説明 (証言等の信用性)
ア 被告は、販売日の当日に本件各取引先から販売価格の希望が伝えられていた旨の証人■の証言について、■の陳述書(甲A50、54)には販売日の前日に伝えられると記載されており、食い違っていて信用できない旨主張する。しかし、上記陳述書は、別の従業員が担当し■が決裁に関与した取引について、資料の記載に沿って説明するものであり、他方、証人尋問における証言は、自ら担当者として担当した取引の経験についての証言といえ、必ずしも矛盾するものではない。なお、■が調査対象者となっている調査報告書 (甲A35の2) によると、■は、販売日の午前中に、交渉相手の担当者へ電話で販売の状況を連絡すること、売れ残っている場合、指値単価はその日その日の電話で決まることなどを供述しており、これらの供述内容は、おおむね上記証言内容に沿うものと解される。
また、被告は、本件各取引先に対して概括的な販売状況を伝えることがあった旨の証人■の証言について、様々な論拠を挙げて、その証言内容は不自然・不合理であり、信用することができない旨主張する。しかし、売れ行きが悪い場合に、相手方との関係性なども踏まえ、概括的な販売状況を伝えることがあったとしても何ら不自然ではなく、上記証言に信用性がないとはいえない。
イ 被告は、販売日の朝に本件各取引先の担当者と連絡を取り、販売価格を報告し、仕切価格について交渉するとの証人■の証言について、■の陳述書(甲A56)では、販売日前日までに産地要請価格が存在しており、販売価格が決まると本件受託品事故損の額も決まる旨説明しているなどとして、■の上記証言は信用できない旨主張する。しかし、■等の入荷は毎日続くのであり、産地要請価格が基本的に市況価格に準ずるとすれば、販売日の前日の市況価格をもって産地要請価格とする場合と、販売日の当日の市況価格をもって産地要請価格とする場合とで、実際上それほど大きな差異はないようにも思われる。また、証人■の証言は、自ら担当した取引の経験に基づくものであるところ(証人■13頁)、他の従業員が■と同じやり方をしているとは限らないのであるから、上記のような相違をもって、証人■の証言の信用性を否定するには足りない。なお、証人■の証言は、平成24年ないし平成25年頃の経験を基にするものと考えられるが(証言時の十二、三年前。証人■13頁)、本件で対象となっている平成27年ないし平成31年とは数年しか違わないから、■のやり方のように、販売後の仕切価格の交渉において、実際の販売価格を本件各取引先の担当者に伝えることが全くなくなったとは考え難い。
また、被告は、■の上司である■は、本件各取引先に対し、仲卸業者等への販売価格を連絡することはない旨供述しており (乙18)、証人■の証言はこれと整合しないなどというが、本件各取引先との仕切価格の交渉において、実際の販売価格を知らせるかどうかは、担当者や商品によって異なっていても不自然ではないから、他の者の供述と整合しないからといって、直ちに証人■の証言の信用性が否定されるものではない。
ウ 被告は、■の事例、■の事例及び■の事例に係る顛末書や録音等(甲A60〜64)について、固有名詞が明らかにされず、録音された会話の前後の内容・状況が判断できないから、信用できない旨主張する。
しかし、本件各取引先が希望価格で仕切られなかったことを理由に出荷を停止するなどすることは、優越的地位の濫用として独占禁止法違反に該当し得る行為であるから、これを明らかにすることは本件各取引先との関係悪化を来すおそれがあり、原告がトラブルの相手方の固有名詞を明らかにしないことは、やむを得ない面がある。また、上記録音は、ある程度会話の前後の内容・状況を理解することができるし、虚偽であることを疑わせるような不自然さも特に見当たらない。さらに、証人■(7〜9、27頁)、証人■(8〜10、29、30頁) 及び証人■(7〜10、21〜23、25〜30頁)も、取引先の希望価格で仕切らなかった場合等に、出荷を停止されたり出荷量を減らされたりしたことがあった旨証言しており、これらの証言は、上記顛末書等の内容に沿うものである。したがって、上記顛末書等は、被告の上記主張を踏まえても、おおむね信用するに足りる。
さらに、被告は、仮に本件各事業年度において出荷停止等のトラブルが存したのであれば、これに係る録音や顛末書を本件訴訟や税務調査において提出するのが自然であるが、そのような録音等が提出されていないことからすると、本件各事業年度において、本件各取引先等との間で出荷停止等のトラブルがなかった旨主張する。しかし、原告がこのようなトラブルを明らかにすることは、取引先との関係を悪化させるおそれがあるし、裁判所の求釈明により上記顛末書等が提出された経緯からしても、原告の一連の対応は不自然なものではなく、上記期間において出荷停止等のトラブルがなかったことが推認されるものではない。被告の主張は採用することができない。
2 寄附金の意義
法人税法37条1項は、内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額の合計のうち、事業年度終了時の資本金等の額又は事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、同条7項は、この寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨規定する。
ここで、法人税法が一定の金額を超える寄附金の額を損金の額に算入しないものとする制度を設けているのは、法人が支出した寄附金の全額を無条件で損金の額に算入するとすれば、国の財政収入の確保を阻害するばかりではなく、寄附金の出捐による法人の負担が法人税の減収を通じて国に転嫁され、課税の公平上適当でないことから、これを是正することにあると解される。他方で、法人が支出する寄附金には、それが法人の収益を生み出すのに必要な費用としての側面を有するものもあり、当該支出が費用の性質を有するか、又は利益処分の性質を有するかを客観的に判定することは困難であるため、法人税法は、行政的な便宜及び公平の維持の観点から、統一的な損金の額に算入することができる金額の限度額を設け、寄附金のうちその限度額の範囲内の金額を費用として損金の額に算入することを認め、それを超える部分の金額を損金の額に算入しないことにしたものと解される。
このような寄附金の損金算入限度額の制度趣旨からすると、法人税法37条1項の「寄附金」とは、民法上の贈与に限られるものではなく、経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡又は経済的な利益の供与をいうものと解される。そして、ここにいう「経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡又は経済的な利益の供与」とは、①金銭その他の資産又は経済的な利益を対価なく他に移転する場合であって(対価性要件)、②その行為について通常の経済取引として是認することのできる合理的な理由が存在しないもの(合理性要件)をいうと解するのが相当である。
3 検討
(1) 本件増仕切単価で仕切る合意の有無について
ア 認定事実ウ (ア)のとおり、仕切価格の決まり方については、①仲卸業者等への販売金額が決まる前(出荷時等)に、本件各取引先から何らかの価格(単価)又は指標が明示又は黙示に示され、仲卸業者等への販売後、特段の交渉なく原告が上記価格等に基づく金額を仕切価格とする場合と、②仲卸業者等への販売金額が決まった後に、原告の担当者が本件各取引先の担当者と何らかの交渉を行い、具体的な仕切価格が決まる場合がある。
自由、①の場合の例として、■及び■担当執行役員の■は、「通常、担当者が集荷のため出荷者に電話し、担当課長が価格交渉を行います。・・・・産地から『市況に合しといて。』との要請があり、市況情報を基に価格を決めています。」などと説明し、■担当執行役員の■も、「電話で各担当者が■などの相手先の担当者と話をし、その情報を上司(管理職:課長等) へ報告します。管理職は、その情報をもって相手先担当者と価格交渉を行い決定しています。」などと説明している(認定事実ウ(イ))。そうすると、事前に価格等が示されるやり取りには様々なニュアンスのものがあると思われるが、少なくとも、上記説明のように原告と本件各取引先とが「価格交渉」を行い、具体的な価格を決める場合においては、本件各取引先との関係性ややり取りの内容等によっては、その決定された価格は、単なる販売価格の希望、要望としての性質を超え、事実上の指値(仕切価格の下限)としての意味を有する場合があると考えられる(事実上の指値の慣習の存在については、認定事実カ (ア) の業界紙の記事等の内容も参照)。そして、このような事実上の指値の合意は、非公式なものではあるが、当事者間において一定の拘束力を有し、その信頼関係を維持する上で、特段の理由なく一方的に破棄することはできないものと解される。
また、②の場合につき、■担当執行役員の■は、「産地との間の『仕切価格』については、その日の商品が全て売れ終わった時点で、産地と交渉して決めます。」などと説明し、■次長の■は、販売日■の午前■頃から午前■頃までの間に、販売状況を大まかに伝えるなどし、仕切価格について交渉している旨説明し、■部長の■も、販売日の朝に本件各取引先の担当者と連絡を取り、仲卸業者等への販売価格を報告し、仕切価格について交渉している旨説明している(認定事実ウ(ウ))。このように、②の場合においては、仲卸業者等への販売金額が決まった後に、具体的な仕切価格を本件各取引先と交渉して決めるというのであるから、その際の交渉と価格決定は、販売金額の報告とは明らかに性質を異にし、仕切価格を別途合意する趣旨のものというべきである。そして、この仕切価格の合意も、事実上の指値の合意の場合と同様、非公式なものではあるが、当事者間において一定の拘束力を有し、その信頼関係を維持する上で、特段の理由なく一方的に破棄することはできないものと解される。
イ (ア) これに対し、被告は、本件受託品事故損の負担は、原告と本件各取引先との間の契約に基づく義務の履行ではないと主張し、その根拠として、①本件受託約款や本件売買基本契約書等に本件受託品事故損の負担についての定めがない、②本件売買仕切書にも本件受託品事故損の負担に係る記載がない、③送り状等にも本件受託品事故損の負担をうかがわせる記載がないことなどを指摘する。
しかし、上記アの事実上の指値の合意や仕切価格の合意は、飽くまでも口頭で行われる非公式なものであって、本件受託約款等に本件受託品事故損の負担について定めがないからといって、その存在が否定されるものではないし、本件売買仕切書や送り状等に記載がないからといって、その存在が否定されるものでもない。かえって、原告が平成12年に大阪国税局に提出した書面(甲A9)に、「出荷者との口頭約定により指値による取引を行っていましたが」と記載されていることや、全国津々浦々で事実上の指値や増し仕切の慣習が存在する旨の業界紙の記事等(認定事実カ(ア)) からすれば、数十年以上前から、口頭で行われる非公式の「事実上の指値」の慣習が存在したことは明らかである。被告の上記主張は採用することができない。
(イ) また、被告は、本件各取引先が原告に対して述べる希望販売価格は飽くまで要請や要望であり、法的拘束力はないと主張する。
確かに、上記アの事実上の指値の合意や仕切価格の合意は、飽くまでも口頭で行われる非公式なものであり、本件受託約款17条の正式な「指値」でないことはもちろん、独占禁止法違反となる可能性もある合意であることから、その合意に、正式な契約としての法的な強制力や拘束力があるとは断じ難い。しかし、そうであるからといって、交渉を通じて決定される価格が全て要請や要望にとどまるとは考え難いし、実際に合意があると認められるものについては、特段の理由なく一方的に破棄することはできないというべきであり、そのような意味での事実上の強制力や拘束力はあるというべきである。
(ウ) さらに、被告は、本件各取引先から伝えられる価格 (被告のいう産地伝達価格)は常に存在するものではなく、原告は、産地伝達価格の存否にかかわらず、本件増仕切単価を決定していると主張し、その根拠として、■係長の■の供述(乙13)や、■チームリーダーの■の供述(乙14) などを挙げる。また、被告は、本件増仕切単価は産地伝達価格と一致するものではなく、本件増仕切単価の額は原告の任意の判断に委ねられていると主張する。
