個人事業主・フリーランスの税務調査はどのように選定されているのか?

選定 税務調査

個人事業主の方で、長年事業をやっているにもかかわらず一度も税務調査に入られたことがない方がいる一方で、開業後数年で税務調査に入られる方もいます。一体調査の事案はどのように選定されているのか、元国税調査官である税理士が解説します。

様々な情報や要素を勘案した上で選定

過去に事案の選定に携わったことがありますが、個人事業主の調査事案については、金額や比率だけを見て選定しているわけではなく、さまざまな情報や要素を勘案した上で選定されます。では、どういった情報や要素が勘案されるのかというと、主に以下のものが勘案されることが多いです。

国税総合管理システム(KSK)の調査必要度

国税総合管理(KSK)システム

出典:国税庁レポート2020

国税総合管理システム(Kokuzeiの「K」、Sougouの「S」、Kanriの「K」をとって、KSKシステムと呼ばれます。)とは、国税内部では、納税者の申告データや国税債権などを一元的に管理する基幹システムであり、調査の選定の際にも活用されています。具体的には、調査選定の際にKSKから資料を出力すると、過去の調査事績や業種別の所得率・売上総利益率といったデータから、調査必要度が何ポイントという形で記載されており、まずはこれを勘案することになります。調査必要度のポイントが高い事案については、当然調査選定される可能性が高くなります。

法定調書

法定調書の種類

法定資料とは、税務署に提出が義務付けられている資料で、例えば、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」、「生命保険契約等の一時金の支払調書」、「給与所得の源泉徴収票」、「財産債務調書」といったものがあり、現在60種類の法定資料があります。

税務署が独自に収集した資料

法定資料以外にも、税務署では例えば以下のような資料を独自に収集しています。

他の納税者の調査で収集した資料

税務調査においては、他の納税者の調査に活用するために外注費などの資料を収集することがあり、例えば、外注費の支払日や金額、決済方法などを収集したりしています。また、不正がされていることの裏付けのある情報については、「重要資料せん」というものが作成されるのですが、これがある場合は選定される可能性が高くなります。

売上、仕入、費用及び リベート等に関する資料

一般資料せんの提供

税務署では、「売上、仕入及びリベート等に関する資料の提出方について」という資料を法人及び個人の事業者に送付して、金額が数万円~数十万円以上の売上、仕入、外注費、リベートといった取引について、取引先の住所、氏名、取引年月日、取引金額、決済方法、取引銀行、品名等の情報の提出を求め情報を収集しています。

職員が収集した探聞情報

税務署の職員は、日ごろから税務調査に活用できる情報の収集に努めており、例えば、広告や新聞のちらし、駐車場の台数、出張した際に昼食をとった店の状況など、生活の中にある情報を資料化しています。

内観調査の情報

現金で決済される業種、例えば飲食店や理容室、美容室、パチンコ、風俗といった業種については、売上を抜いても足がつきにくいという特徴があります。そこで、調査が実施される前に、お客さんのふりをしてお店に行って、現金で決済し、レジ回りの現金管理や店の間取り、メニュー表や価格、客入りの状況などの情報を事前に収集したりします。

タレコミ

税務署には、この人が脱税しているといった情報が電話や投書で寄せられます。その大半は根拠のないガセネタであることが多いですが、会社の元従業員や元配偶者など、内部の人でないと知りえない信頼性の高いと考えらえる情報もなかにはあります。なお、国税庁のHPでも「課税・徴収漏れに関する情報の提供」を受け付けしています。

課税・徴収漏れに関する情報の提供

決算書・勘と経験

KSKの調査必要度は低いけど、勘と経験に照らして決算書の数字をみると、なんか怪しいと感じる決算書があります。言語化が難しいこういったものも勘案したりします。

重点施策

重点施策

国税庁HPに掲載されている「令和元事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」によると、国税全体として「富裕層」・「海外投資等を行っている個人」・「インターネット取引を行っている個人」・「無申告者」に積極的に調査を実施していると記載されております。このような重点的に調査する層や取引に該当する場合は選定される可能が高くなります。

前回調査からの期間

前回調査から何年経てば調査に入るといった基準はないですが、未接触の期間が長くなれば不正がされるリスクも高くなるので、前回調査からの期間も勘案したりします。なお、調査の周期について、平成27年9月3日付の日本経済新聞朝刊に掲載された「国税照準『富裕層2万人』」という記事には、大口資産家と呼ばれる富裕層については、7年一巡を目安に調査していると書かれています。