国税局に情報公開請求をし、表題の判決書を入手してみました。
事案の概要
税務署職員が、控訴人の父の相続税に係る税務調査における公権力の行使によって違法に控訴人の権利を侵害し、控訴人に精神的苦痛を与えたと主張して、控訴人が、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償金550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する不法行為日である平成30年3月30日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
基本情報
・税目:国賠
・提訴裁判所:東京高等裁判所
・提訴年月日:令和6年11月8日
・判決日:令和8年6月11日
・結果:一部認容
争点
・本件測量等と国賠法上の違法性等
・本件報告の国賠法上の違法性等
・損害の額
判決書データ
第一審の判決書は、国税庁ウェブサイト(税務訴訟資料)に掲載されています。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2024/pdf/14031.pdf
判決書テキスト
※以下は生成AIでテキスト化したものです。
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、3万3000円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じて16分し、その15を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。
5 この判決の主文第2項は、本判決が被控訴人に送達された日から14日を経過したときは、仮に執行することができる。ただし、被控訴人が4万2000円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、550万円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称は、特記しない限り、原判決の例による。)
1(1) 本件は、■■税務署職員が、控訴人の父の相続税に係る税務調査における公権力の行使によって違法に控訴人の権利を侵害し、控訴人に精神的苦痛を与えたと主張して、控訴人が、被控訴人に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償金550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する不法行為日である平成30年3月30日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 原審が控訴人の請求を棄却したので、控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実及び争点は、次のとおり原判決を補正し、後記3のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 2頁8行目から9行目までを、次のとおり改める。
「ア 控訴人は、■■市内に居住し、■■県■■市内に原判決別紙図面1及び2記載の本件土地①ないし⑤を所有している。(甲2の1ないし5)
控訴人の母は、本件土地①上にある建物に一人で居住している。」
(2) 3頁2行目から3行目にかけての「調査を行うこと」を「調査を行うので」に改める。
(3) 3頁9行目の「同月30日付けで」の次に「税務署長宛ての」を加える。
(4) 3頁14行目末尾に行を改め、次のとおり加える。
「 本件測量等が行われた当時、本件土地①ないし⑤につき遺産分割が未了の状態であった。(甲5)」
(5) 4頁10行目末尾に行を改め、次のとおり加える。
「 国税通則法74条の10は、「前条第1項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第3項第1号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1項の規定による通知を要しない。」と規定している。」
(6) 5頁7行目末尾に行を改め、次のとおり加える。