しかし、明確な産地伝達価格が存在しない場合や、産地伝達価格が単なる希望販売価格の域を出ない場合(事実上の指値とは評価し得ない場合)もあると考えられるが、常にそうであるとはいえず、本件各取引先との関係性等によっては、産地伝達価格をもって事実上の指値と評価すべき場合はあり得るというべきである。また、本件各取引先から「指示」されたものではなくとも、その関係性ややり取りの内容等から、あるいは暗黙の了解として、事実上の指値の合意と評価すべき場合もあり得るといえるし、担当者や担当部署によって方針等は異なると考えられるから、被告が指摘する■の供述は、このような認定に矛盾するものではない。さらに、産地伝達価格と本件増仕切価格が一致しないものがあるとしても、その取引における産地伝達価格が「事実上の指値」ではなかったということにすぎず、産地伝達価格をもって事実上の指値と評価すべき場合があり得ることが否定されるものではない。被告の上記主張は採用することができない。
(2) 本件差額の負担に係る本件各取引先の認識の有無について
ア 事前に価格等が示される場合 (①の場合)
仲卸業者等への販売金額が決まる前 (出荷時等)に、本件各取引先から何らかの価格又は指標が明示又は黙示に示され、仲卸業者等への販売後、特段の交渉なく原告が上記価格等に基づく金額を仕切価格とする場合 (①の場合)について、原告の担当者は、仲卸業者等に販売した後、本件各取引先に対し、実際の販売価格は伝えていなかった旨供述しており(例えば、■につき甲A35、乙12、■につき甲A36、乙15)、少なくとも本件の証拠関係の下では、本件各取引先においては、原告が本件差額を負担していることやその金額について、個々の取引ごとの認識はなかったと認められる。
しかし、受託物品の販売価格は、市場の需要と供給によって定まるものであり、伝えられた価格等が市況に合致するものであったとしても、常にその金額で売買されるとは限らず、そのことは、価格等を伝えた本件各取引先においても、当然に認識していたはずである。そして、日々取引が続いていく中で、価格交渉等により決まった価格を下回る仕切価格となることがなければ、特に説明されなくとも、原告が本件差額を負担しているものがあること(本件増仕切取引があること)は容易に察しがつくことである。しかも、全国で事実上の指値や増し仕切の慣習が存在する旨の業界紙の記事等(認定事実カ (ア)) からすれば、卸売業者が仕切価格と販売価格との差額を負担することがあることは、本件各取引先を含め、市場関係者の間では広く知られていたものと推認されるし、本件各取引先の中には、希望販売価格で売れなければ原告が差額を負担することを暗黙の前提又は条件として、具体的な価格(事実上の指値)を示していたことがあると推認される。
これらの点からすると、①の場合のうち、本件各取引先が原告に伝えた価格が事実上の指値の意味を有する場合において、本件各取引先は、日々継続する取引の中で、原告が本件差額を負担していることがあるという限度の認識は有していたと認められる。
イ 販売後の交渉で仕切価格が決まる場合 (②の場合)
仲卸業者等への販売金額が決まった後に、原告の担当者が本件各取引先の担当者と何らかの交渉を行い、具体的な仕切価格が決まる場合(②の場合)について、■次長の■は、本件各取引先が希望する価格が販売単価を大きく上回る場合、「3桁の販売になっています。」などと販売状況を大まかに伝えるなどしていたというのであり、また、■は、仕切価格を交渉する際、具体的な販売価格を伝えていたというのである(認定事実ウ(ウ))。そうすると、原告の担当者が、仕切価格の交渉において上記のような対応をしていたものについては、本件各取引先は、実際の販売金額と仕切価格が異なること(本件受託品事故損が生じていること)を当然に認識していたと考えられる。
他方、仕切価格の交渉において、実際の販売価格を伝えていなかった場合(例えば、■は、大阪国税局の職員に対し、「販売単価は、その時々の状況で言うときもあるかもしれないが、(基本的に) 販売単価を言わない」と供述している。甲A35)、原告が申し出た仕切価格に対し、本件各取引先の担当者が「安すぎる」などと述べて仕切価格が増額された場合は、その担当者において、原告が本件差額を負担していることは当然認識しているはずである。また、そのような場合でなくとも、本来、仕切価格について原告が本件各取引先の承諾を得たり交渉したりする必要はないのに、そのようなやり取りが行われている以上、本件各取引先は、事前に価格等が示される場合 (①の場合)と同様、日々継続する取引の中で、原告が本件差額を負担していることがあるという限度の認識は有していたと考えられる。
(3) 本件差額の寄附金該当性について
ア 金銭その他の資産又は経済的な利益を対価なく他に移転する場合であるか否か(対価性要件)について
(ア) 原告は、本件増仕切取引において、本件各取引先に対して本件受託品事故損を負担する一方で、本件各取引先からそれに対する受託手数料(過大受領手数料)を受け取っている。
しかし、過大受領手数料は、本件受託品事故損の■%又は■%にすぎず(前提事実 (2) ア)、また、本件受託品事故損の金額から過大受領手数料を差し引いた本件差額が、原告から本件各取引先に支払われるものであること(すなわち、過大受領手数料は計算上のものにすぎず、実質的には、原告が本件受託品事故損から過大受領手数料を差し引いた本件差額を支払っているにすぎないこと)からしても、原告は、過大受領手数料を受け取るために本件受託品事故損を負担しているわけではない。したがって、過大受領手数料をもって、本件受託品事故損の直接の反対給付(対価)とみることはできない。
(イ) 原告は、本件差額を負担することにより、本件各取引先から継続的に■等の販売委託を受けて販売手数料を得ることができているなどとして、本件各取引先からの安定的な商品の供給が本件差額の負担の対価である旨主張する。
しかし、原告が本件差額の対価として主張する「安定的な商品の供給」の具体的な内容(供給に係る期間、数量等)は不明確であり、漠然とした抽象的なものであるから、本件差額の負担に対する直接の反対給付と位置付け得るようなものとはいえない。また、本件各取引先が、原告が本件差額を負担することと引き換えに、「安定的な商品の供給」を保証する旨を約束したり、商品の供給に当たり何らかの便宜を図る旨を約束したりしたことを裏付ける証拠もない。
したがって、本件各取引先からの「安定的な商品の供給」が、本件差額の負担の対価であるとはいえない。
(ウ) 以上によれば、本件差額の負担は、何らかの対価の受領を伴うものではなく、金銭その他の資産又は経済的な利益を対価なく他に移転するものであると認められる。
イ その行為について通常の経済取引として是認することのできる合理的な理由が存在しないものであるか否か (合理性要件) について
(ア) 本件■市場の開設者である■市の定める条例等では、売買仕切書には卸売決定価格を正確に記載しなければならない旨規定されており、希望販売価格と販売価格との差額を「受託品事故損」とする旨の定めはない(認定事実ア(ア))。また、本件各取引先との間の取引に適用される本件受託約款や売買基本契約書の条項においても、売買仕切書には販売価格を記載することとされ、本件受託品事故損に関する定めはない(同(イ))。このように、本来、仕切価格は、実際の販売金額と一致すべきものである。また、卸売業者である原告にとって、本件各取引先は飽くまでも■等の販売委託に係る取引相手にすぎず、個々の取引単位で考えれば、希望販売価格を下回る販売価格になった場合であっても、その販売価格をそのまま仕切価格とする方が利益は大きくなるのであり、本件差額を負担することにつき原告に経済的な合理性はないはずである。
しかし、このように本来予定されておらず、第三者である本件各取引先との関係であえて損失を受け入れる取引を、営利企業である原告が数十年以上にわたり行ってきたのは、■等の卸売という取引の構造上、そのようにせざるを得ない理由があったからであると考えるのが自然である。
すなわち、原告は、■等の販売を受託してその販売手数料を得ている立場であるため、■等の販売委託が少なくなれば、手数料収入もそれに応じて少なくなる関係にあり、さらに、■等の品揃えが少なくなれば、仲卸業者等の需要に応えられなくなり、他の業者や他の市場に販売先(シェア) を奪われてしまうおそれもある (甲A20、証人■8、9頁等参照)。そのため、原告は、本件各取引先(■等)から、■等の販売委託を安定的に受け続ける必要があり、このことは、原告が事業を継続していく上で非常に重要なことと考えられる。他方、本件各取引先(■等)においても、ある■等について、どの卸売業者にどの程度の販売委託をするかは自由に決めることができるから、■等が■等を■できるよう、なるべく高い金額で販売してくれる(あるいは仕切ってくれる) 卸売業者への販売委託(出荷)を優先し、希望販売価格を下回るような価格でしか販売できない卸売業者を避けることは、ごく自然なことである。このような原告と本件各取引先との基本的な立場や関係に加え、商品の市場占有率やブランド力なども含め原告と本件各取引先との関係性は様々であると考えられることや、事実上の指値や増し仕切の慣習の存在は市場関係者にも広く知られていると考えられることも考慮すると、本件各取引先との円満な取引関係を維持し、販売委託の停止や受託物品の減少を避け、商品の安定的な供給を受けるためには、本件各取引先と事実上の指値の合意又は仕切価格の合意をし、その結果生じた本件差額を負担することも、原告の立場上必要やむを得ない場合があったと認めるのが相当である。
このことは、令和5年及び令和7年の事例ではあるが、本件各取引先が、原告の仕切価格に不満を有する場合(■の事案)、販売単価の引下げを打診されたことに不満を有する場合(■の事案)及び販売開始時期につき申出を拒否された場合(■の事案)につき、実際に原告への出荷を停止したり出荷量を減らしたりしている事例があること(認定事実オ)からも、裏付けられているというべきである。
(イ) なお、本件各増仕切取引には様々なものがあり、その中には、原告が、市況価格を下回る価格でしか販売できなかった場合に、本件各取引先との価格交渉や具体的な求めがないのに、自発的に市況価格に合わせる形で仕切価格を設定するといったようなものあり得る(乙13、14など)。そして、そのような取引については、原告と本件各取引先との間に、事実上の指値の合意や仕切価格の合意がないことはもちろん、本件各取引先においても、実際の販売価格が仕切価格であると思っており、原告が、本件受託品事故損を自発的に負担しているとは全く認識していないこともあると考えられる。このような場合、原告は、市況価格を下回る価格でしか売ることができないという販売力の弱さを隠すため、原告の判断で一方的に本件差額を負担しているにすぎないというべきであるし、本件各取引先においても、本件差額の負担等に係る特段の認識はないと考えられる。そうすると、このような場合については、本件差額の負担と商品の安定的な供給との関連性は希薄といわざるを得ず、本件差額の負担につき、通常の経済取引として是認することができる合理的な理由があるとはいい難い。
しかし、上記(2)のとおり、本件増仕切取引の中には、本件各取引先との関係性や具体的なやり取り等によっては、事実上の指値の合意や仕切価格の合意がある場合があり、そのような取引においては、原告は、自己の判断で一方的に本件差額を負担しているとはいえないし、本件各取引先においても、少なくとも原告が本件差額を負担していることがあるという限度の認識は有している。そうすると、このような場合については、本件差額の負担と商品の安定的な供給との関連性は十分にあるといえ、本件差額の負担につき通常の経済取引として是認することができる合理的な理由があるというべきである。
(ウ) 以上によれば、本件増仕切取引のうち、少なくとも事実上の指値の合意や仕切価格の合意がある場合については、原告は、本件各取引先との円満な取引関係を維持し、販売委託の停止や受託物品の減少を避け、商品の安定的な供給を受けるため、本件差額を負担する必要があったというべきである。
