国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
原告が、本件各費用は「その有価証券の購入のために要した費用」に該当せず、平成29年3月期における原告又は■の所得の金額の計算上、その全額が損金の額に算入されるなどと主張して、本件各処分(ただし、本件各更正処分については各申告額を超える部分)の取消しを求める事案。
基本情報
・税目:法人税
・処分行政庁:八女税務署長
・課税年度:平成29年3月期~令和2年3月期
・提訴裁判所:東京地方裁判所
・提訴年月日:令和5年3月15日
・判決日:令和8年2月18日
・結果:一部認容
争点
本件各費用が法人税法施行令119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」に該当するか否か
判決書データ
判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 八女税務署長が令和3年7月26日付けで原告に対してした別紙1-1「処分目録1」記載の各処分をいずれも取り消す。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
八女税務署長が令和3年7月26日付けで原告に対してした別紙1-2「処分目録2」記載の各処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
■(以下「■」という。)は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度において、■(以下「■」という。)の発行済株式の全部を購入する方法で同社と企業提携を行い、仲介業務及び企業調査(いわゆるデューデリジェンス)に係る報酬等として、後記3(2)チ記載の各費用(以下、これらを総称して「本件費用1」という。)を支払った。
また、原告は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度(以下、原告又は■のこの期間における事業年度を「平成29年3月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)において、■(以下「■」という。)の発行済株式の全部を購入する方法で同社と企業提携を行い、仲介業務及び企業調査に係る報酬等として、後記3(3)ト記載の各費用(以下、これらを総称して「本件費用2」といい、本件費用1と併せて「本件各費用」という。)を支払った。
原告及び■が、それぞれ平成29年3月期の所得の金額の計算上、原告は本件費用2につき、■は本件費用1につき、それらの全額を損金の額に算入して、法人税及び地方法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁は、本件各費用は法人税法施行令119条1項1号に規定する「その有価証券の購入のために要した費用」に該当し、それぞれ■又は■の株式の取得価額に算入すべきであるとして、■を合併してその納税義務を承継した原告に対し、原告の平成29年3月期及び令和2年3月期の法人税並びに平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度(以下「平成29年3月課税事業年度」といい、他の課税事業年度についても同様に表記する。■についても同じ。)及び令和2年3月課税事業年度の地方法人税、■の平成29年3月期、平成30年3月期及び平成31年3月期の法人税並びに平成29年3月課税事業年度、平成30年3月課税事業年度及び平成31年3月課税事業年度の地方法人税の各更正処分(以下、これらを総称して「本件各更正処分」という。)をするとともに、これらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、これらを総称して「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
本件は、原告が、本件各費用は「その有価証券の購入のために要した費用」に該当せず、平成29年3月期における原告又は■の所得の金額の計算上、その全額が損金の額に算入されるなどと主張して、本件各処分(ただし、本件各更正処分については各申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。
2 関係法令等の定め
(1) 有価証券の取得価額に関する法人税法及び同法施行令の定めは、次のとおりである。
法人税法61条の2(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)第1項は、内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益名の額又は損金の額に算入する旨規定し、この譲渡利益額とは、同項1号に掲げる金額(譲渡に係る対価の額)が同項2号に掲げる金額(譲渡に係る原価の額)を超える場合におけるその超える部分の金額を、譲渡損失額とは、同項2号に掲げる金額が同項1号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額を、それぞれいうこととされている。そして、同項2号の譲渡に係る原価の額とは、その有価証券についてその内国法人が選定した一単位当たりの帳簿価額の算出の方法により算出した金額にその譲渡をした有価証券の数を乗じて計算した金額をいうものとされ(同号括弧書き)、同条23項(平成29年法律第4号による改正後は24項)において、有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の基礎となる取得価額の算出の方法等については、政令で定めることとされている。
この委任を受け、法人税法施行令119条1項は、内国法人が有価証券の取得をした場合には、その取得価額は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額とする旨規定し、同項1号において、「購入した有価証券」を掲げ、その取得価額は「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」とする旨定めている。
(2) 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(乙25。以下「企業結合会計基準」という。)の内容は、次のとおりである。
ア 平成25年9月13日の改正(以下「平成25年改正」という。)前の企業結合会計基準の26は、取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理する旨定めていた。
イ 平成25年改正後の企業結合会計基準の26は、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、発生した事業年度の費用として処理する旨定めている。
また、平成25年改正後の企業結合会計基準の94は、なお書きにおいて、個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、金融商品会計基準及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「実務指針」という。)に従って算定することに留意する旨定めている。
(3) 以上の点を含め、本件に関係する法令及び会計基準等の定めは、別紙2「関係法令等の定め」記載のとおりである。なお、別紙で定める略称は、以下の本文においても用いる。
3 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1) 原告及びその関連企業グループ(以下「■グループ」という。)について
ア ■グループ
■グループは、■(以下「本件代表者」という。)が代表取締役を務める■(以下「■」という。)を中核とした関連企業グループである。(乙3、6)
イ 原告
原告は、■に設立された、包装・梱包資材の販売加工業等を営む株式会社である。原告は、平成25年3月、■グループの一員となり、本件代表者がその代表取締役に就任した。(乙2、3)
平成29年3月31日時点において、原告の発行済株式の全部は、■グループの一員である■(以下「■」という。)が保有していた。なお、原告は、取締役会設置会社である。(乙2、4)
原告は、■、■を吸収合併し、その納税義務を承継した。(乙1)
ウ ■
■は、■に設立された、シール印刷業等を営む株式会社である。■は、平成25年3月、■グループの一員となり、本件代表者がその代表取締役に就任した。(乙1、3)
平成29年3月31日時点において、■の発行済株式の全部は、■が保有していた。なお、■は、取締役会設置会社であった。(乙1、5)
