国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
不動産賃貸業等を営む原告は、税務署長から、本件各年分の所得税等に関し、事業所得について原告が納税申告において必要経費に算入した接待交際費の全部及び減価償却費の一部を必要経費に算入することができないとし、不動産所得について所得税法157条1項を適用して原告が同族会社に賃貸した不動産に係る約定賃貸料を適正賃貸料に引き直して算定するなどとして、令和2年11月5日付けで、本所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分を受けた。
原告は、税務署長から、本件各課税期間の消費税等に関し、納税申告において課税仕入れに係る支払対価の額に算入された交際費が課税仕入れに当たらずこれに係る消費税額を控除することができないなどとして、本件消費税等各更正処分を受けた。
本件は、原告が、被告を相手に、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案。
基本情報
・税目:所得税、消費税
・処分行政庁:東住吉税務署長
・課税年度:平成27~29年分
・提訴裁判所:大阪地方裁判所
・提訴年月日:令和4年5月2日
・判決日:令和6年3月13日
・結果:一部認容
争点
・ 本件接待交際費の必要経費該当性の有無(所得税等に係る争点)及び本件交際費の課税仕入れ該当性の有無(消費税等に係る争点)
・ 本件減価償却費の必要経費該当性の有無(所得税等に係る争点)
・ 本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果(所得税等に係る争点)
ア 「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得
税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」という要件の充足性の有無
イ 本件賃貸借契約の適正賃貸料の金額
・ 本件各処分の信義則違反の違法性の有無(前回調査結果通知と本件各処分との関係)(所得税等及び消費税等
に係る争点)
判決書PDFデータ
判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成27年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額4380万5525円、納付すべき税額4602万7000円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち、52万1000円を超える部分をいずれも取り消す。
2 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成28年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額1671万9068円、納付すべき税額6450万9200円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち、24万円を超える部分をいずれも取り消す。
3 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額553万7798円、納付すべき税額7283万7000円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち、8万4000円を超える部分をいずれも取り消す。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成27年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額3122万1534円、納付すべき税額4081万5700円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成28年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額693万8529円、納付すべき税額6210万6100円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額マイナス555万3419円、納付すべき税額7198万8200円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
4 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成27年1月1日から平成27年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち、納付すべき消費税額1855万8300円及び納付すべき地方消費税額500万7700円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
5 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成28年1月1日から平成28年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち、納付すべき消費税額3292万1800円及び納付すべき地方消費税額888万3600円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
6 東住吉税務署長が令和2年11月5日付けで原告に対してした平成29年1月1日から平成29年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち、納付すべき消費税額3464万4900円及び納付すべき地方消費税額934万8600円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
■及び不動産賃貸業を営む原告は、東住吉税務署長(処分行政庁)から、平成27年分から平成29年分まで(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)に関し、事業所得について原告が納税申告において必要経費に算入した接待交際費の全部及び減価償却費の一部を必要経費に算入することができないとし、不動産所得について所得税法157条1項を適用して原告が同族会社に賃貸した不動産に係る約定賃貸料を適正賃貸料に引き直して算定するなどとして、令和2年11月5日付けで、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件所得税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税等各賦課決定処分」という。)を受けた。
原告は、東住吉税務署長から、平成27年課税期間(平成27年1月1日から平成27年12月31日までの課税期間をいい、その他の課税期間も同様に表記する。)から平成29年課税期間まで(以下「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に関し、納税申告において課税仕入れに係る支払対価の額に算入された交際費が課税仕入れに当たらずこれに係る消費税額を控除することができないなどとして、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下、「本件消費税等各更正処分」といい、本件所得税等各更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、「本件消費税等各賦課決定処分」といい、本件所得税等各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。また、本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)を受けた。
本件は、原告が、被告を相手に、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
別紙1「関係法令の定め」記載のとおりである。なお、同別紙において定める略称等は、以下においても用いることとする。
2 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに後記の証拠(枝番号のある書証について特に明記しない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、争いのない事実には証拠等を掲記しない。)
(1) 当事者等
原告は、肩書住所地において「■」の屋号で■を営むとともに、自己の所有する不動産を賃貸して賃貸料を得る不動産賃貸業を営んでいる。
■は、本店所在地を原告の肩書住所地と同じ場所とし、目的を不動産賃貸借管理業務、不動産コンサルタント業、林業及びこれらに附帯する一切の業務とし、代表取締役を原告とする株式会社であり、■を商号変更し、移行したことにより設立された(甲9、99、乙7。以下、■及び■を通じて「■」という。)。原告は、■の発行済株式の全てを有しており、■は、法人税法2条10号にいう同族会社に当たる。■において、原告が代表取締役を務め、原告の配偶者である■が取締役を務め、原告の長女である■及び同人の配偶者で原告の養子である■等が従業員として勤務している(証人■、弁論の全趣旨)。
■(以下「■」という。)は、本店所在地を原告の肩書住所地と同じ場所とし、目的をマンション・駐車場の巡回・点検、リフォームなど改修工事の手配及び施工、マンション入居者の退去明け渡し時の室内点検、火災保険等の保険金請求業務の代行、粗大ゴミ撤去処分並びにこれらに附帯する一切の業務とし、代表取締役を原告とする株式会社である(乙8)。原告の配偶者の■が■の発行済株式の全てを有している。
(2) 原告と■との間の賃貸借契約
原告は、平成23年頃までは、自己の所有する不動産を個別に第三者に賃貸して第三者から賃料収入を得るなどしていたが、平成24年7月以降、■との間で、当時自己が所有していた別表1の順号1から22までの不動産を含む合計27の不動産を■に一括して賃貸し、■から賃料収入を得るようになった(以下、この原告と■との間の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約の対象不動産を「本件不動産」という。)。本件賃貸借契約は、■が本件不動産を第三者に個別に賃貸する(転貸する)ことを前提とするものである(以上につき、甲15、98の2、159、乙19から21まで、証人■)。
原告は、その後平成26年6月までに、上記合計27の本件不動産のうち合計5の不動産を■以外の第三者に売却し、さらに、原告は、別表1の「売却等」欄記載のとおり、①平成27年分の本件賃貸借契約の賃貸期間の途中である平成27年4月に本件不動産のうち別表1の順号21及び22の各不動産を■以外の第三者に売却し、②平成28年分の本件賃貸借契約の賃貸期間の途中である平成28年2月から4月までの間に本件不動産のうち別表1の順号14から20までの各不動산を■に売却し、③平成29年分の本件賃貸借契約の賃貸期間の途中である平成29年2月及び3月に本件不動産のうち別表1の順号12及び13の各不動産を■以外の第三者に、同年3月に本件不動産のうち別表1の順号10及び11の各不動産を■にそれぞれ売却した(甲15、弁論の全趣旨)。
上記の経過を前提にした、本件各年分(平成27年分から平成29年分まで)の本件賃貸借契約の内容は、下表のとおりである(乙19から21まで)。なお、いずれの契約においても、■が本件不動産を転貸することができる旨の約定がある(各契約書(乙19から21まで)の契約条項12条)。
平成27年分 | 平成28年分 | 平成29年分 | |
---|---|---|---|
契約年月日 | 平成26年12月26日 | 平成27年12月26日 | 平成28年12月26日 |
契約期間(賃貸期間) | 平成27年1月1日~平成27年12月31日 | 平成28年1月1日~平成28年12月31日 | 平成29年1月1日~平成29年12月31日 |
賃料 | 月額1500万円(年額1億8000万円) | 月額1200万円(年額1億4400万円) | 月額800万円(年額9600万円) |
本件不動産(目的物件) | 別表1の順号1~22 | 別表1の順号1~20 | 別表1の順号1~13 |
契約書 | 乙19 | 乙20 | 乙21 |
(3) 原告の所有車両
原告は、①ベントレー、②日産・ノート、③日産・マーチ、④日産・エルグランド、⑤日産・キックス、⑥⑦日産・クリッパー(2台)及び⑧日産・バネットの合計8台の車両(以下、これらの車両のうち、ベントレー(①)、日産・エルグランド(④)、日産・キックス(⑤)、日産・クリッパー(2台)(⑥⑦)及び日産・バネット(⑧)を「本件各車両」という。)を所有していた。
(4) 前回調査
東住吉税務署長は、平成26年10月頃に行われた原告に係る税務調査(以下「前回調査」という。)を踏まえ、原告に対し、平成27年2月26日付け通知書(甲8)でもって、国税に関する実地の調査を行った結果、原告の平成23年分及び平成24年分の所得税、平成25年分の所得税等並びに平成23年課税期間から平成25年課税期間までの消費税等について、更正決定等をすべきと認められない旨の通知(以下「前回調査結果通知」という。)をした。
(5) 本件各処分等
ア 確定申告等
原告は、東住吉税務署長に対し、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る各確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出し、別表2-1から別表2-3まで及び別表3の各「確定申告」欄記載のとおり、それぞれ申告をした(乙22から27まで)。本件各年分の所得税等の各確定申告書における総所得金額は、別表2-1から別表2-3のとおり、不動産所得の金額及び事業所得の金額等の合計額である。
原告は、後記イの原告に対する税務調査が開始されるまでに、東住吉税務署長に対し、原告の氏名及び住所並びに原告が本件各年分の12月31日において有する財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した調書(以下「財産債務調書」という。)を提出した(乙28から乙30まで)。
イ 本件調査
東住吉税務署所属の調査担当者(以下「本件調査担当者」という。)は、平成30年8月23日、原告の税務代理人に対し、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る税務調査(以下「本件調査」という。)の事前通知を行い、その後、同年9月6日に原告の事務所に臨場して実地の調査を行うなどした。
本件調査担当者は、令和2年1月31日、原告の税務代理人に対し、本件調査の調査結果の内容を説明するとともに、修正申告を勧奨した。(乙18)
ウ 修正申告
原告は、令和2年4月28日、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る各修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)を提出し、別表2-1から別表2-3まで及び別表3の各「修正申告」欄記載のとおり、それぞれ修正申告をした(乙46、48、50、52から54まで)。
本件各修正申告書の内容は、本件各年分の事業所得に係る接待交際費のうち、特定のコンビニエンスストアにおける支払及び前記(3)の原告所有の車両のうちベントレー(①)に係る減価償却費の28%相当額を必要経費に算入しない(前者については、必要経費に算入しないことに加え、消費税の控除対象仕入税額にも算入しない)というものであったところ、これは、前記イの本件調査担当者が勧奨した修正申告の内容とは異なるものであった(甲10、乙31)。
(以下、本件各年分の所得税等に係る修正申告書において、事業所得の必要経費に算入された、接待交際費を「本件接待交際費」といい、本件各車両の減価償却費を「本件減価償却費」という。また、本件各課税期間の消費税等に係る各修正申告書において、課税仕入れに係る支払対価の額に算入された交際費(本件接待交際費から消費税の非課税取引に該当する金額を控除したもの)を「本件交際費」という。)
エ 本件各処分
東住吉税務署長は、令和2年11月5日付けで、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、それぞれ別表2-1から別表2-3まで及び別表3の各「更正処分等」欄記載のとおり、本件各処分をした。
本件所得税等各更正処分は、①事業所得に関し、本件接待交際費及び本件減価償却費を、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできないこと、②不動産所得に関し、本件賃貸借契約について所得税法157条を適用し、■が本件不動産を第三者に転貸することにより受け取る転貸料から、原告と同族関係にない不動産管理会社に本件不動産の管理を委託したとした場合に支払うべき管理料の額を差し引いたものを、適正賃貸料とし、原告が本件賃貸借契約により得ている賃貸料を上記適正賃貸料に引き直して不動産所得の金額を計算することにしたこと等を処分の理由とする。
本件消費税等各更正処分は、本件交際費が課税仕入れに当たらずこれに係る消費税額を控除することができないこと等を処分の理由とする。
なお、本件減価償却費は、平成27年分は本件各車両全て(合計6台)に係るものであり、平成28年分及び平成29年分は本件各車両からバネット(前記(3)⑧)を除く各車両(合計5台)に係るものである。(甲1から6まで)
オ 審査請求
原告は、令和3年2月4日、本件各処分を不服として、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。
国税不服審判所長は、令和4年1月27日付けで、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。(甲7)
