令和7年1月8日裁決・東裁(諸)令6-101

裁決書

国税不服審判所に情報公開請求をし、表題の裁決書を入手してみました。

事案の概要

請求人が、動画投稿に係る収入を消費税の課税標準額に含めて消費税等の確定申告をした後に、当該収入は国外の事業者に対して行った電気通信利用役務の提供の対価であり消費税の課税の対象に当たらないとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案。

基本情報

・裁決番号:東裁(諸)令6第101号
・税目:消費税
・管轄:東京国税不服審判所
・裁決日:令和7年1月8日
・結果:棄却

争点

本件収入は、請求人が本件国外法人に対して行った電気通信利用役務の提供の対価に当たるか否か。

裁決書データ

令和7年1月8日裁決・東裁(諸)令6-101

裁決書テキスト

※以下は生成AIでテキスト化したものです。

主   文
審査請求を棄却する。
理   由
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、動画投稿に係る収入を消費税の課税標準額に含めて消費税等の確定申告をした後に、当該収入は国外の事業者に対して行った電気通信利用役務の提供の対価であり消費税の課税の対象に当たらないとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
イ 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨、また、同項第8号の3は、電気通信利用役務の提供とは、資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行われる著作物の提供(当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。)その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供であって、他の資産の譲渡等の結果の通知その他の他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供以外のものをいう旨規定している。
ロ 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課する旨、また、同条第3項本文及び同項第3号は、資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、電気通信利用役務の提供である場合、当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地が国内にあるかどうかにより行うものとする旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、アメリカ合衆国に所在する■(以下「本件国外法人」という。)が運営するインターネット上の動画共有サービス(■)のウェブサイト(以下「本件サイト」という。)に動画を投稿する■(■をいう。以下同じ。)である。
ロ ■が本件サイトに動画を投稿することにより収入を得るには、■規定に基づいて、本件国外法人に対して、■への参加を申し込み、その承認を受けることが必要であり、また、投稿した動画と併せて視聴された広告等に係る収入(以下「■収入」という。)を受領するための「■」を取得していることが必要とされている。
ハ 請求人は、平成26年2月21日、■への参加を申し込み、その参加の承認を受け、また、本件サイトの■を取得した。
ニ ■(以下「本件法人」という。)は、令和2年当時、■に本店を置き、マルチチャンネルネットワークのプロバイダ(供給者)として(以下「本件ネットワーク」という。)を運営しており、複数の本件サイト上のチャンネルと連携し、動画制作、企業とのタイアッププロモーション、視聴者の獲得、ノウハウ提供、デジタル著作権管理、収益受取などの面で■に対してその活動を支援する事業を行っていた。
ホ 請求人は、平成29年12月1日付で、本件法人との間で、専属プロデュース契約(以下「本件契約」という。)を締結し、要旨、別紙1の内容が記載された「専属プロデュース契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わし、その後、本件契約は令和2年4月20日をもって合意解除された(なお、別紙1で定義した略語については、以下、本文においても使用する。)。
ヘ 本件契約書第8条第2項には、本件契約の当事者である請求人が、本件契約書に定める事項に加えて、「利用規約(■)」 (以下「本件利用規約」という。)に定める事項を遵守する旨記載されており、本件利用規約には、要旨、別紙2の内容が記載されていた。
ト 本件法人は、請求人を宛先として、令和2年2月29日付、同年3月31日付、同年4月30日付及び同年5月31日付で、「支払証明書」と題する書面をそれぞれ発行した。当該各支払証明書には、請求人に対する支払総額及びその内訳、支払日並びに支払先に係る口座情報が記載され、支払総額の内訳を示す「内訳」欄には、「■」、「定期購入」、「■」、「■」、「■」及び「■」に係る税込金額(以下「本件収入」という。)が記載されていた。なお、本件収入の要旨は、次のとおりである。
(イ) ■
動画・ライブの再生数などに応じた広告収入
(ロ) 定期購入
■加入者の再生による収入
(ハ) ■
ライブ配信及び■時に、コメントを目立たせるために送られる投げ銭による収入
(ニ) ■
視聴者が月額料金を支払うことによって■の■となることによる収入
(ホ) ■
ライブ配信及び■時に送られる投げ銭による収入
(4) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、令和2年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税について、本件収入を本件課税期間の消費税の課税標準額に含めた上で、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載し、国税通則法第11条《災害等による期限の延長》の規定により延長された期限までに申告した。
ロ 請求人は、令和3年4月30日、本件収入について、国外の事業者に対する電気通信利用役務の提供に該当し国外取引となるから、課税売上げに含めて申告したのは誤りであるとして、別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、令和5年7月5日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、令和5年9月19日に別表の「再調査請求」欄のとおり再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年12月18日付で、別表の「再調査決定」欄のとおり、棄却の再調査決定をした。
ホ 請求人は、再調査決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして令和6年1月17日に審査請求をした。
2 争点
本件収入は、請求人が本件国外法人に対して行った電気通信利用役務の提供の対価に当たるか否か。
3 争点についての主張