■は、■、原告に吸収合併されて消滅した。
エ ■
■は、■に設立された、グラビア印刷業等を営む株式会社であり、■グループの中核をなしている。■の代表取締役は、本件代表者が務めている。(乙3、6)
平成29年3月31日時点において、■の発行済株式は、その完全親会社である株式会社■を通じ、■がその過半数を保有していた。(乙7、8)
オ ■
■は、■に設立された、包装資材の製造販売業等を営む株式会社であり、本件代表者が代表取締役を務めている。(乙9)
カ 企業提携の対象会社
(ア) ■は、■に設立された、オフセット石版印刷業等を営む有限会社である。■は、後記(2)のとおり、平成28年5月20日にその発行済株式の全部を■が譲り受けたことにより、■グループの一員となった。(乙3、10)
(イ) ■は、■に設立された、プラスチック製品の売買業等を営む株式会社である。■は、後記(3)のとおり、平成29年2月13日にその発行済株式の全部を原告が譲り受けたことにより、■グループの一員となった。(乙3、11)
(2) ■による■の株式の購入に係る経緯
ア 中堅・中小企業のM&A支援を主な事業とする■(以下「■」という。)は、平成27年11月、■に対し、■を対象会社とする企業概要書を提供し、■がその発行済株式の全部の譲渡の方法による企業提携を希望している旨を伝えた。(甲3、乙12)
イ ■は、平成27年11月20日、■との間で、以下の約定により、■との企業提携に関する仲介業務(以下「本件提携仲介業務1」という。)を委託する旨の契約(以下「本件提携仲介契約1」という。)を締結した。(甲4)
(ア) ■は、■が情報提供した■との間の企業提携を実現するため、■に対し、当該企業提携の仲介に関する専門的な業務を行うことを委託する。(1条)
(イ) 本件提携仲介業務1の範囲は、①情報収集・調査及び資料の作成、②■についての企業価値判断の参考資料の作成、③基本スキームの立案、④実務手続上の助言及び交渉のスケジューリング、⑤契約書等の草案の作成、⑥企業提携の交渉の立会い及び助言、⑦企業精査(デューデリジェンス)のセッティング、立会い及び助言、⑧その他必要なサービスの提供とする。(3条)
(ウ) ■は、■に対し、後記(エ)から(カ)に基づき、情報提供料(業務着手金を含む。)、業務中間報酬及び成功報酬を支払う。なお、「情報提供料(業務着手金を含む。)」とは、企業提携に必要な情報の収集・調査及び資料の作成、■が行う■についての企業価値判断の参考資料の作成の各業務に対する対価をいう。(2条、4条)
(エ) ■は、情報提供料(業務着手金を含む。)として、本件提携仲介契約1の締結後5日以内に100万円を支払う。この情報提供料(業務着手金を含む。)は、理由のいかんにかかわらず返金されない。(5条)
(オ) ■は、業務中間報酬として、基本合意書等(■と■とが企業提携をとり進めることに関する意思が示された書類)の締結後直ちに、後記(カ)の成功報酬の20%に相当する額と500万円とのいずれか高い額を支払う。この業務中間報酬は、理由のいかんにかかわらず返金されないが、企業提携が成約した場合は成功報酬に含める。(6条)
(カ) ■は、最終契約が締結された場合、成功報酬として、■の時価総資産価額(営業権を含む。)を基礎として計算された金額を支払う。なお、前記(エ)の情報提供料(業務着手金を含む。)は、成功報酬に含めない。また、事業譲渡の場合における時価総資産価額は、譲渡対象事業に係る移動時時価総資産価額(営業権を含む。)とする。(7条)
(キ) ■は、前記(ア)の企業提携の実現を保証するものではなく、また、■は、自己の費用負担の下でデューデリジェンスを実施し、自己の最終的な判断及びその危険負担に基づいて、自己の責任において上記企業提携に関する意思決定を行う。(20条)
ウ ■は、本件提携仲介契約1の締結後、本件代表者と■の代表取締役との面談、本件代表者による現地視察への同行、買収条件の調整及び基本合意書の草案作成等を行った。(甲40・10枚目)
エ ■は、■が発行した平成27年11月16日付け請求書に基づき、同月27日までに、■に対し、前記イ(エ)の情報提供料100万円並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)8万円の合計108万円を支払った。(甲5、6)
オ ■は、平成27年12月18日頃、■を通じて、■に対し、希望買収条件、スケジュール、排他的交渉権の付与の依頼等を記載した同日付け意向表明書を提示した。(甲7)
カ ■は、平成28年2月29日、■の株主らとの間で、概要、以下のとおり、企業提携に関する基本合意(以下「本件基本合意1」という。)を締結した。(甲10)
(ア) 売主らは、■に対し、所有する■の発行済株式(合計1万4000株)を譲渡し、■は、売主らからこれを譲り受ける。上記株式の譲渡価格の合計額は、3億5000万円から支給退職慰労金合計1億8000万円及び支給退職慰労金引当額を控除した額とする。ただし、後記(ウ)の調査の結果、■に関して売主らが■に提供した従前の情報とは異なる事実が判明した場合において、価格調整を行うべき重大な必要性が生じたときは、■及び売主らは、協議の上、上記の価格を変更することができる。(2条)
(イ) ■及び売主らは、基本合意書に規定された全ての事項が実施・確認され、企業提携に関する諸条件につき合意した後は、それぞれ遅滞なく基本合意書と同様の趣旨を骨子とした株式譲渡に関する具体的な内容を定めた最終契約書を締結するものとし、基本合意書に規定されたいずれかの事項が充足されない場合は、当該事項の確認・実施について権利を有する当事者が当該権利を放棄した場合を除き、最終契約を締結する義務を負わないものとする。(3条)
(ウ) ■は、■の事業及び財務内容の実在性・妥当性を検証するために、基本合意書の締結以降、■又は■の指定する第三者(公認会計士、弁護士等を含む。)による■の調査(事業計画の検証、実地調査、インタビュー、会計帳簿その他の書類の閲覧、調査を含む。)を実施する。(5条)
(エ) ■及び売主らは、基本合意書のうち12条から20条までについてのみ法的拘束力を有し、その他の条項については法的拘束力を有しないものであることを確認する。(17条)
キ ■は、■が発行した平成27年12月25日付け請求書に基づき、平成28年3月4日、■に対し、前記イ(オ)の業務中間報酬772万8000円及び消費税等61万8240円の合計834万6240円を支払った。(甲8、9)
ク ■は、本件基本合合意1の締結後、■の企業精査(デューデリジェンス)のセッティング及び立会い、買収条件の最終調整並びに株式譲渡契約書の草案作成等を行った。(甲40・10枚目、乙13)
ケ ■は、顧問契約を締結している法律事務所の弁護士(以下「本件弁護士」という。)に対し、■の法務調査(以下「本件法務調査1」という。)を依頼した。(乙14・1頁)
コ 本件弁護士は、平成28年4月5日から同月7日にかけて、■のデューデリジェンスに必要な資料及び株式譲渡契約書について、法的な問題点の有無等を検討した。(乙14・7~9頁)
サ ■及び■は、平成28年4月15日、本件提携仲介契約1に係る■の地位を■が承継することについて合意した。(甲11)
シ ■は、平成28年4月15日、臨時株主総会を開催し、■の発行済株式の全部を譲り受けることについての承認を受けた。(甲12)
ス ■は、平成28年4月15日、■の株主らとの間で、■の発行済株式の全部(1万4000株)を、1株当たり1万1300円、総額1億5820万円で譲り受ける旨の株式譲渡契約を締結した。(甲13)
■は、本件代表者及び■の株主による株式譲渡契約書の調印に立ち会った。(乙13・2~4頁)
セ ■は、平成28年5月20日、■の発行済株式の全部を譲り受け、同日、■が発行した同年4月15日付け請求書に基づき、■に対し、前記イ(カ)の成功報酬3267万4891円及び消費税等261万3991円の合計3528万8882円を支払った。(甲14、15)
ソ ■は、本件弁護士が発行した平成28年7月1日付け請求書に基づき、同年8月8日、本件弁護士に対し、本件法務調査1に対する報酬19万6000円及び消費税等1万5680円の合計21万1680円を支払った。(甲16、17)
タ ■は、■に対し、平成29年3月31日付け請求書を送付し、■が■に支払った前記エの情報提供料108万円(消費税等込み)及び前記カの業務中間報酬834万6240円(消費税等込み)を請求した。■は、平成30年3月29日、■に対し、上記情報提供料及び業務中間報酬の合計942万6240円を支払った。(甲18、19)
チ ■は、平成29年3月期の経理処理において、下表のとおり、本件提携仲介業務1及び本件法務調査1に係る各報酬等(本件費用1)を雑費として計上した。(乙15)