「 仮に■■が控訴人から本件測量等について承諾を得ていたとは認められないとしても、■■において、控訴人から承諾がされたものと認識(判断)したことに合理的な理由があった。」
(7) 5頁16行目の「なかった。」の次に「本件測量等は、本件土地③及び④、本件土地①及び②、本件土地⑤の順序でされた。」を、同行目の「■■■■は、」の次に「本件相続人らが近隣住民から不審に思われないように十分配慮し、本件土地②ないし⑤の原状を何ら変えることなく、」を、19行目の「見ているが、」の次に「控訴人の母は、終始穏やかな状況であり、驚いたり、怖がったりする様子もなく、本件土地②から出て行くように注意したこともなかったし、」を、それぞれ加える。
(8) 5頁18行目の各「本件土地③」(2か所)を「本件土地②」に、同頁21行目の「本件土地②」を「本件土地①」に、それぞれ改める。
3 当審における当事者の主張
(1) 控訴人の主張
ア 本件測量等
(ア) 国賠法上の違法性の程度が強いこと
A 質問検査権の行使として土地の測量を行うことについての法令上の根拠はそもそもない。また、控訴人において税務署側の要望を拒んだということもなく、本件測量等の目的に正当性はない。
被控訴人は、本件測量等に至った根拠として、控訴人が税務署の書面提出の求めに応じなかったことを挙げるが、控訴人が税務署の求めに応じなかったということはない。控訴人は、平成30年3月29日に■■事務官との本件通話の際、土地の評価に誤りがあると税務署が考えていることを聴き、今後税務署から土地の評価について書面の送付を受け、その後に面談するという合意をしていた。■■も「計算全部しているんで、話はできる状態」と述べて、上記書面を作成するに当たり、質問検査等を行うことはないという前提であった。上記のとおり、税務署が土地の評価の誤りについての説明文書を送るという話になったので、控訴人は、当該文書の到達を待っていただけである。そうであるのに、税務署側が一方的に控訴人との合意事項を反故にし、本件測量等を行ったものである。■■は、全て計算してあるので書面で説明する旨述べたのにもかかわらず、実際には現地を見て測量をしないと書面を作ることができなかったから、つじつまを合わせるために控訴人に内密に本件土地の測量をした。
B 本件測量等は、事前通知(国税通則法74条の9第1項)を欠く税務調査であるという点において違法性が認められる。そして、租税の賦課・徴収は公権力の行使であるから、適正な手続で行われなければならず、それに対する争訟は公正な手続で解決されなければならない(手続的保障原則)。本件では、事前通知を欠く違法な税務調査が行われた上に、事後に虚偽の報告書を作成して適正さを偽装するような事態が生じた。租税法律主義が現場で骨抜きされるような事態を避けるためにも、本件の国税通則法違反は直ちに国家賠償法上違法になるものと判断されなければならない。
C 本件における■■と■■の行為は、他者の土地に無断で侵入し、身分も明かさず測量を完了したというものである。その順序も、■■の述べるとおり、本件土地①及び②の後に本件土地③及び④を行ったというものであれば、控訴人の母に見咎められてもなお、本件土地③及び④に侵入したこととなり、侵入態様として大胆かつ執拗なものといえる。このように、本件測量等は、国税通則法に違反するのみならず、刑罰法規や公序良俗にも違反し、社会通念上相当な限度を超えて職権を濫用した重大な違法を帯びた前例のない悪質な税務調査である。
(イ) 損害の発生
A 控訴人は、国税通則法74条の9第1項所定の事前通知を受けられなかったことにより予見可能性を奪われ、適正手続を受ける権利を侵害された。
B 本件測量等当時、本件土地①ないし⑤は、遺産分割未了の状態であり(乙1)、控訴人は、控訴人の母及び弟と共有して管理する立場であったが、遺言があり、不動産は全て控訴人が相続すると指定されていたので、実質的には本件不動産は控訴人の所有物であった。本件測量等により、控訴人の所有者としての権利が侵害された。
C 控訴人は、平成30年3月30日、母から、誰とも知れない者が本件土地に侵入して測量をしたことを聞き、強い不安を覚えた。控訴人は、高齢で一人暮らしをしている母のことを心配しており、当時独居高齢者宅が襲われた事件もあって、強盗事件の端緒ではないかという不安もあったし、得体の知れない者が自身の土地を測量していったことの恐怖も非常に強かった。控訴人の精神的苦痛が過小評価されてはならない。事後における■■と■■の謝罪も誠意あるものとはいえなかったし、控訴人の精神的苦痛を慰謝するものとはいえない。