請求人 原処分庁
本件収入は、次のとおり、請求人が本件国外法人に対して行った電気通信利用役務の提供の対価に当たる。 本件収入は、次のとおり、請求人が本件法人に対して行った役務の提供の対価であり、本件国外法人に対して行った電気通信利用役務の提供の対価に当たらない。
(1)請求人は、平成26年2月、■への参加の承認を受け、請求人の制作動画を本件サイトに投稿し、その視聴回数に応じて本件国外法人から■収入を受領する手続を行った。

また、請求人は、■に請求人が開設した三つのチャンネルを登録した。

以上が請求人と本件国外法人との間の契約を証する事実であり、この請求人と本件国外法人の契約関係は、その契約時から本件課税期間の末日に至るまで変更されていないから、動画制作等に係る役務の提供及び当該役務の提供に係る報酬の支払に関する当事者は、請求人と本件国外法人である。

(1)本件法人は、本件契約に基づく本件クリエイター活動に対して報酬を支払っているところ、請求人は、平成29年12月に本件法人と本件契約を締結し、また、本件利用規約に基づき、本件法人が運営する本件ネットワークに参加した。
(2)請求人は、本件契約の有効期間の前後を問わず、請求人の判断で動画の企画・撮影・編集を行って、本件サイトに動画を投稿しており、役務の提供先は本件国外法人である。

請求人は、本件契約の有効期間中において、本件法人から具体的な依頼を受けて動画を制作、投稿した事実はなく、請求人による動画の企画・撮影・編集・投稿は、本件契約書第8条に定める本件クリエイター活動には該当しないため、役務の提供先は本件法人ではない。

また、本件収入には本件契約の有効期間前に投稿された動画に係る収入も含まれているところ、本件契約の有効期間前に請求人が本件サイトに投稿した動画の企画・撮影・編集・投稿についても、請求人の判断で行い、本件法人は関与していないため、本件クリエイター活動に該当しない。

(2)請求人は、本件契約及び本件利用規約に基づき、本件ネットワークに参加し、本件法人の依頼に従って、請求人が撮影・編集した動画を本件サイトに投稿するなど、本件契約書第8条に定める本件クリエイター活動を本件法人に対して行った。
(3)本件法人は、本件利用規約第11条に定めるとおり、請求人に対する■収入を代理受領しているにすぎない。