| 計上年月日 | 支出先 | 内容等 | 金額(税抜き) |
| 平成28年4月30日 | ■ | 成功報酬 | 32,674,891円 |
| 平成28年8月8日 | 本件弁護士 | 報酬 | 196,000円 |
| 平成29年3月31日 | ■ | 情報提供料 | 1,000,000円 |
| 平成29年3月31日 | ■ | 業務中間報酬 | 7,728,000円 |
| 合 計 | 41,598,891円 | ||
(3) 原告による■の株式の購入に係る経緯
ア ■は、平成28年6月頃、原告に対し、■を対象会社とする企業概要書を提供し、■がその発行済株式の全部の譲渡の方法による企業提携を希望している旨を伝えた。(甲20)
イ 原告は、平成28年8月22日、■との間で、以下の約定により、■との企業提携に関する仲介業務(以下「本件提携仲介業務2」という。)を委託する旨の契約(以下「本件提携仲介契約2」という。)を締結した。(甲21)
(ア) 原告は、■が情報提供した■との間の企業提携を実現するため、■に対し、当該企業提携の仲介に関する専門的な業務を行うことを委託する。(1条)
(イ) 本件提携仲介業務2の範囲は、①情報収集・調査及び資料の作成、②■についての企業価値判断の参考資料の作成、③基本スキームの立案、④実務手続上の助言及び交渉のスケジューリング、⑤契約書等の草案の作成、⑥企業提携の交渉の立会い及び助言、⑦企業精査(デューデリジェンス)のセッティング、立会い及び助言、⑧その他必要なサービスの提供とする。(3条)
(ウ) 原告は、■に対し、後記(エ)から(カ)に基づき、情報提供料(業務着手金を含む。)、業務中間報酬及び成功報酬を支払う。なお、「情報提供料(業務着手金を含む。)」とは、企業提携に必要な情報の収集・調査及び資料の作成、原告が行う■についての企業価値判断の参考資料の作成の各業務に対する対価をいう。(2条、4条)
(エ) 原告は、情報提供料(業務着手金を含む。)として、本件提携仲介契約2の締結後5日以内に100万円を支払う。この情報提供料(業務着手金を含む。)は、理由のいかんにかかわらず返金されない。(5条)
(オ) 原告は、業務中間報酬として、基本合意書等(原告と■とが企業提携をとり進めることに関する意思が示された書類)の締結後直ちに、後記(カ)の成功報酬の20%に相当する額と500万円とのいずれか高い額を支払う。この業務中間報酬は、理由のいかんにかかわらず返金されないが、企業提携が成約した場合は成功報酬に含める。(6条)
(カ) 原告は、最終契約が締結された場合、成功報酬として、■の時価総資産価額(営業権を含む。)を基礎として計算された金額を支払う。なお、前記(エ)の情報提供料(業務着手金を含む。)は、成功報酬に含めない。また、事業譲渡の場合における時価総資産価額は、譲渡対象事業に係る移動時時価総資産価額(営業権を含む。)とする。(7条)
(キ) ■は、前記(ア)の企業提携の実現を保証するものではなく、また、原告は、自己の費用負担の下でデューデリジェンスを実施し、自己の最終的な判断及びその危険負担に基づいて、自己の責任において上記企業提携に関する意思決定を行う。(20条)
ウ ■は、本件提携仲介契約2の締結後、本件代表者と■の代表取締役との面談、本件代表者による現地視察への同行、買収条件の調整及び基本合意書の草案作成等を行った。(甲40・11枚目)
エ 原告は、■が発行した平成28年8月12日付け請求書に基づき、同月24日までに、■に対し、前記イ(エ)の情報提供料100万円並びに消費税等8万円の合計108万円を支払った。(甲22、23)
オ 原告は、平成28年10月12日、■の株主との間で、概要、以下のとおり、企業提携に関する基本合意(以下「本件基本合意2」という。)を締結した。(甲24)
(ア) 売主は、■に対し、■の発行済株式(6万株)の全部を有効に取得した上で■に譲渡し、■は、売主からこれを譲り受ける。対象株式の譲渡価格及び役員退職慰労金の合計額は、7億5000万円とし、その内訳は、対象株式5億5000万円、役員退職慰労金2億円を基準とするが、最終的な金額については、最終契約書において定める。ただし、最終契約書において合意する対象株式の譲渡価格及び売主に対する役員退職慰労金は、後記(ウ)の調査の結果、■及び売主の協議により、決定する。(2条)
(イ) 原告及び売主は、基本合意書に規定され、かつ、別途協議により定めた全ての事項が実施・確認され、企業提携に関する諸条件につき合意した後は、遅滞なく最終契約書を締結するものとし、前記事項が充足されない場合は、当該事項の確認・実施について権利を有する当事者が当該権利を放棄した場合を除き、最終契約を締結する義務を負わないものとする。(3条)
(ウ) ■は、■の事業及び財務内容の実在性・妥当性を検証するために、基本合意書の締結以降、■又は■の指定する第三者(公認会計士、弁護士等を含む。)による■の調査(事業計画の検証、実地調査、インタビュー、会計帳簿その他の書類の閲覧、調査を含む。)を実施する。(5条)
(エ) ■及び売主は、基本合合意書のうち14条から22条までについてのみ法的拘束力を有し、その他の条項については法的拘束力を有しないものであることを確認する。(19条)
カ ■は、本件基本合意2の締結後、■の企業精査(デューデリジェンス)のセッティング及び立会い、買収条件の最終調整並びに株式譲渡契約書の草案作成等を行った。(甲40・8枚目、乙16)
キ 原告は、■が発行した平成28年10月12日付け請求書に基づき、同月27日、■に対し、前記イ(オ)の業務中間報酬1621万円及び消費税等129万6800円の合計1750万6800円を支払った。(甲25、26)
ク 原告は、■の法務調査(以下「本件法務調査2」という。)を本件弁護士に依頼するとともに、財務調査(以下「本件財務調査」という。)を■(以下「■」という。)に依頼した。
ケ 本件弁護士は、平成28年9月から同年12月にかけて、■の株式の購入に係る資料、基本合意書及び株式譲渡契約書等について、法的な問題点の有無等を検討した。(乙14・11~25頁)
コ 本件弁護士は、原告に対し、平成28年10月26日付け報告書を提出し、■から開示を受けた資料等に基づき実施した本件法務調査2の結果を報告した。(甲42)
サ ■は、原告に対し、平成28年11月7日付け報告書を提出し、■から開示を受けた資料等に基づき実施した本件財務調査の結果を報告した。(甲43)
シ 原告は、■が発行した平成28年11月10日付け請求書に基づき、同年12月7日、■に対し、本件財務調査の報酬213万1334円及び消費税等17万0506円の合計230万1840円を支払った。(甲27、28)
ス ■、原告及び■は、平成29年1月20日、本件提携仲介契約2に係る■の地位を原告が承継することについて合意した。(甲29)
セ ■は、原告に対し、平成29年2月1日付け請求書を送付し、■に支払った前記キの業務中間報酬1750万6800円(消費税等込み)を請求した。原告は、同年3月7日、■に対し、上記金額を支払った。(甲30、31)
ソ 原告は、平成29年2月6日、臨時株主総会を開催し、■の発行済株式の全部を譲り受けることについての承認を受けた。(甲32)
タ 原告は、平成29年2月7日付けで、■の株主との間で、■の発行済株式の全部(6万株)を、1株当たり9167円、総額5億5002万円で譲り受ける旨の株式譲渡契約を締結した。(甲33)
■は、本件代表者及び■の株主による株式譲渡契約書の調印に立ち会った。(乙16・2~4頁)
チ 原告は、平成29年2月13日、■の発行済株式の全部を譲り受け、同月14日、■が発行した平成28年12月15日付け請求書に基づき、■に対し、前記イ(カ)の成功報酬6486万円及び消費税等518万8800円の合計7004万8800円を支払った。(甲33~35、乙17)
ツ 原告は、本件弁護士が発行した平成29年2月8日付け請求書及び同月24日付け請求書に基づき、同年3月27日及び同年4月27日、本件弁護士に対し、本件法務調査2の報酬93万円及び消費税等7万4400円の合計100万4400円を支払った。(甲36の1~4、甲37の1~2)
テ ■は、原告に対し、平成29年3月31日付け請求書を送付し、■が■に支払った前記エの情報提供料108万円(消費税等込み)及び本件弁護士に支払った前記ツの本件法務調査2の報酬100万4400円(消費税等込み)を請求した。原告は、同年5月2日、■に対し、上記情報提供料及び本件法務調査2の報酬額合計208万4400円を支払った。(甲38、39)
ト 原告は、平成29年3月期の経理処理において、下表のとおり、本件提携仲介業務2、本件法務調査2及び本件財務調査に係る各報酬等(本件費用2)を支払手数料又は雑費として計上した。(乙18の1~2)