したがって、少なくとも上記のような場合については、原告が本件差額を負担することにつき、通常の経済取引として是認することのできる合理的な理由が存在しないとは認められない。
4 合理性要件に関する被告の主張について
(1) 被告は、本件各取引先が、日々の仲卸業者等への販売価格によって原告に対する受託物品の数量を調整するものではないから、本件受託品事故損の負担と受託物品の減少との間に関連性はないなどと主張し、これに沿う証拠として、本件各取引先の担当者の供述(乙22〜27)を挙げる。
しかし、本件各取引先の担当者としては、独占禁止法の問題もあり、その立場上、事実上の指値をあらかじめ伝えているなどと供述することはできないし、販売価格 (仕切価格)が低ければ受託物品の数量を減らすとも供述しにくいと考えられる。また、これらの担当者の供述においても、高く売れる市場への出荷を優先することがあることは、必ずしも否定されておらず、例えば、「(相場より安い価格で取引された場合) 基本的には市場からの注文に沿った数量を出荷していますが、出荷量が少ない時などは高く売れる市場に出荷することはあります。」(乙22)、「(相場よりも安い価格で取引されていた場合) 日々の流れの中で、その時々に■者からの集荷量によって、多少の調整をすることはあります」 (乙24)、「■に伝えた希望価格を下回って販売された場合、他の価格がいい市場へ出荷することは) 多少はあります。」 (乙26) といった供述がみられる。
したがって、本件各取引先が、日々の仲卸業者等への販売価格によって原告に対する受託物品の数量を調整することは十分あり得るといえ、本件受託品事故損の負担と受託物品の減少との間に関連性がないとは認められない。被告の上記主張は採用することができない。
(2) 被告は、■の事例、■の事例及び■の事例に関する顛末書や録音等(甲A60〜64)について、信用性を欠く旨主張するとともに、これらの取引は令和5年又は令和7年のものであり、平成28年3月期ないし平成31年3月期の期間の取引の状況を推認させるものとはいえないと主張する。
しかし、上記顛末書等が信用できることは、事実認定の補足説明(前記1(2) ウ)で説明したとおりである。また、確かに、平成30年頃と令和5年ないし令和7年頃とでは、必ずしも近接した期間とはいえないが、原告においては、数十年以上前から本件受託品事故損の負担を行ってきたのであり、本件各取引先(■等) と原告との関係は、根本的なところでは大きく変わらないものと考えられる。証人■(7〜9、27頁)、証人■(8〜10、29、30頁)及び証人■(7〜10、21〜23、25〜30頁)も、取引先の希望価格で仕切らなかった場合等に、出荷を停止されたり出荷量を減らされたりしたことがあった旨証言しており、平成28年3月期ないし平成31年3月期においても、上記顛末書等に類する事例はあったと考える方が自然である。被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、本件各取引先が原告に対して本件受託品事故損の負担を求めることや、原告が本件受託品事故損を負担しなかった場合に、原告に対する■等の出荷量を制限することは、独占禁止法に違反するおそれのある行為であり、本件各取引先がそのような違法となるおそれのある行為を行っていたとは考え難いから、原告による本件受託品事故損の負担に、■等の販売委託の引受けを維持する効果はないと主張する。
しかし、近年の業界紙の記事等では、「実際には■に卸売会社に伝える。・・・卸売会社としては■すれば、その後、■があるからだ。・・・■だ。」(甲A20)とか、「■している。」(甲A58) とされており、被告の上記主張は、建前論であって、実態に沿うものとは考え難い。被告の上記主張は採用することができない。
(4) 被告は、原告の担当者である■は、本件各取引先の希望価格に応じたとしても、将来的な集荷の保証はない旨供述しており、■は、本件各取引先の要望を断ったことによって、出荷が停止されるとか、あからさまに荷物が減るようなことはないと思う旨を供述していることから、本件受託品事故損の負担が、本件各取引先からの■等の販売委託の引受けにつながるものではない旨主張する。
しかし、これらは一部の担当者の認識にすぎないし、本件各取引先の一部が仕切価格の低さなどを理由に出荷量を調整した事例もあること(認定事実オ)や、上記(2) で掲げた証人らの証言、上記 (3) で掲げた業界紙の記事等からしても、■及び■の上記各供述から直ちに、本件差額の負担が、販売委託の引受けの維持と関係がないとはいえない。被告の上記主張は採用することができない。
(5) 被告は、原告において、本件差額の負担が、受託物品の数量の減少を避けたり、■等の販売委託の引受けにつながったりするものであるかについて、何ら検討等がされることなく決定されているから、本件受託品事故損の負担が、受託物品の数量の減少を避けたり、■等の販売委託の引受けにつながったりするものではない旨主張する。
しかし、これまでに説示したとおり、■等の卸売という取引の構造上、本件各取引先との関係性等によっては、販売委託の停止や受託物品の減少を避け、商品の安定的な供給を受けるため、本件差額を負担することが必要な場合もあると考えられ、原告がその効果の分析や検討をしていないことは、上記認定を左右するものではない。
(6) 被告は、要旨、原告は、本来実際の販売価格を記載すべき本件売買仕切書に本件増仕切価格を記載することで、本件増仕切価格で販売しているかのように装い、本件各取引先に対し、原告が他の卸売業者に負けない販売力を有していることや、本件■市場における需要が大きいように誤認させることによって、受託物品の数量を確保しようとしているものであり、本件受託品事故損もそのために生じたものにすぎないとして、本件増仕切価格を販売価格であるかのように装う取引が通常の経済的取引として是認できるようなものでないことは明らかである旨主張する。
しかし、事実上の指値の合意や仕切価格の合意がある場合については、正に合意のとおり仕切価格を記載しているものであって、本件増仕切価格を販売価格であるかのように装っているわけではない。被告の主張は、少なくとも上記の合意があるものについては、採用することができない。
5 小括
上記3 (3)のとおり、本件受託品事故損が発生する取引(本件増仕切取引)のうち、少なくとも事実上の指値の合意や仕切価格の合意がある場合については、本件差額は、合理性の要件を欠くため、法人税法37条1項の寄附金に該当すると認められない。
ところで、原告と本件各取引先との関係性や具体的なやり取り等は取引によって様々であり、本件増仕切取引には、上記のような合意があるものとないものが混在していると考えられる。しかるに、本件差額が法人税法37条1項の寄附金に該当するかどうかについては、被告側に主張立証責任があると解されるところ、本件全証拠を検討しても、本件増仕切取引のうち上記合意があるものとないものの割合は不明であり、また、個別の取引ごとに、上記合意の有無について立証されているともいえない。
そうすると、上記合意がない場合には本件差額が寄附金に該当するとしても、多数の取引に係る本件差額のうち寄附金に該当する部分と該当しない部分とを区別することはできないから、結局、その全部について寄附金に該当するとは認められない。
第4 争点2(本件受託品事故損が課税仕入れに係る支払対価の額に該当するか否か)についての当裁判所の判断
1 課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける旨をいうところ (消費税法2条1項12号)、消費税法30条1項の「課税仕入れに係る支払対価の額」とは、資産の譲受け等と支払との間に、少なくとも対応関係がある、すなわち、具体的な資産の譲受け等があることを条件として対価が収受されるといい得ることが必要と解される。
2 原告は、本件増仕切取引において、本件各取引先に対して本件受託品事故損を負担する一方で、本件各取引先からそれに対する受託手数料(過大受領手数料)を受け取っている。
しかし、この過大受領手数料は、計算上のものにすぎず、実質的には、原告が本件受託品事故損から過大受領手数料を差し引いた本件差額を支払っているにすぎないといえ、過大受領手数料の支払をもって、本件受託品事故損の対価とみることはできない(上記第3の3(3))。また、安定的な商品の供給といった漠然とした抽象的な利益を、本件受託品事故損の対価とみることもできない(同上)。
なお、事実上の指値や仕切価格の合意がある場合につき、本件受託品事故損が課税仕入れに係る支払対価の額に該当すると解する余地があるとしても、課税仕入れに係る支払対価の額の主張立証責任については、消費税の課税標準が課税資産の譲渡等の対価の額とされ(消費税法28条1項)、これに基づいて算出された消費税額から仕入れに係る消費税額を控除する(同法30条1項)ことからすると、仕入れ税額控除を求める原告が負うものと解されるから、上記第3の5と同様の理由により、本件受託品事故損の全体につき、課税仕入れに係る支払対価の額に該当するとは認められない。
3 以上によれば、本件受託品事故損が、課税仕入れに係る支払対価の額に該当するとは認められない。
第5 争点3(本件合併による本件未処理欠損金額の引継ぎについて、法人税法132条の2の適用による否認をすることができるか否か)についての当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 旧■について
■グループの主要な子会社は、旧■、■、■及び■の4社であった。
旧■は、原告がもともと営んでいた輸入■事業(本件事業)の譲渡を受けてこれを営んでいたが、平成16年に輸入■の■の■の■が発覚して■の■を受けた。これにより、旧■の売上は減少し、平成18年3月期以降、経常利益及び税引き前利益が頻繁に赤字になり、欠損金額が積み上がっていくこととなった。
本件未処理欠損金額は、旧■の平成21年3月期以降に発生した未処理欠損金額であり、平成31年3月期以降、順次損金算入することができなくなることが見込まれた(法人税法57条1項本文、平成27年法律第9号附則27条1項参照)。(以上につき、甲A4、B2〜7、34、乙3、証人■21頁)
(2) ■グループの組織再編成の検討
ア 原告は、■グループの各子会社の独立性が高いため、原告の指揮命令が各子会社に十分に行き渡らず、各子会社の連携も取れておらず、グループ全体のまとまりが取れていないと感じており、平成18年には、原告を持株会社とする組織再編成を検討し始めた。しかし、原告の持株会社化にはデメリットが多いということで、平成19年にその検討は取り止めとなった。(甲B9、10、29、37、証人■21〜23頁)
イ もっとも、原告は、その後も■グループ全体のまとまりが取れていないという課題があると考えていた。
そこで、原告は、■の発行済株式総数の83.4%を保有していたが、平成24年11月7日までに、個人株主が保有していた■の株式(発行済株式総数の13.1%)を購入代金合計1110万円で購入し、平成25年1月31日までに、■が保有していた■の株式(発行済株式総数の3.5%)を購入代金300万円で購入した。これにより、■は、原告の100%子会社となった。(以上につき、甲B11-1〜4、29、37、証人■23頁)
(3) ■コンサルチームからの説明内容等
ア 原告は、その後も、旧■と■の株式の持合いを解消して原告の100%子会社とすることや、個人株主から■の株式を買い取ることを検討しており、平成25年12月ないし平成26年1月には、旧■保有の■の株式、■保有の旧■の株式及び個人株主保有の■の株式を、いずれも原告が買い取ることが相当であると判断した。
そのような中、原告の代表取締役社長の■は、平成26年頃、■長から、組織再編成のコンサルティングを行うことができるとの提案を受けた。そこで、原告は、■、原告の管理部門担当常務取締役(当時)の■及び執行役員財務部長(当時)の■の3人で検討チームを組み、■法人マーケティング部■コンサルティングチーム(■コンサルチーム) からアドバイスを受けるようになった。(甲B11-5〜11-7、29、乙31、32、証人■23〜24頁)