(6) 本件訴えの提起
原告は、令和4年5月2日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3 本件各処分の適法性に関する被告の主張
別紙2「被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性」記載のとおりである。なお、同別紙において定める略称等は、以下においても用いることとする。
原告は、本件訴訟において、後記4の争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を争っていない。
4 争点
(1) 本件接待交際費の必要経費該当性の有無(所得税等に係る争点)及び本件交際費の課税仕入れ該当性の有無(消費税等に係る争点)
(2) 本件減価償却費の必要経費該当性の有無(所得税等に係る争点)
(3) 本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果(所得税等に係る争点)
ア 「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」という要件の充足性の有無
イ 本件賃貸借契約の適正賃貸料の金額
(4) 本件各処分の信義則違反の違法性の有無(前回調査結果通知と本件各更正処分との関係)(所得税等及び消費税等に係る争点)
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件接待交際費の必要経費該当性の有無及び本件交際費の課税仕入れ該当性の有無)について
(被告の主張)
ア 必要経費等について
(ア) 必要経費について
所得税法37条1項は、いわゆる費用収益対応の原則により、特定の収入との対応関係を明らかにできる費用についてはそれが生み出した収入の帰属する年度の必要経費とすべきであり(個別対応)、特定の収入との対応関係を明らかにできない費用についてはそれが生じた年度の必要経費とすべきである(一般対応)ことから、必要経費を二つに区分し、個別対応の費用に相当するものとして「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」を、一般対応の費用に相当するものとして、「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額」をそれぞれ定めたものと解される。
このように、所得税法37条1項が特定の収入との対応関係の有無に応じて必要経費を二つに区分し、同項前段が「総収入金額に係る売上原価」に加えて「その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」と規定していることからすれば、「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するといえるためには、特定の収入と何らかの関連性を有する費用というだけでは足りず、総収入金額を構成する特定の収入と直接の対応関係を有しており当該収入を得るために必要な費用であることを要すると解すべきであり、その該当性の判断は、単に当該業務を行う者の主観的判断によるものではなく、当該費用に係る個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って客観的に判断されるべきであると解される。
また、同項後段が「その年における販売費、一般管理費」に加えて「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用・・・の額」と規定していること、業務上の必要経費と家事上の経費等(同法45条1項1号)を識別する必要があることからすれば、「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用・・・の額」に該当するといえるためには、所得を生ずべき業務と何らかの関連性を有する費用というだけでは足りず、所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有しており当該業務の遂行上必要な費用であることを要すると解される。
(イ) 家事費及び家事関連費について
家事費は、所得税法45条1項の規定により必要経費に算入されない(1号)。これは、衣食住費、教育費、養育費、趣味娯楽費等のような家事費が、業務に係る収入を得るために必要な費用ではなく、個人が消費生活を送る上で必要な費用を支出するいわば所得の処分とみるべきものであると解されるからである。また、家事関連費は、家事費としての性質とともに業務と関連して支出する費用としての性格を併せ持つものであるが、上記のとおり、家事費は必要経費に算入されないから、青色申告者以外の者は、その主たる部分が所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費に限り、必要経費に算入することができ(所得税法施行令96条1号)、また、青色申告者は、上記の経費に加え、家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録に基づいて、所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費についても、必要経費に算入することができるのである(同条2号)。
イ 原告が本件各年分の所得税等に係る修正申告書において接待交際費(本件接待交際費)とする支出(以下「本件支出」という。)に関する当てはめについて
(ア) 本件支出に係る支払金額及び接待回数からみて、本件支出は、原告の事業所得ないし不動産所得に係る必要経費であるとは認め難いこと
原告は、平成27年中には接待交際に係る延べ142回で605万9952円、平成28年中には延べ141回で571万5116円、平成29年中には延べ148回で829万0489円の接待交際費を支出しているところ、原告が営む■の規模は、本件各年分の総収入金額をみると、平成27年分が192万5550円(乙1)、平成28年分が463万3745円(乙3)、平成29年分が360万0486円(乙5)であり、また、不動産賃貸業(以下、■と併せて「■」ということがある。)における実質的な得意先は、原告自身が代表取締役を務める■のみである。接待交際の回数が年間で141回ないし148回というのは、ほぼ2日に1回の頻度といえるが、週6日の勤務だとしても、その事業規模等に照らして異常に多い頻度である。また、接待交際費の金額はいずれも■による年間の総収入金額を大きく上回るものである。このように、接待交際費の頻度や金額を見ると、社会通念上、原告個人による■を遂行する上で、そのような接待交際を行う必要性が存在したとはおよそ考えられない。
すなわち、原告は、個人として■を営むど同時に不動産賃貸・管理業務を行う■の代表取締役でもあるところ、■の売上総利益は、平成27年12月期が4億5134万0942円(乙9の5頁)、平成28年12月期が4億5711万8819円(乙10の17頁)、平成29年12月期が4億4991万7906円(乙11の16頁)であって、原告個人が営む■よりもはるかに大規模に事業を行っており、それに伴い、取引の相手方も多数に上るものとも考えられるのであるから、原告個人の■ではなく、■の代表取締役として、■の事業に係る接待交際をする必要性が圧倒的に大きかったと考えられるのである。
したがって、原告は、本来は法人たる■の事業に起因する接待交際費であるにもかかわらず、原告が■の代表取締役であることを奇貨として、原告個人の■に係る接待交際費として申告したものとしか考えられない。
(イ) 本件支出の個別の内容について
a 接待交際の相手方に関する情報が一切不明な支出や氏名以外の情報が不明な支出については、事業所得ないし不動産所得に係る必要経費とは到底認められないこと
本件支出は、総収入金額を得るために直接要した費用には該当せず、個別対応の費用に該当しない。そうすると、必要経費に該当するといえるためには、本件支出が一般対応の費用として必要経費に算入される必要があるところ、そのためには、所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有しており当該業務の遂行上必要な費用であることを要する。本件支出が、■に係る業務と直接的な関連性を有し、かつ■に係る業務の遂行上必要な費用であるかを個別具体的に判断するためには、それぞれの支出に係る接待交際の相手方に関する情報、具体的には、相手方の氏名や立場、原告との関係性などの情報のほか、当該接待の趣旨目的が明らかにされる必要があるというべきである。
この点、接待交際の相手方に関する情報が記載されていない支出や氏名以外の情報が記載されていない支出については、当該相手方と原告との関係性すら確認できず、当該支出に係る趣旨目的を明らかにすることができないのであるから、当該支出と原告が営む■に係る業務との関連も明らかでない。
そうすると、当該支出は、原告の■に係る業務と直接的な関連性を有し、業務の遂行上必要な支出であると認めることはできない。また、当該業務との関連性も認められないことから、家事関連費にも該当しない。
b 接待交際の相手先が政治関係者等である支出は、事業所得又は不動産所得に係る必要経費とは認められないこと
接待交際の相手先が政治関係者等である旨記載されているとしても、当該接待交際と原告が営む■とどのような関連を有するのかが明らかでなく、■の遂行上必要な費用であると認めることはできない。むしろ、政治家の政治資金団体と認められるもの(■)に対する支出や政党に係る党費は、家事費に該当するというべきである。
c 接待交際の相手先が税理士、不動産関係者及び銀行関係者である支出については、原告の事業所得ないし不動産所得に係る必要経費と認められないこと
原告は、不動産賃貸・管理業務を行う■の代表取締役であり、■については、①原告個人が有するよりも多額の銀行借入金を有していること、②自社所有の賃貸用不動産を多数有していること、③■の関与税理士が本件各年分における原告個人の関与税理士と同一の者であったこと等の事実が認められる。これらの事実を踏まえると、接待交際の相手方が税理士、不動産関係者及び銀行関係者のいずれかである支出については、原告個人の■に係る接待交際ではなく、むしろ、■の事業に係る接待交際である可能性が高いというべきである。少なくとも、原告個人の■と■の事業のいずれに関係するものかが明らかでないから、原告個人の■に関する支出であると認めることはできない。
原告は、本件調査の際、本件調査担当者に対し、当該支出に係る接待交際の趣旨目的が、銀行関係者からは最新の景気動向のほか、直近の融資条件等の情報を収集する点にあり、また、不動産関係者からは所有不動産の管理を確実にしたり、不動産の売出し情報を入手したり、所有不動産の売却のタイミングを計るなどの判断のための情報を収集する点にあると説明したが、このような情報収集が、■の業務ではなく、原告個人の■と直接的な関連性を有し、かつ、これらの業務の遂行上必要なものであったと判断するに足りる証拠はない。すなわち、原告は、その所有する不動産のほとんどを■一社のみに賃貸しており、不動産関係者や銀行関係者から収集した情報を必要とするのは、■に従事する原告ではなく、むしろ■又は■の代表取締役としての原告とみるのが自然であるから、上記情報収集が原告の■と直接的な関連性を有するとは認められないのである。
加えて、当該支出の主たる部分が原告の■と関連する家事関連費であるといえたとしても、当該業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明確に区分できるものでもないので、原告の■にかかる必要経費に当たると認めることはできない。
d 原告と原告訴訟代理人との会食に関する本件支出は、必要経費に該当しないこと
まず、原告の所有不動産等に直接関わる案件(甲158の③、④、⑥、⑩及び⑪)に関する本件支出については、原告の■による所得を生ずべき業務とは直接的な関連性を有しないことは明らかであり、また、原告の不動産賃貸業と一切関係がないか(甲158の③及び⑥並びに⑪の一部)、原告の不動産賃貸業の業務の遂行上必要な費用であると認めることはできないものである(甲158の④及び⑩並びに⑪の一部)。したがって、原告の所有不動産等に直接関わる案件に関する本件支出は、原告の■に係る必要経費に該当しない。
次に、原告の所有不動産等と関係がない案件(甲158の①、②、⑤及び⑦から⑨まで)に関する本件支出については、原告の■とは一切関係がないことは明らかであり、同支出は、原告の■に係る必要経費に該当しない。
(ウ) 小括
以上によれば、原告が接待交際費であると主張する本件支出について、原告の事業所得ないし不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
ウ 本件支出が事業者の行う課税仕入れに該当しないこと
本件支出が事業者の行う課税仕入れ(消費税法30条1項)に該当するか否かにつき検討するに、課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう(同法2条1項12号)。前記イのとおり、本件支出は、原告の事業所得ないし不動産所得と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要なものであったということはできないのであるから、原告が「事業として」行ったものとみることはできず、課税仕入れに当たらない。
そうすると、原告の消費税の金額の計算上、本件支出に係る消費税額を控除することはできない。
エ 前回調査について
前回調査において接待交際費の計上が否認されなかったとしても、過去に接待交際費の計上が否認されなかったことをもって、それ以降の接待交際費まで必要経費として認められるべきであると解すべき法令上の根拠はない。
(原告の主張)
ア 必要経費該当性の要件について
業務と無関係な接待交際費を必要経費とすることはできないので、業務との関連性及び必要性が必要経費といえるための要件であるとはいえる。しかし、接待交際費の必要経費該当性の有無に関し、業務との関連性及び必要性の要件を厳格に解すべきではない。業務に関連する関係者との交際であることや、接待交際費の支出が業務全般の円滑化に寄与していること、業績とのバランスを失していないことといった状況があれば、当該接待交際費については必要経費と認めるのが相当である。
接待の相手方及び目的等まで明示しなければならず、相手方の固有名詞や、明確な目的ないし具体的な効果までをも必要とするというのは、解釈としては行き過ぎであり、違法で不当である。
イ 本件接待交際費について
本件接待交際費は、次の事情を踏まえれば、前記アの要件を満たしており、必要経費に当たる。
原告の接待交際の場は、「■」(上本町)、「■」(西梅田)、「■」(有馬温泉)、「■」(北畠)、「■」等である。同席者は、近隣友人や親族等ではなく、私的な交際とは一線を画している。同席者すなわち相手方や関係者は、代議士等の国政、市政の関係者、銀行等の金融機関の関係者、不動産事業の関係者、他士業の関係者という事業の関係者であり、接待交際の相手方はおおむね明らかである。会食等の目的は、経済事業や業界の話題等の情報収集や、今後の事業展開の相談、問題点の確認等であり、原告の営む■や不動産事業にも非常に役立つものである。
このような健全、良質、良好な交際からもたらされる有益な情報や研さんが、原告の人格や見識を高め、■や不動産事業を長年にわたって安定して維持することを可能としたのである。
接待交際費の支出と原告の所得を比較すれば、資金収支に悪影響は全くなく、業績とのバランスも問題がない。原告は、平成27年以前は、個人としても2000万円を超える多額の納税義務を果たしてきたのであり、■及び不動産賃貸業を全体としてみれば、500万円ないし800万円の交際費支出はバランスを失したものではない。
ウ 前記アのとおり、接待交際費を必要経費と認定する上で相手方の固有名詞を明らかにする必要はないが、少なくとも原告の原告訴訟代理人との会食については、これを明らかにすることができる。その会食は、平成27年分で6回、平成28年分で8回、平成29年分で9回である。
原告訴訟代理人が原告から相談、依頼を受けていた案件は、主なもので11件あり(甲158の①から⑪まで)、そのうち原告の所有不動産等に直接関わるものは5件であった(甲158の③、④、⑥、⑩及び⑪)。原告と原告訴訟代理人との会食分については、必要経費として認められるべきである。
エ 前回調査では、接待交際費が必要経費になることが承認された。前回調査と本件調査とで、接待交際費に係る支出状況や提供した資料等に変化はないので、前回調査で必要経費と認められたにもかかわらず、本件調査で必要経費と認められないというのは、著しく不合理である。
オ 以上からすれば、本件接待交際費は、必要経費に当たるというべきである。また、同様の理由から、本件交際費は、課税仕入れに当たるというべきである。
(2) 争点(2)(本件減価償却費の必要経費該当性の有無)について
(被告の主張)
ア 減価償却費について
減価償却費の必要経費への算入は、本件各年分において有する減価償却資産につき認められるところ(所得税法49条1項)、減価償却資産というためには、当該資産が不動産所得の基因となり、又は不動産所得若しくは事業所得を生ずべき業務の用に供されるものであることを要する(所得税法2条1項19号)。
減価償却費も一般対応の費用であるところ、前記(1)(被告の主張)ア(ア)のとおり、必要経費に算入すべき減価償却費については、所得を生ずべき業務と何らかの関連性を有する費用というだけでは足りず、所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であることを要するから、不動産所得の基因となり、又は不動産所得若しくは事業所得を生ずべき業務の用に供されているというためには、当該資産が客観的にみて、業務と直接的な関連性を有し、かつ、業務の遂行上必要な資産であることを要し、これに該当するか否かの判断は、当該業務の内容などの個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って行われる必要があると解される。