| 計上年月日 | 支出先 | 内容等 | 金額(税抜き) |
| 平成28年12月2日 | ■ | 報酬 | 2,131,334円 |
| 平成29年2月14日 | ■ | 成功報酬 | 64,860,000円 |
| 平成29年3月7日 | ■ | 業務中間報酬 | 16,210,000円 |
| 平成29年3月31日 | ■ | 報酬 | 930,000円 |
| 平成29年3月31日 | ■ | 情報提供料 | 1,000,000円 |
| 合 計 | 85,131,334円 | ||
(4) 本件各処分に至る経緯
ア 原告は、平成29年3月期の所得の金額の計算上、本件費用2の全額を損金の額に算入した上、別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり、平成29年3月期及び令和2年3月期の法人税並びに平成29年3月課税事業年度及び令和2年3月課税事業年度の地方法人税について、いずれも法定申告期限内に確定申告をした。(乙4、19)
イ ■は、平成29年3月期の所得の金額の計算上、本件費用1の全額を損金の額に算入した上、別表3及び別表4の各「確定申告」欄のとおり、平成29年3月期及び平成30年3月期の法人税並びに平成30年3月課税事業年度の地方法人税について、いずれも法定申告期限内に確定申告をした。(乙5、20)
原告は、■を吸収合併してその納税義務を承継し、別表3及び別表4の各「確定申告」欄のとおり、■の平成31年3月期の法人税及び平成31年3月課税事業年度の地方法人税について、法定申告期限内に確定申告をした。(乙21)
ウ 処分行政庁は、福岡国税局所属の調査担当職員の調査に基づき、令和3年7月26日付けで、原告に対し、別表1から別表4までの各「更正処分等」欄のとおり、本件各処分をした。(甲1の1~9)
本件各処分の理由は、要旨、本件各費用は、それぞれ特定の有価証券である■の全株式又は■の全株式を取得することを目的として、その取得に関連して支出された費用であり、法人税法施行令119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」に該当するため、当該株式の取得価額に算入すべきものであるから、平成29年3月期の損金の額には算入されないというものであった。(甲1の1、5)
(5) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、令和3年10月26日、国税不服審判所長に対し、本件各処分を不服として審査請求をした。
国税不服審判所長は、令和4年10月5日付けで、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。(甲2)
イ 原告は、令和5年3月15日、本件訴訟を提起した。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) ■によるM&Aの仲介業務の一般的な流れ(甲40、乙62)
ア ■においては、多くの場合、譲渡を希望する企業(以下「譲渡希望企業」という。)から依頼を受け、その条件に合う買い手候補企業を探して紹介するという流れでM&Aの仲介業務を行っている。
イ 譲渡希望企業は、全国の金融機関や会計事務所等からの紹介や、■の開催するセミナーに参加することなどにより、■に対し、M&Aの相談を行う。■は、仲介を希望する譲渡希望企業との間で提携仲介契約を締結し、企業評価等に必要な企業概要、財務、事業、不動産、人事、各種契約関係等の資料の提出を受けて企業概要書を作成する。
ウ ■は、企業概要書の作成後、企業概要書の持ち込み先の候補リストを作成し、当該リストから候補先として譲渡希望企業が選んだ企業に対し、企業概要書を持ち込む。その際、持ち込み先の企業が■との間で秘密保持契約を締結していない場合には、譲渡希望企業名を匿名にした企業概要書を、持ち込み先の企業が■との間で秘密保持契約を締結している場合には、譲渡希望企業名等が記載された詳細な企業概要書を持ち込み、関心の有無を確認する。
■は、企業概要書の持ち込み先の企業が本格的に譲受の検討を行いたいと希望した場合、当該企業(以下「譲受希望企業」という。)との間で、譲渡希望企業を対象とした提携仲介契約を締結する。
エ ■は、提携仲介契約の締結後、譲受希望企業に対し、企業概要書の作成の基となった各種資料を開示し、資料に関する質疑応答、譲渡希望企業と譲受希望企業の経営者同士によるトップ面談、現地視察、買収価格等の条件調整のサポートを行い、最終契約の土台となる条件を整え、基本合意の締結へ進む。
基本合意には、大まかな契約条件、M&A契約予定日、買収監査(デューデリジェンス)に関する事項、独占交渉権、有効期限、法的拘束の範囲等が記載される。基本合意を締結すると、独占交渉権が発生し、譲渡希望企業は、基本合意を締結した相手以外との交渉ができなくなる。
オ 基本合意の締結後、■は、買収監査(デューデリジェンス)のアドバイスや最終契約の条件調整のサポートを行い、最終契約が締結された後、株式譲渡の実行の際に立会いを行う。
(2) ■による■の株式の購入に係る経緯
ア ■は、■から事業承継の相談を受け、同社との間で提携仲介契約を締結して仲介業務を開始した。■との間では、■の他にトップ面談等を行った企業があったものの、意向表明書を提出した企業の中で■が選ばれ、■と■との間で、平成28年2月29日、本件基本合意1が締結された。(甲40・10~11枚目)
イ ■は、平成28年3月7日から同月9日にかけて、■につき、監査法人による買収監査のほか、工場の実査等を実施した。(乙13・10~13頁)
ウ ■から本件法務調査1の依頼を受けた本件弁護士は、平成28年4月5日から同月7日にかけて、以下の業務を行った。(前提事実(2)コ、乙14・9頁)
| 日 付 | 内 容 |
| 平成28年4月5日 | 関連資料検討、契約書レビュー等 |
| 平成28年4月6日 | 資料レビュー、株式譲渡契約書レビュー |
| 平成28年4月7日 | 資料レビュー、株式譲渡契約書レビュー |
エ 本件提携仲介契約1に係る■の地位を承継した■は、平成28年4月15日、臨時株主総会を開催し、■の発行済株式の全部を譲り受けることについての承認を受けた。当時、■の株主は、本件代表者が代表取締役を務める■のみであり、上記臨時株主総会には、本件代表者が議長兼議事録作成取締役として出席したほか、■の取締役2名が出席した。(前提事実(1)ウ、甲12、乙1)
同日、■と■の株主らとの間で、株式譲渡契約が締結された。(前提事実(2)ス)
(3) 原告による■の株式の購入に係る経緯
ア ■は、■から事業承継の相談を受け、同社との間で提携仲介契約を締結して仲介業務を開始した。■との間では、当初、■による仲介業務を通じてトップ面談まで進んだ譲受希望企業があったものの、当該企業との交渉は未払残業代等の関係で買収価格が折り合わずに破談となり、その後■案件が正式に持ち込まれた。(甲40・4枚目、甲41)
イ ■から本件法務調査2の依頼を受けた本件弁護士は、平成28年9月26日から同年12月10日にかけて、以下の業務を行った。(前提事実(3)ケ、コ、乙14・13、17、21、25頁)
| 日 付 | 内 容 |
| 平成28年9月26日 | 株式譲渡基本合意書レビュー、関連資料検討 |
| 平成28年10月4日 | 基本合意書レビュー |
| 平成28年10月25日 | デューデリジェンス |
| 平成28年10月26日 | デューデリジェンス、報告書作成 |
| 平成28年11月18日 | デューデリジェンス資料検討、株式譲渡契約書作成 |
| 平成28年11月24日 | 株式譲渡契約書レビュー等 |
| 平成28年12月3日 | 株式譲渡契約書レビュー、コメント |
| 平成28年12月10日 | 株式譲渡契約書最終確認 |
ウ 原告は、平成28年10月12日、■の株主との間で、本件基本合意2を締結した。(前提事実(3)オ)
エ 本件弁護士は、前記イのとおり実施した本件法務調査2の結果を受け、原告に対し、平成28年10月26日付け報告書(甲42)を提出した。(前提事実(3)コ)
オ ■から本件財務調査の依頼を受けた■は、平成28年10月17日、同月18日、同月26日及び同月27日、■において、デューデリジェンスに必要な資料の提供を受けるほか、インタビューを行うなどの現地調査を実施した。(甲43・3枚目、乙16・6~10頁)
■は、上記調査の結果を受け、原告に対し、平成28年11月7日付け報告書(甲43)を提出した。(前提事実(3)サ)