イ ■コンサルチームは、原告に対し、平成26年7月31日付けディスカッションペーパーに基づいて説明をした。このディスカッションペーパーには、論点の一つとして子会社の再編が掲げられており、旧■が原告の100%子会社となった場合の■子会社化の方法の例として、旧■保有の■の株式(発行済株式総数の55%)を旧■から原告に適格現物分配し、原告と■の株主が株式交換する方法が図で説明されている。(甲B12-1)
ウ ■コンサルチームは、原告に対し、平成26年8月29日付けディスカッションペーパーに基づいて説明をした。このディスカッションペーパーには、論点として、①旧■と■の株式持合いの解消や、②■の子会社化などが掲げられている。
上記ディスカッションペーパーでは、上記①について、■が■の株式を自己株式取得し、旧■が■保有の旧■の株式を自己株式取得する方法が説明されている。また、引き続いて、「■の組織再編」として、上記自己株式取得により旧■が原告の100%子会社となり、旧■には約14億円の繰越欠損金があるところ、旧■は、収益力の向上を目的として、■卸売事業に関して有する権利義務を、新設する新■に承継させるために会社分割を実施すること、その後旧■の残余財産が確定した場合には、旧■が清算し、旧■の14億円の繰越欠損金は親会社に引き継がれることが説明されている。なお、「子会社の未処理欠損金額は親会社に引き継ぐこととなる」という記載には下線が引かれている。
また、上記ディスカッションペーパーでは、上記②について、旧■保有の■の株式を原告に現物分配する方法と、同株式や借入金を旧■から原告に吸収分割する方法が説明されている。(以上につき、甲B12-2)
エ ■コンサルチームは、原告に対し、平成26年9月12日付けディスカッションペーパーに基づき、おおむね同年8月29日付けディスカッションペーパー (上記ウ)と同内容(ただし、上記ウの②については、現物分配する方法のみ)を説明するとともに、「●繰越欠損金の活用」から始まる書面に基づき、組織再編に係る法人税の節税効果と経費を説明した。
「●繰越欠損金の活用」から始まる書面には、旧■の繰越欠損金を原告が引き継ぐ場合のシミュレーションとして、その繰越欠損金14億円に税率35.64%を乗じると5億円の「法人税効果」があること、組織再編成に係る税金の合計が100万円、スキーム実行に関する経費の合計が4200万円(コンサルティング手数料3600万円含む。)であり、これらの合計 (4300万円)から経費支払による法人税効果1500万円を控除すると、経費は2800万円となること、旧■の繰越欠損金による法人税効果5億円と経費2800万円との差額は4億7200万円であることが記載されている。(以上につき、甲B12-3、5)
オ ■は、平成26年9月22日付け「■グループ会社の資本政策、組織再編の検討について」と題する稟議書を作成し、■との間でコンサルティング業務委託契約を締結することを提案し、原告の社内決裁を得た。
上記稟議書には、■が旧■保有の■の株式を自己株式取得して原告に現物分配し、旧■が■保有の旧■の株式を自己株式取得して原告に現物分配すること、旧■が原告からの貸付金をもって個人株主の保有する■の株式を時価より安く購入して原告に現物分配することが記載されている。また、この稟議書には、業務委託契約を締結するメリットとして、「■の完全子会社化と、法人グループ税制により■の繰越欠損金(121,400万円)を■に移して■の所得から控除することによる節税効果と、新生■として、再スタートが可能となる。」と記載されている。さらに、この稟議書には、原告から旧■への貸付金2億6200万円を、旧■の会社分割時に子会社支援として寄付し、「欠損金引継ぎ時のロジックに活用」すると記載されている。
そして、原告(委託者)は、平成26年9月24日付けで、■(受託者)との間で、■が原告に対して①組織再編の検討及び②資本政策の策定の役務を、コンサルティング手数料2700万円(税別)で提供するコンサルティング業務委託契約を締結した。(以上につき、甲B13)
カ ■コンサルチームは、原告に対し、平成27年1月14日付け「資本政策・組織再編に関する説明資料」に基づく説明をした。
この説明資料には、今後の実施事項として、①旧■が個人株主から■の株式を買い取ること、②旧■が■から旧■の株式を自己株式取得すること、③旧■が保有する■の株式を原告に現物分配すること、④■が保有する■の株式を原告に現物分配すること、⑤旧■を会社分割すること、⑥原告が旧■を吸収合併することが掲げられていた。
そして、上記説明資料では、上記①について、旧■が原告からの借入金をもって個人株主から■の株式を買い取ること、その買取金額は時価より低いため、その差額を旧■において受贈益として計上するが、旧■には繰越欠損金があるため、課税されないことが説明されている。
また、上記説明資料では、上記②について、旧■が原告から資金調達して■保有の旧■の株式を自己株式取得することが説明されている。
さらに、上記説明資料では、上記⑤及び⑥について、旧■は、収益力の向上を目的に、■輸入事業(本件事業)に関して有する権利義務を新■に承継させるために会社分割をするが、繰越欠損金は旧■に残すこと、その後、原告は、旧■を吸収合併し、本件未処理欠損金額を引き継ぐことが説明されている。なお、上記⑥について、上記ウ及びエのとおり、当初は旧■を清算する方法が説明されていたが、旧■を会社分割と同日に清算する場合には、完全支配関係継続要件を満たさずその会社分割が非適格分割となることが判明し、原告が旧■を吸収合併する方法が説明された。(以上につき、甲B12-6)
キ ■コンサルチームは、原告に対し、平成27年2月19日付け「資本政策・組織再編に関する説明資料」に基づく説明をした。
この説明資料の内容は、おおむね平成27年1月14日付け説明資料(上記カ)と同じであるが、未定とされていた株式の買取予定金額(上記カの①②) が記載されるなどしている。(以上につき、甲B12-7)
ク ■コンサルチームは、原告に対し、平成27年3月27日付けディスカッションペーパーに基づく説明をした。
このディスカッションペーパーの説明内容は、おおむね平成27年1月14日付け説明資料 (上記カ)と同内容であるが、旧■による個人株主からの■の株式の買取り (上記カの①) の説明において、旧■が平成26年3月末時点で14億3500万円の繰越欠損金を有し、うち2億2100万円が平成27年3月末をもって損金算入することができなくなることが説明されている。(甲B12-8)
(4) 本件組織再編成以前の■グループの再編等
ア 旧■による■の株式の取得 (前提事実 (3) ウ(イ))
旧■は、平成27年2月20日、■の個人株主■ら3名から、その保有する■の株式(発行済株式総数の21%)を、代金合計1億6590万円で購入した。旧■は、同日、原告から、上記株式購入代金のうち1億6000万円を借り入れた。
イ 旧■の100%子会社化(前提事実(3)エ(イ))
旧■(買主)は、平成27年3月10日までに、■保有の旧■の株式(発行済株式総数の20%)を代金1億5648万円で自己株式取得した。これにより、旧■は原告の100%子会社となった。旧■は、同日、原告から、上記株式購入代金のうち1億4000万円を借り入れた。
ウ ■の100%子会社化(前提事実(3) イ(イ))
原告は、平成27年3月19日、旧■から、その保有する■の株式(発行済株式総数の25%)を剰余金の配当として受け取った。その結果、■は、原告の100%子会社となった。
エ ■の株式の現物配当(前提事実 (3) ウ(ウ))
原告は、平成27年3月28日、■保有の■の株式(発行済株式総数の30%)を剰余金の配当として受け取った。これにより、原告は、本件組織再編成の直前において、■の発行済株式総数の79%を保有し、その余の■の株式は、旧■が保有していた(上記ア)。
オ 原告の減資(甲B21、29、乙31答14、34、38)
原告の資本金額は、もともと1億4500万円であったが、資本金額を1億円以下とすることにより、繰越欠損金の損金算入限度額が増加する(法人税法57条1項、11項1号イ参照)などの税務上のメリットがあることから、原告は、平成27年7月21日、資本金額を1億円に減資した。
(5) 本件組織再編成の具体的内容の検討状況
ア ■コンサルチームは、原告に対し、平成27年6月11日付けディスカッションペーパーに基づく説明をした。
このディスカッションペーパーでは、「本件合併について、「株主総会決議を省略できる再編を展望」と記載され、簡易合併として原告における株主総会決議を不要とするためには、旧■が本件分割後に資産超過であり、その資産超過額が原告における旧■の株式の簿価を超えている必要があること(会社法796条2項、795条2項参照)が説明されている。そして、一定の仮定(本件分割後に旧■に残る資産を売掛金2億円、子会社株式1200万円及び投資有価証券8000万円とし、本件分割後に旧■に残る負債を原告からの借入金3億2200万円のうち2億円と仮定)の下での、本件組織再編成による旧■及び原告の貸借対照表の変動が説明されている。(以上につき、甲B12-9)
イ ■コンサルチームは、原告に対し、平成27年7月10日付けディスカッションペーパーに基づく説明をした。
このディスカッションペーパーでは、一定の前提(本件分割後に旧■に残る資産を売掛金2億円、■の株式550万円、■の株式3億2800万円及び■に対する差入保証金3240万円とし、本件分割後に旧■に残る負債を本件借入金3億円とする前提)の下での、旧■の貸借対照表の変動が説明されているほか、「再編に向けて確認しておくべき事項」として、旧■輸入事業を新■に引き継ぐに当たり、社会保険関係、労務関係、許認可関係等について手続が必要か否かなどの確認事項が記載されている。(以上につき、甲B12-10)
ウ ■は、本件組織再編成により原告が引き継ぐ債権債務に係る決裁文書として、平成27年7月21日付け「■吸収合併による債権・債務について」と題する書面を作成した。
この書面には、本件合併を簡易合併として原告の株主総会決議を省略するためには、旧■が、原告における旧■の株式の簿価5649万4620円以上の純資産を有していなければならないとして、原告が旧■から取得する財産を本件土地3147万円、■の株式3億2823万円及び■の株式550万円とし、原告が引き継ぐ債務を本件借入金3億円とすることが記載されている。また、この書面には、繰越欠損金は旧■に残すので、本件合併により原告が引き継ぐこととなる旨記載されている。(以上につき、乙31資料5)
エ ■は、本件組織再編成の検討のため、平成27年7月24日付け「■再編計画、分社化(吸収合併による) Good Bad」と題する書面を作成した。
この書面には、本件合併を簡易合併として原告の株主総会決議を省略するためには、旧■が、原告における旧■の株式の簿価5649万4620円以上の純資産を有していなければならないとして、原告が旧■から取得する財産を本件土地3147万円、■の株式3億3373万円及び■の株式550万円とし、原告が引き継ぐ債務を本件借入金3億円とすることが記載されている。また、上記書面には、原告が旧■から本件未処理欠損金額を引き継ぐことにより、原告の税引き前利益が年3億円ないし4億円とすると3年ないし4年は無税となり、原則として当期純利益がそのまま残る旨が記載されている。(以上につき、乙33)
オ ■は、■グループの一連の組織再編成についてまとめた平成27年9月19日付け「■グループ再編計画について【主なまとめ】」と題する書面を作成した。
この書面には、■グループでは、全社が一丸となって「食の総合流通サービス企業を目指す」ことなどの目的を実行し、併せてより盤石な経営体質を構築するために、その再編計画を行うなどとして、一連の組織再編成についての説明が記載されている。そして、「新設分割の趣旨」として、旧■は吸収合併消滅会社となり解散することや、旧■と同商号の新■を新設し、新会社として新たにスタートすることなどが記載されている。また、上記書面の最後に、「税務上の繰越欠損金」として、平成20年度から平成24年度の旧■の繰越欠損金12億1457万円に平成27年度上期(本件分割以前)の損失見込み約2億円を加算すれば、その総額は14億円余りとなり、その額が今後原告の納税額計算時に控除されることになり、これにより原告がキャッシュバランス上のメリットを得ることになり、他方、■としては、過去の税務上の欠損が一掃されると共にこの圧迫感から解放され、心機一転新たなスタートを切ることができる。併せて、金融機関の好印象と信用を得られる等のメリットが生じることになる。」と記載されている。(以上につき、乙34)