D 本件測量等によって、控訴人の母の生活の平穏が害され、今もその恐怖が母に続いている。控訴人、母及び弟は、それぞれ離れた都道府県に居住していたので、母が控訴人に代わり不動産全体を管理看守していたが、控訴人が養護者となって不自由なく安全に生活できているか気にかけるような関係性にあり、控訴人と母とは不可分一体の関係にある。母に対する権利侵害は、同じく相続人であり子である控訴人に対する権利侵害と不可分一体の関係にあるというべきであり、そのような意味でも、本件測量等が控訴人の権利利益を侵害するものであったことは明らかである。
E その他、控訴人は、税務署の休日対応窓口が明確になっていないことで、間違った問合せ先に連絡をしてしまい、謝罪対応を余儀なくされたことなどによる精神的苦痛、控訴人が税務署の不誠実な対応により本訴提起を強いられ、虚偽の報告が提出されるなどの被控訴人の訴訟対応に対抗すべき多大な労力を費やしたこと、電話代、電気代等の実費や土日が自由に使えなくなったことによる損害も考慮されるべきである。
F 仮に損害額の正確な立証が難しいとしても、民事訴訟法248条により相当な損害額が認定されるべきである。
イ 本件報告
調査報告書(乙12)は、税務署内部でのみ作成・使用されるものではなく、訴訟の場で、納税者に対抗するための証拠資料とされ、税務署の外部において、ほかならぬ控訴人に向けて示したものである。調査報告書(署用)の作成要領からしても、いざ課税要件の充足性が問題とされた際に、訴訟等で活用することが予定されているのであり、調査報告書は上記作成要領に沿うものである。
そして、■■は、そのような調査報告書であるのに、控訴人とのやり取りを正確に記載せず、作成要領に違反したものであり、職務上の義務違反がある。
外部的に使用される文書である以上、控訴人への影響は反射的ないし事実上のものではないし、調査報告書により、真実に基づき税務調査の違法性を争うことを難しくされ、真実に基づく裁判を受ける権利利益を侵害された。
また、調査報告書の作成により、控訴人の名誉は害されたのであり、精神的苦痛による損害は発生している。
(2) 被控訴人の主張
ア 本件測量等
(ア) 本件測量等における対応は、一般的に調査の受忍義務を負う者に対する質問検査権の行使として社会通念上相当な限度にとどまっていたから、質問検査権の趣旨に照らして著しく合理性を欠くと認められるものではなく、重大な違法はない。
(イ) 国税通則法74条の3第1項からすると、相続税に関する調査において相続財産である土地等を測量することは、当然に質問検査権に基づく調査に含まれる。
国税通則法74条の9の事前通知は、調査手続の透明性や納税者の予見可能性を高めるために行われるもので、国民の権利義務を形成するものではないから、同事前通知の有無により、直ちに対象者である納税義務者の権利ないし法律上保護された利益が侵害されるものではない。
また、本件測量等に先立って、控訴人に対して送付された来署依頼文書(乙4)において、来署依頼日時、本件相続税の調査を行う旨、調査の目的(本件申告書の内容についての調査)、調査の対象となる税目(相続税)、調査の対象となる期間(本件相続)、調査の対象となる帳簿書類その他の物件(土地の評価方法が分かる書類)、納税義務者(控訴人)の氏名・住所、調査を行う職員(■■)の氏名・所属官署等が通知されており、同条第1項所定の通知事項のうち相当部分が控訴人に通知されていた。このことからすれば、本件相続税の調査手続の透明性や控訴人の予見可能性が一定程度は確保されていたといえる。本件において、国税通則法上の事前通知を欠いたとしても、事前通知を定める趣旨は一定程度確保されていることからすると、その手続的瑕疵の程度は小さく、本件測量等の正当性が失われるものではない。
(ウ) 控訴人は、■■や税務署側の目的や意図を挙げて、本件測量等についての国賠法上の違法を主張する。