カ デューデリジェンス終了後の平成28年11月24日、本件代表者と■の代表者とのトップ面談が実施された。■が作成した同社の活動履歴に係る資料には、同日の欄に、デューデリジェンスを終えて契約書の調整に入っていたものの、デューデリジェンス時の部長の心ない発言が気になっているようであったため、急遽買い手側でトップ面談を実施した旨が記載されているほか、本件代表者との面談及び工場見学を行ったことで、やはり相手としてはいい会社と再認識してもらうことができ、ひとまず丸く収まる見込みである旨が記載されている。(乙16・5頁)
キ 本件代表者と■の株主は、平成28年12月15日、■の東京本社において、原告と■の株主との間の同日付け株式譲渡契約書に調印した。(甲40・9、20枚目、乙16・2~4頁)
ク 本件提携仲介契約2に係る■の地位を承継した原告は、平成29年2月6日、臨時株主総会を開催し、■の発行済株式の全部を譲り受けることについての承認を受けた。当時、原告の株主は、本件代表者が代表取締役を務める■のみであり、上記臨時株主総会には、本件代表者が議長兼議事録作成取締役として出席したほか、原告の取締役4名が出席した。(前提事実(1)イ、同(3)ソ、甲32、乙2)
ケ 原告と■の株主は、平成29年2月7日付けで、株式譲渡契約を締結し直した。同契約の内容は、前記キの平成28年12月15日付け株式譲渡契約書による契約内容と同一であった。(前提事実(3)タ、甲40・9枚目)
2 法人税法施行令119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」該当性の判断枠組み
(1) 法令解釈
法人税法施行令119条1項1号は、購入した有価証券の取得価額について、「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」と規定するところ、「その有価証券の購入のために要した費用」に該当し、有価証券の取得価額を構成する費用については、支出した事業年度の損金の額に算入することはできず、法人税法61条の2第1項2号所定の「譲渡に係る原価の額」の一部として、当該有価証券の譲渡をした日の属する事業年度に益金の額又は損金の額に算入される譲渡利益額又は譲渡損失額の算定の基礎となる(法人税法61条の2第1項、同条23項)。
法人税法施行令119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」とは、その文言に加え、上記のとおリ、かかる費用が「譲渡に係る原価の額」の一部となって譲渡利益額又は譲渡損失額の基礎となることに照らすと、⑦特定の有価証券の購入に向けられた費用であって、①当該費用が客観的に必要とされるものをいうと解するのが相当である。
(2) M&A取引において支出される費用の「その有価証券の購入のために要した費用」該当性について
ア 企業買収(M&A)の実務における典型的なプロセスは、①相談受付・事前準備段階、②候補先打診・意向表明段階、③基本合意・デューデリジェンス実施段階、④最終契約・クロージング段階の4段階で進行し、全体に要する期間は、最短で8か月程度、一般的には1年程度とされている(乙33)。
デューデリジェンスは、M&A取引を行うに当たり、取引当事者による意思決定に直接又は間接に影響を及ぼすような種々の問題点を調査及び検討する手続である。買収者(譲受希望企業)は、基本合意の締結後、弁護士等の専門家に依頼して、対象会社(譲渡希望企業)に関する法務、税務、財務、ビジネスその他の観点からの実地調査(デューデリジェンス)を行い、当該調査で判明した事実を基礎に、改めて買収価格を含む買収条件に関する交渉を行うことが一般的であり、デューデリジェンスの結果は、取引を進めるかどうかの判断のほか、買収価格の決定、買収方法(買収スキーム)の決定等、企業買収のあらゆる局面に重要な影響を及ぼすものであるとされる(甲57、58)。
このように、M&A取引においてデューデリジェンスは重要な手続とされているところ、当該調査を専門家に依頼した場合、当該専門家に対する報酬等の費用が発生する。また、M&A取引において仲介業者に仲介業務を委託した場合には、当該仲介業者に対する報酬等の費用が発生する(以下、デューデリジェンスに係る費用及び仲介業務に係る費用を総称して「DD等費用」という。)。
イ M&Aの手法には、株式譲渡、第三者割当による募集株式の取得や事業譲渡のほか、合併、会社分割及び株式交換等の組織再編成行為があり、その類型は多岐にわたるところ、いずれの手法によりM&A取引を行うかは、対象会社の財務状況、資本構造、税務コスト及び買収者の買収目的を踏まえて決まるものである(甲57、58)。
このうち、事業譲渡の方法によるM&A取引においてDD等費用が発生した場合、当該費用は、事業譲渡により譲り受ける資産(事業を構成する個々の資産)との関連性を見いだし難いため、法人税法22条3項2号により、原則として、発生時に損金として処理されると解される(甲56・7頁、弁論の全趣旨)。
また、合併に際して行われたデューデリジェンスに係る費用については、国税庁ウェブサイトの質疑応答事例(乙59)において、合併により移転を受ける減価償却資産又は棚卸資産の取得価額には含まれず、一時の損金として処理される旨の回答がされている。
ウ 前記(1)で説示したとおり、法人税法施行令119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」とは、⑦特定の有価証券の購入に向けられた費用であって、①当該費用が客観的に必要とされるものをいうところ、上記⑦については、有価証券が特定されていることのほか、当該有価証券の「購入」に向けられた費用といえることが必要であって、このため、例えば、特定の対象会社を買収するか否かや、買収するとしてもいかなるM&Aの手法によるかが決まっていない段階で、これらの点についての判断材料とするために行われた業務に係る費用については、特定の有価証券の「購入」に向けられた費用とはいえないと解される。他方、特定の有価証券を購入することにつき相当程度の蓋然性がある状況において、買収価格決定の参考とするために行われた業務に係る費用については、特定の有価証券の「購入」に向けられた費用ということができる。
そもそも、M&A取引は、案件ごとの個別性が高く、買収者の組織・規模や対象会社との関係性等に応じて、求められるデューデリジェンスの精度やM&Aの意思決定に至る経過も多種多様であって、例えば、当初計画していたM&Aの手法とは異なる手法によりM&Aが行われることがあるのみならず、事業年度をまたいで交渉を行い、その間、DD等費用を支出したが、デューデリジェンスの結果、重要な問題が発見されて株式取得の実行を断念したり、デューデリジェンスで顕出された対象会社の問題点を基に契約条件の交渉を進めたものの合意が成立しなかったりして、最終的にM&A取引に至らないことも実務上頻繁に生じ得ると認められる(甲57、58、弁論の全趣旨)。このように、M&A取引の交渉過程における流動性や不確実性は、一般的・類型的に低いということはできず、特定の会社を対象会社としてデューデリジェンスを行ったことをもって、M&A取引が成立する蓋然性が高いとか、当該デューデリジェンスが対象会社の株式の購入に向けられたものであるなどと即断することもできないのであって、最終的にM&A取引が成立するか否か、成立するとしても、対象会社(譲渡希望企業)の株式を買収者(譲受希望企業)が取得することになるか否かについては、交渉の過程を通じてその蓋然性(不確実性)が変動し得るものである。このため、M&A取引の交渉過程において生じた様々な費用について、そのような具体的な事情を捨象して、M&A取引との関連の程度や支出の必要性等を一律に論じることはできない。
これらの事情を踏まえると、株式取得の方法により行われたM&A取引の過程において発生したDD等費用について、⑦当該費用が特定の有価証券の購入に向けられた費用であるか否か、①有価証券の購入に客観的に必要とされるものであるか否かを判断するに当たっては、支出の原因となる契約又は契約に基づく個々の業務の目的及び内容、取引に向けた一連の過程における当該契約ないし業務の位置付け、これらの履行時点における株式購入の蓋然性の程度等の諸事情を踏まえて検討するのが相当である。
また、以上の説示に照らすと、かかる判断に当たっては、上記時点において、客観的にみて株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に当該株式の購入の不確実性が解消することを要すると解すべきである。そして、上記程度に不確実性が解消したか否かは、会社の構成や意思決定の実情、株式購入の検討経緯等に照らして実質的に判断すべきであり、必ずしも、法人の意思決定機関による正式な意思決定までを要するものではないと解される。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、法人税法施行令119条1項1号は法人税法22条4項の公正処理基準を確認したものであり、同号の解釈としては公正処理基準の内容を参酌すべきであるとした上で、企業結合会計基準によれば、外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等のうち現実に契約に至った企業結合に関連する支出額は、法人税法施行令119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」に該当すると解することが公正処理基準に合致する旨主張するので、この点につき検討する。