(6) 旧■における検討状況(甲B30、乙31答7、乙32答12、乙37)
■グループの一連の組織再編成については、原告が、■コンサルチームのアドバイスを受けながら検討してきたものであり、旧■は、本件組織再編成や、■の株式の購入、自己株式取得及び■の株式の原告への現物配当について、あまり内容を知らず、原告の指示に基づいて実施していた。
(7) 本件組織再編成の実施
ア 旧■の商号変更(甲B2-5、19-3)
旧■は、■、その商号を■から「■」に変更した。
イ 本件分割(前提事実(3)カ(ア)、甲B2-5、2-6)
■、旧■を新設分割会社、新■を新設分割設立会社とする新設分割(本件分割)を行った。新■の本店所在地、目的及び役員は、本件分割時における旧■のそれらと同一であった。
新■は、本件分割に際し、その発行する新■の株式全部を旧■に交付したが、旧■は、同日、原告に対し、その新■の株式全部を剰余金の配当として交付した。その結果、新■は、原告の100%子会社となった。
他方、新■は、本件分割により、旧■から、本件事業に係る一切の流動資産、固定資産(■の株式及び■の株式を除く。)、商標権、負債(本件借入金を除く。)、契約上の地位、雇用契約の契約上の地位その他の権利義務を承継した。本件分割後に旧■に残された資産及び負債は、本件土地、■の株式、■の株式及び本件借入金であった。
ウ 本件合併(前提事実(3)カ(イ))
原告と旧■は、■、本件分割の効力が生じることを停止条件として、原告を吸収合併存続会社、旧■を吸収合併消滅会社とする吸収合併(本件合併)を行った。
原告は、本件合併により、旧■から、本件土地、■の株式、■の株式及び本件借入金を承継した。
これにより、■は、原告の100%子会社となり、■は、原告の子会社となり、また、本件借入金は、混同により消滅した。
(8) 本件組織再編成等についての説明
ア 旧■は、平成27年8月3日付けで、同社従業員らに対し、「当社■卸売事業に従事されている従業員の皆様へ」と題する書面を発出した。
この書面には、本件分割を行う背景及び理由として、「効率的な企業経営、グローバル化が常態化した中での迅速な経営判断や大きな視野での資本政策等、新たな時代を生き抜くための重要な施策」についての見直しの一環として、「当社■(当社の事業のすべて)」を新たに設立する新■へ承継させることにしたこと、新■の商号は「■」(従来の旧■の商号)を予定していること、旧■の従業員は新■に転籍するが、業務内容、就業場所、賃金その他の労働条件は従前と同様であり、変更の予定はないことなどが記載されている。なお、この書面には、本件分割により本件事業と繰越欠損金を切り離すこと、その後本件合併を実施し、原告が旧■から繰越欠損金を引き継ぐこと(新■には引き継がれないこと)などは記載されていない。(以上につき、甲B19-6)
イ 原告は、平成27年10月1日付けで、関係者に対し、「■グループ資本構成の見直し及び組織再編について」と題する書面を発出した。
この書面には、グループ会社株式を原告に集約し、スムーズな意思決定や経営資源の有効活用を進めることとしたことなどが記載されている。また、この書面には、付記として、完全子会社化を実施した子会社は、その保有資産のうち一部遊休土地を原告が取得した以外は、従前と変動のない状態で、更なる安定経営に尽力する旨記載されている。なお、この書面には、本件合併により原告が本件未処理欠損金額を引き継ぐことは記載されていない。(以上につき、甲B24-1)
また、原告は、平成27年10月5日、■グループの各子会社と共に記者会見を行い、上記書面と同内容の説明をした (甲B25-4、5)
ウ ■グループの社内報である「■」の平成27年12月号には、■が執筆した「再編で■グループの更なる強化を」と題する記事が掲載されている。
この記事には、平成27年3月に旧■及び■が100%子会社となったこと、今回の再編により■グループの財務体質の更なる強化を図ることが可能となることなどが記載されている。また、この記事には、本件分割について、「■には会社分割と言う煩わしい事をして頂き」と記載されており、他方、本件分割により本件事業と本件未処理欠損金額を分けること、本件合併により原告が本件未処理欠損金額を引き継ぐことは記載されていない。(甲B24-2)
2 法人税法132条の2の不当性要件該当性の判断方法について
組織再編成は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、法人税法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものである。このような同条の趣旨及び目的からすれば、同条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」 (不当性要件)とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか (考慮事情①)、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか(考慮事情②) 等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である(最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決・民集70巻2号242頁、最高裁平成28年2月29日第二小法廷判決・民集70巻2号470頁)。
3 支配関係5年超要件を満たしている適格合併に法人税法132条の2を適用することができるか否かについて
(1) 検討
ア 原告は、要旨、法人税法は、適格合併による被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎについて、租税回避行為を防止するために特別に同法57条3項による制限を加えたものであるから、支配関係5年超要件の濫用がある場合はともかく、支配関係5年超要件を充足する(同項が適用されない)適格合併に同法132条の2を適用して未処理欠損金額の引継ぎを否認することは、予定されていない旨主張する。
しかし、法人税法132条の2は、その文言上、組織再編成に係る特定の行為又は計算を否認の対象とし、あるいは否認の対象から除外することとはしておらず、支配関係5年超要件を満たしており同法57条3項が適用されない場合であっても、同法132条の2は適用されると解するのが文言上自然である。
また、前述のとおり、法人税法132条の2は、組織再編成につき、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解される(前掲最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決等)。このように、組織再編成に係る租税回避について、これを包括的に防止するための一般的否認規定が設けられているのは、立法の際に、組織再編成を利用したあらゆる租税回避行為があらかじめ想定した上で、個別的な否認規定を網羅的に設けることは、事柄の性質上困難であることによるものと解される。
このような法人税法132条の2の文言や趣旨を踏まえれば、支配関係5年超要件を満たすため同法57条3項が適用されない場合においても、個別事案の具体的事情の下において、同条2項の規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させていると認められる場合には、税務署長は、同法132条の2を適用し、未処理欠損金額の引継ぎを否認することができるというべきである。
イ なお、上記の点に関し、財務省主税局で組織再編税制の創設に関わった佐々木浩税理士は、企業組織再編税制についての座談会(平成23年11月9日)において、「個別否認規程でクリアした場合は、包括否認規定はどうなるのですか。例えば、5年たったらもういいよとなっているときに、いや、5年たっていても、こんなのは許していないということがあるのかなということです。」との質問に対し、「法律的な実態に即して形式的に当てはめる個別規定と、税制としての経済的な実質も考慮することができる包括否認規定とは、いずれか一方しかないということではなく、これらがセットで構成されているということです。個別規定が充足されれば、包括否認規定が発動されないということにはなっていません。」と答えている(乙40・55頁。なお、同56頁の典型例に関する発言も参照)。また、同じく財務省主税局で組織再編税制の創設に関わった朝長英樹税理士は、著書において、個別に青色欠損金等の引継ぎを制限する租税回避の防止措置が設けられている旨の説明に続けて、「このような防止措置(注:法人税法57条3項)を設けたとしても、青色欠損金の繰越額・・・を利用する租税回避を全て防止することは困難と考えられるところであり、このような防止措置をすり抜けた租税回避を132条の2によって否認しようとしているわけです。」・「青色欠損金の繰越額・・・を利用するもので、現在、特に問題があると指摘されているのは、親会社が自ら設立したり長期にわたって株式を保有したりしている100%子会社を吸収合併してその青色欠損金の繰越額・・・を『節税』に利用しているものです。親会社が自ら支配する子会社は、自由に組織再編成を行うことが可能であり、容易に租税回避の手段とすることができますからね。」としている(乙77・41〜43頁)。このように、組織再編税制の創設に関わった佐々木税理士や朝長税理士が上記のように理解していることは、上記アの解釈を裏付けるものといえる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は、平成13年度税制改正時の法人課税小委員会会議資料(乙56、参考文献B8)の記載や、同小委員会に関与していた阿部泰久経済団体連合会経済本部税制グループ長の講演時の説明(参考文献B9・89頁等)や、国税庁「改正税法のすべて」 199頁 (参考文献B1)の記載等を挙げて、支配関係5年超要件を満たす適格合併に法人税法132条の2を適用することは予定されていない旨主張するとともに、このような適格合併に同条を適用して未処理欠損金額の引継ぎを否認することは、一般的否認規定について過度に広範であいまいな解釈を許容するものであり、租税法律主義に反する旨主張する、
しかし、原告が挙げる平成13年度税制改正時の資料の記載や関係者の説明は、平成13年度税制改正時の法人税法57条3項(支配関係5年超要件)の検討経過やその趣旨等を説明するものにすぎず、支配関係5年超要件を満たす場合(同項が適用されない場合)に同法132条の2の適用が一律に排除される旨をいうものではないし、支配関係5年超要件を満たす適格合併であればいかなる事情があっても未処理欠損金額の引継ぎを認める旨をいうものでもない。また、支配関係5年超要件を満たす場合にも同条が適用され得ることは、同条の文言や趣旨に照らしてごく自然な解釈であり、過度に広範であいまいな解釈と批判されるようなものではない。原告の上記主張はいずれも採用することができない。
イ 原告は、支配関係5年超要件を充足する適格合併に対して同法132条の2を適用して未処理欠損金額の引継ぎを制限すると、合併に伴う資産移転に係る課税繰延べを認めながら、他方において未処理欠損金額の引継ぎを認めないことになり、組織再編成により移転する資産等の譲渡損益に係る取扱いに合わせて未処理欠損金額の引継ぎを取り扱うとする組織再編税制の基本的な考え方に反することになる旨主張する。