したがって、本件収入は、請求人が本件国外法人に役務の提供を行った対価として、請求人に帰属するものである。

(3)本件収入は、本件契約書第9条の定めに基づいて、本件法人から請求人に対し、本件クリエイター活動に対する報酬として■収入の■の金額が支払われたものである。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件法人と本件国外法人との契約関係について
(イ) 本件法人は、平成25年12月3日、本件国外法人との間で、本件サイトに投稿された本件法人が管理する動画に関し、本件国外法人から提供されるツールを使用して管理するとともに、本件国外法人に対し当該動画の利用許諾を行い、当該動画から生じる収入を本件国外法人から受領することを内容とする「CONTENT HOSTING SERVICES AGREEMENT」と称する契約(以下「本件コンテンツ管理契約」という。)を締結した。
(ロ) 本件コンテンツ管理契約に基づき、本件法人が管理し本件国外法人に対して利用許諾を行う動画は、本件法人と専属プロデュース契約を締結した者及び本件利用規約に同意し本件ネットワークに参加した者が本件サイト上に投稿した動画が対象とされており、また、当該動画は自動的に利用許諾の対象とされていた。
(ハ) 本件法人は、本件コンテンツ管理契約に基づき、本件国外法人に対して動画の管理責任を負担しており、具体的には、本件法人が管理する動画について著作権をはじめとする第三者の権利を侵害していないかなどの確認を行い、また、本件法人が本件利用規約の定めに違反すると認めた動画については削除等の措置を講ずることとしていた。
(ニ) 本件法人は、専属プロデュース契約の有効期間前に制作・投稿されていた動画であっても、当該契約の有効期間中においては、当該動画に係る管理責任を負うため、■と専属プロデュース契約を締結する前に、管理することとなる動画が第三者の権利を侵害していないかなどの確認を行っていた。
(ホ) 本件法人は、本件コンテンツ管理契約に基づき、本件法人が管理している動画に係る■収入を本件国外法人から受領していた。
ロ 請求人と本件国外法人との契約関係について
(イ) 請求人は、上記1の(3)のハのとおり、平成26年2月に■への参加の承認を受け、本件サイトの■を取得した。
(ロ) 請求人は、上記(イ)で取得した■を利用し、令和2年当時、本件サイトに三つのチャンネル(以下「本件各チャンネル」という。)を登録していた。
ハ 請求人と本件法人との契約関係について
請求人は、上記1の(3)のホ及びヘのとおり、平成29年12月に本件法人との間で本件契約を締結したことにより、本件契約書第8条第2項の定めに基づき、本件契約書に定める事項に加えて、本件利用規約に定める事項を遵守することになった。
(2) 検討
イ 別紙1及び別紙2の請求人と本件法人との契約関係のとおり、請求人は、本件法人に対し専属的に本件プロデュース業務を委託し、請求人が■として第三者と契約を締結するような場合、本件法人の事前の承諾が必要とされていたと認められる(本件契約書第3条)。また、請求人は、本件契約及び本件利用規約を遵守し、本件法人の依頼に従って動画の撮影等の本件クリエイター活動を行うとされていたことから(本件契約書第8条)、本件契約の有効期間中において請求人は、本件ネットワークに参加し、請求人の■としての本件クリエイター活動を、本件法人の管理下において行っていたものと認められる。
この点については、上記(1)のイの(ハ)のとおり、本件法人が、本件コンテンツ管理契約に基づき、本件国外法人に対して動画に係る管理責任を果たす観点から、本件契約を締結した請求人が制作した動画について、第三者の権利を侵害するものでないかなどの確認を行うこと、本件法人が当該動画について本件利用規約に違反するものと認めた場合、本件利用規約第18条に基づき請求人の承諾を得ることなく当該動画を削除するなどの措置を講じることができたと認められることからも明らかである。
ロ そして、上記1の(3)のホ及び上記(1)のイの(ロ)のとおり、請求人が本件契約を締結したことにより、本件各チャンネルに投稿されている動画は、本件コンテンツ管理契約に基づく利用許諾の対象となり、また、本件利用規約第17条に基づき、本件法人は、請求人の承諾を得ることなく本件各チャンネルに投稿されている動画をあらゆる態様で利用することができることから、本件契約の有効期間中においては、本件各チャンネルに投稿されている動画は、本件コンテンツ管理契約に基づき、本件法人から本件国外法人に対し利用許諾されていたものと認められる。
加えて、上記(1)のイの(ロ)及び(ニ)のとおり、本件契約の有効期間中においては、請求人が本件契約の有効期間前に制作し、本件各チャンネルに投稿されていた動画も含めて、利用許諾の対象となっていたと認められるほか、同(ハ)及び(ニ)のとおり、本件契約の有効期間前に制作・投稿されていた動画であっても、本件法人は、利用許諾の対象となった動画について管理責任を負うため、本件法人が、当該動画について本件利用規約に違反するものと認めた場合、請求人の承諾を得ることなく当該動画を削除するなどの措置を講じることができたと認められる(以下では、本件契約の有効期間中に利用許諾の対象となっていた、①請求人が本件契約の有効期間前に本件各チャンネルに投稿した動画、②請求人が本件契約の有効期間中に本件各チャンネルに投稿した動画を併せて「請求人投稿動画」という。)。