イ 本件減価償却費が、原告の事業所得又は不動産所得に係る必要経費に該当しないこと
(ア) ベントレー(前記前提事実(3)①の車両)の減価償却費について
原告は、本件調査の際、本件調査担当者に対し、ベントレーの使用目的について、①平成27年中における白浜方面への不動産管理業務等、②有馬温泉における銀行関係者ないし不動産関係者の接待の送迎及び③奈良方面への健康診断等である旨説明し、当該説明内容に沿うETCの使用履歴等を提出した。
しかし、①原告は、白浜方面にある不動産について■に管理業務を含めて一括して賃貸していることから、ベントレーで白浜方面に行き不動産管理を行ったとしても、当該業務は、原告個人の■の業務としてではなく、■の代表取締役として■の業務として)行ったものと認められる。したがって、上記不動産管理業務は、原告の■と直接的な関連性はなく、■の遂行上必要であったと認めることはできない。
また、②有馬温泉における銀行関係者ないし不動産関係者に対する接待についても、前記(1)(被告の主張)イ(イ)cのとおり、原告個人の■ではなく、■の事業として行われたものと認められるのであるから、原告個人の■と直接的な関連性を有し、かつ、これらの業務の遂行上必要なものであったと認めることはできない。
さらに、③奈良方面への健康診断は、もはや、原告個人の■とも関係しない個人的な使用というべきであって、家事費に該当するものである。
したがって、ベントレーに係る減価償却費は、本件各年分の事業所得又は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
(イ) エルグランド(前記前提事実(3)④の車両)の減価償却費について
原告は、本件調査の際、本件調査担当者に対し、エルグランドの使用目的について、原告及び■の所有する物件(山林等を含む。)の管理に使用している旨説明し、当該説明内容に沿うETCの使用履歴等を提出した。
しかし、■が所有する物件の管理業務は、■が行う事業であって、原告の■とは直接的な関連性がなく、当該事業の遂行上必要であったとはいえない。また、原告が、原告所有の物件の管理にエルグランドを使用しているといっても、原告所有の物件については■に管理業務を含めて一括して賃貸されていることからすれば、もはや原告個人の■とは直接的な関連性がなく、当該事業の遂行上必要であったとはいえない。
したがって、エルグランドに係る減価償却費は、原告の事業所得又は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
(ウ) キックス(前記前提事実(3)⑤の車両)、クリッパー(2台。前記前提事実(3)⑥及び⑦の各車両)及びバネット(前記前提事実(3)⑧の車両)の減価償却費について
原告は、本件調査の際、本件調査担当者に対し、キックス、クリッパー(2台)及びバネットについては、原告自身が、■の従業員が使用し、■の不動産管理に使用している旨説明しており、上記の4台の各車両は、原告個人の■ではなく■の事業の用に供されているものである。
したがって、上記各車両に係る減価償却費は、原告の事業所得又は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
ウ 前回調査について
過去に原告の車両に係る減価償却費の計上が否認されなかったことをもって、それ以降も原告の車両に係る減価償却費が必要経費として認められるべきであると解すべき法令上の根拠はない。
(原告の主張)
ア 必要経費の要件について
車両の減価償却費の必要経費該当性について問題とすべきは、私生活での車両利用と区別されているかどうかである。本件各車両は、いずれも原告の事務所ガレージ等で管理し、鍵も原告の事務所で保管しており、私生活で使用していないことは明らかである。
本件各車両は、■である原告が、私生活での利用とは完全に区別することができる形で業務時間中に使用する車両であるから、「事業所得を生ずべき業務の用に供される車両」(所得税法2条1項19号)とみることができる。業務との関連性について「直接必要」という点を過度に強調するのは相当ではない。被告は、減価償却資産について、必要経費と同様、「業務と直接的な関連性を有し、かつ、業務の遂行上必要な資産」に限定するが、それほど制限的な解釈は一般的ではない。
原告は、■を営むほか、個人としても不動産収入を得ており、■の代表者を務めるなどしている。本件各車両は、あらゆる場面で原告の事業全般をサポートするために保有し活用しているものである。本件各車両が■の業務にも関連するからといって、原告の業務と関連しないと判断することはできない。
イ 前回調査では、原告の保有車両の減価償却費が必要経費になることが承認された。前回調査と本件調査とで、車両の保有台数や使用状況が大きく変わるものではないので、前回調査で必要経費と認められたにもかかわらず、本件調査で必要経費と認められないというのは、著しく不合理である。
(3) 争点(3)(本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果)について
(被告の主張)
ア 所得税法157条1項の「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」について
所得税法157条1項の趣旨及び内容に鑑みれば、同項にいう「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解される。
イ 原告が■と締結した本件賃貸借契約は経済的合理性を欠くものであること
(ア) 原告が本件賃貸借契約に基づき取得した賃貸料(以下「本件賃貸料」という。)は、■が取得した転貸料に比して著しく低額であること
a 原告は、自らが第三者との間で直接賃貸借契約を締結して、■が得る程度の転貸料収入相当額を賃貸料として得ることが可能であったはずであるが、同族会社である■に本件不動産を一括して賃貸したことにより、■が得た転貸料収入(以下「■転貸料収入」という。)よりも低額な賃貸料(本件賃貸料)を得るにとどまっている。
本件各年分において原告が取得した本件賃貸料と■転貸料収入を比較すると、以下のとおりであり、これらを単純に比較しただけでも、原告が取得した本件賃貸料は■転貸料収入の60%にも満たず、著しく低額であったというべきである。
平成27年分 原告の本件賃貸料 1億8000万円
転貸料収入 3億2880万1797円
平成28年分 原告の本件賃貸料 1億4400万円
転貸料収入 2億4091万0676円
平成29年分 原告の本件賃貸料 9600万円
転貸料収入 1億6151万2328円
b なお、原告は、本件不動産の管理等の全てを■に任せていたため、原告が第三者に本件不動産の管理を委託した場合に支払う管理料及び同管理料以外の経費を■が負担している、すなわち、本件賃貸借契約によれば、■は、本件不動産に係る公租公課、水道光熱費、広告宣伝費、清掃費、保守費、修繕費、賃貸料及び雑費等(以下、これらを併せて「■負担経費」といい、管理料と併せて「管理料等」という。)を負担することとなっているが、■がこれらの管理料等を負担することを考慮したとしても、やはり原告が取得した本件賃貸料は■転貸料収入に比して著しく低額であるといわざるを得ない。
まず、■転貸料収入と原告が取得した本件賃貸料との差額をみると、
平成27年分の差額 1億4880万1797円
平成28年分の差額 9691万0676円
平成29年分の差額 6551万2328円
であり、上記各差額が■転貸料収入において占める割合は、
平成27年分の割合 45.25%
平成28年分の割合 40.22%
平成29年分の割合 40.56%
である。
転貸人である■が本件不動産を転貸するに当たり、特別な負担を負っており、又は、何らかの付加価値を加えているといえない限り、上記各差額は管理料等相当額にすぎないのであって、上記各差額が■転貸料収入において占める割合はいずれも40%を超えていることは、一般的に適正とされる管理料の割合が6.32%ないし6.37%程度であることからしても(後記エ(ア)d参照)、管理料等としては極めて高額であるといわざるを得ない。■は原告の同族会社であり、経済的実質は同一の取引主体とみることができるところ、本件賃貸料と■転貸料収入に著しい差額を生じさせた原因を管理料等の負担だけで説明することはできず、結局のところ、本来原告が収益すべき賃料を■に付け替えただけにすぎないとみざるを得ない。このような利益の付け替えに経済的合理性を見いだすことはできない。
(イ) 原告が算定した本件賃貸料には経済的合理性がなく、到底適正な価額とはいえないこと
a 原告は、■との間で、平成26年12月26日付け、平成27年12月26日付け及び平成28年12月26日付けで、それぞれ契約期間を翌年とする、本件各年分の本件賃貸借契約を締結した(前記前提事実(2)参照)。その際、原告は、本件賃貸借契約に係る契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)とともに、年間売上高や翌年分の収入見込み金額等を記載したものと解される「サブリース料再考について」と題する書面(以下「本件再考書面」という。乙19から21までの各最終頁)を作成した。そして、本件再考書面の「サブリース料/年間売上高 比率」欄(以下「本件比準表」という。)には、本件賃貸料の年間合計額が■転貸料収入の年間合計額に占める割合が記載されているところ、これに基づき、本件賃貸料の見直しがされた。
平成30年分の本件賃貸借契約に係る「サブリース料 再考について」と題する書面(乙41)の本件比準表をみると、本件賃貸料が■転貸料収入に占める割合は、平成24年分から平成30年分までの順に、53.8%、57.9%、65.7%、54.7%、59.5%、54.5%、55.3%とされており、平成26年分で60%を超えたことを除けば、全て60%未満の割合になるように本件賃貸料が見直されている。
このように、原告が算定した本件賃貸料は、■転貸料収入のおおむね60%未満となるように算定されており、そもそも極めて低額なものであった。
b 本件再考書面(乙19から21までの各最終頁)の「H24~26」欄の■転貸料収入は、平成24年分から平成26年分までの平均値等を記載しているわけではなく、平成25年分及び平成26年分の■転貸料収入を考慮することなく、単に平成24年分の■転貸料収入のみを用いている。
しかし、一般に不動産の賃貸料は、不動産の種類、構造、築年数等の諸事情を考慮して算定されるものであるところ、平成24年分の本件賃貸借契約における本件不動産の月額賃料2000万円は、■転貸料収入に比して著しく低額である点を措いても、上記諸事情を考慮した形跡、例えば、不動産の空室リスクについて何らかの検討をした形跡もなく、その算定根拠が不明であるから、およそ合理的な金額ということはできない。
したがって、平成24年分の本件賃貸借契約における本件不動産の月額賃料に合理性はなく、そのように合理性を欠く賃料を基に算定した、平成24年分の本件賃貸料の平成24年分の■転貸料収入に占める割合(以下「平成24年分割合」という。)を用いることに合理性はない。そして、本件賃貸料が■転貸料収入に占める割合を、平成24年分割合(53.8%)に近づけようとして、平成25年分以降の割合(57.9%、65.7%、54.7%、59.5%、54.5%、55.3%)を見直したのであれば、やはり、いずれも合理性はないといわざるを得ない。
また、平成27年分の本件再考文書(乙19の最終頁)の記載からすれば、平成27年分の■転貸料収入の見込額が平成24年分の■転貸料収入の74%に相当することから、本件賃貸料は、平成24年分から平成26年分までの本件賃貸料月額2000万円(「20M」)に、上記74%を乗じ、調整の上、平成27年分の本件賃貸料を算定したものと解される。そして、平成28年分及び平成29年分の本件再考文書(乙20及び21の各最終頁)の記載からすれば、同様にして、平成28年分及び平成29年分の本件賃貸料を算定したものと解される。
そうすると、平成27年分から平成29年分までの本件賃貸料は、いずれも平成24年分(から平成26年分まで)の本件賃貸料月額2000万円を基に算定されたものであると解されるところ、上記のとおり、そもそも平成24年分の本件賃貸料に合理性がない以上、これを基に算定した平成27年分から平成29年分までの本件賃貸料についても、やはり合理性はないというべきである。
c 以上のとおり、原告が算定した本件賃貸料は、■転貸料収入と比較して極めて低額であって経済的合理性がないことはもとより、本件各年分の本件賃貸料の算定の基礎とされている平成24年分の本件賃貸料は、契約期間中に対象不動産につき空室が生じた場合の負担(空室リスク)、賃料の滞納が生じた場合の負担(滞納リスク。以下、これらを併せて「空室リスク等」という。)の諸条件を踏まえて決められたものではなく、そもそも合理性がないから、そのように合理性を欠く平成24年分の本件賃貸料を基に算定された平成27年分から平成29年分までの本件賃貸料も合理性がない。
ウ 本件賃貸借契約は、■の設立目的及び契約内容等から実質的に管理委託方式と同視することができること
■の設立目的は、不動産の賃貸借管理業務等であり、不動産賃貸借そのものを目的としていない。
仮に本件賃貸借契約が純然たる賃貸借契約(転貸方式)なのであれば、賃借人(転貸人)である■は、原則として、当該不動産の用法に従ってこれを自由に使用収益することができるはずであるが(民法616条、594条1項)、本件賃貸借契約においては、■の遵守事項が詳細に定められており、■において自由に使用収益することはもはや不可能といい得る。
また、一般的な転貸方式による契約を締結する場合、空室や賃料の滞納が生じることにより、賃借人が大きな損失を被ることになりかねないから、空室リスク等を十分に検討して賃貸料が定められるものと解される。しかし、原告及び■は、本件賃貸借契約を締結するに当たり、上記のような空室リスク等について具体的に検討することなく、単に平成24年分の■転貸料収入のみを基準として本件賃貸料を算定している。また、■においても、空室リスク等が実現した場合に備え、過去の実績に基づいて社内留保をするなどの会計処理をしたなどの事情もない。このような契約方式は、もはや一般的な転貸方式による契約とは大きく異なるといえる。
そして、本件賃貸借契約のような転貸方式では、賃借人が得る転貸料収入と賃借人が賃貸人に支払う賃貸料の差額には、賃借人が行う賃借物の維持管理費用が含まれており、その限度で管理委託方式における管理手数料と経済的実質が同一であるということができる。
このように、本件賃貸借契約は、純粋な転貸方式とは大きく異なり、その実質は、管理委託方式に非常に近いものである。
本件において、原告は、■の発行済株式の全てを有しており、実質的にみると、原告と■は同一の経済主体であると評価することができる。本件賃貸借契約は、原告が自身の利益だけでなく■の利益も併せて考慮し、双方の経済的利益を一体として考慮して締結されたものと考えられる以上、本件賃貸借契約によってもたらされる原告の収入と■の収入についても一体として評価することができ、■の収入は原告の収入として評価することができる。以上を前提とすると、本件賃貸借契約は、形式的には、転貸方式が採用されているが、実質的には、原告が管理料相当額を負担しているのであって、管理委託方式における管理料を支払っていたものと評価すべきである。
前記イのとおり、本件賃貸料には経済的合理性がないところ、本件賃貸借契約は、形式的には転貸方式であるが、経済的合理性等という観点から実質的にみると、■が本件不動産の管理業務を受託し、その対価とした管理料、すなわち、■転貸料収入と本件賃貸料及び■負担経費との差額を受領する(これを原告からみれば、管理料相当額を■に支払う)管理委託方式の契約と同視することができる。
原告はもともと複数の不動産を第三者に賃貸し、同族会社である■はそれらの不動産の管理業務を行っていたところ、空室リスク等を考慮したものでない限り、あえて、改めて■との間で、目的物たる不動産を■が管理する業務を行うことを内容とするマスターリース契約を締結しなければならない必要性は認め難い。また、一般的なマスターリース契約においては、当事者双方が様々なリスクについて考慮し、経営上生じる様々な費用をどちらが負担するかを総合考慮した適正な賃貸料を計算して定める必要があるが、本件賃貸借契約を締結するに当たって、原告と■との間でこのような検討を行った上で適正な賃貸料が定められた形跡はない。さらに、マスターリース契約は、一棟の建物ごとあるいは一箇所の駐車場ごとにそれぞれ別々に定められるのが通常であるが、本件賃貸借契約書をみると、転貸借の目的として複数のマンション及び複数の駐車場(本件不動産)を一緒くたにして一通の契約書に掲げられている。マスターリース標準契約書においては、転貸借の目的物である不動産を特定した上で、賃借人である不動産管理会社等による管理の範囲を特定するため、転貸借の目的物である不動産について面積等の様々な情報が記載されるが、本件賃貸借契約書をみると、■による管理業務の対象である本件不動産に係る情報が記載されていないに等しく、■による本件不動産の管理の範囲が明らかではない。そして、本件賃貸借契約の当事者である■の業務を行う者は、原告、原告の配偶者、原告の娘及びその配偶者であって、大手不動産会社等とは異なる家族経営の会社であり、本件不動産の管理業務ないし転貸業務を、形式的には■が行うことになったとはいえ、実質的には、もともと原告が賃貸業務を行っていたときと大きく異なるものではない。一方で、本件賃貸借契約書で定められている■が負う管理義務としての建物維持管理業務の具体的な内容は、賃貸住宅管理委託契約書ないし管理委託標準契約書が定める管理業務の内容と大きな違いはない。
以上によれば、本件賃貸借契約は、実質的には管理委託方式と同視することができる。
エ 原告の本件賃貸料に基づいて算出された所得税額は、適正な賃貸料(以下「本件適正賃貸料」という。)を基礎として算出した所得税額と比較して、その負担を不当に減少させる結果となると認められること
(ア) 本件適正賃貸料の算定方法等について
