国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
不動産賃貸業等を営む原告は、税務署長から、本件各年分の所得税等に関し、事業所得について原告が納税申告において必要経費に算入した接待交際費の全部及び減価償却費の一部を必要経費に算入することができないとし、不動産所得について所得税法157条1項を適用して原告が同族会社に賃貸した不動産に係る約定賃貸料を適正賃貸料に引き直して算定するなどとして、令和2年11月5日付けで、本所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分を受けた。
原告は、税務署長から、本件各課税期間の消費税等に関し、納税申告において課税仕入れに係る支払対価の額に算入された交際費が課税仕入れに当たらずこれに係る消費税額を控除することができないなどとして、本件消費税等各更正処分を受けた。
本件は、原告が、被告を相手に、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案。
基本情報
・税目:所得税、消費税
・処分行政庁:東住吉税務署長
・課税年度:平成27~29年分
・提訴裁判所:大阪高等裁判所
・提訴年月日:令和6年3月26日
・判決日:令和7年4月25日
・結果:全勝(国側勝訴)
争点
・ 本件接待交際費の必要経費該当性の有無(所得税等に係る争点)及び本件交際費の課税仕入れ該当性の有無(消費税等に係る争点)
・ 本件減価償却費の必要経費該当性の有無(所得税等に係る争点)
・ 本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果(所得税等に係る争点)
ア 「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居
住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」という要件の充足性の有無
イ 本件賃貸借契約の適正賃貸料の金額
・ 本件各処分の信義則違反の違法性の有無(前回調査結果通知と本件各処分との関係)(所得税等及び消費税等に係る争点)
判決書PDFデータ
原審はこちら⇩

判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文第1項及び第2項と同旨
第2 事案の概要(略称は、本判決において定義するほか、引用に係る補正後の原判決のとおりとし、枝番のある書証は、特記しない限り、全ての枝番を含み、原審における証人尋問の結果については、証人調書別紙反訳書の該当頁を付記することがある。)
1 事案の要旨
被控訴人(1審原告)は、■及び不動産賃貸業を営む者であるところ、東住吉税務署長(処分行政庁)から、令和2年11月5日付けで、
(1) 平成27年分から平成29年分まで(以下、併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下、併せて「所得税等」という。)に関し、①事業所得について被控訴人が納税申告において必要経費に算入した接待交際費の全部及び減価償却費の一部を必要経費に算入することができないという理由(以下「処分理由要旨①」という。)及び②不動産所得について所得税法157条1項を適用して被控訴人が同族会社に賃貸した不動産に係る約定賃貸料を適正賃貸料に引き直して算定するという理由(以下「処分理由要旨②」という。)により、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下、併せて「本件所得税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、併せて「本件所得税等各賦課決定処分」という。)を受け、
(2) 平成27年課税期間(平成27年1月1日から同年12月31日までの課税期間をいう。その他の課税期間も同様に表記する。)から平成29年課税期間まで(以下、併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)に関し、③納税申告において課税仕入れに係る支払対価の額に算入された交際費が課税仕入れに当たらずこれに係る消費税額を控除することができないという理由(以下「処分理由要旨③」という。)により、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下、併せて「本件消費税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、併せて「本件消費税等各賦課決定処分」という。)を受けた。
本件は、被控訴人が、控訴人(1審被告)を相手に、本件所得税等各更정処分及び本件消費税等各更正処分(以下、併せて「本件各更正処分」という。)のうち申告額を超える部分並びに本件所得税等各賦課決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分(以下、併せて「本件各賦課決定処分」という。)の取消しを求める事案である。
原審は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(以下、併せて「本件各処分」という。)に関し、処分理由要旨②は是認できないが、処分理由要旨①及び処分理由要旨③は是認できると判断して、被控訴人の本件請求につき、本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分のうち、下記の表に記載の部分の取消しを求める限度で認容し(原判決主文第1項から第3項まで)、その余をいずれも棄却した(原判決主文第4項)。
本件所得税等各更正処分 | 平成27年分 | 総所得金額4380万5525円、納付すべき税額4602万7000円を超える部分 |
平成28年分 | 総所得金額1671万9068円、納付すべき税額6450万9200円を超える部分 | |
平成29年分 | 総所得金額553万7798円、納付すべき税額7283万7000円を超える部分 | |
本件所得税等各賦課決定処分 | 平成27年分 | 52万1000円を超える部分 |
平成28年分 | 24万円を超える部分 | |
平成29年分 | 8万4000円を超える部分 |
控訴人が原判決の控訴人敗訴部分を不服として控訴したところ、被控訴人は控訴も附帯控訴もしていないから、当審では、実質的な審理の対象は本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分の適法性の有無であり、実質的な検討の対象は処分理由要旨②を是認できるか否かである(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法296条1項、304条参照)。
なお、被控訴人は、控訴人の令和6年5月15日付け控訴理由書における主張のうち、被控訴人と■(以下「■」という。)との間の多数の不動産に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)がマスターリース契約(その概念については後述する。)としての実態を有しておらず、被控訴人と■との関係を利用してその形式を整えたにすぎない旨の主張(上記控訴理由書12頁から13頁まで、26頁、31頁、40頁、43頁、48頁など)及び当該主張の裏付けとして控訴人が原判決言渡後に収集した書証(乙74から98まで)につき、時機に後れた攻撃防御方法として却下を求める旨の申立てをしたが(同年6月28日付け控訴答弁書、同年11月5日付け準備書面(2))、当裁判所は、同月12日の当審第3回弁論準備手続期日において、控訴人が上記主張及び書証を「故意又は重大な過失により」時機に後れて提出したとまでは認められないと判断し(同法297条、157条1項)、被控訴人の上記申立てを却下した(なお、被控訴人は、令和7年1月23日の当審第4回弁論準備手続期日に同月22日付け準備書面(3)を陳述し、控訴人の「被控訴人と■間の契約に実態がない」旨の主張が「時機に後れた主張であって、本控訴審の審理対象にすべきでないことは前回述べた」と主張しており、改めて、時機に後れた攻撃防御方法として却下を求める旨の申立てをしたとも解し得るが、そのような申立ては、上記と同様の理由により、却下すべきものである。)。
2 関係法令の定め、前提事実、本件各処分の適法性に関する控訴人の主張、争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり補正し、後記3のとおり当審における当事者の追加・補充主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第2の1から5までに記載のとおりである(ただし、専ら消費税等に係る部分を除き、同部分以外で引用された原判決別紙及び原判決別表をいずれも含む。)から、これを引用する。