イ 平成25年改正前の企業結合会計基準の26は、「取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理する。」と定めていたが、平成25年改正により、「取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、発生した事業年度の費用として処理する。」と改められ、取得関連費用は取得原価(取得価額)に含めず、費用として処理するものとされた(乙25)。
他方、法人税法における有価証券の取得価額に関する規定の制定及び改正の経緯についてみるに、昭和34年の改正により新設された法人税法施行規則19条の6において、「購入手数料その他当該株式を取得するために直接要した費用」を取得価額に含めることとされた後、昭和40年の法人税法の全文改正に伴い、法人税法施行令38条1項3号において、購入した有価証券の取得価額は、「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」と規定された(乙23)。その後、平成12年の改正に伴い、法人税法61条の2の規定が設けられるとともに、法人税法施行令38条1項3号の規定が同施行令119条1項1号に移動したが、規定の内容は変わらず、その後も、購入した有価証券の取得価額について「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」とする同号の文言は変わっていない(乙47)。
確かに、一般論としては、法人税法22条3項及び4項にいう「別段の定め」として規定された条項が公正処理基準を確認する内容のものである場合があるとしても、上記のように、法人税法施行令119条1項1号の規定は変わらない一方、企業結合会計基準が上記のとおり改正されていることからすると、同号の解釈につき、平成25年改正の前を問わず企業結合会計基準に白紙的に委ねる趣旨であると解することは困難であり、法人税法その他の関係法令の規定をみても、そのような趣旨であることをうかがわせる規定は見当たらないことからすると、法人税法施行令119条1項1号の解釈において企業結合会計基準を重視することは相当ではないといわざるを得ない。
ウ 仮に、法人税法施行令119条1項1号の解釈において企業結合会計基準を参酌するとしても、平成25年改正後の企業結合会計基準の94なお書きにおいて個別財務諸表における子会社株式の取得原価算定に当たり従うものとされる実務指針の56は、「金融資産(デリバティブを除く。)の取得時における付随費用(支払手数料等)は、取得した金融資産の取得価額に含める。」と定めるのみであり、ここにいう「付随費用」の範囲は「支払手数料」のほかは明確に規定されておらず、外部のアドバイザー等に支払った報酬等の扱いも明記されていない。このことからすると、実務指針の56が、平成25年改正前の企業結合会計基準の26と同様に、「取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含める」ことを定める趣旨であるとにわかに認めることはできない。そうすると、平成25年改正後の企業結合会計基準の94なお書きを根拠に、個別財務諸表における子会社株式の取得価額について平成25年改正前の企業結合会計基準の26と同様の扱いとすることが企業結合会計基準の内容であるということはできない。
この点に関する被告の主張は、採用することができない。
エ また、被告は、有価証券の取得価額に算入されるか否かは、特定の有価証券の購入に関する支出であるか否かか、最終的に買収に至ったか否かによって判断されるものであるから、取得価額に算入されるか否かの判断において、支出時点又は支出が不可避となった時点における購入の不確実性が影響を与えることはないとも主張する。
しかしながら、前記(2)のとおり、M&A取引は案件ごとの個別性が高く、M&Aの意思決定に至る経過等も多種多様であり、当初計画していたM&Aの手法とは異なる手法によりM&Aが行われることがあるのみならず、事業年度をまたいで交渉を行い、その間、DD等費用を支出したが、最終的にM&A取引に至らないことも実務上頻繁に生じ得るのであって、M&A取引の交渉過程において生じた様々な費用について、支出の原因となる契約又は契約に基づく個々の業務の目的及び内容、取引に向けた一連の過程における当該契約ないし業務の位置付け、これらの履行時点における株式購入の蓋然性の程度等を踏まえることなく、単に、最終的に買収に至ったか否かという事情によって、取得価額該当性を一律に判断することはできない。のみならず、最終的に買収に至ったか否かという後発的な事情によって税務処理が左右されるというのは、税務処理の安定性の観点から疑問である上、法令の文言上も、上記主張のように解すべき的な根拠を見いだし難いといわざるを得ない。そもそも、最終的に買収(株式取得の方法によるM&A取引)に至らなかった場合には、株式の「取得」がない以上、「取得価額」を算定することもないのであって、最終的に買収に至ったとは、ある費用の取得価額該当性を判断するための前提条件にすぎず、せいぜい取得価額該当性の必要条件というべきであり、その十分条件とは解されない。被告の上記主張も、にわかに採用することができない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、①法人税法施行令119条1項1号は、有価証券を「譲渡」した場合における取得価額について規定するものであるところ、本件で問題となるのは有価証券の取得に先立つ費用であるから、一般管理費として支出時に損金に計上されるべきである、②有価証券の取得価額は株式取得の原価を定めるためのものであり、本来、株式そのものの価値として算出すべきものであるから、アドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等のように株価とは無関係のものに取得の対価性を認めることは法人税法61条の2の趣旨に反する、③デューデリジェンスに係る費用は株式取得に必然的に発生する支出ではないから、「購入手数料」のような株式を購入するために避けられない支出とは大きく異なるなどと主張する。
原告の上記主張は、DD等費用について、法人の意思決定機関による決定との前後にかかわらず、その性質上、およそ「その有価証券の購入のために要した費用」に該当しないとする趣旨であると解されるが、以下のとおり、かかる主張を採用することはできない。
イ 確かに、法人税法61条の2第1項は、有価証券の「譲渡」をした場合における益金の額又は損金の額への算入について規定するものであり、法人税法施行令119条1項1号により有価証券の取得価額に該当する費用は、当該有価証券の譲渡の際に、譲渡利益額又は譲渡損失額の算定の基礎となるものである。もっとも、有価証券の取得価額に該当する費用は、当該費用の支出時に損金の額に算入されるとすれば、支出時と有価証券の譲渡時の双方で二重に評価されることとなり、このような処理は妥当でないといわざるを得ない。したがって、ある費用が有価証券の取得価額に該当するか否かの判断に当たり、有価証券の「譲渡」の場面であるか「保有」の場面であるかによって区別することは相当でなく、原告の上記ア①の主張は理由がない。
ウ 次に、法人税法施行令119条1項1号は、購入した有価証券の取得価額について「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」と定めており、「その有価証券の購入のために要した費用」は購入の代価に「加算」されるものであるから、それ自体が株式そのものの価値として算出される必要はないというべきである。また、上記規定の文言上、「購入手数料」と「その有価証券の購入のために要した費用」とは並列の関係にあるから、後者について、前者に準ずる性質の費用であることは必ずしも要しないと解されるし、株式を購入するために避けることのできない支出であると解すべき的な根拠も見当たらない。そして、譲渡利益額又は譲渡損失額の算定に当たり、「購入手数料」や「その有価証券の購入のために要した費用」を「譲渡に係る原価の額」に含めることが法人税法61条の2の趣旨に反するということもできない。
したがって、原告の上記ア②及び③の主張も、採用することはできない。