a 本件適正賃貸料を求める方法には種々の方法があるものと考えられるところ、不動産賃貸料は、不動産の種類、構造、築年数等によって大きく異なり得るものであるから、本件不動産に係る本件適正賃貸料と他の同業者の不動産賃貸料とを単純に比較して算定することは極めて困難であり、仮にそれが可能であったとしても、貸し付けている不動産が同一のものでないから、直ちにその数値の合理性、正確性が担保されるものではない。
原告は、本件不動産を■に一括で賃貸して■から本件賃貸料を受け取り、■は、本件不動産を第三者に転貸して転借人である第三者から■転貸料収入を受け取っているが、■が原告の同族会社であり、その経済的実質は同一であると評価することができることからすれば、実質的には、■転貸料収入は原告の収入であると評価することができる。そうすると、転貸人である■が本件不動産を転貸するに当たり、特別な負担を負っており、又は、何らかの付加価値を加えているとはいえない以上、本件賃貸料と■転貸料収入の差額は、管理料等にすぎないと評価することができる。
また、本件不動産の管理や修繕等は、本件賃貸借契約上、■に委託されているから(本件賃貸借契約書の第10条及び第11条。乙19及び乙20の各9枚目、乙21の8枚目)、■転貸料収入の金額から、■負担経費及び本件不動産に係る適正な管理料の額(原告が本件不動産の管理のみを同族会社でない不動産管理会社に委託した場合に通常支払うべき管理料の額。以下、当該管理料を「本件適正管理料」といい、■負担経費と併せて「本件適正管理料等」ということがある。)を差し引くことにより、原告の本件適正賃貸料を算定することができる。
なお、本件賃貸借契約のような転貸方式では、通常、賃借人が賃借物に係る維持管理業務を行う旨が定められており、その賃貸料も賃借人において賃借物に係る維持管理業務を行うことを前提に定められている。そのため、賃借人が得る転貸料収入と賃借人が賃貸人に支払う賃貸料の差額には、賃借人が行う賃借物の維持管理費用が含まれており、その限度で管理委託方式における管理委託料と経済的実質が同一であるということができる。
また、本件適正賃貸料を算定するに当たり、原告所有の賃貸用不動産の全てについて、転貸料収入に対する空室リスク等を一棟ないし一室ずつ算定することにより、原告が不動産管理会社から適正に受領すべき賃貸料を算定するという方法も考えられるが、このような方法によって、本件適正賃貸料を算定することは困難であり、本件適正賃貸料を算定するためには、マスターリース契約を行っている同業者と原告とを単純に直接対比するという方法以外の方法によらざるを得ない。
本件適正賃貸料を算定する主な方法としては、①転貸方式を採用する事業者の賃貸料額を基に算定する方法、②本件不動産の諸条件を、サブリース業を事業としている複数の不動産管理会社等に提示し、当該不動産管理会社等による算定額を基に算定する方法、③管理委託方式を基に算定する方法(処分行政庁が採用した方法)が考えられる。
原告は、本件不動産に係る不動産賃貸業を営むに当たり、転貸方式を採用しているため、上記①又は②の方法により本件適正賃貸料を求めることが最も直截な方法である。しかし、上記①の方法は、本件適正賃貸料を、転貸方式を採用している他の事業者の不動産賃貸料と単純に比較して算定することは極めて困難であり、仮にそれが可能であるとしても、対象不動産が同一ではないから、直ちにその数値の合理性、正確性が担保されるものではない。また、上記②の方法は、本件適正賃貸料の算定の依頼に応じる不動産管理会社等を見付け出すこと自体が非常に困難である上、仮に当該不動産管理会社等が何らかの方法で適正な賃貸料を算定したとしても、直ちにその数値の合理性、正確性が担保されるものではない。したがって、上記①又は②の方法により本件適正賃貸料を求めることに合理性は認められない。一方、本件賃貸借契約のような転貸方式では、賃借人が得る転貸料収入と賃借人が賃貸人に支払う賃貸料の差額には、賃借人が行う賃借物の維持管理費用が含まれており、その限度で管理委託方式における管理手数料と経済的実質が同一であるということができること、同業者の抽出作業を機械的かつ無作為に行うことができることからすれば、上記③の方法が、上記①又は②のような直接的に本件適正賃貸料を算定する方法に比べて、その算定した額に合理性が認められ、これを採用する必要性もあるというべきである。そして、上記③の方法でも、本件適正賃貸料の算定に当たっては、後記bのとおり本件各年分の■転貸料収入すなわち■が現実に受領した転貸料収入の実額を基にしており、その金額は実際の空室状況が反映されたものであり、また、■が滞納等のリスクを負担することとなっていたとしても、当該リスクに係る損失は、本件適正賃貸料の算定に当たり控除する■負担経費に計上されているから、上記③の方法を用いて本件適正賃貸料を算定する場合でも、■が被る空室リスク等は、既に考慮されたものというべきである。
b 本件適正管理料の算定方法について
本件適正管理料は、原告が同族関係にない不動産管理会社に対して賃貸物件の管理を委託した場合に支払うべき管理料であり、当該管理料と賃貸料収入金額との間には一定の相関関係ないし比例関係が存在すると認められるから、本件適正管理料を求める方法について、処分行政庁は、本件各年分において、原告と一定の類似性を有する同業者(以下「比準同業者」という。)を抽出し、当該比準同業者の賃貸料収入金額のうちの経常収入金額(家賃、共益費等の経常的収入をいい、権利金、礼金、保証金償却相当額、更新料、解約損害金等の臨時的収入を除いたもの)に占める支払管理料の金額の割合の平均値(以下「本件適正管理料割合」という。)を求め、本件各年分の■転貸料収入の金額のうちの経常収入金額相当額(以下「■転貸料経常収入」という。)に本件適正管理料割合を乗じて、本件適正管理料を算出した。
その上で、処分行政庁は、■転貸料収入から本件適正管理料及び■負担経費相当額をそれぞれ控除した金額を本件適正賃貸料として算出した。
なお、本件各年分の■転貸料経常収入の内訳は、それぞれ別表4の順号①及び②のとおりであり、本件各年分の■転貸料収入の内訳は、それぞれ別表4の順号③から⑤までのとおりである。また、本件各年分の■負担経費の内訳は、それぞれ別表4の順号⑥から⑱までのとおりである。
c 比準同業者を抽出する基準等
比準同業者の抽出に当たり、本件各年分において下記アからクまでの抽出基準を設定し、当該各基準を全て満たす者を抽出した。
ア 原告の納税地を所轄する東住吉税務署長を始めとする大阪市内の納税地を所轄する税務署長及び大阪市に隣接する納税地を所轄する税務署長に対し、確定申告書を提出していること
イ 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること
ウ 集合住宅及び駐車場の両方を賃貸する不動産賃貸業を営む者であること
エ 不動産賃貸について、転貸方式による貸付けを行っていないこと
オ 海外に存する不動産を貸し付けていないこと
カ 本件各年分の全ての年分において、不動産所得に係る経常収入金額(家賃、共益費等の経常的収入をいい、権利金、礼金、保証金償却相当額、更新料、解約損害金等の臨時的収入を除いたもの)が、8027万9164円以上6億5065万3762円以下であること
キ 上記ウに係る賃貸不動産の全部の管理業務を同族関係にない不動産管理会社(法人税法2条10号に規定する同族会社に該当しないもの)に委託しており、その管理委託の内容が、主として賃貸借契約の締結及び更新、賃借人の募集並びに賃料等の集金であること
ク 管理委託料の支払がされていること
ケ 課税に係る不服申立て又は訴訟が係属中でないこと
以上の経緯で抽出された比準同業者は、上記抽出基準の下で機械的に抽出されたものであり、業種、業態及び事業規模等において原告と類似性を有するから合理的である。
d 比準同業者に係る本件適正管理料割合及び本件適正管理料
前記cの条件で抽出された比準同業者は、別表6のとおり、全部で16件であり、当該件数は、それぞれの事業者間に通常存在する程度の偏差をその平均値によって捨象される程度に合理的な件数であるといえる。また、前記cのとおり、比準同業者は、合理的な抽出基準の下で機械的に抽出された同業者であることからすれば、このような比準同業者を基に算定した本件適正管理料割合及び本件適正管理料は、いずれも合理性を有するものといえる。
比準同業者を基に算定した本件適正管理料割合は、別表6のとおり、平成27年分が6.32%、平成28年分が6.37%、平成29年分が6.33%である。また、本件適正管理料割合を用いて計算された本件各年分の本件適正管理料は、別表4の順号⑲の各「本件適正管理料」欄のとおり、平成27年分が2056万0659円、平成28年分が1516万7077円、平成29年分が1016万3343円である。
(イ) 本件適正賃貸料及び原告の不動産所得に加算すべき金額等
前記(ア)dの本件適正管理料に基づいて算定した原告の本件各年分の本件適正賃貸料は、別表4の順号⑳の各「本件適正賃貸料」欄のとおり、平成27年分が2億5349万7634円、平成28年分が1億8814万2094円、平成29年分が1億2720万1255円である。
本件適正賃貸料の金額と本件賃貸料の金額との差額は、別表4の順号㉑の各「本件適正賃貸料と本件賃貸料との差額」欄のとおり、平成27年分が7349万7634円、平成28年分が4414万2094円、平成29年分が3120万1255円である。
本件賃貸料を本件適正賃貸料に引き直して算定したときの原告の不動産所得の金額は、別表7の本件各年分の「不動産所得の金額」の各「引き直した後の額」欄のとおり、平成27年分が1億1461万8939円、平成28年分が5570万6547円、平成29年分が3405万9386円である。
(ウ) 引き直し計算による総所得金額に係る所得税額と原告の修正申告における総所得金額に係る所得税額
本件賃貸料を本件適正賃貸料に引き直して算定した場合の総所得金額に係る所得税額(以下「引き直した税額」という。)と本件賃貸料を前提とした原告の修正申告における総所得金額に係る所得税額(以下「修正申告の税額」という。)との差額は、それぞれ以下のとおりである(別表7の本件各年分の各「総所得金額に係る税額」欄参照)。
a 平成27年分
引き直した税額 4124万9800円
修正申告の税額 873万4400円
差額 3251万5400円
b 平成28年分
引き直した税額 1617万2200円
修正申告の税額 14万7900円
差額 1602万4300円
c 平成29年分
引き直した税額 575万6800円
修正申告の税額 0円
差額 575万6800円
このように、原告は、本件賃貸料に基づいて本件各年分における不動産所得を算定した結果、本件各年分の3年間で5429万6500円(=3251万5400円+1602万4300円+575万6800円)もの多額な所得税の額を不当に減少させているのである。
以上によれば、原告の同族会社である■の行為又は計算の結果、原告の所得税の「負担を不当に減少させ」たと認められる。
なお、原告は、■から原告の給与所得に該当する役員報酬を得ており、その役員報酬の原資は■転貸料収入であることからすれば、この点においても原告が■に所得を付け替えることにより、給与所得控除の額の分だけ自己の総所得金額を少額に計算しているということもできる。このような所得税の不当な減少額は、当該給与所得控除の額に対応する分だけ少額に算定されていたといえる。
オ 原告の主張について
原告が指摘する本件賃貸借契約のメリットは、サブリースの一般論を述べるものにすぎず、原告と■との関係及び本件賃貸借契約に当てはまるものではない。
原告は、本件賃貸借契約を締結することで申告・納税の簡素化というメリットが得られるというが、これは、管理委託方式か転貸方式かによる差異として生じるものではない。
本来、複数の棟の集合住宅や駐車場等を一括して転貸借の目的物にするのに経済的合理性を認めるためには、まずもってそれぞれの物件で適正な賃貸料の検討を行っていることが前提となるのであり、このような検討を行わないまま、当該契約の経済的合理性を論じることは失当であるところ、本件賃貸借契約については、その前提となる個々の不動産の適正な賃貸料を検討した形跡はないから、経済的合理性が認められる余地はない。むしろ、このような経済的合理性を欠いた内容の本件賃貸借契約を締結することができたのは、その相手が原告の同族会社である■だからこそと考えられる。
原告は、デッドクロス現象に対処する必要があったと主張するが、原告は、平成10年頃から逐次賃貸用集合住宅を新築等して取得するようになったというのであり、それ以降の減価償却の方法は旧定額法又は定額法であり、償却費の額は毎年同額であることから、年の経過に従って減価償却費の額が減少することはなく、デッドクロス現象に対処しなければならないという状況にはなかった。
原告が顧問税理士に相談し、アドバイスを受けていたというが、このことは、経済的合理性を基礎づけるものではない。
前回調査結果通知は、本件賃貸借契約の合理性を基礎づけるものではない。
(原告の主張)
ア 本件所得税等各更正処分の問題点
(ア) 所得税法157条1項の解釈運用について
所得税法157条1項は、手続法は実体的権利を守るために存在する、という原則に対する例外規定であり、制限的・抑制的に解釈運用されなければならない。
(イ) 転貸方式(サブリース)と管理委託方式(一般管理)との違いについて
a 本件所得税等各更正処分は、管理委託方式と転貸方式とに分類し、転貸方式においても管理業務の委託が含まれることが通常であるとし、管理委託方式も転貸方式も、経済的実質は同一のものと考えられるとする。
しかし、サブリース(転貸方式)におけるマスターリース契約(原賃貸借契約)において、賃貸人(オーナー)が賃借人(サブリース会社)に対し管理費を支払うという概念は存在せず、転貸方式の中に管理業務の委託が含まれるというのは、技巧的に過ぎ、論理的に破綻している。管理委託方式と転貸方式との間に共通項を見出そうとすること自体が誤りであり、上記のような考え方は、現在広く行われているサブリースの理解を著しく欠くものである。
b サブリースとは、賃貸経営の一つの形態であり、オーナーは賃貸物件を一括で貸し出し、不動産会社(サブリース会社)は、それを入居者に転貸する契約である。オーナーと賃借人(サブリース会社)との間でマスターリース契約が成立し、オーナーは賃借人(サブリース会社)から賃料を受け取り、それを売上げとする仕組みである。
オーナーからすれば、サブリース会社を介在させる関係で、入居者から受け取る賃料より売上げは少なくなるというデメリットがあるが、空室リスク等が避けられて収入が安定し、滞納金の回収の手間と時間を省くことができる。また、オーナーと入居者との間の契約関係が遮断されることから、オーナーにとっては賃貸物件や滞納賃料、敷金返還を巡る訴訟のリスクから解放されるメリットもある。さらに、オーナーからすれば、売上げが平準化して安定する結果、税務申告が簡易化されるなどのメリットがある。
一方、サブリース会社からすれば、期中に退去事象が生じるなど空室が複数生じたために想定していた賃料収入が得られなかったとしても、オーナーに対して契約で定められた賃料の支払を継続しなければならないことや、退去後の原状回復費用の負担、次の入居者募集のための広告費の負担等が生じ、収支が一時的に大きなマイナスになるリスクがあるが、その反面、オーナーに支払う賃料は、入居者から受け取る想定賃料総額から相当程度(通常15%~25%程度)減額して設定するなど、相当低額に設定され、入居者を上手に確保し、退去者を抑えることができるなどすれば、多くの利益を得ることができるというメリットがある。
c このようなサブリースの仕組みに対し、管理委託方式では、管理委託を受ける会社は、入居者の賃料の受取窓口となり、支払われた賃料から5%~9%程度の委託料を受け取り、残りをオーナーに支払うだけであり、入居者が退去して受取賃料が減っても、何のリスクも負担しない。
オーナー側からみれば、サブリース(転貸方式)は、収益が減少するが、収益が安定し、契約管理コストが著しく軽減される方式であるのに対し、管理委託方式は、収益を最大化することができることもあれば、収益が大きく減少する危険があるという変動幅の大きな方式であるといえる。
サブリース(転貸方式)と管理委託方式は、それぞれ経済的効果も目的も異にするものであり、無理やり共通項を見出しても意味がなく、軽々に経済的実質は同一のものと考えられるということはできない。
本件所得税等各更正処分は、サブリースの仕組みを全く理解することなく、サブリース会社の受け取る賃料差益が大きいことを理由に課税処分をすることができるという間違った思い込みで結論を出したものであり、違法である。
(ウ) 同業者の解釈の誤りについて
本件所得税等各更正処分は、管理委託方式の同業者の管理料の平均値を6.33%などと算出し、オーナーである原告が受け取るべき適正賃貸料を算出している。
しかし、上記の同業者率が信用に足りない上、サブリースについては管理費の同業者率を観念することができない。管理委託方式と転貸方式とは、異なる契約形式であるから、仮に同業者率を算出するのであれば、サブリース事業者について十分な調査を行う必要があるが、本件調査担当者は、サブリース事業者について調査することを拒絶し、処分行政庁(東住吉税務署長)は、そのような調査を行わないまま、本件所得税等各更正処分をした。
処分行政庁は、同業者の解釈を誤っている。
(エ) 前回調査では、サブリースの契約形態を前提として不動産所得を計上したところ、そのまま承認された。前回調査と本件調査とで、原告所有の不動産の賃貸借契約の契約形態(サブリース)は全く同じであるから、前回調査ではそのまま承認された不動産所得が、本件調査では改められることになるというのは著しく不合理である。
加えていえば、本件賃貸借契約を否認し、本件所得税等各更正処分のとおり更正することになれば、原告の不動産所得の金額が増加する半面、■の売上金額は減少することになるので、■の納税額を減額変更する必要が生じることとなる。なお、原告分及び■分を合算して再計算(差引計算)すると、両者の納税額の総額は、多少増額する見込みではあるが、本件賃貸借契約を無理に否認してまでの意味があると理解することはできない。
イ 本件賃貸借契約は、経済的合理性を欠くものではないこと