ハ これらのことからすれば、本件契約の有効期間中においては、本件法人は、請求人と本件国外法人との間に介在する独立した経済主体として存在・活動し、請求人の■としての活動を支援・管理するとともに、請求人投稿動画について本件国外法人に対し利用許諾を行い、また、本件法人が管理する動画として管理責任を負い、本件国外法人から請求人投稿動画に係る■収入の全額を受領していたと認められる。
ニ そうすると、本件契約の有効期間中においては、本件各チャンネルに投稿されていた請求人投稿動画は、本件契約及び本件コンテンツ管理契約に基づき本件法人から本件国外法人に対して利用許諾ないし提供されていたものと認められ、その一方で、請求人が、本件法人を介在させずに本件国外法人との直接の契約等に基づいて動画の制作・投稿等を行っていたと認めるに足る証拠はない。
以上によれば、本件契約の有効期間中においては、請求人投稿動画の制作・投稿等は、本件契約書第8条に定める本件クリエイター活動の一環として行われたものであり、本件法人に対する役務の提供であったと認めることが相当である。
ホ そして、本件法人は、上記1の(3)のトのとおり、請求人に対し報酬として本件収入を支払っているところ、これは、本件契約に基づき、請求人が請求人投稿動画の制作・投稿等をしたことの対価として、本件法人が本件国外法人から現実に受領した■収入の■相当額を請求人に対し支払ったものと認められる。
ヘ 以上のことから、本件収入は、本件契約に基づき、請求人が本件法人に対して行った役務の提供の対価であると認めることが相当であり、本件国外法人に対して行った電気通信利用役務の提供の対価とは認められない。
(3) 請求人の主張について
イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、平成26年2月に■への参加の承認を受けて以降、本件国外法人との契約関係が変更されていないことから、動画制作等に係る役務の提供及び当該役務に係る報酬の支払に関する当事者は、請求人と本件国外法人であった旨主張する。
しかしながら、上記(2)のイのとおり、請求人は、本件法人との間で本件契約を締結して本件ネットワークに参加したことにより、本件契約の有効期間中においては、請求人が本件法人に対し、動画製作等の本件クリエイター活動に係る役務を提供し、同ロのとおり、本件法人は、本件コンテンツ管理契約に基づき、本件国外法人に対し請求人投稿動画の利用許諾を行い、また、同ホのとおり、本件法人は、本件契約に基づき、請求人が請求人投稿動画の製作・投稿等をしたことの対価として本件収入を請求人に支払っていたのであり、請求人と本件国外法人との間に本件法人が介在していたと認められることから、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、請求人の判断で動画制作等を行っており、本件法人から具体的な依頼を受けた事実はなく、また、本件契約の有効期間前においては本件法人が動画制作等に関与していないため、請求人による動画制作等が本件契約書第8条で定める本件クリエイター活動に該当しないから、請求人による動画制作等に係る役務の提供先は本件法人ではなく、本件国外法人である旨主張する。
しかしながら、上記(2)のニのとおり、本件契約の有効期間中においては、請求人投稿動画の制作・投稿等は、本件クリエイター活動の一環として、本件法人に対し行われたものと認められ、また、当該役務の提供につき、本件法人からの具体的な指示の有無は、請求人の役務提供先が本件法人であるか否かの判断を左右するものではないから、請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のとおり、本件法人は、■収入を代理受領しているにすぎない旨主張する。
しかしながら、上記(2)のハ及びホのとおり、本件法人は、本件コンテンツ管理契約に基づき、本件国外法人から■収入の全額を受領する一方で、本件契約に基づき、請求人に対し動画制作等に係る役務の提供の対価として■収入の■相当額を支払っていたと認められることからすると、請求人が本件国外法人から受領すべき収入を本件法人が代理受領しているにすぎないとする請求人の主張には理由がない。
(4) 本件通知処分の適法性について
上記(2)のとおり、本件通知処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はなく、また、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分は適法である。
(5) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。
別表 審査請求に至る経緯(省略)
別紙1 本件契約書の要旨(省略)
別紙2 本件利用規約の要旨(省略)