しかし、上記2のとおり、法人税法132条の2は、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものである場合に、税務署長が、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の額等を計算する (否認する)ことを認める規定であるから、計算の方法は、どの規定が濫用されたのかによって異なり得るものであり、当該法人の行為又は計算に係る複数の租税法上の効果を全て否認しなければならないとはいえない。また、同法57条3項は、適格合併における未処理欠損金額の引継ぎを制限する規定であるが、同項が適用される場合であっても、資産等の帳簿価額による引継ぎなど適格合併のその他の効果が否定されるものではないことからすると、法人税法は、適格合併による資産等の帳簿価格による引継ぎを認めつつ、未処理欠損金額の引継ぎを認めないことを予定しており、これらの一致が常に求められているものではない。原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、上記 (1) アの解釈に関しその他にも縷々主張するが、上記解釈を左右するものは見当たらず、いずれも採用することができない。
4 法人税法57条2項の趣旨及び目的について
(1) 法人税法57条1項について
法人税法57条1項は、過年度において発生した欠損金額(各事業年度の損金の額が益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額。同法2条19号)について、所得の計算上、一定の要件の下に損金の額に算入する旨規定し、欠損金額を次年度以降一定期間の利益と通算するという欠損金の繰越控除を認めている。
この欠損金の繰越控除は、所得の金額の計算が人為的に設けられた期間である事業年度を区切りとして行われるため、複数の事業年度の通算では同額の所得の金額が発生している法人の間であっても、ある事業年度には所得の金額が発生し別の事業年度には欠損金額が発生した法人は、各事業年度に平均的に所得の金額が発生した法人よりも税負担が過重となる場合が生ずることから、各事業年度間の所得の金額と欠損金額を平準化することによってその緩和を図り、事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から設けられた制度であると解される(最高裁平成25年3月21日第一小法廷判決・民集67巻3号438頁)。
このように、法人税法57条1項の欠損金の繰越控除は、事業年度を区切りとして所得の金額の計算を行うことにより生じる不公平を緩和すべく、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するためのものであるから、法人の企業活動が継続的に行われること、すなわち、未処理欠損金額を生じさせた法人が複数の事業年度にわたり事業を継続することが前提となっているといえる。
(2) 法人税法57条2項について
法人税法57条2項(適格合併に係る部分。以下、特に断らない限り同じ。)は、要旨、適格合併が行われた場合において、被合併法人の当該適格合併の日前9年以内に開始した各事業年度において生じた未処理欠損金額があるときは、これを合併法人の未処理欠損金額とみなす旨規定し、適格合併における被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎを認めている。
この規定は、それまで認められていなかった、被合併法人の未処理欠損金額の合併法人への引継ぎ(最高裁昭和43年5月2日第一小法廷判決・民集22巻5号1067頁参照)につき、適格合併の場合に限りこれを認めたものであるが、その趣旨及び目的については、合併法人において欠損金の繰越控除を認めるものである以上、前述の欠損金の繰越控除制度の趣旨及び目的を基礎とするものと解するのが相当である。すなわち、法人税法57条1項の欠損金の繰越控除は、事業年度を区切りとして所得の金額の計算を行うことにより生じる不公平を緩和すべく、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するための制度であると解されるが、同条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎについても、上記のような不公平を緩和すべく、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するためのものと解するのが相当である。
そうすると、法人税法57条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎは、被合併法人の企業活動が適格合併後も合併法人において継続的に行われることが前提となっているというべきであり、被合併法人の事業が適格合併により合併法人に移転し、合併法人において引き続き営まれること(合併による事業の移転及び継続)を想定しているものと解される。
このような理解からすれば、例えば、①多額の未処理欠損金額を有する子会社をいったん親会社に適格合併し、その後直ちに当該子会社の事業を分割して切り出し、未処理欠損金額だけを親会社に残すような事例 (乙40・56頁の佐々木税理士の発言における平成13年度税制改正時に想定されていた事例参照)や、②上記のような子会社の事業を新会社に分割して切り出し、未処理欠損金額だけが残された旧会社を親会社に適格合併するような事例(上記①の事例の合併と分割の順序を逆にしたもの)については、子会社の未処理欠損金額を事業から切り離して親会社に付け替えるための組織再編成であり、子会社の事業が親会社に移転して継続するものとはいえないから、法人税法57条2項の趣旨及び目的に反することになるものと解される。
(3) 法人税法57条3項について
法人税法57条3項は、企業グループ内の適格合併(法人税法2条12号の8イ及びロ)について、支配関係5年超要件及びみなし共同事業要件のいずれにも該当しない場合に、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎを制限する規定である。
この規定によれば、当該規定の制限の対象とされていない共同事業のための適格合併(法人税法2条12号の8ハ)では、被合併法人の未処理欠損金額は制限なく合併法人に引き継がれ、また、企業グループ内の適格合併であっても、みなし共同事業要件を満たす場合には、未処理欠損金額が制限なく引き継がれるが、それも満たさないものについては、支配関係5年超要件を満たさない限り、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限される。このように、未処理欠損金額の引継ぎにつき、共同事業のための適格合併の場合には特に制限がないのに、企業グループ内の適格合併の場合にはみなし共同事業要件を満たすか、あるいは支配関係5年超要件を満たす必要があるとされているのは、企業グループ内の適格合併の場合は、共同事業のための適格合併の場合とは異なり、必ずしも合併による事業の移転及び継続が担保されず、同法57条2項の趣旨及び目的に反する行為が行われるおそれがあるため、みなし共同事業要件や支配関係5年超要件により、類型的にこれを防止する趣旨のものと解される。このような共同事業のための適格合併と企業グループ内の適格合併との区別は、上記(2)の理解に沿うものといえる。
また、財務省主税局において組織再編税制の創設に関与した朝長税理士は、法人税法施行令112条7項のみなし共同事業要件が適格判定における共同事業要件と類似するものとなっている理由に関し、「法人税法57条により繰越欠損金を損金の額に算入することができる法人は、本来、その繰越欠損金を生じさせた事業を営んできた当該法人に限られるわけであり、その繰越欠損金について、他の法人において損金の額に算入することを認めるという場合には、自ずと、当該法人が営んできたその事業の状態がそのまま当該他の法人に引き継がれることを求めることとせざるを得ないわけであるが、適格判定における共同事業要件は被合併法人等の過去の事業の状態が合併法人等にそのまま引き継がれていると判断することができる条件を列挙したものとなっており、その求めるところに適う内容となっているわけである。」としており (乙52の2・331頁)、このような説明は、上記(2)の理解に整合的なものといえる。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、完全支配関係適格合併は、法人税法2条12号の8イの定義上も、平成13年度税制改正の立法の経過上も、事業の移転及び継続が必要とされていないこと、同法57条2項には、同法2条12号の8で定義される「適格合併」の用語がそのまま使用されていることなどから、同法57条2項の本来の趣旨及び目的において、合併による事業の移転及び継続が前提となっているとか、これが想定されていると解することはできない旨主張する。
この主張は、「適格合併」において、事業の移転及び継続は必ずしも必要とされていない(想定されていない) 旨をいうものであるが、「適格合併」において事業の移転及び継続が想定されていると解すべきか否かはともかく、前述のとおり、法人税法57条2項の趣旨及び目的については、上記(1) ないし (3) において説示したとおり、欠損金の繰越控除制度の趣旨及び目的を基礎とし、合併による事業の移転及び継続が想定されていると理解すべきものと解される。原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、①事業の移転及び継続がない又は予定されていない合併も有用なものとして存在しているから、平成13年度税制改正当時に、法人税法57条2項等が適用される場面を事業の移転及び継続のある適格合併に限定するような想定をして立法したものとは到底考えられない、②完全支配関係適格合併について事業の移転及び継続という要件を要求した場合には、組織再編成の選択可能性に萎縮効果が生じ、組織再編税制が導入された趣旨に反する旨主張する。
しかし、事業の移転及び継続がない適格合併にも有用なものはあり得るが、そのことと、法人税法57条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎにつき、事業の移転及び継続を想定していると解することとは、必ずしも矛盾しない(なお、上記(2)の説示は、事業の移転及び継続を同項の適用要件とするものではなく、事業の移転及び継続がない適格合併にも同項は適用されるし、事業の移転及び継続がないことをもって常に同法132条の2が適用されるものでもない。)。むしろ、上記のような有用なものがあるからこそ、一律に規制対象とせず、個別事情に応じて同条により否認するものとすることは、組織再編税制に係る立法政策として合理的なものと考えられる。原告の上記主張①は採用することができない。
また、上記のとおり、合併による事業の移転及び継続がない場合でも、常に法人税法132条の2が適用されるわけではなく、同法57条2項を租税回避の手段として濫用する場合にのみ同法132条の2が適用され、その結果、未処理欠損金額の引継ぎが否定されるのであるから、組織再編成の選択可能性に萎縮効果が生じるとはいえない。原告の上記主張②は採用することができない。
ウ 原告は、①平成22年度税制改正において、法人税法57条2項が改正され、残余財産の確定という事業の移転及び継続が問題とならない場合における未処理欠損金額の引継ぎが認められたことからすると、同項の適格合併の場合における未処理欠損金額の引継ぎについても、事業の移転及び継続は想定されていない旨や、②平成22年度税制改正において、完全支配関係がある法人間の資産等の移転について譲渡損益の計上の繰延べが認められたことからすると、平成13年度税制改正における組織再編税制の基本的な考え方の「移転資産等に対する支配が再編成後も継続している」とは資本関係の継続を意味するものであるから、同法57条2項の趣旨及び目的に事業の移転及び継続は想定されていない旨主張する。
しかし、平成22年度税制改正のグループ法人税制における譲渡損益の課税の繰延制度は、組織再編成とは性質の異なる個別の資産の譲渡について、適格組織再編成における資産の移転と同様に課税の繰延べを認めるものであり、従来の適格組織再編成の考え方とは大きく異なるものであって(乙75参照)、飽くまでもグループ法人税制上の制度として理解すべきものと考えられ、組織再編税制に係る従来の規定の趣旨及び目的を根本的に変容させるものとは解し難い。