(ア) 最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決・民集76巻4号480頁は、法人税法132条1項に関するものであるが、同項は、所得税法157条1項と同趣旨の規定であるので、解釈は共通すると解される。そうすると、本件に当てはめれば、本件賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かは、その目的や契約に至った諸事情を総合的に考慮して判断すべきこととなる。
(イ) サブリース(転貸方式)の目的の合理性
a 一般論
一般論としてのサブリースに係る契約を締結する目的は、前記ア(イ)bのとおりである。
b 原告にとってのサブリースの合理性(原告が平成23年当時に多数の物件を所有していたこと)
原告が■との間でサブリースに係る契約を締結するようになったのは平成23年であるところ、原告が■との間で、本件賃貸借契約(一括サブリースに係る契約)に切り換えたのは、平成24年7月である。その当時、原告は、一棟マンション24棟(居室695室)、店舗19戸、駐車場167台分等(他に区分マンション等)の多数の不動産を所有していた。原告は、単なる賃貸マンション等のオーナーではなく、多数の不動産を保有し、同族会社■(■)で賃貸管理やメンテナンスを行い、多角的な賃貸経営を行っていた実業家である。
原告の所有不動産は戸数が非常に多く、これを物件ごとに管理委託方式で管理業者に任せることになれば、管理業者のやり方に応じて個別に対応することとなり、その作業は非常に煩雑となる。また、空室リスク等も避けられず、転貸借関係に係る訴訟に巻き込まれた場合の負担(以下「訴訟リスク」という。)も見過ごせないことから、これらのリスクを回避するため、管理委託方式ではなくサブリース(転貸方式)を選択することは、原告にとって合理的である。さらに、サブリースを選択することで、原告の確定申告時の売上集計が簡素化され、申告業務と納税準備がスムーズに行えることとなり、このことは原告にとって大きなメリットである。
なお、原告が平成24年7月以降に■との間で一括サブリースに係る契約(本件賃貸借契約)を締結する前は、原告は、原告の所有する物件ごとに、原告が■との間でサブリースに係る契約を締結し、更に■が外部管理業者と一般管理又はサブリースに係る契約を締結して管理したり、原告が直接管理業者との間で管理委託契約を締結したり、原告が直接賃借人に賃貸したり、原告が直接サブリース業者との間でサブリースに係る契約をしたりしていた。
したがって、原告がサブリースを選択することは、目的において強い合理性が認められ、原告がサブリースの形態を利用することは極めて合理的である。
c 原告が■との間で本件賃貸借契約(一括サブリースに係る契約)を締結することの合理性
原告が■との間で本件賃貸借契約(一括サブリースに係る契約)を締結したことについては、以下の事情があり、合理性が認められる。
(a) 用途の異なる物件をサブリースの対象とする必要があること
原告の所有物件全てを対象として、サブリース会社1社との間で一括して契約することができれば、サブリースを選択する原告のメリットを最大化できる。ところが、通常のサブリース会社では、住居や店舗、駐車場といった用途の異なる物件を対象とせず、また、同じ用途のものでも別棟の複数物件を一括してサブリースの対象とすることにも消極的である。そうすると、原告の目的を実現するためには、同族会社の■との間で、全ての物件を一括してサブリースの対象とすることが必要になる。
なお、■は、サブリースした物件について、自主管理することもあるが(駐車場の一部や区分マンション等)、更にサブリース会社や管理委託会社と契約するなどして管理することもある。
(b) 築年数10年を目途に物件の売却を計画的に進める予定にしていたこと
原告は、以前から、デッドクロス現象(例えば、銀行からの借入金を利用して賃貸マンションを新築又は購入した場合、借入金の利息の支払は必要経費になるが、元金の返済は必要経費にならないところ、築8年から12年まで頃になると、当該マンションの減価償却費が少なくなって必要経費がなくなり、利益が計上され、所得税等を納付することが必要になる一方、元金の返済は継続するため、実際には現金が出ていくが、帳簿上は利益が計上されてこれに課税されてしまうという現象をデッドクロス現象といい、減価償却費の節税効果が失われる時期(転換点)をデッドクロスという。)への対処のため、新築後10年程度経過した物件は計画的に売却していくことを考えていた。
実際、原告は、平成24年から平成29年にかけて、24棟の所有マンションのうち13棟を売却しており、計画的に物件売却や資産の入替えを行っていた。
このような過渡期において、原告が自ら物件の賃貸管理等をしながら、同時に売却処分を行うのは、原告に掛かる負担が大きくなりすぎる。そこで、物件管理は、同族会社の■(実際には■の担当社員の■)を通じて行うこととし、原告は、売却処分のための物件の選定、仲介業者との協議や売却価額の設定、購入希望者への対応等に時間と労力を割くことにした。
上記の役割分担を明確にする意味で、原告と■との間で一括サブリースに係る契約(本件賃貸借契約)を締結することは合理的であった。
原告は、自己の所有する収益マンションの数が多くなり、管理の煩雑さを軽減することや、デッドクロスを迎える物件を計画的に処分して原告の資産の入替えを図り、同時に収益マンションの経営主体を■に移していったのであり、いわば同族会社を含めた組織再編を行ったのである。
(c) 本件賃貸借契約(一括サブリース契約)に切り換えた経緯
i 原告は、当時、不動産の賃貸経営の主体を原告個人から■に移行させようと考えていたこと
原告は、平成24年から平成29年にかけて24棟の所有マンションのうち13棟を売却し(年2棟以上)、計画的に物件売却や資産の入替えをしていたところ、これは、前記(b)のデッドクロス現象への対処だけでなく、今後の不動産経営の主体を原告個人から法人である■に移行させる戦略と結び付くものであった。
すなわち、原告は、平成23年当時、多数の有料収益物件を保有して経営的にも安定し、十分な蓄えを有するに至ったところ、今後の事業の展開を考えたときに、それまでと同様に個人資産を増大させる方針を継続するか、個人と法人の事業を切り分けて不動産事業を原告個人から■に移行させていくかの分岐点に差し掛かっていると感じていた。そして、原告は、個人として事業拡大を図るのは一旦やめて、不動産事業は法人である■で行うこととし、原告個人としては■と規模を抑えた資産運用にとどめる方針にしようと考えたのである。
原告は、軌道に乗った個人事業を法人化して経営の合理化を図っていくことは、本来の株式会社制度の趣旨にかなうものであり、不動産収益事業を■に移行させようと考えた。このような平成23年当時の原告の戦略は、至極合理的な発想に基づくものである。
また、当時還暦を迎えていた原告が将来的な事業承継等も視野に入れて、収益事業を法人に移行させるのは賢明な判断であり、組織再編と等価的な戦略判断であるといえる。
ii 原告と■の所有物件の推移
実際、平成23年以降の新規物件購入は、ほとんど全てを■で行い、原告個人の所有物件は、順次、第三者に売却したり、■に譲渡したりすることを進めていった。
iii 本件賃貸借契約(一括サブリース)は■に不動産事業を移行させる際の過渡的な形態であったこと
原告は、前記iのとおり、平成23年頃、不動産事業を原告個人から■に移行させることを計画し、順次これを進めていったが、原告の所有物件は30件(棟)以上あったため、これを一挙に■に移転することはできなかった。物件それぞれに銀行の担保が設定されており、■がこれを購入するとしても、銀行の融資承認を得る必要があったためであった。
そこで、原告は、過渡的な対応策として、所有と経営を分離させ、所有は原告個人、経営は■とすることとし、その手段として選択したのが一括サブリースという本件賃貸借契約の形態であった。原告からすれば、不動産事業を原告個人から切り分け、■に委託したということになる。
d 本件賃貸借契約の賃貸料の算定について
契約形態としてサブリースを選択するとして、■が原告に対して支払う賃貸料をどういう基準で算定するかは様々な考え方があり得る。原告としては、不動産事業の主体を■に移行させることが目的であったため、自らが受け取る賃料を多く受け取ることは考えていなかった。一方、一定の基準は必要であろうと漠然とは考えていたため、顧問税理士と協議して、本件賃貸借契約の賃貸料の算定の基準として、次のようなものを考えるに至った。すなわち、①本件賃貸借契約の賃貸料は、原告個人が不動産を取得する際に受けた銀行からの借入れに係る約定弁済額、火災保険料、固定資産税等の必要資金を下回らない金額とすること、②■の対象物件の賃料収入と原告に支払う賃借料の差額により、■の事業運営と経費が賄えること、③②について、本件賃貸借契約の契約期間中に対象物件の売却があったとしても、本件賃貸借契約の賃料は減額しないため、売却予定物件の賃料収入を除外しても、■の事業運営に支障が生じないようにすることという基準である。ここで、上記③のとおり、対象物件が売却されても賃料が変動しないのであるから、■は、空室リスク等のみならず、売却物件の室料全てを失うリスクを負うことになるし、また、■は、一括サブリースを引き受けることで、賃貸物件の価値が失われないように維持管理する責務を負うこととなる。
原告は、平成24年7月以降の一括サブリースに係る賃貸料について、上記基準を参考にして、①前年(平成23年)の原告の必要資金(土地購入や建物新築の際の銀行からの借入れに係る約定弁済額、物件保全のための保険料(火災保険料、施設賠償責任保険料)及び固定資産税の合計額)の年額は、約2億1550万円であったので、これを上回る金額として、月額1800万円(年額2億1600万円)から月額2000万円(年額2億4000万円)までの範囲で検討し、月額2000万円に設定することとし、②サブリースの対象物件の前年(平成23年)の賃料収入は約4億3250万円であったので、■が原告に支払う賃借料(年額2億4000万円)との差額は、約1億9250万円となるところ、この金額であれば、■の経費を賄うのに十分であると考えられ、③平成24年以降に売却を予定していた二つの物件の年額賃料は、約3640万円であったが、これを差し引いても、■の事業運営や経費の支払に支障は生じないと判断し、平成24年7月以降の本件賃貸借契約の賃貸料を月額2000万円に設定した。
e 税理士等と相談するなど手順を尽くして慎重に対応してきたこと
原告は、前記のとおり、多数の物件を所有していたことから、空室リスク等や訴訟リスクを回避し、税務申告への対応等を考え、同族会社の■との間で一括サブリース契約を選択した。また、デッドクロス現象への対処として物件の売却を計画的に進めるためにも■との間で一括サブリース契約を締結して役割分担を明確化しようと考えた。これは、原告が独自に判断したものではなく、平成23年当時の担当税理士(顧問税理士)に相談し、そのアドバイスを受けて行ったものであり、プロである税理士に相談し、そのアドバイスを受けるという手順を尽くした。原告は、上記税理士のアドバイスにより、全物件を一括して■との間でサブリース契約を締結することとし、本件賃貸借契約を締結したのである。
また、原告は、前回調査において、調査担当者に対し、本件賃貸借契約を締結した事情や目的を説明し、その上で是認通知である前回調査結果通知を受けた。
以上のとおり、原告は、手順を尽くして慎重に判断し、税務署にも理解を得たものと考えて、本件賃貸借契約を継続してきたのであり、このことは、本件賃貸借契約の合理性を基礎づける事情として重要である。
(4) 争点(4)(本件各処分の信義則違反の違法性の有無(前回調査結果通知と本件各更正処分との関係))について
(原告の主張)
前回調査において、原告は、平成23年分及び平成24年分の所得税、平成25年分の所得税等並びに平成23年課税期間から平成25年課税期間までの消費税等に関し、接待交際費及び車両の減価償却費を必要経費とし、本件賃貸借契約のサブリースの契約形態を前提として不動産所得の金額を計上したところ、そのまま承認され、その結果、更正決定等をすべきと認められない旨の前回調査結果通知を受けた。このような前回調査結果通知は、処分行政庁の公的見解の表示といえる。
原告は、上記公的見解の表示を信頼し、その後も、同じ方法で、接待交際費及び車両の減価償却費を必要経費とするとともに不動産所得の金額を計上してきた。
納税者である原告は、上記公的見解の表示に反する課税処分により経済的不利益を受けた。原告が上記公的見解の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて、原告の責に帰すべき事由はない。
したがって、本件各更正処分は、信義則に違反し、取り消されなければならない。
(被告の主張)
更正決定等をすべきと認められない旨の通知書は、通則法74条の11第1項に基づき納税者に交付されるものではあるが、その意味するところは、当該通知書を交付するときまでに調査をした結果、当該調査対象年分の申告に対して更正決定等の処分をすべきと認められない旨の見解を表明するものにとどまり、当然のことながら、税務署長が、納税者の今後の申告に対して同様の措置を保証するものではない。
そうすると、このような前回調査結果通知の内容から、平成23年分及び平成24年分の所得税、平成25年分の所得税等並びに平成23年課税期間から平成25年課税期間までの消費税等について、更正決定等をすべきと認められないという点について信頼が生じるとしても、その後の原告の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の申告の内容についても、前回調査結果通知の対象年分と同様の措置が執られることが明らかにされているとまでは読み取ることはできない。また、計算の基礎となった会計処理ないし税務処理の点についてまで、その正確性や適法性が保証されたと読み取ることもできないのであるから、これらの点について、およそ税務署長等の責任ある立場にある者の公的見解が示されたということはできない。
したがって、本件各処分は、処分行政庁が表示した公的見解に反するものではなく、信義則に違反するような事情は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件接待交際費の必要経費該当性の有無及び本件交際費の課税仕入れ該当性の有無)について
(1) 必要経費の意義について
ア 所得税法37条1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額(いわゆる個別対応の必要経費)及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額(いわゆる一般対応の必要経費)とする旨規定する。また、上記の別段の定めとして、同法45条があるところ、同条1項柱書き及び同項1号は、家事上の経費(いわゆる家事費)及びこれに関連する経費(いわゆる家事関連費)で政令で定めるものの額は、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定し、所得税法施行令96条は、上記の政令で定める経費は、家事関連費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費(1号)及び青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事関連費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費(2号)以外の経費とする旨規定する。
イ 所得税法は、不動産所得の金額の計算上必要経費の控除を認め(同法26条2項)、事業所得の金額の計算上必要経費の控除を認める(同法27条2項)などし、各所得ごとに必要経費の控除を認めている。また、同法が必要経費の控除を認めているのは、所得を得るための支出という投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるためであると解される。
そうすると、所得税法は、各所得ごとに必要経費の控除を認めているので、必要経費に当たるか否かは、当該所得の必要経費に当たるかという観点から判断する必要がある。また、課税すべきではない必要経費に係る部分と、そうではない所得の消費支出等に係る部分との区別を明確に行う必要がある。そして、前記アの家事費及び家事関連費に係る規定をみても、消費支出である家事費を必要経費に算入することを認めず、家事関連費については厳格な要件を満たした場合にのみ必要経費に算入することを認めることとしている。
ウ 以上のような所得税法及び所得税施行令の規定やその趣旨に照らせば、必要経費に該当するといえるためには、所得を生ずべき業務と何らかの関連性を有する費用というだけでは足りず、所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であることを要すると解するのが相当である。また、その該当性の判断は、関係者の主観的判断を基準とするのではなく、当該費用に係る個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って客観的に判断されるべきであると解するのが相当である。
(2) 認定事実
本件支出に関し、以下の事実が認められる(なお、後記ア及びイ並びにウ(イ)及び(ウ)の事実は、当事者間に争いがない。)。
ア 原告の帳簿書類等に記載された本件支出の内容
原告の総勘定元帳(乙32から34まで)、原告提出の説明書(甲12)の添付資料(「H27(又は28若しくは29)交際費(元帳抜粋(又は元帳)、■減算後)」と題するもの)(乙40)及び領収書等の原始記録に記載された本件支出は、平成27年中が延べ142回(百貨店での支払や政治団体等への支出についてもそれぞれ1回と数えたもの。以下同じ。)で605万9952円、平成28年中が延べ141回で571万5116円、平成29年中が延べ148回で829万0489円である。
そして、接待交際の相手方とされている者を基準として区分すると、以下のとおりとなる。
① 相手方の情報のない支出(支出年月日、場所及び金額のみが記載されているもの)