なお、本判決(引用に係る補正後の原判決を含む。)では、その所有に係る多数の不動産を業として賃貸する者(以下「オーナー」という。)において、不動産の管理を業として行う者(以下「不動産管理会社」という。なお、「管理業者」、「不動産業者」又は「不動産会社」ともいう。)が業として転貸することをあらかじめ許諾して、不動産を一括して賃貸し、不動産管理会社がこれを個々の不動産の利用者(以下「エンド・ユーザー」又は「入居者」という。)に転貸するような契約形態を「サブリース」又は「転貸方式」といい、上記契約形態において、賃貸人(オーナー)と賃借人・転貸人(不動産管理会社〔以下、上記契約形態の場合につき、「サブリース会社」又は「サブリース業者」ともいう。〕)との間の賃貸借契約を「マスターリース契約」又は「原賃貸借契約」といい、賃借人・転貸人(不動産管理会社)と転借人(エンド・ユーザー)との間の賃貸借契約を「サブリース契約」という。また、オーナーにおいて、不動産をエンド・ユーザーに賃貸し、当該不動産の管理のみを不動産管理会社に委託し、管理料を支払うような契約形態を「管理委託方式」又は「一般管理」という。
(原判決の補正)
(1) 原判決4頁16行目の「なお、争いのない事実には証拠等を掲記しない。」を「なお、争いのない事実についても、便宜上、証拠等を掲記することがある。」に改める。
(2) 原判決4頁21行目の「■」を「■」に改め、25行目から26行目にかけての「。以下、■及び■を通じて「■」という。」を削り、同行目の「原告は、」から5頁5行目の末尾までを次のとおり改める。
「被控訴人は、平成27年から平成29年までの各年を通じ、■の発行済株式の全てを有しており、■は、法人税法2条10号にいう「同族会社」に当たる。被控訴人は、株式会社■移行時から現在に至るまで、■の取締役兼代表取締役を務めている。被控訴人の妻である■は、株式会社■移行時から■に辞任するまで、■の取締役を務めていた。被控訴人の長女である■は、■から■社の取締役を務めている。■の配偶者で被控訴人の養子である■は、株式会社■移行時から■に従業員として勤務している(勤務開始は■の時代である。)。なお、■の従業員は、■のほかに2名ないし4名ほどである。(甲9、99、159、乙7、9から11まで、原審証人■〔以下「証人■」という。〕〔20頁〕、弁論の全趣旨)」
(3) 原判決5頁18行目から19行目にかけての「賃貸借契約を「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約の」を「一括マスターリース契約(本件賃貸借契約)の」に改める。
(4) 原判決6頁6行目の「同年3月」を「同月」に改める。
(5) 原判決10頁12行目の冒頭から15行目の末尾までを削る。
(6) 原判決23頁23行目から24行目にかけての「■が得た転貸料収入(以下「■転貸料収入」という。)」を「■が得たとされる転貸料収入(以下「■転貸料収入」という。なお、当審における控訴人の追加・補充主張〔後記3の「控訴人の主張」(2)イ〕のとおり、実際には、■とエンド・ユーザー〔転借人〕との間の転貸借契約は存在しないものと推認される。)」に改める。
(7) 原判決24頁10行目の「■に任せていた」の次に「とする」を加え、12行目の「負担している」を「負担する」に、17行目の「負担すること」を「負担したとされること」にそれぞれ改める。
(8) 原判決31頁14行目の「受け取っているが」を「受け取っているとされるが」に改める。
(9) 原判決33頁19行目の「受領した転貸料収入」を「転貸料として受領したとされる金員」に改める。
(10) 原判決42頁17行目、21行目、23行目、43頁14行目から15行目にかけて、16行目、17行目から18行目にかけて、20行目、24行目から25行目にかけて、26行目から44頁1行目にかけて及び45頁12行目の各「サブリースに係る契約」をいずれも「マスターリース契約」に改める。
(11) 原判決45頁19行目、48頁23行目、25行目及び49頁4行目の各「サブリース契約」をいずれも「マスターリース契約」に改める。
3 当審における当事者の追加・補充主張(争点(3)〔本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果〕について)
(控訴人の主張)
(1) 手続に関する主張(控訴人の当審における「本件賃貸借契約がマスターリース契約としての実態を有しておらず、被控訴人と■との関係を利用してその形式を整えたにすぎない」旨の主張が「信義則ないし禁反言則違反」であるという被控訴人の主張について)
被控訴人は、控訴人の当審における「本件賃貸借契約がマスターリース契約としての実態を有しておらず、被控訴人と■との関係を利用してその形式を整えたにすぎない」旨の主張(後記(2)イ)につき、控訴人の従前の主張に反し、本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分と矛盾するとして、控訴人がそのような主張をすることが、信義則ないし禁反言則に反し、許されない旨主張する。
しかし、控訴人の当審における上記主張は、「本件賃貸借契約が経済的合理性を欠く」という従前からの主張を基礎付ける事情の一つにすぎず、本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分と矛盾しないし、被控訴人が本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分に係る通知書に記載された文言を信頼して行動したと認められる客観的事実もない。そもそも、本件不動産の契約状況は被控訴人が了知しているところであって、これに関する控訴人の主張が、被控訴人の利益を不当に害することもない。
したがって、被控訴人の「信義則ないし禁反言則違反」との主張は失当である。
(2) 本案に関する主張
ア 所得税法157条1項の意義
所得税法157条1項にいう「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者・・・の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解される(原判決「事実及び理由」第2の5(3)の「被告の主張」ア)ところ、本件のような株主等を賃貸人とし同族会社等を賃借人とする不動産の賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かについては、当該賃貸借契約の目的、賃貸料の金額や契約の諸条件を含む当該賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが相当であり、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で行われる取引と異なる取引は、基本的に経済的合理性を欠くものと解すべきである。
なお、最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決・民集76巻4号480頁は、同族会社等の行為又は計算の否認という点で本件と争点を共通にするものの、企業グループの組織再編成に係る一連の取引として行われた金銭の借入れに法人税法132条1項が適用されるか否かが争われた事案に関するものであり、組織再編成には必ずしも一般的な取引慣行や取引相場があるわけでなく、特殊な利害関係のない一般的な経済人の行為として自然かつ合理的な組織再編成とは何かを判断することが困難であることから、①当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか、という2つの考慮要素が特に明示的に挙げられたと解されるから、本件では、これらの考慮要素を必ず考慮すべきものとまではいえない。
イ 本件賃貸借契約は、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであること
(ア) 被控訴人が本件不動産の一部について■以外の不動産管理会社との間で締結した各種契約の内容及び被控訴人と■の活動実態に照らすと、本件賃貸借契約は、マスターリース契約の形式を整えたものにすぎず、少なくとも約定賃貸料(本件賃貸料)に見合ったマスターリース契約の実態を備えるものではなく、経済的かつ実質的な見地において、不自然、不合理なものであること
a ■は、本件不動産の一部につき、エンド・ユーザー(転借人)との間で転貸借契約を締結した事実が認められず、マスターリース契約に基づいて不動産賃貸業を営んでいたものではなく、その活動実態は、賃貸料振込先口座の名義人として賃貸料を受け取るなどの業務を行っていたのみであったと認められること
(a) 被控訴人は、下記(b)から(d)までに詳述するとおり、自身が■に一括して賃貸したはずである本件不動産のうち、少なくとも原判決別表1の順号1、3から9まで、11から14まで、16、20から22までの各物件(本判決別表の順号1、3から9まで、11から14まで、16、20から22までの各物件と同じ。)に関し、本判決別表の「控訴人の主張」欄記載のとおり、平成27年から平成29年までの期間の全部又は一部につき、①■以外の不動産管理会社とマスターリース契約若しくは賃貸借契約を締結し(当該不動産管理会社は、被控訴人とのマスターリース契約若しくは賃貸借契約に基づき、エンド・ユーザーと転貸借契約若しくは利用契約を締結している。)、又は、②直接、エンド・ユーザーと賃貸借契約を締結している(以下、本件不動産のうち、被控訴人が上記①又は②の契約をした物件を「重複契約物件」といい、被控訴人が重複契約物件に関して第三者〔■以外の不動産管理会社又はエンド・ユーザー〕とした契約を「重複契約」という。)のであって、本件賃貸借契約は、少なくとも本件不動産の相当部分について、マスターリース契約としての実態を有していなかった。