3 本件費用1についての検討
(1) 本件提携仲介契約1に基づく情報提供料について
ア 本件提携仲介契約1に基づく情報提供料は、企業提携に必要な情報の収集・調査及び資料の作成、■が行う■についての企業価値判断の参考資料の作成の各業務に対する対価をいうものとされ(前提事実(2)イ(ウ))、また、契約の締結後5日以内に支払うものであって、理由のいかんにかかわらず返金されないものとされている(同(エ))。■は、本件提携仲介契約1に基づき、■に対し情報提供料を支払い、その後、本件提携仲介契約1に係る■の地位を承継した■は、上記情報提供料相当額を■に支払った(前提事実(2)エ、サ、タ)。
イ 本件提携仲介契約1においては、企業提携の方法は限定されておらず、かえって、事業譲渡による場合があり得ることが明示されていた(前提事実(2)イ(カ))。そして、本件提携仲介契約1上、前記アの情報提供料は、契約締結後5日以内に支払うものとされていたところ(前提事実(2)イ(エ))、当時、■が■の株式を購入することについて、客観的にみて蓋然性が相当程度高まったと認められるような事情は見当たらず、かえって、■との間で、■の他にもトップ面談等を行った企業があったこと(認定事実(2)ア)にも照らすと、株式購入の蓋然性が高かったとは認められない。
ウ したがって、本件提携仲介契約1に基づく情報提供料は、■の株式の購入に向けられた費用であるとはいえず、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」には当たらない。
(2) 本件提携仲介契約1に基づく業務中間報酬について
ア 本件提携仲介契約1に基づく業務中間報酬は、基本合意書等(■と■とが企業提携をとり進めることに関する意思が示された書類)の締結後直ちに支払うものであり、理由のいかんにかかわらず返金されないものとされている(前提事実(2)イ(オ))。■は、意向表明書の提示後、本件提携仲介契約1に基づき、■に対して業務中間報酬を支払い、その後、本件提携仲介契約1に係る■の地位を承継した■は、上記業務中間報酬相当額を■に支払った(前提事実(2)オ、キ、タ)。
イ ■との間では、■の他にも意向表明書を提出した企業があったものの、■が選ばれたことから、前記アの時期に業務中間報酬が発生したものである(認定事実(2)ア、甲40)。もっとも、その後に締結された本件基本合意1においては、最終契約の締結義務がないことや一部の条項を除いて法的拘束力がないことが明記されており(前提事実(2)カ(イ)、(エ))、M&A取引における一般的な事例と同様に(前記2(2)ア)、飽くまで、デューデリジェンスの結果を踏まえて、■の株式を購入するか否かを判断することが前提とされていたものと認められる(前提事実(2)イ(キ)も参照)。そうすると、意向表明書の提示はもとより、本件基本合意1の締結についても、これらをもって、■による■の株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に当該株式購入の不確実性が解消されたということはできない。
ウ したがって、本件提携仲介契約1に基づく業務中間報酬は、■の株式の購入に向けられた費用であるとはいえず、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」には当たらない。
(3) 本件法務調査1に対する報酬について
ア 本件法務調査1は、本件弁護士が、本件基本合意1の締結後、関連資料の検討及び契約書のレビュー等を行ったというものである(前提事実(2)ケ、コ、認定事実(2)ウ)。
イ 前記(2)のとおり、本件基本合意1が締結された当時、■による■の株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に当該株式購入の不確実性が解消されていたということはできず、デューデリジェンスの結果を踏まえて■の株式を購入するか否かを判断することが前提とされていたのであるから、本件法務調査1は、飽くまで、■との企業提携を行うか否か、企業提携を行うとしていかなる手法によるかについての判断材料とするための調査であったと認められる。
ウ なお、本件法務調査1に係る一連の業務には株式譲渡契約書のレビューも含まれていたものの(認定事実(2)ウ)、かかる業務についても、■の株式を購入するか否かの判断に先立って行われるその他の資料のレビューと並行して行われたものであり、飽くまで、デューデリジェンスの結果を踏まえて、■の株式を購入するか否かを判断することが前提とされていたのであるから、本件法務調査1において株式譲渡契約書のレビューが行われたからといって、当時、株式購入の蓋然性が相当程度高まっていたとは直ちに評価し難い(甲58参照)。
エ したがって、本件法務調査1に対する報酬は、■の株式の購入に向けられた費用であるとはいえず、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」には当たらない。
(4) 本件提携仲介契約1に基づく成功報酬について
ア 本件提携仲介契約1に基づく成功報酬は、最終契約が締結された場合に支払うものであり(前提事実(2)イ(カ))、実際に、原告と■、■の株主らとの間で株式譲渡契約が締結されたことを受けて支払われたものであるから(前提事実(2)ス、セ)、■の株式の購入に向けられた費用であり、上記購入に客観的に必要とされるものであったといえる。
イ これに対し、原告は、原告が臨時株主総会において■の株式の全部を譲り受ける旨の契約の締結について承認を受けた平成28年4月15日が法人税法施行令119条1項1号の判断基準時になるとした上で、本件提携仲介契約1に係る費用は、いずれも同日よりも前に締結された本件提携仲介契約1に基づいて支出されたものであるから「その有価証券の購入のために要した費用」に該当しない旨主張する。
しかし、前記2(2)で説示したとおり、株式購入の不確実性が解消したか否かは会社の構成や意思決定の実情、株式購入の検討経緯等に照らして実質的に判断すべきであるところ、本件において、■の株主は本件代表者が代表取締役を務める■のみであったことに照らすと(認定事実(2)エ)、上記判断に当たり、臨時株主総会における意思決定の時期を重視することはできない。
また、前記2(2)で説示したとおり、ある特定のDD等費用が「その有価証券の購入のために要した費用」に該当するか否か、すなわち、⑦当該費用が特定の有価証券の購入に客観的に必要とされるものであるか否かを判断するに当たっては、支出の原因となる契約又は契約に基づく個々の業務の目的及び内容、取引に向けた一連の過程における当該契約ないし業務の位置付け、これらの履行時点における株式購入の蓋然性の程度等の諸事情を踏まえて判断すべきであって、本件提携仲介契約1のように、M&A取引の期間全体を通じて業務が行われることを前提として段階的に報酬等が発生する契約について、当該契約の締結時の事情のみをもって株式購入の蓋然性を判断することは相当でない。既に述べたとおり、本件提携仲介契約1において、成功報酬は、最終契約が締結された場合に支払うものとされているのであるから、その性質に照らしても、特定の有価証券の購入に向けられた費用であって、当該費用が客観的に必要とされるものということができる。
そうすると、原告の上記主張を採用することはできない。
ウ したがって、本件提携仲介契約1に基づく成功報酬は、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」に該当する。
4 本件費用2についての検討
(1) 本件提携仲介契約2に基づく情報提供料について
ア 本件提携仲介契約2に基づく情報提供料は、企業提携に必要な情報の収集・調査及び資料の作成、■が行う■についての企業価値判断の参考資料の作成の各業務に対する対価をいうものとされ(前提事実(3)イ(ウ))、また、契約の締結後5日以内に支払うものであって、理由のいかんにかかわらず返金されないものとされている(同(エ))。■は、本件提携仲介契約2に基づき、■に対して情報提供料を支払い、その後、本件提携仲介契約2に係る■の地位を承継した原告は、上記情報提供料相当額を■に支払った(前提事実(3)エ、ス、テ)。
イ 本件提携仲介契約2においては、企業提携の方法は限定されておらず、かえって、事業譲渡による場合があり得ることが明示されていた(前提事実(3)イ(カ))。そして、本件提携仲介契約2上、前記アの情報提供料は、契約締結後5日以内に支払うものとされていたところ(前提事実(3)イ(エ))、当時、■が■の株式を購入することについて、客観的にみて蓋然性が相当程度高まったと認められるような事情は見当たらず、かえって、■との間で、■の他にもトップ面談等を行った企業があったこと(認定事実(3)ア)にも照らすと、株式購入の蓋然性が高かったとは認められない。