② 相手方の氏名のみ記載されているが、それ以外の情報のない支出(支出年月日、場所及び金額のほか「祝金」等の目的のみが記載されているもの)
③ 相手方が政治家等である支出(■国会議員に係る支出)
④ 相手方が税理士である支出(平成27年4月7日のお礼)
⑤ 相手方が不動産関係者等取引先であるとされる者である支出
⑥ 相手方が銀行関係者であるとされる者である支出(役職名、所属支店の記載のある場合がある。)
イ 本件調査における本件支出に係る原告の説明
原告は、本件調査の際、本件調査担当者に対し、本件支出について、補足説明書等(甲10から14まで、乙31、38、39)において、以下のとおり説明した。
(ア) 原告は、■不動産関連業務、原告が代表取締役を務める不動産関連会社事業及び地域等への貢献を行っている。原告は、仕事上で縁を持った取引先の銀行の役職者、各銀行の支店長、証券会社の担当役職者、不動産事業者、建設事業者、税理士、弁護士及び医療関係者と飲食等の付き合いをして情報交換をし、また、知り合いの政治関係者等を支援して意見交換し、それらを接待交際費として計上していた。原告の事業規模からすれば金額的に問題視される筋合いはない。
上記の特定の高度な知識や経験を有する者らとの情報交換は、広くいえば、■としての知見を広め見識を高めるために必要なことであるから、「■と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要である」と考える。
(イ) 有馬の■に係る支出は、銀行関係者や取引先関係者等の接待が中心であり、今後の取引関係や原告の事業を円滑に進めることに大いに役立っている。このうち銀行関係者からは、最新の景気動向のほか、直近の融資条件(金利水準等)や各金融機関の状況等を具体的に知ることができ、今後の資産運用等の見通しを判断する上で欠かせない情報収集を行っていた。また、不動産関係者からは、所有不動産の管理を確実にしたり、不動産の売出し情報をいち早く入手したり、所有不動産の売却のタイミングを計るなどの判断のための情報収集を行っていた。
(ウ) 本件接待交際費のうち「■」、「■」及び「■」に係る支出で接待交際の相手方が記載されていないものの多くは、原告訴訟代理人を同席者とするものであり、その際の協議内容は、原告や原告の取引先等が関係する訴訟事件の進捗状況等の打合せが中心であった。
ウ ■の関与税理士、不動産の取得及び銀行借入金
(ア) ■の平成27年1月1日から同年12月31日までの事業年度ないし課税事業年度、平成28年1月1日から同年12月31日までの事業年度ないし課税事業年度及び平成29年1月1日から同年12月31日までの事業年度ないし課税事業年度の法人税及び地方法人税に係る関与税理士は、■の■税理士であり(乙9から11まで)、原告の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る関与税理士は、■税理士ないし■であった(乙22から27まで)。
(イ) ■は、以前から賃貸用不動産を所有していたが、平成27年に■から合計4件の不動産を合計約2690万円で取得し、その後、平成28年に原告から合計10件の不動産を合計約8億9790万円で取得し、平成29年に原告から合計4件の不動産を合計約4億2910万円で取得した(乙10(25頁から33頁まで)、乙11(24頁から34頁まで))。
(ウ) 上記不動産の取得に伴い、■の銀行借入金の残高は、平成27年12月期の年度末には約22億1700万円であったが、平成28年12月期の年度末には約33億5300万円に増加し、平成29年12月期の年度末には42億8200万円に増加した(乙9(9頁)、乙10(35頁から37頁まで)、乙11(36頁から39頁まで))。一方、原告は、■に関しては金融機関から資金を借り入れていなかったが、不動産賃貸業に関しては金融機関から資金を借り入れており、銀行借入金の年末残高は、平成27年分が約18億7500万円、平成28年分が約13億6100万円、平成29年分が約9億2000万円と減少していた(乙12から14まで、弁論の全趣旨)。
(3) 検討
ア 原告は、前記前提事実(1)のとおり、自ら■を営んでいるほか、不動産賃貸借管理業務等を目的とする■の代表取締役等を務めているため、本件接待交際費が原告の事業所得又は不動産所得に係る必要経費に該当するといえるためには、原告が自ら営む■との関係で本件接待交際費(本件支出)が必要経費に該当するといえる必要がある。
イ 本件支出のうち前記認定事実アの①から③までの分類に係るものについて
前記認定事実アのうち、接待交際の①相手方の情報のない支出及び②相手方の氏名のみ記載されているが、それ以外の情報のない支出については、当該相手方と原告との関係、当該支出の趣旨や目的が判然としない。したがって、当該接待交際に係る接待交際費は、原告の■と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であるとはいえない。
前記認定事実アのうち、接待交際の相手方が③政治家等である支出については、前記認定事実イの原告の説明を踏まえても、当該接待交際と原告の■との直接的な関連性や、当該業務の遂行上の必要性が判然としない。したがって、当該接待交際に係る接待交際費は、原告の■と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であるとはいえない。
前記認定事実アのうち、接待交際の相手方が④税理士、⑤不動産関係者等取引先及び⑥銀行関係者である支出については、当該接待交際の趣旨や目的が判然としない面がある上、前記認定事実ウのとおり、■の関与税理士が原告の関与税理士と同一であったこと、■が賃貸用不動産を複数所有し、これを取得するなどしていたこと、■が原告の銀行借入金より多額の銀行借入金を有していたことからすれば、前記認定事実イの原告の説明を踏まえても、当該接待交際は、原告の■に係る接待交際ではなく、■の事業等に係る接待交際であった可能性がある。したがって、当該接待交際に係る接待交際費は、原告の■と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であるとはいえない。そして、仮に、当該接待交際に係る接待交際費について、原告に係る家事関連費に該当するといえるとしても、当該業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができない。
以上によれば、本件接待交際費(本件支出)のうち前記認定事実アの①から⑥までの分類に係るものについては、原告の事業所得又は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
ウ 原告の主張(本件支出のうち原告と原告訴訟代理人との会食に関するもの(前記認定事実アの①の一部))について
原告は、本件訴訟において、本件接待交際費のうち前記認定事実アの①の一部(平成27年分の6回、平成28年分の8回、平成29年分の9回の会食)は原告と原告訴訟代理人との会食に関する接待交際費であるとした上で、平成27年から平成29年まで当時、原告訴訟代理人が原告から相談、依頼を受けていた案件は、主なもので11件あったのであり(甲158の①から⑪まで)、そのうち5件は、原告の所有不動産等に直接関わるものであったから、本件接待交際費のうち、原告と原告訴訟代理人との会食に関する接待交際費については、必要経費に該当する旨主張する。
しかし、証拠(甲152から158まで)及び弁論の全趣旨によれば、原告と原告訴訟代理人が平成27年から平成29年までの間に複数回にわたって会食していたことは認められるが、原告の主張を踏まえても、同会食の趣旨や目的が判然としない面がある上、当該会食は、■の事業等に係るものであった可能性がある。したがって、同会食に係る接待交際費は、原告の■と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であるとはいえない。そして、仮に、当該接待交際に係る接待交際費について、原告に係る家事関連費であるといえたとしても、当該業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができない。
以上によれば、本件接待交際費のうち、原告と原告訴訟代理人との会食に関するものについても、原告の事業所得又は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
エ 原告のその余の主張について
原告は、前回調査では、接待交際費が必要経費であると認められたにもかかわらず、本件調査で必要経費と認められないというのは、著しく不合理であると主張する。
しかし、前回調査において接待交際費を必要経費とすることが否認されなかったとしても、それ以降の接待交際費が必要経費として認められることになるとはいえないので、上記の原告の主張は採用することができない。
(4) まとめ
以上によれば、本件接待交際費(本件支出)は、所得税法にいう必要経費に該当するとはいえないから、原告の事業所得及び不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
また、本件交際費の支出は、前記(3)と同様の理由から、原告の「事業」としてされたものとはいえないから、本件交際費の支出は、消費税法にいう課税仕入れに該当するとはいえない。したがって、原告の消費税額の計算上、本件交際費の支出に係る消費税額を控除することはできない。
2 争点(2)(本件減価償却費の必要経費該当性の有無)について
(1) 原告による本件各車両の使用状況等の説明
原告は、本件調査の際、本件調査担当者に対し、本件各車両の使用状況等について、補足説明書等(甲11から14まで、乙38、39)において、次のとおり説明した(争いのない事実)。
ア ベントレー(前記前提事実(3)①の車両)は、原告が、白浜・奈良などの不動産管理や物件調査のほか取引先関係への訪問、接待の送迎のために使用している。
イ エルグランド(前記前提事実(3)④の車両)は、原告及び■の従業員が、原告及び■が所有する山林を含む物件の管理業務のために使用している。
ウ キックス(前記前提事実(3)⑤の車両)、クリッパー2台(前記前提事実(3)⑥及び⑦の各車両)及びバネット(前記前提事実(3)⑧の車両)は、いずれも■の従業員が、■の業務のために使用している。
(2) 検討
前記(1)の原告の説明を前提として検討するに、ベントレーについては、白浜への移動は、証拠(乙19から21まで)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成24年7月以降、■に対し、白浜の不動産(別表1の順号17、19及び20)を、転貸方式により管理業務を含めて一括して賃貸していたことが認められることなどから、主に■の事業等に関して使用していたものと認められ、奈良への移動は、原告本人の健康診断等を目的としたものもあり、これが私的使用に当たることを原告も自認している(乙38)。また、エルグランドについては、証拠(乙19から21まで)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、自己の所有する複数の不動産を、転貸方式により管理業務を含めて一括して■に賃貸していたことが認められることなどから、主に■の事業等に関して使用していたものと認められる。これらのほかに、ベントレー及びエルグランドについては、原告の■に関して使用していた部分もあることがうかがわれるものの、証拠上、同部分を特定することはできない。したがって、ベントレー及びエルグランドに係る減価償却費は、原告の■と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であるとはいえない。
また、キックス、クリッパー2台及びバネットについては、前記(1)の原告の説明によっても■の業務のために使用していたのであるから、キックス、クリッパー2台及びバネットに係る減価償却費が、原告の■と直接的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要な費用であるとはいえないことは明らかである。
以上によれば、本件減価償却費は、前記1(1)の必要経費に該当するとはいえない。そして、減価償却費は減価償却資産の減価額を費用としてみるものであるから、言い換えれば、本件各車両は、所得税法2条1項19号にいう減価償却資産(不動産所得の基因となり、又は不動産所得若しくは事業所得を生ずべき業務の用に供される車両及び運搬具)に該当するとはいえないこととなる。
したがって、本件減価償却費は、原告の事業所得及び不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
3 争点(3)(本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果)について
(1) 所得税法157条1項にいう「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の意義について
所得税法157条1項は、同項各号に掲げる法人である同族会社等においては、これを支配する株主等の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。このような規定の趣旨、内容からすれば、同項にいう「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、当該株主等の所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である(以上につき、最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号1071頁、法人税法132条1項に関する最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決・民集76巻4号480頁参照)。
本件のような株主等を賃貸人とし同族会社等を賃借人とする不動産の賃貸借契約が上記の経済的合理性を欠くものか否かについては、当該賃貸借契約の目的、賃貸料の金額や契約の諸条件を含む当該賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。そして、当該賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、①当該賃貸借契約が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したり、その賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされたりしているなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外に当該賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。
そこで、上記を踏まえ、本件賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かを検討することとする。
(2) 認定事実
前記前提事実に加え、後記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件賃貸借契約の締結に至る経緯
(ア) 原告は、平成23年以前は、自らが主体となって、自己の所有する不動産を賃貸する不動産賃貸業を営んでいた。
原告は、平成24年7月の直前においては、当時自己が所有していた別表1の順号1から22までの不動産を含む合計27の不動産(種別は、マンション(1棟又は区分)、店舗、駐車場、病院又は事務所である。)を賃貸していたところ、一部については、■のほか、■及び■に不動産管理業務を委託した上で、第三者に賃貸し(管理委託方式)、それ以外のものについては、賃借人が転貸することを前提として、■のほか、■及び■に賃貸していた(転貸方式)。
賃貸物件である上記不動産のエンド・ユーザー(利用者)の数は、数百に及んだ。
上記のとおり管理委託方式における管理委託の相手方や転貸方式における賃借人である不動産業者が複数となっているのは、上記合計27の対象不動産は、その種別が上記のとおり様々であり、また、その所在地城が大阪府(大阪市、東大阪市及び守口市)、兵庫県(神戸市及び尼崎市)、和歌山県と広範囲にわたるところ、その種別や所在地域により適切な管理を請け負うことができる不動産業者が異なるなどし、合計27の不動産を同一の不動産業者に管理等を委ねるのは困難であったためである。
(甲15から97まで、98の2、100から142まで、159、証人■)
(イ) 原告は、平成24年頃、自己の所有する不動産を賃貸する不動産賃貸業が拡大してきたこと、そのために原告個人の不動産賃貸業に係る資金管理や収支管理、税務申告等の事務が煩雑になってきたこと、自らの年齢が高齢になってきたこと等から、当時の顧問税理士の意見も踏まえた上で、原告個人で営んでいた不動産賃貸業を、法人である■に移転することにした。
原告は、上記の事業の移転に当たり、前記(ア)の合計27の不動産(本件不動産)を一度に■に売却して所有権を移転することも検討したが、そのためには当該不動産の担保権者である金融機関の承諾を得て担保権を抹消し、金融機関から■への融資を得て担保権を設定するなどの一連の手続が必要であるところ、金融機関との交渉が難航する可能性がある上、当該手続のために必要な手数料等の負担を軽視することができないことから、一度に■に売却することは困難であると考えた。そこで、原告は、上記の事業の移転に当たり、上記不動産(本件不動産)を、一度にではなく、順次、■や第三者に対して売却することを進めることとし、これと並行して、前記の当時の顧問税理士の意見も踏まえた上で、上記不動産(本件不動産)を一括してサブリースすることとし、平成24年7月、■との間で本件賃貸借契約を締結した(前記前提事実(2)参照)。
本件賃貸借契約の締結により、原告個人の不動産賃貸業については、賃貸料収入が一定額となり、安定するとともに、資金管理や収支管理、税務申告や決算に係る事務が簡素化され、また、不動産賃貸業の収支が■に集中するようになり、原告及び■の不動産賃貸業の収支が簡明になるなどした。