そして、被控訴人は、重複契約物件に関し、■がサブリース事業を営む経済的かつ実質的な必要性又は賃貸管理業務を行う経済的かつ実質的な必要性がないと考えられる状況であったにもかかわらず、あえて■との本件賃貸借契約を締結した。重複契約物件の数(当該物件の一部を対象とするものを含む。)は、平成27年が13物件(同別表の順号3、5から8まで、11から14まで、16、20から22まで)、平成28年が10物件(同別表の順号3、5から9まで、11から13まで、20)、平成29年が10物件(同別表の順号1、3から9まで、12、13)に及んでいる。
なお、■がエンド・ユーザーを募集して、エンド・ユーザーと転貸借契約を締結していたことを示す的確な証拠は見当たらない。
これらの事実を踏まえれば、本件不動産における重複契約物件以外の物件についても、また、重複契約物件につき、第三者と契約を締結していない期間についても、■は、本件賃貸借契約に基づくサブリース事業を営んでおらず、賃貸料振込先口座の名義人として賃貸料を受け取る等の業務を行っていたにすぎないものと合理的に推認される。
したがって、■が被控訴人と本件賃貸借契約を締結し(同契約は、毎年締結されている。)、同契約に基づきサブリース事業を営み、それに相応する対価を収受するということは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なものであることが明らかである。
(b) 被控訴人は、本件不動産のうち、本判決別表の順号1、3、4、6、12、16の各物件につき、本件賃貸借契約の存続期間及び本件各年分の期間の各一部において、同別表の「控訴人の主張」欄記載のとおり、第三者(■以外の不動産管理会社)と特定賃貸借契約(マスターリース契約)を締結していたところ、当該各特定賃貸借契約の契約書の内容等を踏まえれば、■は、上記重複契約物件につき、少なくとも当該各特定賃貸借契約の存続期間と重なる限り、サブリース事業及び賃貸管理業務を行っておらず、単に賃貸料を受領し、管理するという業務を行っていたにすぎないといえる。
(c) 被控訴人は、本件不動産のうち、本判決別表の順号3、6、9、20の各物件につき、本件賃貸借契約の存続期間及び本件各年分の期間の各全部又は一部において、同別表の「控訴人の主張」欄記載のとおり、第三者(■以外の不動産管理会社〔駐車場業者〕)と駐車場に関する賃貸借契約を締結していたところ、当該各駐車場に係る事業の内容等を踏まえれば、■は、上記重複契約物件につき、当該各賃貸借契約の存続期間と重なる限り、サブリース事業及び賃貸管理業務を行っておらず、同別表の順号3、6、20の各物件については、単に賃貸料を受領し、管理するという業務を行っていたにすぎないといえ、同別表の順号9の物件については、賃貸料受領すら行っていなかったといえる。
(d) 被控訴人は、本件不動産のうち、本判決別表の順号5、7、8、11、13、14、16、21、22の各物件につき、本件賃貸借契約の存続期間の全部又は一部及び本件各年分の全部又は一部において、同別表の「控訴人の主張」欄記載のとおり、第三者(■以外の不動産管理会社)と管理委託契約を締結するなどしていたところ、当該各管理委託契約の内容等を踏まえれば、■は、上記重複契約物件につき、当該各管理委託契約の存続期間と重なる限り、建物維持管理業務を行っておらず、エンド・ユーザーに対する賃貸人の地位にもなかったのであって、単に、上記第三者が集金した賃貸料を受領し、管理するという業務を行っていたにすぎないといえる。
b 本件賃貸借契約が、マスターリース契約の内実を伴っていない明らかに不自然、不合理なものであり、正に、同族会社との間でなければ到底あり得ないものであること
(a) 一般のマスターリース契約であれば存在するはずの転貸借契約を示す的確な証拠がなく、むしろそのような契約は存在しないと推認されること
被控訴人は、前記aのとおり、重複契約物件につき、第三者との間で賃貸借契約又は管理委託契約を締結しており、本件不動産につき、■とエンド・ユーザーとの間で転貸借契約が締結されたことを示す的確な証拠はない。
不動産の所有者が賃貸する不動産につき、互いに無関係な複数の賃借人との間で、二重に賃貸借契約を締結すれば、賃借人のいずれかに対して当該不動産を使用収益させることができず、不動産の所有者が損害賠償請求を受けるなど紛争が生じる蓋然性が高いから、通常、不動産所有者がそのような二重の賃貸借契約を締結することは考えられない。
したがって、本件賃貸借契約は、形式的にマスターリース契約の外形を整えるために、被控訴人と同族会社である■との間で締結されたにすぎず、同契約を前提とする■とエンド・ユーザーとの間の転貸借契約は存在しないと合理的に推認できる。
(b) ■が本件賃貸借契約に基づき行うサブリース事業は、本件賃貸借契約の内容からも、実際の転貸料収入額から本件賃貸料の額を差し引いた金員相当額という高額な対価を収受するに値する業務を提供するものではなく、実際、■がそのような業務を提供していないこと
本件の特徴は、本件賃貸借契約が毎年締結される結果、被控訴人が代表者を務める■にとって、空室リスク及び対象不動産の一部が売却されることによるリスク(以下「売却リスク」という。)を勘案することが容易な状況であるにもかかわらず、逆に、本件賃貸料の額が一般的な相場と比べても著しく低額なものとなっており、■が著しく高額な対価を獲得するものとなっているところにある。
■が本件賃貸借契約に基づいて獲得する対価の額(原判決別表4の「項目」欄の「転貸料収入」「①」に対応する各年分の額から同欄の「本件賃貸料」「②」に対応する各年分の額を控除したもの)は、平成27年分が約1億3900万円(■の転貸料収入額とされる額の約44パーセント)、平成28年分が約9127万円(■の転貸料収入額とされる額の約39パーセント)、平成29年分が約6336万円(■の転貸料収入額とされる額の約40パーセント)にも及んでおり、典型的なサブリースにおける想定賃貸料相場(転貸料の10ないし20パーセント程度)と比べ、著しく高い。
これに対し、本件各年分における本件賃貸借契約の内容は、同契約の締結の際に取り交わされた本件賃貸借契約書(乙19から21まで)によれば、賃貸借期間が短いということを除くと、いわゆる典型的なマスターリース契約にとどまる。その上、前記aのとおり、■は、本件賃貸借契約に基づいて提供すべき業務の一部(第三者が重複契約物件について行っていた業務)の遂行を現に免れており、本件不動産のうち重複契約物件以外の物件についても同様であったと推認される。さらに、本件賃貸借契約は、毎年締結されるものであるため、被控訴人が代表者を務める■にとって、空室リスク及び売却リスクを勘案することが容易な状況であった。
これらを踏まえると、■が、本件不動産について、不動産管理会社として高率、高額な対価を得るに値する業務を提供していたとは到底いえない。
(c) ■には、不動産管理会社としての実績やノウハウ等がないこと
被控訴人以外の■の役員及び従業員は、被控訴人の親族によって占められており、サブリースの経験者の存在はうかがわれず、同社の経理業務等の実務を担当していた■はマスターリースという用語も理解していない旨証言した。
そうだとすれば、■には、転貸料に係るリスクや管理に要する経費を見極めながら収益が得られる適正賃貸料を探ったり、サブリース業を事業として営んでいく上での実績やノウハウ等も全くなかったといえ、そのことは、■が行っていたのが、賃貸料を自己名義の口座で受領して被控訴人に支払うなどの資金管理事務程度であったと推認されることを裏付けるものといえる。
(d) 被控訴人及び■が採用した本件賃貸料の算定方法は、一般のマスターリース契約における算定方法とは全く異なるものであること
一般のマスターリース契約においては、対象不動産について、一棟の建物ごとあるいは一か所の駐車場ごとに、収益力という観点から、それぞれの地域の慣行、当該物件の構造及び間取り等を考慮して適正な賃貸料を定めるのが通常である。
しかし、被控訴人は、本件賃貸料の算定に当たり、一定の基準は必要だろうと漠然と考えていただけで、平成24年分の本件賃貸料である2000万円(これ自体、被控訴人個人が負担する必要資金を下回らない金額、かつ、■の事業運営と経費が賄える金額という観点から算定したものであり、収益力という観点から算定したものではない。)を基礎として、被控訴人の必要資金、■の事業運営資金等を賄うことのみに着目し、一般のマスターリース契約で考慮される各物件の構造等の要素に基づいて算定される相当賃貸料額には一切着目していない。
このように、被控訴人及び■が採用した本件賃貸料の算定方法は、一般のマスターリース契約における算定方法とは全く異なるものであり、このことは、本件賃貸借契約が経済的合理性の観点から締結されたものではなく、被控訴人が行う不動産賃貸業に係る所得を同族会社に割り付けて分配し、もって、あるべき課税を免れようとしたものであることを端的に示す事情である。
(イ) 本件賃貸料の額が、適正な賃貸料の額と比較して著しく低額なものであったこと
a 本件適正賃貸料の算定方法について、処分行政庁が採用した方法が合理的であること