しかし、■■と控訴人との本件通話のやり取りを受けて、多忙を理由に来署できないと申し出た控訴人から「評価にかかるようなその土地の形の良さ悪さみたいなことも、あの、図面だけでは伝わらないこともきっとあるだろうと思いますので、」などと言われことから、本件各土地の正確な評価額を算定する必要が生じたために本件測量等は行われたものであり、違法な税務調査をすることを意図して行われたものとは到底認められないし、税務署職員が意図的に事前通知をしなかったものとも認められない。
控訴人の指摘する■■の「計算」という表現についても、住宅地図を用いた机上での計算結果を指しており、虚偽の発言ではないし、つじつま合わせのために本件測量等を行ったものではない。
(エ) 本件測量等は、その必要性、態様に照らし、質問検査権の行使として社会通念上相当な限度にとどまっていたのであるから、本件各土地の所有権侵害もなかったと認められる。本件測量等が、国賠法1条1項の適用上違法であるとは認められない。
イ 本件報告
調査報告書は、調査関係事務において必要がある場合に、質問検査等の一環として、調査担当者が納税義務者等に対して質問し、それに対して納税義務者等から回答を受けた事項等のうち、課税要件の充足性を確認する上で重要と認められる事項について、その事実関係の正確性を期するため、その要旨を記録し、統括官等に報告するために作成する行政文書である。
したがって、一言一句を正確に再現して記録することや、実際のやり取りの順序どおりに記載することは要求されていないから、本件報告が本件通話の要旨を記載したものとして妥当性及び合理性を欠くものではなく、職務上の義務違反はないし、国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を有するものではなく、本件報告の作成によって控訴人の権利ないし法律上保護された利益が侵害されたとは認められない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原審と異なり、控訴人の請求は、3万3000円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5%の割合による金員の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおりである。
2 事実認定
次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1のとおりであるから、これを引用する(なお、認定した事実につき、段落番号に応じて、以下「認定事実(1)」のようにいう。)。
(原判決の補正)
(1) 7頁20行目の末尾に行を改め、次のとおり加える。
「 控訴人は、平成30年3月27日頃、税務署長から、本件相続税について調査を行うので同年4月9日に土地の評価方法が分かる書類などを持参して税務署に来署するよう記載した文書の送付を受けたことから、同年3月29日、本件の担当者である■■に架電し、本件通話をした。(前提事実(2)イ・ウ、甲5)」
(2) 9頁13行目の「本件通話後に」から同頁15行目の「指示した」までを「本件通話後に、■■から本件通話の内容についての報告を受け、控訴人が■■による現地確認を承諾したと思い、より正確な数値に基づき本件土地①ないし⑤の評価額を計算した上で控訴人と文書でやり取りをする旨の方針を了承し、■■に対し、■■と共に本件土地①ないし⑤の現地を確認して、本件土地①ないし⑤の測量を行うよう指示した」に改める。
(3) 9頁21行目から10頁9行目までを次のとおり改める。
「 ■■と■■は、平成30年3月30日午前10時30分頃、本件土地①ないし④の付近に臨場した。■■と■■は、控訴人の母宅に赴くなどして来訪の事実や目的を告げることなく、本件測量等を開始した。■■と■■は、本件土地①及び②の計測から始めた。本件土地①ないし④の間口距離はいずれも同一の長さとなるところ(原判決別紙図面1の点A・点B間の距離)、この間口距離の計測は、本件土地①と本件土地③及び④との間の道路沿いで行われた。この時、■■及び■■は、公道での計測が周囲の目につくのを避けるため、巻き尺を使用せず歩測とした。
本件土地①及び②それぞれの奥行距離(原判決別紙図面1の点E・点F間の距離、同点F・点G間の距離)については、隣地との間の細いあぜ道に沿って巻き尺を使用して計測をした。その際、■■及び■■は、本件土地②の一部が低くなっていることを目視で確認し、土地に立ち入り、あぜ道から地面が下がっている点(土盛りが必要となる地点)までの距離(原判決別紙図面1の点F・点H間の距離)を計測するなどした。