また、上記の点をひとまず措くとしても、平成22年度税制改正後の法人税法57条2項においては、完全支配関係下の子会社に係る残余財産が確定した場合につき未処理欠損金額の引継ぎが認められているところ、その趣旨については、「特に残余財産が確定した法人の欠損金については、特定の資産との結びつきが希薄であることを踏まえ、その移転資産の有無に関わらず、合併に係る欠損金の引継ぎと同様の取扱いとする」こととされたものと説明されている(国税庁「平成22年税制改正の解説」 284頁〔乙53〕)。この説明には判然としないところもあるが、残余財産が確定した法人については、事業の継続を観念することができず、欠損金と事業資産との結びつきが希薄になることから、そのような段階に至って初めて未処理欠損金額のみの引継ぎを認める旨をいうものと解され、逆に言えば、残余財産が確定するまでは、欠損金は事業資産と強く結びついているため、未処理欠損金額のみの引継ぎは認められないという意味を含むものと解される。このように、残余財産が確定するまで(事業の継続を観念し得なくなるまで)は、未処理欠損金額と事業とを切り離すことができないことは、平成22年度税制改正後の同法57条2項においてもなお維持されているものと考えられる。
したがって、平成22年度税制改正は、必ずしも従来の規定の趣旨を変更するものではなく、また、少なくとも残余財産が確定するまでは(2)の趣旨及び目的に係る解釈は維持されているといえ、原告の上記主張はいずれも採用することができない。
エ 原告は、企業内の事業部門を独立した企業とする分社化(スピンオフ)を適格分割とする平成29年度税制改正の際に、グループ経営の場合には、グループ最上位の法人がグループ法人及びその資産の実質的な支配者であるとの観点に立って判断している側面がある旨説明されていることからすると、平成13年度税制改正における組織再編税制の基本的な考え方の「移転資産等に対する支配が再編成後も継続している」とは資本関係の継続を意味するものであるから、法人税法57条2項の趣旨及び目的に事業移転・継続要件は想定されていない旨主張する。
しかし、適格組織再編成に係る「移転資産等に対する支配の継続」の意味については様々な理解があり得るが、法人税法57条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎの趣旨及び目的については、同条1項の趣旨及び目的(欠損金の繰越控除制度の趣旨)を基礎として、被合併法人の事業が合併法人に移転し、合併法人において継続することを想定しているというべきである。原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は、平成30年度税制改正において、支配関係適格合併及び共同事業を営むための適格合併における従業者引継要件及び事業継続要件について、合併法人と完全支配関係のある他の法人に対して従業者が引き継がれ、又は当該他の法人において事業が営まれる場合においても満たされるとされたことからすると(平成30年法律第7号による改正後の法人税法2条12号の8ロ(1)、(2)参照)、法人間の適格組織再編成には事業引継要件等が課されていない旨主張する。
しかし、平成30年法律第7号による改正後の法人税法2条12号の8は、平成30年4月1日以後の合併等について適用され、それ以前に行われた本件合併には適用されない。また、その点を措くとしても、上記改正は、従業者引継要件及び事業継続要件を一定の場合に緩和するものにすぎず、法人税法57条2項の趣旨及び目的に係る上記解釈を左右するものとはいえない。原告の上記主張は採用することができない。
カ 原告は、法人税法57条2項について、完全支配関係適格合併において事業の移転及び継続が想定されるとすることや、同項の本来の趣旨及び目的として事業の移転及び継続が想定されるとして、完全支配関係適格合併について、事業の移転及び継続のないことをもって、「実態とは乖離した形式を作出する不自然なもの」として不当性要件に該当すると判断することは、実質的に明文に規定されていない「隠れた要件」を設けて納税者の不利益に判断するものであり、租税法律主義に反する旨主張する。
しかし、法人税法132条の2の不当性要件は、上記2のとおり判断されるものであり、合併による事業の移転及び継続がないからといって、常に不当性要件に該当することになるものではないから、明文に規定されていない「隠れた要件」を設けるものではなく、租税法律主義に反するものではない。原告の上記主張は採用することができない。
5 本件組織再編成は、これを容認した場合、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」 (法人税法132条の2) に当たるか否かについて
(1) 行為又は計算の不自然性(考慮事情①) について
ア 本件組織再編成は、旧■が新■を設立する新設分割をし(本件分割)、その後、原告が旧■を吸収合併した(本件合併) ものであるが、旧■が営んでいた本件事業に係る資産、負債、雇用契約等の権利義務は、全て新■が引き継いでおり、新■は、本件事業をその事業内容を変更することなく継続することとなった(認定事実 (7)、乙37問20)。そして、新旧■は、いずれも原告の100%子会社であり、新■の商号は、旧■が本件組織再編成まで長年にわたって使用してきた商号「■」と同じであり(他方、旧■は、新■が■の商号を使用することができるよう、それまでの「■」に商号変更している。認定事実 (7) ア)、新■の本店所在地、目的及び役員構成も、旧■と同等であった(同イ)。また、新旧■は、本件組織再編成の前後で銀行からの融資の状況にも特に変化がなかった(乙37問19)。原告も、関係者に対し、完全子会社化を実施した子会社は、その保有資産のうち一部遊休土地を原告が取得した以外は、従前と変動のない状態で、さらなる安定経営に尽力する旨説明している(認定事実(8)イ)。
以上によれば、本件事業は、本件分割により、旧■から新■にほぼ同一の状態で移転されたものと認められる。
イ 他方、原告は、本件組織再編成により、本件土地、■の株式、■の株式及び本件借入金を引き継いでいる (認定事実(7)イ、ウ)。
しかし、本件土地は、原告が関係者に説明しているとおり、本件事業のために活用されていない遊休土地であり(認定事実 (8) イ)、本件事業とは何ら関係がない(なお、本件土地が本件合併によって原告に引き継がれたのは、本件合併を簡易合併として株主総会の承認決議を不要とするためであるといえる。同(5)ウ、エ)。また、■の株式と■の株式も、■グループの関係会社の株式であって、やはり本件事業とは何ら関係がない。さらに、本件借入金は、旧■が原告から自己株式及び■株式の取得費用を借り入れたものであるところ(前提事実(3)エ)、旧■の自己株式取得は、旧■を原告の100%子会社とするために行われたものであり(同エ(ア))、また、旧■による■株式の取得は、■を原告の100%子会社とするために行われたものであるから(同ウ)、それらのための借入金である本件借入金は、本件事業とは何ら関係がない。
したがって、原告が本件組織再編成によって引き継いだ資産及び負債は、遊休資産、関係会社の株式及び株式取得のための借入金であって、本件事業とは何ら関係のないものである。
以上のとおり、本件事業は、本件分割によりほぼ同一の状態で旧■から新■に移転しており(上記ア)、本件合併により原告が旧■から引き継いだ資産等は本件事業と何ら関係のないものであること(上記イ)からすれば、本件組織再編成は、法人税法57条2項(適格合併における未処理欠損金額の引継ぎ) において想定されている合併による事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえず、本件事業からあえて本件未処理欠損金額を切り離し、これを原告に付け替えるものというべきであって(上記4 (2) の②の事例参照)、実態とは乖離した形式を作出する不自然なもの (考慮事情①) というべきである。
(2) 税負担の減少以外の合理的な理由となる事業目的等の存否(考慮事情②) について
ア 本件組織再編成の検討過程をみると、原告は、■コンサルチームが関与する前から■グループの再編を検討していたが、当初は、旧■保有の■の株式の持合いを解消して原告の100%子会社とすることや、個人株主から■の株式を買い取ることなどの検討にとどまっており、旧■を分割して本件事業を新■に移すこと(本件分割)や、本件分割後の旧■を原告が吸収合併すること(本件合併)については、特に検討されていなかった(認定事実(2)、(3)ア)。
その後、原告は、■コンサルチームからアドバイスを受けるようになったところ、■コンサルチームは、原告に対し、旧■には約14億円の繰越欠損金があり、本件事業を新■に引き継ぐため旧■を分割し、その後旧■を清算し、残余財産が確定すれば、上記繰越欠損金が原告に引き継がれる旨の説明をし(認定事実 (3) ウ)、その後、本件未処理欠損金額14億円に税率35.64%を乗じると5億円の「法人税効果」があるなどとする説明 (同エ)をした。これを受け、原告の内部において、旧■の繰越欠損金を原告に移して原告の所得から控除することによる節税効果がある旨の説明がされ (同オ)、その後も、本件組織再編成において、旧■の繰越欠損金14億円余りが原告に引き継がれ、その額が今後原告の納税額計算時に控除されてキャッシュバランス上のメリットを得るとの検討がされている(同 (5) オ)。また、組織再編成の検討チームの一人であった■は、被告の調査担当職員に対し、本件未処理欠損金額を原告が引き継いで節税につながることが決め手となって上記業務委託契約を締結することとなった旨供述している(乙32答7)。
このような本件組織再編成の検討過程等に加え、旧■は平成18年3月期以降赤字が続いており、本件未処理欠損金額については、古いものから順に損金算入の期限を過ぎて消滅することが見込まれたこと(認定事実(1))も考慮すると、本件分割及び本件合併(本件組織再編成)は、本件事業の利益では控除しきれない本件未処理欠損金額を本件事業から切り離し、これを原告に付け替えることにより、原告の税負担を減少させることを主たる目的とするものであったと認められる。
イ これに対し、原告は、本件未処理欠損金額が旧■の足かせとなり、役員や従業員のモチベーション低下につながって赤字体質から脱却できなくなっていたことから、本件事業から本件未処理欠損金額を分離することにより、役員及び従業員をこの圧迫感から解放し、新■にして「フレッシュ・スタート」を切らせたものであり、本件組織再編成によって本件未処理欠損金額を原告に引き継がせたことは、本件事業の再生のためであった旨主張する。
しかし、未処理欠損金額は、過年度において発生した欠損金額が積み上がったもので、所得の計算上、一定の要件の下に損金の額に算入されるが(法人税法57条)、負債のようにその金額の返済義務を負うものではないから、これを有する法人の事業遂行に悪影響を与えるものではない。むしろ、未処理欠損金額は、利益が出ている法人においては法人税額を減少させる効果があり、経済的なメリットがある。したがって、本件事業から本件未処理欠損金額を切り離すことは、経済的な面から客観的に見て、本件事業にとってプラスではなく、むしろマイナスの効果があり、その再生に寄与するものとはいえない。
なお、原告補助参加人(■)は、企業評価における未処理欠損金額の位置付けにつき、「多額の繰越欠損金がある場合、すなわち自己資本の蓄積が薄い場合には事業継続の為の財務上の耐久力に懸念があると評価されるケースも多いと思われます。」と回答しているところ(甲B35)、企業評価に影響を与えるのは、上記回答にいう「多額の繰越欠損金がある」ことではなく、「自己資本の蓄積が薄い場合に・・・財務上の耐久力に懸念がある」ことであるといえ、少なくとも、長年の赤字により蓄積した未処理欠損金額を事業から切り離すことにより、その企業の評価や信用が向上するわけではないと考えられる。