本件適正賃貸料の算定方法としては、①転貸方式を採用する事業者の賃貸料額を基に算定する方法、②本件不動産の諸条件を、サブリース業を事業として営んでいる複数の不動産管理会社(被控訴人と独立かつ対等で相互に特殊の関係のない事業者)に提示し、当該不動産管理会社による算定額を基に算定する方法、③管理委託方式を基に算定する方法(処分行政庁が採用した方法)が考えられるところ、上記①及び②の方法に比べて、上記③の方法に合理性が認められ、これを採用する必要性もあるといえるが(原判決「事実及び理由」第2の5(3)の「被告の主張」エ(ア)a)、前記(ア)のとおり、本件賃貸借契約は、マスターリース契約の形式を整えたものにすぎず、その実態は賃貸借契約ですらなく、■は本件不動産の賃貸料収入に係る資金管理業務を行っていたにすぎないから、上記①及び②の方法はおよそ採用できないところ、■は、本件不動産の一部について、通常の不動産管理会社が行う賃貸管理業務すら行っていなかったと認められるものの、他の不動産について賃貸管理業務を行っていた可能性も否定できないことから、保守的に、管理委託方式を元に算定すること(上記③の方法)が最も合理的であり、かつ、納税者である被控訴人にとっても有利な算定方法である。
b 本件賃貸料の額が、本件適正賃貸料の額と比較して著しく低額なものであること
本件適正賃貸料の額は、■の転貸料収入の総収入額から、■負担経費及び本件適正管理料を差し引くことにより、算定したものである。適正な賃貸料の算定に当たり、本件適正管理料をそのまま適用することなく、このような算定方式を採用した結果、本件適正賃貸料の額は、極めて保守的なものとなっているのであり、このことは、一般的な管理委託手数料の相場が賃貸料の5パーセント程度であるにもかかわらず、平成27年分から平成29年分までの各本件適正賃貸料と転貸料収入額との差額が転貸料収入額のいずれも約20パーセントと高率になっていることからも明らかである。
そうすると、被控訴人の本件各年分における本件適正賃貸料の額は、原判決別表4の順号⑳の各「本件適正賃貸料」欄のとおり、平成27年分が2億5349万7634円、平成28年分が1億8814万2094円、平成29年分が1億2720万1255円となり、本件適正賃貸料の額と本件賃貸料の額との差額は、同別表の順号㉒の各「本件適正賃貸料と本件賃貸料との差額」欄のとおり、平成27年分が7349万7634円、平成28年分が4414万2094円、平成29年分が3120万1255円となる。
したがって、本件賃貸料は、本件適正賃貸料と比して、本件各年分において数千万円も低く、著しく低額なものであるといえる。
c 本件賃貸借契約に基づく計算は、これを容認すると、被控訴人の「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(所得税法157条1項)に該当すること
以上を踏まえれば、本件賃貸借契約は、被控訴人と同族会社■との関係を利用して、マスターリース契約の形式を整えたものにすぎず、その全部又は一部の実態を欠いたものであり、■は賃貸料収入に係る資金管理業務しか行っていなかったと推認され、少なくとも一般的な不動産管理会社が行う業務の一部しか行っていなかったにもかかわらず、■に■が受領した貸料収入の4割を超える所得を移転させるものである。その結果、本件賃貸料の額は、保守的に見積もった本件適正賃貸料と比しても著しく低額なものとなっており、経済的合理性を著しく欠くものであって、本件賃貸借契約に基づく計算は、被控訴人の「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(所得税法157条1項)に該当する。
したがって、処分行政庁は、これを正常な行為又は計算に引き直して所得税の更正を行うことができる。
(被控訴人の主張)
(1) 手続に関する主張(控訴人の当審における「本件賃貸借契約がマスターリース契約としての実態を有しておらず、被控訴人と■との関係を利用してその形式を整えたにすぎない」旨の主張は、信義則ないし禁反言則違反として、許されないこと)
控訴人は、当審において「本件賃貸借契約がマスターリース契約としての実態を有しておらず、被控訴人と■との関係を利用してその形式を整えたにすぎない」旨主張するが、同主張が本件賃貸借契約(マスターリース契約)の不合理性をいうものであるとすれば、控訴人の従前の主張に反しており、本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分とも矛盾する(本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分に係る通知書には「あなたは、あなたの所有する・・・本件各物件・・・について、あなたが代表者である本件法人との間で、サブリース原賃貸借契約・・・を締結し、本件各物件を一括して賃貸することにより、本件法人から本件各物件に係る賃貸料収入・・・を得ています。そして、本件法人は、本件各物件を第三者に転貸して・・・転貸料収入を得ています。」と記載されており、処分行政庁は、被控訴人と■との本件賃貸借契約がマスターリース契約〔サブリース原賃貸借契約〕であることを認め、同契約に基づき被控訴人と■がそれぞれ収入を得ており、■の収入を実態に基づく正当なものとして同社に法人税を課しているのである。)から、控訴人がそのような主張をすることは、信義則ないし禁反言則に反し、原審における主張及び争点整理にも背くものであって、許されないというべきである。
(2) 本案に関する主張
ア 所得税法157条1項の解釈運用について
最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決・民集76巻4号480頁は、法人税法132条1項に関するものであるが、同項は、所得税法157条1項と同趣旨の規定であるから、本件においても、同判決が示した要件・基準(「①当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」)を踏襲すべきであり、これを無視ないし軽視する控訴人の主張は失当である。
そして、問題とされる契約が経済的合理性を欠くものか否かを不自然性や合理的な事業目的等に基づいて判断する同判決について論ずるならば、本件賃貸借契約(一括サブリース)には、むしろ積極的な経済的合理性が認められるものというべきである。
イ 控訴人の「本件賃貸借契約がマスターリース契約としての実態を有しておらず、被控訴人と■の関係を利用してその形式を整えたにすぎない」旨の主張に対する予備的反論
(ア) 控訴人は、「本件賃貸借契約は、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠く」として、個別の物件につき契約書の不備を指摘する。
しかし、処分行政庁の調査手法には問題点があり(反面調査において、強引な訪問や一方的に意見を押し付けるような問答をした疑いがある。)、調査報告書(乙75ほか)の証拠価値にも疑問がある。
被控訴人としても、個別の物件の契約書等に一部不備があることは認めるが、それをもって「実態を備えるものではない」などというのは、事実の歪曲である。
(イ) 控訴人は、「実態がない」とする理由として、「(被控訴人が)原判決別表1の順号1、3、4、6、12、16の各物件につき、■以外の、不動産会社と特定賃貸借契約(マスターリース契約)を締結していた」とか、「(被控訴人が)原判決別表1の順号3、6、9、20の各物件の駐車場につき、■以外の駐車場業者と駐車場に関する賃貸借契約を締結していた」などと主張する。
a 確かに、実態に符合させるのであれば、被控訴人と■と不動産管理会社、不動産管理会社とエンド・ユーザー(居住者)の順に契約が締結されるべきであり、■を飛ばして被控訴人と不動産管理会社が直接契約するのは、実態と形式に齟齬があるといえる。
しかし、被控訴人と■との本件賃貸借契約を基本として、不動産管理会社及びエンド・ユーザーが存在し、エンド・ユーザーから支払われる賃貸料は、現実に、不動産管理会社を通じて、■に支払われているのであって、■が「実在」することは明らかであり、被控訴人と■が協力ないし協働してしてきたというのが実態である。
控訴人は、被控訴人と■との間の契約書の不備(被控訴人と不動産管理会社との契約につき、■と不動産管理会社との契約に書き換えるべきところ、それを怠った)という形式的なミスをもって、「実態がない」と主張しているにすぎない。
b 仮に、控訴人の主張を前提とするとしても、原判決別表1の順号1、3、4、16の各物件は、それぞれ、平成30年8月29日、令和元年6月21日、平成30年2月20日、平成28年3月10日に、被控訴人から■にその所有権が譲渡され(甲15、16、22から24まで、40から48まで)、同別表の順号3、20の各物件の駐車場は、それぞれ、令和元年6月21日、平成28年2月12日に、■に譲渡されている(甲16、43から45まで、69から71まで)。控訴人は、「(マスターリース契約の)存続期間と重なる限りにおいて実態がない」などと苦しい立論をするが、期間により「実態」の有無が異なる(譲渡の前日までは「実態がなく」、譲渡の当日から「実態がある」)などという解釈は、奇異である。
c 控訴人の主張が「二重にサブリースをする必要はない」とか、「最終的にサブリース会社に賃貸するのであれば、空室リスクはないから、被控訴人と■の間でマスターリース契約をする意味はない」などという趣旨であるとしても、当を得ないものである。