前記の当時の顧問税理士の意見は、上記の事業の移転について一括サブリースという方法があるところ、一括サブリースをするのであれば、その趣旨に沿って賃貸借契約の契約期間の途中で対象不動産が売却されても当該契約期間の賃料は固定すべきである、また、原告(個人)と■(法人)とを一体的に考えれば、不動産所得の総額は変わらず、個人又は法人のどちらかが税を負担するかということであって「行って来い」の関係であるから、税務署も理解してくれるだろうし、問題ないだろう、などというものであった。
(甲15から97まで、159、証人■)
(ウ) 原告は、前記(イ)のとおり、原告個人が営んでいた不動産賃貸業を整理するとともに、■に事業を移転するため、前記(ア)の合計27の不動産のうち、平成24年中に一つの不動産を第三者に売却し、平成25年中に三つの不動産を第三者に売却し、平成26年中に一つの不動産を第三者に売却し、前記前提事実(2)のとおり、平成27年から平成29年までの間に合計四つの不動産を第三者に売却し、合計九つの不動産を■に売却した。これにより、本件賃貸借契約の目的物である本件不動産の数は、平成24年7月当時に合計27であったのが、平成29年末には合計9となった。
一方、■は、平成24年から平成29年までの間に、合計18の賃貸用不動産を第三者から取得した。
(甲15、乙18(1頁及び2頁))
(エ) 原告が平成27年から平成29年までの間に第三者又は■に売却した本件不動産についての、平成24年当時の転貸料収入に係る年間売上高の概算(1万円未満切り捨て)及び売却先(かっこ内の記載)は、以下のとおりであった。
上記の本件不動産については、本件各年分の本件賃貸借契約の締結時に、売却予定時期が決まっており予定どおりに売却されたものもあれば、売却時期が決まっていたが実際の売却時期が予定とは異なることとなったものや、売却予定はなかったにもかかわらず当該契約期間中に売却されたものもあった。
(乙19(最終頁)、20(最終頁)、21(最終頁)、証人■、弁論の全趣旨)
a 平成27年中の売却物件(別表1の順号21及び22)の年間売上高の概算(合計約2684万円)
順号21 約1872万円(第三者)
順号22 約812万円(第三者)
b 平成28年中の売却物件(別表1の順号14から20まで)の年間売上高の概算(合計約8706万円)
順号14 約3590万円(■)
順号15 約1015万円(■)
順号16 約3414万円(■)
順号17 約70万円(■)
順号18 約360万円(■)
順号19 約60万円(■)
順号20 約197万円(■)
c 平成29年中の売却物件(別表1の順号10から13まで)の年間売上高の概算(合計約7206万円)
順号10 約1696万円(■)
順号11 約2305万円(■)
順号12 約1549万円(第三者)
順号13 約1656万円(第三者)
イ 本件賃貸料の額
原告は、平成24年7月当時の本件賃貸借契約の賃貸料の金額として、次の条件を満たすものとすることにした。すなわち、①本件賃貸借契約の賃貸料は、原告個人が本件不動産を取得する際に受けた金融機関からの借入れに係る約定弁済額、保険料(火災保険料及び施設賠償責任保険料)及び固定資産税といった原告個人が負担する必要資金を下回らない金額とすること、②■において、本件不動産に係る賃貸料(転貸料)収入と原告に支払う賃借料の差額により、事業運営と経費が賄えること、③②について、本件賃貸借契約の契約期間中に対象不動産の売却があったとしても、本件賃貸借契約の賃料は減額しないため、売却予定物件の賃料収入を除外しても、■の事業運営に支障が生じないようにすることという条件を満たすものとすることにした。
原告は、前記ア(ア)の合計27の不動産(本件不動産)に係る上記①の必要資金として年間2億1550万6307円を要することを前提として、平成24年分の本件賃貸借契約の賃貸料(本件賃貸料)の額を算定することとし、その結果、月額2000万円(年額2億4000万円)とした。
原告は、平成25年分以降の本件賃貸料の金額については、対象不動産(本件不動産)の売却の見込みや売却による対象不動産の減少を踏まえつつ、平成24年分の■転貸料収入に係る売上高の金額と当該年分の■転貸料収入に係る売上高の見込み額との比率や、当該年分の本件賃貸料が■転貸料収入に係る売上高の見込み額に占める割合を基に、設定した。すなわち、原告は、平成24年分については、■転貸料収入に係る売上高を4億4635万2321円と算定し、本件賃貸料の上記売上高に占める割合を約53.8%と算定した。その上で、平成25年分及び平成26年分の本件賃貸料については、上記売上高の算定が減少したが(平成25年分が平成24年分の約93%、平成26年分が平成24年分の約82%)、本件賃貸料の金額は月額2000万円(年額2億4000万円)のままで据え置いた。一方、平成27年分の本件賃貸料については、平成27年分の■転貸料収入に係る売上高の見込み額が3億3168万8014円になり、平成24年分の売上高の約74%になると算定し、本件賃貸料の上記売上高の見込み額に占める割合が約54.3%となる月額1500万円(年額1億8000万円)とした。平成28年分の本件賃貸料については、平成28年分の■転貸料収入に係る売上高の見込み額が2億7637万9865円になり、平成24年分の売上高の約62%になると算定し、本件賃貸料の上記売上高の見込み額に占める割合が約52.1%となる月額1200万円(年額1億4400万円)とした。平成29年分の本件賃貸料については、平成29年分の■転貸料収入に係る売上高の見込み額が1億7609万6410円になり、平成24年分の売上高の約39%になると算定し、本件賃貸料の上記売上高の見込み額に占める割合が約54.5%となる月額800万円(年額9600万円)とした。
原告及び■は、本件賃貸料の金額を決定するに当たり、■が負うことになる空室リスク等を具体的には計算しなかった。
原告の計算によれば、本件賃貸料の実際の■転貸料収入に係る売上高に占める割合は、平成24年分が約53.8%、平成25年分が約57.9%、平成26年分が約65.7%、平成27年分が約54.7%、平成28年分が約59.5%、平成29年分が約54.5%となる。
被告の計算によれば、本件各年分の本件賃貸料及び■転貸料収入は次のとおりであり、本件各年分の本件賃貸料の■転貸料収入に占める割合は、平成27年分が約54.7%、平成28年分が約59.8%、平成29年分が約59.4%となる。
平成27年分 本件賃貸料 1億8000万円
転貸料収入 3億2880万1797円
平成28年分 本件賃貸料 1億4400万円
転貸料収入 2億4091万0676円
平成29年分 本件賃貸料 9600万円
転貸料収入 1億6151万2328円
(甲143、乙19(最終頁)、20(最終頁)、21(最終頁)、41から45まで、証人■、弁論の全趣旨。なお、本件各年分の本件賃貸借契約に係る契約書である「サブリース原賃貸借契約書」(乙19から21までの各最終頁を除いたもの)と「サブリース料 再考について」と題する書面(本件再考書面。乙19から21までの各最終頁)は、別の書面である(乙18の2頁等参照)。)
ウ 本件賃貸借契約の契約書の内容
本件賃貸借契約の契約書は、■がウェブサイトや市販の書籍からサブリース原賃貸借契約書すなわちマスターリース契約の契約書のひな型を入手し、これを基に、契約当事者(貸主及び借主)、目的物件、契約期間及び賃料等を本件賃貸借契約に合わせて修正して作成したものであり、契約条項等の内容は、一般のマスターリース契約の契約書のものと同様である。
(乙19から21まで、証人■、弁論の全趣旨)
エ 原告の不動産所得の金額
原告の平成22年分から平成29年分までの所得税又は所得税等の税務申告(修正申告を含む。)に係る不動産所得の金額は、以下のとおりである。
平成22年分 7975万9429円
平成23年分 1億1151万4475円
平成24年分 8223万4279円
平成25年分 4957万3844円
平成26年分 6941万4311円
平成27年分 4112万1305円
平成28年分 1156万4453円
平成29年分 285万8131円
(甲147から151まで、乙46から51まで)
(3) 検討
ア 本件賃貸借契約の適正な賃貸料について
(ア) 被告は、本件賃貸借契約においては、■が負うことになる空室リスク等を具体的に検討した上で本件賃貸料の金額が決定されたわけではないことなどから本件賃貸借契約が実質的に管理委託方式と同視することができることを前提として、■転貸料収入の金額から、本件適正管理料等の金額を控除することにより算定した本件適正賃貸料をもって、本件賃貸借契約の適正な賃貸料である旨主張しており、この考え方を前提として、本件適正管理料の算定に必要な比準同業者の抽出の基準においても、不動産賃貸について転貸方式による貸付けを行っていないことや、管理委託料の支払がされていることといった基準を設け、管理委託方式を前提とする比準同業者を抽出した上で、本件適正管理料ひいては本件適正賃貸料を算定している。そして、前記認定事実イのとおり、原告及び■は、本件各年分の賃貸借契約の締結に際し、■が負うことになる空室リスク等を具体的に計算した上で本件賃貸料の金額を決定したわけではない。
しかし、本件賃貸借契約の契約内容についてみると、前記前提事実(2)並びに前記認定事実イ及びウによれば、本件賃貸借契約は、転貸借を目的とする賃貸借契約であって、当該契約期間中の賃料額が一定とされ、本件不動産の固定資産税等の他に貸主(原告)が負担すべき費用の特約がないことなどから、契約期間中に対象不動産につき空室が生じたり、賃料の滞納が生じたり(空室リスク等)、転貸借関係に係る訴訟に巻き込まれたり(訴訟リスク)した場合の負担については借主である■が負うことになるのであり、この点では、一般のマスターリース契約と同様であると認められる。また、その他の契約上の権利義務関係に係る契約条項も、基本的には、一般のマスターリース契約と異なることはないものと認められる(被告の主張においても、本件賃貸借契約と一般のマスターリース契約との間の契約内容の相違点について明確な主張はされていない。)。そして、上記のとおり、本件賃貸借契約の実際の契約内容が、一般のマスターリース契約と同様であり、空室リスク等を借主(■)が負うものとなっている以上、原告と■は、空室リスク等を負う主体については検討した上で借主(■)としたものの、本件賃貸借契約の賃料額の算出過程において空室リスク等を具体的には計算せず、空室リスク等の分析が不十分であったというにとどまるのであって、賃料額の算出過程において空室リスク等が具体的に計算されていなかったとの一事をもって、翻って借主(■)が実際に空室リスク等を負担していなかったなどと評価することはできず、本件賃貸借契約を実質的に管理委託方式と同視し得るということもできない。
また、前記認定事実ア(ア)によれば、原告は、平成24年7月以前は、合計27の本件不動産について、その種別(マンション(1棟又は区分)、店舗、駐車場、病院又は事務所)・や所在地域が異なり、同一の不動産業者にその管理等を委ねることが困難であるため、複数の不動産業者に分散させる形で管理を委託したり(管理委託方式)、転貸方式により賃貸したりせざるを得なかったことが認められる。そうすると、本件賃貸借契約は、原告が、上記のとおり、種別や所在地域の異なる多数の不動産(エンド・ユーザーが数百に及ぶこともあった。)であって、一般的には、同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難である本件不動産を、一括して転貸方式で■に賃貸するという特殊性を有するものであった。
さらに、前記前提事実(2)並びに前記認定事実ア及びイのとおり、本件賃貸借契約は、原告が個人で営んでいた不動産賃貸業を法人である■に対して移転するため、本件不動産を、順次、■や第三者に対して売却することと並行して締結されたものであるから、当該契約期間中に複数の対象不動産の売却が当然に想定される状況にあったにもかかわらず、当該契約期間中に対象不動産が減少しても、事前に本件賃貸料の算定に当たり一定の考慮をしていたことがうかがわれるとはいえず、当該契約期間中の賃料は減額されないものとなっているのであって、これにより、平成27年分から平成29年分においては、当該契約期間中に対象不動産の一部が■や第三者に対して売却されることにより、約2684万円ないし約8706万円という高額の年間売上高に係る収支が不確実になるという負担(売却リスク)を借主■に負わせるという特殊性を有するものであった。
このように、本件賃貸借契約は、一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な種別の異なる多数の不動産を一括して転貸方式により賃貸するものであり、また、空室リスク等のみならず、契約期間中に高額の収益物件である複数の対象不動産の売却が想定される状況にあったにもかかわらず、対象不動産が売却により減少しても当該契約期間中の賃料の額が減額されないことによる負担(売却リスク)を、賃借人である■に負わせるものとなっている。
以上のような本件賃貸借契約の内容や特殊性に照らせば、本件賃貸借契約については、その適正な賃貸料を算定するに当たり、管理委託方式と実質的に同視することはできないのであって、本件賃貸借契約の適正な賃貸料を算定するに当たり、管理委託方式を基に算定する方法を採ることについては、その基礎的要件が欠けるというべきである。したがって、上記の被告の主張は、その前提を誤っており、採用することができない。
そうすると、本件適正賃貸料をもって本件賃貸借契約の適正な賃貸料と認めることはできず、本件においては、証拠上、本件賃貸借契約の適正な賃貸料の金額は不明であるというほかない。
(イ) 被告は、前記(ア)で検討した事情以外に、本件賃貸借契約の適正な賃貸料を算定するに当たり、本件賃貸借契約が実質的に管理委託方式と同視することができることや、管理委託方式を前提とする比準同業者を抽出して算定することが合理的であることの理由として、①■の設立目的は、不動産の賃貸借管理業務等であり、不動産賃貸借そのものを目的としていないこと、②本件賃貸借契約のような転貸方式では、賃借人が得る転貸料収入と賃借人が賃貸人に支払う賃貸料の差額には、賃借人が行う賃借物の維持管理費用が含まれており、その限度で管理委託方式における管理手数料と経済的実質が同一であるということができること、③転貸方式を前提として適正な賃貸料を求めることが困難であり、仮にこれが可能であるとしても直ちにその数値の合理性、正確性が担保されるものではないこと、④本件適正賃貸料の算定に当たっては、本件各年分の■転貸料収入すなわち■が現実に受領した転貸料収入の実額を基にしており、その金額は実際の空室状況が反映されたものであり、また、■が負担する滞納等のリスクに係る損失は■負担経費に計上されているから、管理委託方式を基に算定する方法により適正な賃貸料を算定する方法でも、■が被る空室リスク等は既に考慮されていることを挙げる。
この点、①前記前提事実(1)のとおり、■は、目的を不動産賃貸借管理業務等とし、不動産賃貸借そのものを目的とはしていないが、■において、原告から賃借した本件不動産を第三者に転貸(賃貸)することが上記目的の範囲外であるとは直ちにはいえない上、現に■は本件不動産を第三者に転貸(賃貸)しているのであるから、上記の目的をもって、本件賃貸借契約の適正な賃貸料を算定するに当たり、本件賃貸借契約が実質的に管理委託方式と同視することができることの理由とすることはできない。
また、②転貸方式において、賃借人が得る転貸料収入と賃借人が賃貸人に支払う賃貸料の差額には、賃借人が行う賃借物の維持管理費用が含まれていることは、管理委託方式を基に適正な賃貸料を算定することの前提(必要条件)であるとはいえるが、適正な賃貸料を算定するに当たり転貸方式を管理委託方式と同視することができる理由(十分条件)にはならない。そして、本件賃貸借契約において、上記の管理委託方式と同視することができる理由(十分条件)が認められないのは、前記(ア)のとおりである。
さらに、③サブリース業が以前より一般的になっている現時点において、転貸方式を前提として本件賃貸借契約の適正な賃貸料を求めることが困難であるといえるかについてそもそも疑問が存する上、転貸方式を前提として本件適正賃貸料を求めることが困難であり、また、これにより算定された数値の合理性、正確性が担保されないとしても、このことは、本件賃貸借契約の適正な賃貸料の算定に当たり、本件賃貸借契約が実質的に管理委託方式と同視することができることや、管理委託方式を前提とする比準同業者を抽出して算定することが合理的であることの直接の理由とはならない。
そして、④被告が主張する管理委託方式を基に適正な賃貸料を算定する方法による場合、■転貸料収入を基に適正な賃貸料を算定することになるから、その金額が実際の空室状況を反映したものとなることはいわば当然であり、また、■が負担する滞納等のリスクに係る損失が■負担経費に計上されているのであれば、これが控除されることになるのもまた当然である。しかし、これらの事情は、転貸方式(サブリース)において、マスターリース契約の賃借人が空室リスク等を負うことからマスターリース契約の賃料の金額が低く設定され得ることとの関係で、本件賃貸借契約が実質的に管理委託方式と同視することができず、適正な賃貸料を算定するに当たり管理委託方式を基に算定する方法を採ることができないのではないかという疑問に答えるものではなく、上記④の事情は、適正な賃貸料を算定するに当たり、管理委託方式を基に算定する方法を採ることが合理的であると判断された場合における当該算定方法に係る事情であるから、論ずべき段階を異にする事情であるといえる。
したがって、上記①から④までの事情は、前記(ア)の本件賃貸借契約の内容や特殊性をも踏まえると、本件賃貸借契約の適正な賃貸料を算定するに当たり、本件賃貸借契約が実質的に管理委託方式と同視することができることや、管理委託方式を前提とする比準同業者を抽出して算定することが合理的であることの理由とはならない。
以上によれば、上記の被告の主張を検討しても、前記(ア)の判断は左右されない。