ウ したがって、本件提携仲介契約2に基づく情報提供料は、■の株式の購入に向けられた費用であるとはいえず、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」には当たらない。
(2) 本件提携仲介契約2に基づく業務中間報酬について
ア 本件提携仲介契約2に基づく業務中間報酬は、基本合意書等の締結後直ちに支払うものであり、理由のいかんにかかわらず返金されないものとされている(前提事実(3)イ(オ))。■グループの一員である■は、本件基本合意2の締結後、平成28年10月12日付け請求書に基づき、■に対して業務中間報酬を支払い、その後、本件提携仲介契約2に係る■の地位を承継した原告は、上記業務中間報酬相当額を■に支払った(前提事実(3)オ、キ、セ)。
イ 本件基本合意2においては、最終契約の締結義務がないことや一部の条項を除いて法的拘束力がないことが明記されており(前提事実(3)オ(イ)、(エ))、M&A取引における一般的な事例と同様に(前記2(2)ア)、飽くまで、デューデリジェンスの結果を踏まえて、■の株式を購入するか否かを判断することが前提とされていたものと認められる(前提事実(3)イ(キ)も参照)。そうすると、本件基本合意2の締結をもって、■による■の株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に当該株式購入の不確実性が解消されたということはできない。
ウ したがって、本件提携仲介契約2に基づく業務中間報酬は、■の株式の購入に向けられた費用であるとはいえず、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」には当たらない。
(3) 本件法務調査2及び本件財務調査に対する各報酬について
ア 本件法務調査2は、本件弁護士が、本件基本合意2の締結前に基本合意書のレビュー及び関連資料の検討を行ったほか、本件基本合意2の締結後にデューデリジェンス及び株式譲渡契約書のレビュー等を行ったというものである。また、本件財務調査は、■が、本件基本合意2の締結後、■へのインタビュー等の調査を行ったというものである(前提事実(3)ク~サ、認定事実(3)イ、エ、オ)。
イ 前記(2)のとおり、本件基本合意2が締結された当時、■による■の株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に当該株式購入の不確実性が解消されていたということはできず、デューデリジェンスの結果を踏まえて■の株式を購入するか否かを判断することが前提とされていたのであるから、本件法務調査2及び本件財務調査は、飽くまで、■との企業提携を行うか否か、企業提携を行うとしていかなる手法によるかについての判断材料とするための調査であったと認められる。
ウ なお、本件法務調査2に係る一連の業務には株式譲渡契約書のレビューも含まれていたものの(認定事実(3)イ)、かかる業務についても、デューデリジェンスに係る報告書の作成後に行われたものであるため、■の株式の購入に向けられた費用であるとみる余地があり得る。
しかし、原告と■との間では、デューデリジェンス終了後の平成28年11月24日、デューデリジェンス時の担当部長の心ない発言が気になったなどとして急遽トップ面談が実施されたのであり(認定事実(3)カ)、本件代表者との面談及び工場見学を行ったことでひとまず丸く収まる見込みである旨の■の資料の記載(乙16・5頁)に照らしても、両社の交渉については、デューデリジェンス後に破談となる蓋然性が一定程度あったものとうかがわれる。そうである以上、少なくとも上記トップ面談が終了するまでは、■による■の株式購入の蓋然性が相当程度高まったとはにわかに認め難く、本件弁護士による株式譲渡契約書のレビューも、このような不確実な状況下で開始された一連の業務ということができる。
そうすると、仮に、本件法務調査2に対する報酬のうち、株式譲渡契約書のレビューに係る部分を切り分けることができるとしても、当該部分について、■の株式の購入に向けられた費用であるとはいえない。
エ したがって、本件法務調査2及び本件財務調査に対する各報酬は、いずれも■の株式の購入に向けられた費用であるとはいえず、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」には当たらない。
(4) 本件提携仲介契約2に基づく成功報酬について
ア 本件提携仲介契約2に基づく成功報酬は、最終契約が締結された場合に支払うものであり(前提事実(3)イ(カ))、実際に、原告と■の株主との間で株式譲渡契約が締結されたことを受けて支払われたものであるから(前提事実(3)タ、チ、認定事実(3)キ)、■の株式の購入に向けられた費用であり、上記購入に客観的に必要とされるものであったといえる。
イ これに対し、原告は、原告が臨時株主総会において■の株式の全部を譲り受ける旨の契約の締結について承認を受けた平成29年2月6日が法人税法施行令119条1項1号の判断基準時になるとした上で、本件提携仲介契約2に係る費用は、いずれも同日よりも前に締結された本件提携仲介契約2に基づいて支出されたものであるから「その有価証券の購入のために要した費用」に該当しない旨主張する。
しかし、前記3(4)イで説示したと同様に、かかる主張を採用することはできない。すなわち、本件において、原告の株主は本件代表者が代表取締役を務める■のみであったこと(認定事実(3)ク)からすると、株式購入の不確実性が解消したか否かの判断に当たり、臨時株主総会における意思決定の時期を重視することはできない。実際、原告と■の株主との間では、臨時株主総会が開催される前の平成28年12月15日の時点で株式譲渡契約が締結されているのであって(認定事実(3)キ)、このような経緯からしても、臨時株主総会における承認は形式的なものにすぎなかったと評価するのが相当である。
また、本件提携仲介契約2のように、M&A取引の期間全体を通じて業務が行われることを前提として段階的に報酬等が発生する契約について、当該契約の締結時の事情のみをもって株式購入の蓋然性を判断することは相当でない。既に述べたとおり、本件提携仲介契約2において、成功報酬は、最終契約が締結された場合に支払うものとされているのであるから、その性質に照らしても、特定の有価証券の購入に向けられた費用であって、当該費用が客観的に必要とされるものということができる。
そうすると、原告の上記主張を採用することはできない。
ウ したがって、本件提携仲介契約2に基づく成功報酬は、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」に該当する。
5 本件各処分の適法性について
前記3及び4によれば、本件各費用のうち、本件提携仲介契約1に基づく情報提供料及び業務中間報酬、本件法務調査1に係る報酬、本件提携仲介契約2に基づく情報提供料及び業務中間報酬並びに本件法務調査2及び本件財務調査に係る各報酬については、法人税法119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」に該当せず、原告及び■の平成29年3月期の所得の金額の計算上、損金に算入されるから(法人税法22条3項2号)、本件各更正処分のうち、これらの部分について損金の額への算入を否認した部分は、違法である。
以上を前提とすると、原告の平成29年3月期及び令和2年3月期の法人税に係る所得金額、納付すべき税額及び翌期へ繰り越す欠損金額は、それぞれ別表14及び別表15のとおりとなり、原告の平成29年3月課税事業年度及び令和2年3月課税事業年度の地方法人税に係る課税標準法人税額及び納付すべき税額は、それぞれ別表16及び別表17のとおりとなる。また、■の平成29年3月期、平成30年3月期及び平成31年3月期の法人税に係る所得金額、納付すべき税額及び翌期へ繰り越す欠損金額は、それぞれ別表18から別表20のとおりとなり、■の平成30年3月課税事業年度及び平成31年3月課税事業年度の地方法人税に係る課税標準法人税額及び納付すべき税額は、それぞれ別表21及び別表22のとおりとなる(弁論の全趣旨)。
したがって、本件各更正処分のうち上記各金額を超える部分(翌期へ繰り越す欠損金額については、上記各金額を超えない部分)及び本件各賦課決定処分のうち同部分に対応する部分は、いずれも取り消されるべきである。
第4 結論
以上の次第で、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからその限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