■■及び■■は、本件土地②の測量中、同土地の中央付近で農作業をしていた女性(控訴人の母)から「どなた。」、「税務署の方。」と聞かれて「そうです。」と答え、更に「最近では女の人が測るんやね。」などと声を掛けられた。(甲6、乙13)
その後も、■■及び■■は、測量を続け、本件土地③及び④の奥行距離(原判決別紙図面1の点C・点D間の距離)については、土地へ立ち入った上、巻き尺を使用して計測した。
さらに、■■及び■■は、本件土地①ないし④の計測を終えた後、本件土地⑤に向かい、同土地については、間口距離(原判決別紙図面2の点I・点J間の距離)を計測し、さらに、土地に立ち入って奥行距離(原判決別紙図面2の点I・点K間の距離)を計測した。」
(4) 10頁11行目の「甲7」を「甲6、7」に改める。
(5) 10頁13行目から15行目までを削る。
(6) 10頁17行目の「■■」から18行目の「■■は」までを「まず、■■に対し、本件測量等の経過等に関して問いただすなどした。その際、■■は、控訴人から控訴人の母に声掛けをして了解を得たか尋ねられたのに対し、了解はとっていないが、控訴人の母から測っていってくださいと言われた旨を告げるなどした。その後、■■から電話を代わった■■は」に改める。
(7) 10頁22行目の「しかし、」を、「■■は、本件土地①ないし⑤をどの順序で測量したのかの説明を求められ、本件土地①、②、③、④及び⑤の順序である旨を説明し、控訴人はその旨を図面にするなどして書き取った。これに対し、」に改める。
(8) 11頁3行目末尾に行を改め、次のとおり加える。
「イ ■■は、平成30年4月2日付けで、税務署長に対し、本件測量等に関して報告する内容の調査報告書を作成し、決裁に回した。
同報告書には、本件測量等の順序につき、本件土地③、④を行った後、本件土地①、②を行った旨が記載されていた。(乙13)」
(9) 11頁4行目の「イ」を「ウ」に改める。
(10) 11頁7行目末尾に行を改め、次のとおり加える。
「(5) 事実認定の補足説明(前記(3)イについて)
被控訴人は、本件測量等の順序に関し、■■作成の調査報告書(乙13)を踏まえ、本件土地③及び④から先に行われた旨を主張し、同人の証言及び供述(乙21)はこれに沿う。
しかしながら、■■が作成した平成30年3月30日の調査報告書(乙12)や陳述書(乙21)には、■■が「後日、現地を確認させてもらいます」との発言をした旨の記載や同趣旨の記述があるが(前記(2))、控訴人と■■とが電話をした本件通話についての録音の反訳(甲5)によれば、■■が実地調査を行う旨を控訴人に伝えたとの事実があったとはうかがわれないこと、■■は、本件測量後の同年4月2日に控訴人との電話の際に、測量に当たり控訴人の母の了解を得たかと問われたのに対し、了解は得ていないが、測っていってくださいと言われた旨回答したが(甲17、補正後の前記(4)ア)、これは、■■の同日付けの調査報告書(乙13)や証言及び陳述(乙21)における控訴人の母との会話内容と異なるものであることなどを考慮すると、■■の本件測量等に関する調査報告書(乙13)の記載や証言、陳述における信用性は高いものとはいえない。他方、■■は、同年4月2日に控訴人に謝罪した際、本件土地①及び②から先に測量をした旨、■■と異なる説明をしており(補正後の前記(4)ア)、同説明には格別不自然な点はうかがわれない。そうすると、■■及び■■は、本件土地①及び②から先に測量したと認めるのが相当であり、本件土地③び④から先に測量をしたとの事実は認めることができない。」
3 判断
(1) 争点(1)(本件測量等と国賠法上の違法性等)について
ア 本件測量等についての事前通知
前提事実(4)イのとおり、本件測量等は控訴人らに対する質問検査として行われたものである。そして、認定事実(1)によれば、■■が控訴人に対し、本件通話において本件測量等について国税通則法74条の9第1項に該当する事項を通知したとは認められず、他に税務署長が控訴人に対して事前通知を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