まず、住居部分のサブリース会社は、駐車場部分を除いたサブリース契約をするのが一般的であるから、住居部分と駐車場部分がある物件(原判決別表1の順号3、6の各物件など)に関し、被控訴人と■がマスターリース契約を締結し、住居部分と駐車場部分を別にサブリースの対象とすることには、十分な合理性がある。
また、空室リスクの負担に関し、一棟だけをみれば被控訴人と■はこれを負わない状態となるが、被控訴人と■は全物件を一括して転貸方式で契約しており、その年度内に物件が第三者に譲渡されれば、■は一棟丸ごとの賃貸料収入を失うから、■がリスクを負担していないとはいえない(なお、物件を第三者に売却する場合、担保権者、購入者、購入者への融資銀行など利害関係者との詳細な協議が必要となり、相当な時間を要することから、被控訴人が第三者への売却時期をコントロールすることはできない。)。
本件賃貸借契約は、被控訴人にとっては、受け取る本件賃貸料が若干低額に設定されるというデメリットがある反面、年間を通じて安定した収入が得られ、物件売却時期の影響も気にしなくてよいというメリットがあり、■にとっては、被控訴人へ支払う本件賃貸料は若干低額で済むというメリットがある反面、空室リスクを超える売却リスクを負担するデメリットがある。そして、被控訴人と■は、被控訴人の所有物件及び事業を■に移行させるという事業目的を策定し、その方針に従って、■を、物件譲渡前はサブリースにおける賃借人(転貸人)とし、譲渡後は賃貸人として、不動産事業の担い手としたのであり、譲渡の前後を問わず、■には契約当事者としての「実態」があるのである。
(ウ) 控訴人は、「実態がない」とする理由として、「(被控訴人が)原判決別表1の順号5、7、8、11、13、14、16、21、22の各物件につき、■以外の不動産管理会社と管理委託契約を締結するなどしており、■は建物維持管理業務を行っておらず、賃貸人の地位にもなかった」旨の主張もする。
しかし、前記(イ)のとおり、被控訴人は、■に不動産事業を移行させる目的で、本件賃貸借契約(マスターリース契約)を締結し、多くの物件を■に徐々に譲渡していったのであり(甲16)、その事業再編目的を無視する控訴人の主張は、事実を歪曲するものである。
被控訴人は、個人として不動産事業を営み、■を行うほか、■の代表者として法人の業務についても責任を負っているのであり、個人か法人の代表者かを未整理のまま契約することもあるが、契約の相手方に実害がなければ、特段問題視されることでもない。
物件の管理委託は、いわば外注であり、全く任せきりというものではなく、物件の巡回視察や照明器具の故障等で■の従業員が駆けつけることもある。
被控訴人にはマスターリース契約の実績及びノウハウがあるが、被控訴人が代表取締役を務める■にこれらがないという控訴人の主張は意味不明であるし、最初からこれらを有する会社は存在しない。
ウ 控訴人の「本件適正賃貸料の算定方法について、処分行政庁が採用した方法が合理的である」旨の主張に対する反論
(ア) 控訴人は、「本件賃貸料がマスターリース契約の賃貸料の一般的な相場と比べても著しく低額である」旨主張しており、マスターリース契約の賃貸料の「一般的な相場」があることを前提としている。
そうであれば、被控訴人と■とのマスターリース契約(サブリース原賃貸借契約)についても、その「一般的な相場」と比較して、合理性・不合理性を評価すべきであって、控訴人の「本件における適正賃貸料が処分行政庁が算定した本件適正賃貸料である」旨の主張は、正当性を失ったというべきである。
(イ) 控訴人は、「■が高額な対価を収受するに値する業務を提供していたとはいえない」旨主張する。
しかし、「高額」と評価する基準が示されていないという欠陥がある上、不動産賃貸収入が「不労所得」と呼ばれるカテゴリーに属する収入であって、厳密な意味で「業務の対価」ではなく、銀行借入れ付きで収益不動産を取得すること自体の大きなリスクに対するリターンの面があり、情報収集や研鑽など知的作業を含めたものへの対価であることを看過している。
また、事業主体の移行という事業再編目的や移行のための必要費用に基づく算出であったことを併せ考える必要がある。
(ウ) 控訴人は、「適正賃貸料は、処分行政庁が算定した本件適正賃貸料である」旨主張するが、前記(ア)のとおり、正当性を失っているし、要するに、「本件賃貸料は、処分行政庁が算定した本件賃貸借契約における適正な賃貸料と比べても著しく低額であった、よって、本件賃貸借契約の適正賃貸料は、処分行政庁が算定した本件適正賃貸料である」旨述べているにすぎず、完全に循環論法であって、論理性を失っている。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原審と異なり、処分理由要旨①に加え、処分理由要旨②も是認できるから、本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分はいずれも適法であり、本件所得税等各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件所得税等各賦課決定処分の取消しを求める被控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次の2のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第3の記載のとおりである(ただし、専ら消費税等に係る部分を除き、同部分以外で引用された原判決別紙及び原判決別表をいずれも含む。)から、これを引用する。
2 原判決の補正
(1) 原判決61頁8行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加え、9行目の「ア」を「イ」に改める。
「ア サブリース(転貸方式)の一般的な実情
サブリース(転貸方式)とは、オーナーにおいて、不動産管理会社が業として転貸することをあらかじめ許諾して、不動産を一括して賃貸し、不動産管理会社(サブリース会社)がこれをエンド・ユーザーに転貸するような契約形態である。
一般に、このような契約形態では、オーナーにとって、メリットは、空室リスク等の心配がなく安定した収入を得ることができること、対象不動産に関する管理業務を一切行う必要がないこと、不動産賃貸の深い知識がなくても所有不動産を有効活用できること、エンド・ユーザーとの紛争が発生した場合に原則として当事者にならずに済むことなどであり、デメリットは、エンド・ユーザーが支払った賃貸料を全て受け取ることができないこと、礼金・更新料を受け取ることができないこと、約定賃貸料が将来減額される可能性があること、不動産管理会社(サブリース会社)が経営破綻すれば約定賃貸料を受け取ることができないこと、エンド・ユーザーを選ぶことができないこと、オーナー側からの契約解除が極めて困難であることなどであり、不動産管理会社(サブリース会社)にとって、メリットは、自ら土地を購入して建物を建てるなどするより少ない投資資金で通常の管理委託手数料以上の収入が得られること、礼金や更新料を受け取ることができることなどであり、デメリットは、空室リスク等を負うこと、エンド・ユーザーとの紛争が発生した場合には原則として当事者になることなどであるといわれている。
不動産管理会社(サブリース会社)が契約期間中オーナーに提供する役務は、一般的には、賃貸料を支払うこと、管理業務を行うこと、入居率を高めるための提案等を行うことである。
不動産管理会社(サブリース会社)の収益の源は、エンド・ユーザーから支払われる転貸料とオーナーに支払う賃貸料(以下「借上賃貸料」ともいう。)との差額であり、一般的には、借上賃貸料の転貸料に対する割合(以下「借上料率」という。)は80ないし90%程度であることが多く、これを60%未満とすることは、オーナーにメリットがなく、通常、想定し難い(なお、管理委託方式では、管理委託料を賃貸料の5ないし10%程度とすることが一般的である。)。
このようなサブリース(転貸方式)の一般的な特徴に鑑みると、対象不動産の稼働率は重要な指標となり、これに影響するのが対象不動産の立地や間取りであるが、短期間では、オーナーは、収支計画や資金計画を立てることが困難であり、コストを負担してまで不動産管理会社(サブリース会社)とマスターリース契約を締結するメリットがなく、不動産管理会社(サブリース会社)も、十分な利益を得られないから、経済的な実態としては、期間が10年以上のものが多く、これを1年程度とすることは、通常、想定し難い。
不動産管理会社(サブリース会社)がエンド・ユーザーと契約せず、別の不動産管理会社(サブリース会社)と契約し、当該別の不動産管理会社(サブリース会社)がエンド・ユーザーと契約することは、稀であり、このような契約形態は、エンド・ユーザーが当該別の不動産管理会社(サブリース会社)の関係先であるなどの場合に限られる。
種別や所在地の異なる多数の不動産の一括サブリースの場合、個々の対象不動産ごとに算定することなく、合理的な賃貸料を算定することは、理論上は可能であるものの、実務上は、個々の対象不動産ごとの市場性や転貸料と借上賃貸料との調整が煩雑になるという問題があるほか、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)が事業用不動産を規制対象外としていることから、同法に基づく不動産管理会社のオーナーに対する義務の履行が極めて煩雑になるという問題もある。なお、大手の不動産管理会社が種別や所在地の異なる多数の対象不動産のサブリースを行う場合、オーナーとのマスターリース契約に関する業務を本社の受託営業部門が一括して取り扱い、個々の対象不動産に関する業務を各支店ないし営業所に振り分ける例が多い。(乙59から61まで、71から73まで)」