また、本件未処理欠損金額の存在による役員や従業員のモチベーション低下や圧迫感という観点からみても、本件組織再編成の前に、旧■がその従業員に対して発出した書面をみると、新■に転籍することになるが労働条件は変わらないことなどが説明されているものの、本件分割により本件事業と本件未処理欠損金額を切り離すことの説明はなく、また、本件未処理欠損金額を新■が引き継がない(原告が旧■から引き継ぐ)ことによるモチベーションの向上や圧迫感からの解消につながるような説明は見当たらない (認定事実(8)ア、甲B19-6)。しかも、旧■は、本件組織再編成について、あまり内容を知らず、原告の指示に基づいてこれを実施していたものであり(認定事実(6))、本件事業から本件未処理欠損金額を切り離すことが本件事業の再生に役立つか否かについて、主体的に何らかの検討を行った形跡は見当たらないし、本件未処理欠損金額の存在により役員や従業員のモチベーションが低下しているとか、圧迫感を感じているなどといった懸念を示した形跡も見当たらない。新旧■の取締役である■も、本件事業から本件未処理欠損金額を取り除くことを目的として本件組織再編成を行ったものではない旨回答ないし陳述している(甲B30、乙37答18)。したがって、旧■の役員や従業員において、本件未処理欠損金額の存在そのものによるモチベーション低下や圧迫感があったとは認められないし、この圧迫感等からの解放を目的として本件未処理欠損金額を本件事業から切り離したとも認められない。
以上のとおり、本件事業から本件未処理欠損金額を切り離したことは、本件事業の再生に寄与するものとはいえず、原告が主張する本件事業の再生といった目的は、本件組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由に当たるとはいえない。
なお、■コンサルチーム作成のディスカッションペーパーには、本件組織再編成について、本件未処理欠損金額の引継ぎとともに、旧■の収益力の向上のために実施すると記載され(認定事実 (3) ウ)、これを受けて、原告内部の稟議書や検討資料には、本件組織再編成について、「新生■として、再スタートが可能となる」とか(同オ)、「■としては、過去の税務上の欠損が一掃されると共にこの圧迫感から解放され、心機一転新たなスタートを切ることができる。」との記載がある(同 (5) オ)。しかし、これまでの説示に加え、■コンサルチーム作成のディスカッションペーパーにおいて、本件未処理欠損金額を原告が引き継ぐ旨の記載に下線が引かれて強調されていること(同 (3) ウ)などからすると、■コンサルチーム作成のディスカッションペーパーや原告の稟議書等に旧■の収益力向上や再スタートといった記載があるからといって、本件事業の再生といった目的が本件組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由に当たるとはいえないとの上記判断は左右されない。
ウ また、原告は、本件組織再編成は、原告を頂点とする主要な■グループ各社の100%子会社化を目的とする■グループの一連の組織再編成において、旧■が保有していた■及び■の株式を原告へ移転するために必要であった旨主張する。
(ア) しかし、■株式の原告への移転についてみると、■の100%子会社化という原告の目的を達成するためには、本来、原告が直接個人株主から■の株式を買い取れば足りるのであって、旧■が原告から資金の貸付けを受けた上で■の株式を買い取り、その後に原告が旧■を吸収合併し、その株式と借入金を承継するというのは、株式を直接買い取るよりも明らかに迂遠な方法である(なお、旧■が■の株式を買い取った後の状況を前提としても、後記(イ)のとおり、合併よりも簡易な現物分配をすれば足りる。)。現に、■コンサルチームが関与する前は、原告が買主となることが検討されていたのであり(認定事実 (3)ア)、■の100%子会社化のために、あえて上記のような迂遠な方法による必要があったとは考え難い。
(イ) また、■株式の原告への移転についてみると、原告が旧■(子会社)から■(孫会社)の株式を取得するには、当初検討されていたように(認定事実 (3) イ)、旧■から■株式の現物分配を受ければ足り(現物分配は、合併との比較において、債権者保護手続が不要であるなど手続が簡易であり、実務上もより頻繁に用いられる。乙41、42参照)、旧■の株式を原告へ移転するために、本件分割により本件事業を新■に移転させた上で、本件合併により旧■を原告に吸収合併し、上記株式を承継取得するという迂遠な方法による必要があったとは考え難い。
なお、当時、旧■が保有する■の簿価は約550万円であり(甲B12-10)、旧■の配当可能額(本件合併時において約6億8500万円)の範囲内であったから、現物分配をすることは可能であった。
(ウ) 以上によれば、原告において、■を原告の100%子会社とするため、その株式を取得するという事業目的はあったと考えられるが、その目的を達成するためには、原告が直接個人株主から買い取ったり、旧■から現物分配を受けたりすれば足り、むしろそれが通常想定される手順や方法というべきであって、あえて迂遠な方法である本件分割及び本件合併(本件組織再編成)を行う必要はなかったというべきである。そうすると、上記の事業目的に基づく上記株式の取得は、本件未処理欠損金額の引継ぎを主たる目的とする本件組織再編成に組み込まれたものにすぎず、それ自体が本件組織再編成の主たる目的ではないというべきであって、本件組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由に当たるとはいえない。
エ 以上のとおり、原告の主張する本件組織再編成の事業目的 (圧迫感等からの解放による本件事業の再生、■の100%子会社化など)は、本件組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由には当たらない。また、その他に本件組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由があったとも認められない。
(3) その他の原告の主張
ア 原告は、前掲最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決等の「本件の一連の組織再編成に係る行為」という表現や、最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決(民集76巻4号480頁)が一連の組織再編成全体につき考慮事情①及び②を検討していることを指摘し、本件のように否認対象行為とされた組織再編成が企業グループ内の一連の組織再編成として行われた場合には、同法132条の2の不当性要件の判断に当たっては、その一連の組織再編成の全体を対象として判断すべきである旨主張する。
しかし、前掲最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決等(ヤフー事件、IDCF事件)が示した不当性要件の判断枠組みにおいては、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであるかどうか問題となるのであり、ここにいう「法人の行為又は計算」とは、法人税法132条の2にいう「法人の行為又は計算」と同義であって、否認の対象となる行為又は計算を対象として不当性要件を判断すべきことは、その説示から明らかである(なお、その判断の過程において、否認の直接の対象ではない行為等についても検討したり考慮したりすることはあり得るが、それは個別事案における事例に即した判断であって、企業グループ内の一連の組織再編成であれば一律にその組織再編成全体を対象として判断すべきということではない。)。なお、上記各最高裁判決が、「本件の一連の組織再編成に係る行為」という表現を用いているのは、税負担の軽減のために仕組まれた一連の行為をそのように表現しているにすぎず、原告が主張するような広範な意味を含むものではないし、実際に、近接した時期に行われた企業グループ内の組織再編成に係る全ての行為を対象として判断しているものでもない。
また、前掲最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決 (ユニバーサルミュージック事件)は、法人税法132条1項の不当性要件について、経済合理性基準を採用することを明確にした上で、「ある企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合」につき、「当該一連の取引全体が経済的合理性を欠く」又は金銭借入れの目的において不合理と評価されることとなるという理解の下、その一連の取引全体の経済的合理性(金銭借入れの目的の合理性に関する事情)の判断に当たり、考慮事情①及び②を考慮するのが相当であるとしたものである。このような上記最高裁判決の判断は、同法132条の2とは異なる場面のものであり、同条の不当性要件の判断方法に直接影響するものではない。
したがって、原告の主張する上記判断方法によれば本件につき不当性要件が否定されることになるのかどうかはともかく、原告の上記主張は独自の見解であって採用することができない。
イ 原告は、企業グループの組織再編成の方法等については、当該企業グループの自律的判断に委ねられており、経営判断原則により、その自律的な経営判断が広く尊重されるべきであるなどと主張し、その上で、企業グループが複数の手順や方法の中から最も税負担の少ないものを選択したとしても、そのことから直ちに、法人税法132条の2の不当性要件に該当すると評価すべきではないなどと主張する。
しかし、企業が複数の選択肢の中から最も税負担の少ないものを選択することは、経営判断原則をいうまでもなく許されるが、その経営判断による選択が、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用するものである場合には、法人税法132条の2により否認されるというべきであって、経営判断原則や自律的判断の尊重は、同条の適用を否定すべき理由とはならない。原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、そのほかにも、様々な観点から法人税法132条の2の適用を争うが、いずれも上記判断を左右するに足りず、又は独自の見解に基づくものであって、採用することができない。
(4) 小括
以上を総合すると、法人税法57条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎは、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するという欠損金の繰越控除制度の趣旨及び目的に照らし、被合併法人の事業が適格合併により合併法人に移転し、合併法人において引き続き営まれること(合併による事業の移転及び継続)を想定しているものと解されるところ(前記4)、本件組織再編成は、形式的には同項の未処理欠損金額の引継ぎの要件を満たすものの、同項において想定されている事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえず、実態とは乖離した不自然なものというべきであり(前記(1))、また、本件組織再編成は、本件事業の利益では控除しきれない本件未処理欠損金額を本件事業から切り離し、これを原告に付け替えることにより、原告の税負担を減少させることを主たる目的とするものであって、税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在したとはいえない(前記(2))。
そうすると、本件組織再編成は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、法人税法57条2項の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものであると認められる。
したがって、本件組織再編成は、組織再編税制に係る法人税法57条2項を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものといえ、同法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たる。
第6~第9 省略
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 徳地 淳
裁判官 三木 裕之
裁判官 奥田 紗永
(別紙1~9)省略
(別表1-1~4-4)省略
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