そして、質問検査権の行使に当たっては、原則として、事前通知が必要とされ(国税通則法74条の9)、同法74条の10所定の例外事由がある場合は、事前通知なしでこれを行使することができるとされているが、本件においては、上記例外事由は認められないから、本件測量等を実施するためには事前通知が必要であるところ、これを欠いている点で本件測量等については国税通則法違反があると認められる。
被控訴人は、第2の3(2)ア(イ)のとおり主張するが、法所定の要件を満たさない通知しかされていない以上、事前通知があったと認めることできず、これを欠いた本件測量等も違法というほかなく、被控訴人の主張は理由がない。
イ 本件測量等についての承諾
認定事実(1)によれば、本件通話において、■■が控訴人に対し実地で本件測量等を行う旨を伝えておらず、控訴人が本件測量等について承諾していたと認めることはできない。なお、本件測量等が行われた当日において控訴人の母がこれを承諾していたとも認めることができない。
この点、被控訴人は、仮に■■が控訴人から本件測量等について承諾を得ていたとは認められないとしても、■■において、控訴人から承諾がされたものと認識(判断)したことに合理的な理由があった旨主張する。
しかしながら、控訴人と■■との本件通話においては、控訴人は一貫して、まずは書面により、税務署が考える土地の評価の問題点やその根拠が示されることを求めていたのであり、土地を実地で調査するといった話題は出ておらず、■■において控訴人が本件測量等を承諾したものと認識(判断)できるようなやり取りは存在しないし、本件全証拠によっても、■■がそのように判断したことに合理的な理由があったことをうかがわせる事情は認められない。被控訴人の上記主張は理由がない。
そして、質問検査権は、あくまで任意調査(行政調査)として行われ、強制調査(相手方の意に反して事業所等に立ち入り、各種物件を検査すること)を認めるものではなく、納税義務者の意思に反して質問検査権を行使することは、調査の必要性にかかわらず、その範囲内の正当な行為とはいえない(最高裁昭和63年12月20日第三小法廷判決・裁判集民事155号477頁参照)。
本件測量等は、控訴人側の承諾を得ることなく、控訴人ら所有地に立ち入る態様で行われたものであって、質問検査権の範囲内の正当な行為とはいえず、違法である。
ウ(ア) 以上のとおり、税務署長の事前通知を欠き、かつ、控訴人側の承諾を経ないで、■■及び■■によって行われた本件測量等は、個別の国民である納税義務者たる控訴人に対し税務署職員として負っている職務上の義務に違反するものとして国賠法上違法となるものというべきである。
(イ) そして、■■及び■■は、本件測量等の当日に、控訴人の母宅に赴いて来訪の事実や目的を告げずに秘密裡に測量を開始していること(認定事実(3)イ)、本件土地②の測量をしている際に、控訴人の母親に声を掛けられながら、測量を行うことについての了解も得ることなく(同(3)イ)、かつ、本件測量等に当たり、■■から周囲の目に配慮するように言われていたのにかかわらず、その後も漫然と測量等を継続していたことからすると、本件測量等に際しての本件各土地への立入りが平穏な態様であったことを踏まえても、本件測量等の違法性の程度は決して軽微なものではなく、被控訴人の主張は理由がない。
(ウ) 被控訴人は、損害が軽微であること、事後の謝罪により控訴人の精神的苦痛が慰謝されていることを主張するが、これらの事情は損害論の問題として考慮されるべきである。その主張の趣旨が、可罰的違法性がない旨をいうものであるとしても、前記(イ)のとおり、本件測量等の違法性については決して軽微なものとはいえないのであり、その主張はいずれにしても理由がない。
エ 他方で、控訴人は、本件測量等の違法性の程度が強い事情があるとして、前記第2の3(1)ア(ア)のとおり主張する。
(ア) この点、土地の測量は質問検査権の行使として認められるものであることは、前提事実(4)のとおりである。また、本件測量等は、課税の前提となる本件土地①ないし⑤の評価額を決するために行われたものであり、その目的に正当性がないということはできない。さらに、控訴人は、本件通話における■■とのやり取りを踏まえ、■■が実際には現地を見て測量をしないと書面を作ることができなかったから、つじつまを合わせるために控訴人に内密に本件測量等を行ったなどと主張するが、そのような主張に係る事実を認める的確な証拠はない。控訴人のいずれの主張も理由がない。