(2) 原判決62頁17行目の「担保権を抹消し、」の次に「■の信用を高め、」を加える。
(3) 原判決65頁5行目の「イ」を「ウ」に改め、16行目の末尾の次に「このほか、被控訴人は、■の信用を高めるため、■の資産を増やす必要があると考えていた。」を加える。
(4) 原判決67頁17行目の「ウ」を「エ」に、25行目の「エ」を「オ」にそれぞれ改め、同行目の「原告の」の次に「申告に係る」を加える。
(5) 原判決68頁10行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「カ 重複契約物件及び重複契約
(ア) 被控訴人は、■との本件賃貸借契約とは別に、本件不動産の一部の物件につき、次のとおり、第三者とマスターリース契約を締結した。
賃貸料の受領口座は、■名義預金口座であった。
a 本判決別表の順号1(乙74、75)
賃借人 ■
期間 平成28年7月1日から平成30年6月末日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額62万円
目的物 ■全16室、共用部分を含む敷地部分全て
その他 令和6年4月26日時点で契約継続中
b 本判決別表の順号3(乙75、76)
賃借人 ■
期間 平成27年11月1日から平成29年10月末日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額153万5000円
目的物 ■全28室、共用部分を含む敷地部分全て
その他 令和6年4月26日時点で契約継続中
c 本判決別表の順号4(乙75、77)
賃借人 ■
期間 平成29年7月1日から令和元年6月末日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額173万5000円
目的物 ■住居45室、駐車場2台、共用部分を含む敷地部分全て
その他 新型コロナウイルス感染症流行に伴い、空室が増え、賃借人の採算が合わなくなったことを理由に賃借人から解約
d 本判決別表の順号6(甲58、乙75、78)
賃借人 ■
期間 平成27年9月1日から平成29年8月31日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額170万円
目的物 ■全37室、共用部分を含む敷地部分全て
その他 令和2年10月27日、被控訴人の目的物売却により終了
e 本判決別表の順号12(乙79)
賃借人 ■
期間 平成25年1月1日から平成26年12月31日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額127万5000円
目的物 ■全24室、共用部分を含む敷地部分全て
その他 平成29年2月13日時点で契約継続中
f 本判決別表の順号16(甲118、119、乙80)
賃借人 ■
期間 平成17年4月1日から平成27年3月31日まで
(初回契約期間経過後、2年間ごとの更新)
賃貸料 月額290万円(ただし、平成22年1月分から月額275万円に変更)
目的物 ■(契約書上の表記は「仮称■」全47戸
その他 平成27年3月31日に契約終了後、管理委託契約に移行
(イ) 被控訴人は、■との本件賃貸借契約とは別に、本件不動産の一部の物件につき、次のとおり、第三者と駐車場用地の賃貸借契約を締結した。賃貸料の受領口座は、本判決別表の順号9の物件に係る契約以外は、■名義預金口座であった。
a 本判決別表の順号3(乙81、82)
賃借人 ■
期間 平成26年7月1日から平成28年6月30日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額3万5000円
目的物 ■駐車場用地2台分
b 本判決別表の順号6(甲128、乙83、84)
賃借人 ■
期間 平成22年10月7日から平成25年10月6日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額10万5000円
目的物 ■(契約書上の表記は「■駐車場」)駐車場用地5台分
その他 賃借人からの解約により令和2年4月30日終了
c 本判決別表の順号9(乙82、85)
賃借人 ■
期間 平成28年4月15日から平成30年4月14日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額62万円
目的物 ■
d 本判決別表の順号20(乙86)
賃借人 ■
期間 平成25年7月1日から平成28年6月30日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
賃貸料 月額40万円
目的物 ■(契約書上の表記は「■駐車場」)駐車場用地46台分
その他 賃借人からの解約により平成28年2月29日終了
(ウ) 被控訴人は、■との本件賃貸借契約とは別に、一部の物件につき、次のとおり、第三者と管理委託契約を締結した。受託者が集金した賃貸料の受領口座は、■名義預金口座であった。
a 本判決別表の順号5(乙87)
受託者 ■
期間 平成27年11月1日から平成29年10月31日まで
(初回契約期間経過後、2年間ごとの自動更新)
報酬 一般管理事務費用 収入家賃(共益費・水道代除く)の4%
その他、特別管理事務費用がかかる場合がある
b 本判決別表の順号7(甲124、乙88、89)
受託者 ■
期間 平成21年4月18日から平成23年4月17日まで
(初回契約期間経過後、2年間ごとの自動更新)
報酬 媒介業務につき賃貸料の1か月分の1.05倍相当額
会計業務、運営調整業務につき賃貸料集金額の3.5%
c 本判決別表の順号8(乙90、91)
受託者 ■
期間 平成24年10月から令和5年10月まで
(ただし、令和2年6月から令和3年3月までを除く)
目的物 ■
その他 被控訴人の目的物売却により令和5年10月終了
d 本判決別表の順号11(乙92)
受託者 ■
期間 平成23年9月1日から平成24年8月末日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
報酬 入居者管理費として家賃の4%
e 本判決別表の順号13(乙90、91、93、94)
受託者 ■
期間 平成24年4月23日から平成29年3月末日まで
報酬 家賃の5%
その他 被控訴人の目的物売却により平成29年3月で終了
f 本判決別表の順号14(乙92)
受託者 ■
期間 平成23年8月17日から平成24年8月16日まで
(初回契約期間経過後、1年間ごとの自動更新)
報酬 入居者管理費として家賃の4%
g 本判決別表の順号21(乙80、96)
受託者 ■
期間 平成26年12月1日から平成28年11月30日まで
(初回契約期間経過後、2年間ごとの自動更新)
報酬 一般管理事務費用として収納家賃の4%
その他、特別管理事務費用がかかる場合がある
その他 目的物の契約書上の表記は「■」
h 本判決別表の順号22(乙90、91、98)
受託者 ■
期間 平成24年2月23日から平成27年4月6日頃まで
報酬 家賃の5%
その他 被控訴人の目的物売却により平成27年4月6日頃終了
キ ■が実際に行っていた役務
■は、被控訴人が営む■事務所の副所長を兼務しており、被控訴人の個人事業(■及び不動産賃貸業)の業務に加え、被控訴人の■の代表者として業務にも関わっており、金融機関、不動産業者、工事業者への対応、資料作成、会計、税務申告等の作業を行っていた。
■を含む■の従業員は、全て被控訴人の指示に従って業務を行っており、契約締結その他の意思決定は全て被控訴人が行っていた。
本件不動産の入居者の募集は第三者に委託していたが、入居者の審査は被控訴人と■が行っていた。
(原審証人■〔1、9、11、14、17、18、20頁〕)
ク 本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分が前提とした本件適正賃貸料
本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分では、本件各年分において、比準同業者を抽出し、当該比準同業者の賃貸料収入金額のうちの経常収入金額(家賃、共益費等の経常的収入をいい、権利金、礼金、保証金償却相当額、更新料、解約損害金等の臨時的収入を除いたもの、原判決別表4の順号①及び②、乙42から45まで)に占める本件適正管理料割合を求め、本件各年分の■転貸料収入(原判決別表4の順号③から⑤まで、乙42から45まで)の金額のうちの■転貸料経常収入に本件適正管理料割合を乗じて、本件適正管理料を算出するという方法が採られた。
その上で、処分行政庁は、■転貸料収入から本件適正管理料及び■負担経費相当額をそれぞれ控除した金額を本件適正賃貸料として算出した。
(ア) 選定基準