イ 本件賃貸借契約の不自然性の有無(前記(1)①参照)について
(ア) まず、本件賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされているかを検討する。
本件賃貸料は、前記認定事実イのとおり、原告の計算によれば、平成24年分から平成29年分までの本件賃貸料の実際の■転貸料収入に係る売上高に占める割合は、約53.8%から約65.7%までの間で推移しており、被告の計算による本件各年分(平成27年分から平成29年分まで)の本件賃貸料及び■転貸料収入の金額を前提とすれば、平成27年分から平成29年分までの本件賃貸料の■転貸料収入に占める割合は、約54.7%から約59.8%までの間で推移している。この割合のみからすれば、本件賃貸料は適正な賃貸料に比して低額なものにされている可能性があるとはいえる(乙60、61等参照)。
しかし、前記前提事実(2)並びに前記認定事実ア及びイによれば、本件賃貸借契約は、①転貸方式(マスターリース契約)であって空室リスク等を借主(■)が負担するものであることのほか、②一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な、種別(マンション(1棟又は区分)、店舗、駐車場、病院又は事務所)や所在地域の異なる多数の不動産(エンド・ユーザーが数百にも及ぶことがあった。)を一括して■に賃貸するものであること、③契約期間中に高額の収益物件である複数の対象不動産の売却が想定される状況にあったにもかかわらず、対象不動産の一部が売却されて対象不動産が減少しても、当該契約期間中の賃料は減額されないことによる負担(売却リスク)を借主(■)に負わせるものになっていることといった特殊性を有しており、これらの①から③までの事情はいずれも本件賃貸借契約における賃貸料の減額要因となり得るものである。
また、前記アのとおり、本件賃貸借契約の適正な賃料の金額は不明であり、本件賃貸料と比較すべき適正な賃貸料が判然としないから、そもそも適正な賃貸料と比較して本件賃貸料が低額であるといえるかさえも判断することができない。
さらに、前記認定事実エの原告の不動産所得の金額をみると、前記認定事実ア(イ)のとおり本件賃貸借契約が締結されるようになったのは平成24年7月であるところ、それ以降の不動産所得の金額は減少しているが、同年以降本件賃貸借契約の対象不動産自体が順次売却されて減少していることから、単純に金額を比較することができない上、平成26年分には前年分の平成25年分の不動産所得の金額を上回るなど、一貫して金額が減少しているわけではなく、また、平成24年分から平成29年分までを通じて、不動産所得の金額が極めて低額になるとか、マイナスになるなどしておらず、本件賃貸借契約締結後も原告において数百万円ないし数千万円といった相応の賃貸料収入を得ていることが認められるのであって、原告の不動産所得の金額の推移からみても、本件賃貸料が適正な賃貸料と比較して著しく低額であるとはいえない。
以上の事情からすれば、本件賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされていると断ずることはできない。
なお、被告が主張する不動産所得の金額は、平成27年分が1億1462万0139円、平成28年分が5570万8447円、平成29年分が3405万9386円であるところ(別紙2「被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性」記載1(1)ア(イ)、(2)ア(イ)及び(3)ア(イ))、上記の被告が主張する平成27年分の不動産所得の金額は、前記認定事実エの原告の不動産所得の金額のうち、本件賃貸借契約が締結されるようになった平成24年7月より前の平成22年分及び平成23年分の不動産所得の金額を上回っており、前記認定事実ア(ウ)及び(エ)のとおり平成24年以降本件賃貸借契約の対象不動産が順次売却されて減少していた経過をも考慮すると、この点に関する被告の主張は、不自然、不合理な面があることが否めない。
(イ) また、前記前提事実(2)並びに前記認定事実ア及びウによれば、本件賃貸借契約の契約書記載の契約条項等の内容は、一般のマスターリース契約の契約書のものと同様である上、実際に原告は■に対して一括して本件不動産を賃貸していると認められるから、本件賃貸借契約について、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりしているとはいえない。
(ウ) さらに、原告及び■は、同社が負うことになる空室リスク等を具体的に計算した上で本件賃貸料の金額を決定したわけではなく、その意味では、本件賃貸借契約は、一般の不動産業者ないしサブリース業者が借主となって締結されるマスターリース契約とは異なる面がある。この点で、本件賃貸借契約には独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点があるともいえる。
しかし、前記(ア)のとおり、本件賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされているとはいえないことに加え、本件賃貸借契約の内容及び特殊性を踏まえると、上記の点があることをもって、直ちに本件賃貸借契約が不自然、不合理なものであるということはできない。
(エ) 以上によれば、本件賃貸借契約が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したり、その賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされたりしているなど、不自然なものであるということはできない。
ウ 税負担の減少以外の本件賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由の有無(前記(1)②参照)について
前記認定事実ア(イ)及び(ウ)によれば、本件賃貸借契約の締結に至る経緯には、原告が、自己の所有する不動産を賃貸する不動産賃貸業が拡大してきたこと、そのために原告個人の不動産賃貸業に係る資金管理や収支管理、税務申告等の事務が煩雑になってきたこと、自らの年齢が高齢になってきたこと等から、原告個人で営んでいた不動産賃貸業を、法人である■に移転するという事業目的があったものと認められる。そして、実際にも、本件賃貸借契約の締結により、原告個人の不動産賃貸業については、賃貸料収入が安定するとともに、事務が簡素化されるなどしたことが認められ、また、原告は、原告個人が営んでいた不動産賃貸業を整理するとともに、■に事業を移転するため、平成24年以降、順次自己の所有する不動産を■又は第三者に売却したり、新たに賃貸用不動産を取得する場合には、基本的には、■がこれを取得したりしていることが認められる。そうすると、本件賃貸借契約は、原告が、上記のような不動産賃貸業の■への移転という事業目的を実現するために、平成24年以降、自己の所有する不動産を■又は第三者に売却することと並行して、本件不動産を一括して■に対して転貸方式により賃貸したものと認められ、このような本件賃貸借契約の目的は合理的なものといえる。
なお、原告は、前記認定事実ア(イ)のとおり、当時の顧問税理士が、原告(個人)と■(法人)とを一体的に考えれば、不動産所得の総額は変わらず、個人又は法人のどちらかが税を負担するかということであって「行って来い」の関係であるから、税務署も理解してくれるだろうし、問題ないだろうという意見を述べたことを踏まえ、本件賃貸借契約を締結するに至っており、本件賃貸借契約の締結の目的として原告の所得税の負担の減少のためという目的があったとしても、それが主たる目的であるとは認められない。
以上によれば、税負担の減少以外に本件賃貸借契約を締결することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するといえる。
エ 以上のとおり、本件賃貸借契約の目的、賃貸料の金額や契約の諸条件を含む本件賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮すれば、被告のその余の主張を検討しても、本件賃貸借契約は、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものとはいえない。
したがって、本件賃貸借契約は、所得税法157条1項にいう「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらないというべきである。
(4) まとめ
以上によれば、所得税法157条1項を適用して、本件各年分の原告の不動産所得に係る総収入金額について本件適正賃貸料と本件賃貸料との差額を加算して計算した上で、本件各年分の所得税等に係る原告の総所得金額及び所得税の額を計算することはできない。
4 争点(4)(本件各処分の信義則違反の違法性の有無(前回調査結果通知と本件各更正処分との関係))について
租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考え得るのは、納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならず、上記特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ上記表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものかどうか、納税者が税務官庁の上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかどうか、という点の考慮が不可欠であるというべきである(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。
東住吉税務署長は、前記前提事実(4)のとおり、平成27年2月26日付けで、原告に対し、国税に関する実地の調査を行った結果、原告の平成23年分及び平成24年分の所得税、平成25年分の所得税等並びに平成23年課税期間から平成25年課税期間までの消費税等について、更正決定等をすべきと認められない旨の前回調査結果通知をした。前回調査結果通知は、通則法74条の11第1項に基づく通知であるから、東住吉税務署長は、飽くまで、その時点において、前回調査の対象となった期間及び税目に係る申告について更正決定等をすべきと認められない旨の見解を表示したものにすぎず、その後の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る申告について更正処分等をすべきと認められない旨の見解を表示したわけではない。
そして、東住吉税務署長は、前記前提事実(5)のとおり、前回調査結果通知の後に、本件各年分について行った本件調査の結果を踏まえ、本件各処分をしたのである。
そうすると、本件各処分は、前回調査結果通知による見解の表示に反する課税処分とはいえず、前記特別の事情が存するとはいえないから、本件各処分が信義則に反して違法であるとはいえない。
5 本件各処分の適法性について
(1) 本件所得税等各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分について
前記1から4までで説示したところに弁論の全趣旨を総合すれば、原告の本件各年分の所得税等に係る総所得金額及び納付すべき税額並びに過少申告加算税額は、別紙3「原告の本件各年分の所得税等及び過少申告加算税」記載のとおりとなると認められるから、平成27年分については、総所得金額4380万5525円(同別紙記載1(1)ア)、納付すべき税額4602万7000円(同別紙記載1(1)タ)、過少申告加算税額52万1000円(同別紙記載1(2))となり、平成28年分については、総所得金額1671万9068円(同別紙記載2(1)ア)、納付すべき税額6450万9200円(同別紙記載2(1)タ)、過少申告加算税額24万円(同別紙記載2(2))となり、平成29年分については、総所得金額553万7798円(同別紙記載3(1)ア)、納付すべき税額7283万7000円(同別紙記載3(1)ト)、過少申告加算税額8万4000円(同別紙記載3(2))となる。
そうすると、本件所得税等各更正処分は、平成27年分については総所得金額4380万5525円、納付すべき税額4602万7000円を超える部分が、平成28年分については総所得金額1671万9068円、納付すべき税額6450万9200円を超える部分が、平成29年分については総所得金額553万7798円、納付すべき税額7283万7000円を超える部分がそれぞれ違法であり、取り消されるべきことになる。
また、本件所得税等各賦課決定処分は、平成27年分については52万1000円を超える部分が、平成28年分については24万円を超える部分が、平成29年分については8万4000円を超える部分がそれぞれ違法であり、取り消されるべきことになる。
(2) 本件消費税等各更正処分及び本件消費税等各賦課決定処分について
前記1及び4で説示したところに弁論の全趣旨を総合すれば、原告の本件各課税期間の消費税等に係る納付すべき税額は、別紙2「被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性」記載1(4)シ(平成27年課税期間につき1244万5400円)、(5)シ(平成28年課税期間につき2455万7000円)及び(6)シ(平成29年課税期間につき1299万4500円)のとおりであると認められる。
そうすると、上記納付すべき税額は、本件消費税等各更正処分における納付すべき税額(甲2、4及び6の各1頁の各順号22の「消費税及び地方消費税税の合計(納付又は還付△印)税額」の「調査額(更正)」欄記載の金額)と同額であるから、本件消費税等各更正処分はいずれも適法である。
また、本件消費税等各更正処分は適法であるところ、本件消費税等各更正処分に伴って賦課されるべき過少申告加算税の額は、別紙2「被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性」記載3(4)(平成27年課税期間につき1万円)、(5)(平成28年課税期間につき4万2000円)及び(6)(平成29年課税期間につき3万5000円)のとおりであると認められる。
そうすると、上記過少申告加算税の額は、本件消費税等各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であるから、本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。
第4 結論
よって、原告の請求は、主文1項から3項までの限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 横 田 典 子
裁判官 田 辺 暁 志
裁判官 立 仙 早 矢
別紙1
関係法令の定め
1 必要経費
所得税法37条1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定する。
所得税法45条1項柱書きは、居住者が支出し又は納付する同項各号に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定し、同項1号は、家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるものを掲げる。そして、所得税法施行令96条柱書きは、所得税法45条1項1号に規定する政令で定める経費は、所得税法施行令96条各号に掲げる経費以外の経費とする旨規定し、同条1号は、家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費を掲げ、同条2号は、同条1号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費を掲げる。
所得税法49条1項は、居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費として同法37条の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定する。そして、所得税法2条1項19号は、同法において、減価償却資産とは、不動産所得若しくは雑所得の基因となり、又は不動産所得、事業所得、山林所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供される建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう旨規定する。
2 同族会社等の行為又は計算の否認等
所得税法157条1項柱書きは、税務署長は、同項各号に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の総所得金額及び所得税の額等を計算することができる旨規定し、同項1号は、法人税法2条10号に規定する同族会社を掲げる。
3 仕入れに係る消費税額の控除
消費税法2条1項12号は、同法において、課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう旨規定する。
消費税法(平成27年9月30日以前に行った課税仕入れについては平成27年法律第9号による改正前のもの、平成27年10月1日以降に行った課税仕入れについては平成24年法律第68号3条による改正前のもの。以下、本条本項本号につき同じ。)30条1項1号は、事業者が国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定する。
4 更正決定等をすべきと認められない場合の通知
国税通則法(以下「通則法」という。)74条の11第1項は、税務署長等は、国税に関する実地の調査を行った結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、納税義務者であって当該調査において質問検査等の相手方となった者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする旨規定する。