比準同業者を抽出する基準は、①被控訴人の納税地を所轄する東住吉税務署長を始めとする大阪市内の納税地を所轄する税務署長及び大阪市に隣接する納税地を所轄する税務署長に対し、確定申告書を提出していること、②青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること、③集合住宅及び駐車場の両方を賃貸する不動産賃貸業を営む者であること、④不動産賃貸について、転貸方式による貸付けを行っていないこと、⑤海外に存する不動産を貸し付けていないこと、⑥本件各年分の全ての年分において、不動産所得に係る経常収入金額(家賃、共益費等の経常的収入をいい、権利金、礼金、保証金償却相当額、更新料、解約損害金等の臨時的収入を除いたもの)が、8027万9164円以上6億5065万3762円以下であること、⑦上記③に係る賃貸不動産の全部の管理業務を同族関係にない不動産管理会社(法人税法2条10号に規定する同族会社に該当しないもの)に委託しており、その管理委託の内容が、主として賃貸借契約の締結及び更新、賃借人の募集並びに賃貸料等の集金であること、⑧管理委託料の支払がされていること、⑨課税に係る不服申立て又は訴訟が係属中でないことというものであった(乙55)。
(イ) 具体的選定過程
大阪国税局長は、上記(ア)の選定基準を基に、大阪市内の納税地を所轄する税務署長及び大阪市に隣接する納税地を所轄する税務署長に対し、令和4年9月5日付け「同業者調査表の提出について(指示)」(大局課一訟第267号)を送付し、各税務署長から同業者調査表を提出させる方法で機械的に抽出・確認した(乙55)。
(ウ) 比準同業者に係る本件適正管理料割合及び本件適正管理料
上記(イ)の抽出の結果、被控訴人の比準同業者は、16件となった(乙56の1、8、9、11、12、14、15、16、20、22、24、25)。
これらの比準同業者に係る本件適正管理料割合の平均値は、原判決別表6のとおり、平成27年分が6.32%、平成28年分が6.37%、平成29年分が6.33%であった。
また、本件適正管理料割合を用いて計算された本件各年分の本件適正管理料は、原判決別表4の順号⑱の各「本件適正管理料(③×⑨)」欄のとおり、平成27年分が2056万0659円、平成28年分が1516万7077円、平成29年分が1016万3343円となった。
(エ) 本件適正賃貸料及び被控訴人の不動産所得に加算すべき金額等
上記(ウ)の本件適正管理料に基づいて算定した被控訴人の本件各年分の本件適正賃貸料は、原判決別表4の順号⑳の各「本件適正賃貸料(⑥-⑱-⑲」欄のとおり、平成27年分が2億5349万7634円、平成28年分が1億8814万2094円、平成29年分が1億2720万1255円となった。
また、本件適正賃貸料の金額と本件賃貸料の差額は、原判決別表4の順号㉒の各「本件適正賃貸料と本件賃貸料との差額(⑳-⑫)」欄のとおり、平成27年分が7349万7634円、平成28年分が4414万2094円、平成29年分が3120万1255円となった。
その上で、本件賃貸料を処分行政庁において計算した本件適正賃貸料に引き直して算定したときの被控訴人の不動産所得の金額は、原判決別表7の本件各年分の「不動産所得の金額」の各「引き直した後の額」欄のとおり、平成27年分が1億1461万8939円、平成28年分が5570万6547円、平成29年分が3405万9386円となった。」
(6) 原判決68頁12行目の冒頭から78頁8行目の末尾までを次のとおり改める。
「ア 本件賃貸借契約の評価
(ア) 認定事実力によれば、被控訴人は、平成27年から平成29年までの期間の全部又は一部において、重複契約物件について、第三者(■以外の不動産管理会社)との間で、①マスターリース契約を締結し(本判決別紙の順号1、3、4、6、12、16)、②駐車場用地の賃貸借契約を締結し(本判決別紙の順号3、6、9、20)、③管理委託契約(本判決別紙の順号5、7、8、11、13、14、16、21、22)を締結していたことが認められ(重複契約)、しかも、これら重複契約物件は、本件不動産のかなりの部分を占めるものといえる。
そして、被控訴人の住所地から近く、管理が極めて容易と考えられる物件(例えば、本判決別紙の順号8〔■に所在し、戸数も2室のみの■〕)についてまで重複契約をしていたこと、当審における控訴人の追加・補充主張(本案に関するもの)に対し、被控訴人が、被控訴人と第三者との間の契約に関する具体的な事実関係の主張を伴う反論をせず、反面調査に疑問があるとする点も含め、特段の反証もしていないこと、■には、■の業務に加え、被控訴人の個人事業(■及び不動産賃貸業)の業務にも関与し、金融機関、不動産業者、工事業者への対応、資料作成、会計、税務申告等の作業を行っていた■(認定事実キ)のほかには、2ないし4名ほどの従業員しかおらず(補正後の前提事実(1))、■が数百のエンド・ユーザーに対応することは、実際上、極めて困難であることを踏まえれば、重複物件以外の本件不動産(本判決別紙順号2、10、15、17から19まで)についても、第三者との間で重複契約に類する契約をするなどし、平成27年から平成29年までの期間の一部において重複契約がされたことが認められる重複契約物件についても、平成27年から平成29年までのその余の期間にも、重複契約に類する契約をするなどしていたものと推認するのが合理的である。
これらの事情を踏まえれば、実質的には、被控訴人は、本件不動産を■ではなく、第三者(■以外の不動産管理会社)に賃貸し又は管理委託した上、不動産管理会社又はエンド・ユーザーの賃貸料の支払先口座として、被控訴人名義の口座ではなく、■名義の口座を指定したものであり、■は、エンド・ユーザーとサブリース契約を締結するのではなく、第三者から送金される賃貸料を被控訴人に代わって受領するなどの窓口業務をしていたにすぎないと評価するのが相当である。
このような実態は、一般的なサブリース(転貸方式)の実態(認定事実ア)とは大きく異なるものであり、被控訴人及び■が一括サブリースを内容とする本件賃貸借契約書(乙19から21まで)を取り交わし、本件賃貸借契約を締結したことは、まさに、実態とはかい離した形式を作出したものというほかはなく、本件賃貸借契約は不自然なものというべきである。
この点、被控訴人は、契約書の形式的不備(被控訴人と不動産管理会社との契約を■と不動産管理会社との契約に書き換えるべきであったにもかかわらず、これを怠った。)にすぎず、本件賃貸借契約がサブリースとしての実態を有する旨主張する。しかし、重複契約に係る契約書は、平成27年から平成29年までの期間に取り交わされたものが多く、単なる契約書の書換えの懈怠とは考え難い。また、被控訴人は、不動産事業を■に移行させるため、税理士等と相談するなど手順を尽くし慎重に対応したと主張しているのであるから、■が他の不動産管理会社又はエンド・ユーザーとの契約当事者(権利義務の帰属主体)になっていないという実情は、同主張と整合せず、不自然である。
なお、被控訴人は、控訴人の当審における「本件賃貸借契約がマスターリース契約としての実態を有しておらず、被控訴人と■の関係を利用してその形式を整えたにすぎない」旨の主張につき、控訴人の従前の主張に反し、本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分と矛盾するとして、控訴人がそのような主張をすることが、信義則ないし禁反言則に反し、許されない旨の主張もする。しかし、控訴人の当審における上記主張は、控訴人が原審以来主張し、本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分の理由としている「同族会社の行為又は計算・・・が経済的合理性を欠くこと」を基礎付ける事情であると解されるから、控訴人の従前の主張に反するとか、上記各処分と矛盾するとはいえないし、被控訴人が上記各処分に係る通知書(甲1、3、5)に記載された文言を信頼して行動したものとも認められない。
また、被控訴人は、本件不動産の契約状況を知悉しているはずであるから、その実態について検討することは、被控訴人の利益を不当に害するものでないことも明らかである。
したがって、被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
(イ) 認定事実ウによれば、本件各年分の本件賃貸料の■転貸料収入に占める割合は、平成27年分が約54.7%、平成28年分が約59.8%、平成29年分が約59.4%であることが認められる(ただし、平成28年分と平成29年分については、より被控訴人に有利である控訴人の計算を採用した。)。
そして、認定事実アによれば、一般的な借上料率は、転貸料の80ないし90%であり、60%未満とすることはオーナーにメリットがないため想定し難いとされているところ、認定事実ウによれば、被控訴人は、本件賃貸借契約の賃貸料の金額として、①被控訴人個人が負担する必要資金を下回らない金額とすること、②■の事業運営と経費が賄えること、③売却予定物件の賃貸料収入を除外しても、■の事業運営に支障が生じないようにすることという条件を満たしたものとしたのであり、その理由は、被控訴人が、■の信用を高めるため、■の資産を増やす必要があると考えていたことによることが認められる。
このような本件賃貸借契約に基づく行為又は計算は、「■の信用を高めるため、■の資産を増やす」目的、すなわち「被控訴人から■に所得を移転する」目的でされたものであって、被控訴人が■の発行済株式の全てを有する株主であり、代表取締役兼取締役という地位にある(■が同族会社である)がゆえに、行うことができる行為又は計算にほかならず、経済的合理性を欠き、不自然である。
この点について、被控訴人は、■は、本件賃貸借契約に基づき、空室リスク、売却リスク、訴訟リスクを負っており、本件賃貸料は、これらのリスクを踏まえたものであるから、額においても経済的合理性がある旨主張する。しかし、前記(ア)の検討結果によれば、空室リスク及び訴訟リスクを負っていたのは、■ではなく被控訴人とマスターリース契約又は賃貸借契約を締結していた第三者(■以外の不動産管理会社)であるか、第三者(■以外の不動産管理会社)と管理委託契約を締結した被控訴人自身である。また、売却リスクについては、被控訴人は、売却予定物件の売買が完了する予測時期を踏まえ、売却予定物件の賃貸料収入を除外しても■の事業運営に支障が生じないように計算していた上、1年ごとという短期間で賃貸料を見直していたのであるから、60%未満という著しく低い借上料率を正当化し得るものとはいえない。
(ウ) 被控訴人は、その当時還暦を迎えていた被控訴人が、デッドクロス現象に対応しつつ、将来的な事業承継等も視野に入れ、軌道に乗った個人事業を法人化して経営の合理化を図るため、被控訴人所有の不動産を■に売却し収益事業を法人に移行させることとし、本件賃貸借契約は、本件不動産の売却が完了するまでの過渡期に相応しい契約形態であると判断して締結したものであり、いわば組織再編と等価的な戦略判断といえ、税負担の減少以外に本件賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的があった旨主張する。
しかし、デッドクロス現象などを勘案して、被控訴人が不動産賃貸事業を■に移行させることを計画しており、そのために「■の信用を高めるため、■の資産を増やす」ことが必要であったとしても、必ずしも、「被控訴人から■に所得を移転する」必要はなく、当該目的は、(同族会社等の関係がない場合であっても採用されるような)通常想定される経済的合理性のある他の方法、例えば、■の発行する新株を引き受け、あるいは■に劣後ローンを提供することによっても、実現することができることが明らかである。したがって、被控訴人の主張する事業目的とは、結局、「被控訴人から■に所得を移転する」ことにほかならず、税負担の減少以外の合理的な理由となる事業目的その他の事由であるとは認め難い。
なお、被控訴人は、顧問税理士の意見に従った旨の主張もするが、当該税理士の見解によって所得税法157条1項の適用の可否が左右されるものではないし、当該税理士が同項適用の可否という観点から、本件賃貸借契約書の内容や著しく低い借上料率の可否、重複契約の存在などにつき精査したこともうかがわれない。
したがって、被控訴人の主張はいずれも採用できない。
(エ) 以上のとおり、本件賃貸借契約に基づき■が被控訴人に提供する役務は、実態としては、送金される賃貸料を被控訴人に代わって受領するなどの窓口業務をしていたにすぎないと評価するのが相当であり、少なくとも管理委託方式における役務を超えるものではないところ、被控訴人と■は、本件賃貸借契約を締結することにより、一括マスターリース契約という実態とはかい離した形式を作出しており、かつ、その賃貸料が適正な賃貸料(後記イ参照)に比して著しく低額なものとなっている。また、被控訴人の主張する事業目的も、結局、「被控訴人から■に所得を移転する」ことにほかならず、税負担の減少以外の合理的な理由となる事業目的その他の事由であるとは認め難い。
したがって、本件賃貸借契約は、経済的合理性を欠くものというべきである。
イ 本件賃貸借契約の適正賃貸料の金額について
(ア) 不動産賃貸業者がその所有する不動産を賃貸する場合、不動産管理会社を介する形態には、サブリース(転貸方式)と管理委託方式(一般管理)があるところ、前者における不動産管理会社が得る転貸料と賃貸料の差額は、後者における管理料と経済的に同視することができる。したがって、形式的にはサブリース(転貸方式)が採られている場合であっても、適正な管理料割合に基づいて算定した適正な管理料相当額を転貸料収入から控除して適正な賃貸料を算定する方法によって、適正な賃貸料を算定することが可能であるというべきである。
(イ) 認定事実力のとおり、被控訴人は、本件不動産を■ではなく、第三者(■以外の不動産管理会社)とマスターリース契約若しくは賃貸借契約又は管理委託契約を締結しており、本件賃貸借契約に基づき■が被控訴人に提供する役務は、実態としては、送金される賃貸料を被控訴人に代わって受領するなどの窓口業務をしていたにすぎず、少なくとも管理委託方式における役務を超えるものではなかったというべきであるから、管理委託方式を基にした算定方法によって適正な賃貸料を算定することが合理的である。
■の転貸料経常収入は、原判決別表4の順号③の各「■転貸料経常収入(①+②)」欄のとおり、平成27年分が3億2532万6881円、平成28年分が2億3810万1676円、平成29年分が1億6055万8328円であるところ、大阪国税局長が大阪市内の納税地を所轄する税務署長及び大阪市に隣接する納税地を所轄する税務署長に対し、本件各年分につき作成を命じた報告書によると、比準同業者に係る本件適正管理料割合の平均値は、平成27年分が6.32%、平成28年分が6.37%、平成29年分が6.33%であるから(原判決別表6の「適正管理料割合」欄参照)、被控訴人が■から受領すべき適正な賃貸料(本件適正賃貸料)は、平成27年分が2億5349万7634円、平成28年分が1億8814万2094円、平成29年分が1億2720万1255円となる(原判決別表4の順号⑳の各「本件適正賃貸料(⑥-⑱-⑲)」欄参照)。
これに対し、本件賃貸料は、平成27年分が1億8000万円、平成28年分が1億4400万円、平成29年分が9600万円と著しく低額であり、本件賃貸借契約に基づく計算は、これを容認すると、被控訴人の所得税等の負担を不当に減少させる結果となると認められる。
(ウ) 被控訴人は、本件賃貸借契約を管理委託方式と同視することはできない、控訴人の主張の同業者率が信用に足りない、仮に同業者率を算出するのであれば、サブリース会社について十分な調査を行い、同業者率を算定すべきであるなどと主張する。
しかし、本件賃貸借契約の実態が、通常のサブリース(転貸方式)ではなく、むしろ管理委託方式(一般管理)に近いものであることは、既に説示したとおりである。
そして、控訴人が主張する本件適正管理料割合は、被控訴人と業種、業態、不動産の所在地、事業規模等が類似する比準同業者を抽出して算出したものであること、比準同業者の数は16であり、同業者間の個別性をある程度平均化するに足りる数であること、本件各年分の本件適正管理料割合は平成27年分が6.32%、平成28年分が6.37%、平成29年分が6.33%であり、一般的な管理委託料とされる賃貸料の5ないし10%の範囲内(認定事実ア)にあり、合理性があること、被控訴人が本件不動産の一部について締結していた管理委託契約における管理委託料の賃貸料に対する割合は3.5ないし5%であって、控訴人が主張する本件適正管理料割合は、実際よりも被控訴人に有利であるといえることなどからすると、被控訴人の主張は採用できない。
(エ) 以上のとおり、被控訴人の適正管理料割合を平成27年分が6.32%平成28年分が6.37%平成29年分が6.33%として算定することは合理的である。」
(7) 原判決78頁10行目の冒頭から13行目の末尾までを次のとおり改める。
「以上によれば、所得税法157条1項を適用して、本件各年分の被控訴人の不動産所得に係る総収入金額について本件適正賃貸料と本件賃貸料との差額を加算して計算した上で、本件各年分の所得税等に係る被控訴人の総所得金額及び所得税の額を計算することができ、本件各年分の被控訴人の不動産所得の算定に係る総収入金額は、被控訴人の本件各年分の所得税等の修正申告書及び所得税青色申告決算書(不動産所得用)に記載された「不動産所得の総収入金額」に、「本件適正賃貸料と本件賃貸料との差額」を加算して計算した金額とすべきである。」
(8) 原判決79頁18行目の冒頭から80頁14行目の末尾までを次のとおり改める。
「(1)本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分について
上記説示したところによれば、被控訴人の本件各年分の所得税等に係る総所得金額及び納付すべき税額は、原判決別紙2「被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性」の1(1)から(3)までに記載のとおりであることが認められる。そうすると、上記納付すべき税額は、本件所得税等各更正処分における納付すべき税額をいずれも上回るから、本件所得税等各更正処分はいずれも適法である。
また、本件所得税等各更正処分は適法であるところ、本件所得税等各更正処分に伴って賦課されるべき過少申告加算税の額は、同別紙の3(1)から(3)までに記載のとおりであると認められる。そうすると、上記過少申告加算税の額は、本件所得税等各賦課決定処分における過少申告加算税の額をいずれも上回るから、本件所得税等各賦課決定処分はいずれも適法である。」
3 結論
以上によれば、本件所得税等各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件所得税等各賦課決定処分の取消しを求める被控訴人の請求はいずれも棄却すべきであるから、これと異なる原判決を一部変更することとして、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 嶋末 和秀
裁判官 横路 朋生
裁判官 石本 恵
(別表)省略