(イ) 質問検査権の行使につき、国税通則法違反や租税における手続的保障原則違反があるからといって、直ちに違法性の程度が演繹的かつ画一的に決まるものでなく、その必要性、内容及び方法が質問検査権の行使として社会通念上相当な限度にとどまるものであったか否かなどを総合的に考慮し、質問検査権の趣旨に照らして著しく合理性を欠くと認められるか否か等により判断されるべきであり、その主張は理由がない。
(ウ) 本件測量等が重大な違法を帯びた前例のない悪質な税務調査であるとする点についても、これまでに述べた本件測量等の態様にも照らすと、そのような指摘は直ちには当たらず、同主張は理由がない。
(2) 争点(2)(本件報告の国賠法上の違法性等)について
ア 控訴人は、前記2の3(1)イのとおり、本件報告の国賠法上の違法性について種々主張するところ、その要旨は、①本件報告が虚偽公文書作成に該当すること、②本件報告は税務署内部とはいえ不特定多数の者に控訴人の社会的評価を低下させる情報を流布させるものであること、③控訴人が不誠実な納税者としてマークされる不利益も生じること、④控訴人が本件測量等に承諾していたという本件報告の虚偽の内容を前提に本件測量等が行われており、控訴人は本件報告によって自己決定権を侵害されたなどというものである。
イ この点、確かに、上記①の事情は、税務署内部においての種々の問題や支障を生じさせ、税務行政に対する国民の信頼を損なわせる事態を招来することとなり不適切との誹りを免れないものという余地があるが、本件報告に係る文書はあくまでも税務調査の内容を税務署内部で報告するために作成される文書であり、基本的に外部において利用されることは想定されない。その信用性や適正性が求められるとしても、それは税務署内部の利益に関するものであり、個別の国民である納税者に対する職務上の義務に係るものではない。後に訴訟に提出されたからといって、その性質が変わるものではない。また、②につき、本件測量等に係る控訴人の承諾の有無に関する記載内容それ自体により、直ちに控訴人の社会的評価が不当に低下させられるものとはいえないし、③につき、控訴人が同事実によって不誠実な納税者としてマークされる不利益がもたらされるものともいえない。④につき、上記に述べたところを踏まえると、それによって自己決定権の侵害がもたらされるものとはいえない。
その他、控訴人がこの点に関し種々主張するところは、直ちに本件報告の国賠法上の違法性を肯認するに足りるものとはいえない。
ウ そうすると、■■が本件報告をしたことについては、個別の国民である納税者たる控訴人に対し税務署職員として負っている職務上の義務に違反するものではなく、国賠法上違法ということはできない。
(3) 争点(3)(損害の額)について
ア(ア) 本件測量等がされた時点で、本件土地①ないし⑤は遺産分割未了の状態であり、控訴人は同土地について共有者としての権利を有していたことからすると、本件土地①ないし⑤へ立入りがされたことにより、控訴人は同土地に対する共有持分権者としての共有持分権を害されたといえるし、当該土地についての平穏を害されることのない権利ないし利益を侵害されたものといえる。
他方、■■及び■■が本件測量等のため本件土地①ないし⑤に立ち入ったのは3か所にとどまり、測量自体が簡易な方法であったこと、囲繞地や塀がない状態の土地への立入りであり、具体的な調査箇所対象も、各土地の間口及び奥行、本件土地②内にある段差の位置及び深さであり、秘匿性が高い情報に及んでいないこと、立入りはいずれも比較的短時間であったこと、本件測量等の後、税務署の職員による謝罪がされていること、これらに加えて控訴人は本件土地①ないし⑤がある■■県外に居住していることを総合すると、本件測量等により控訴人が受けた精神的苦痛の程度は大きいとまではいえず、これを慰謝するには3万円をもって相当と認める。
(イ) そして、本件測量等という違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は3000円と認める。
イ 控訴人は、前記第2の3(1)ア(イ)のとおり種々主張する。
しかしながら、①控訴人の母は控訴人とは別人格である以上、母に対する違法行為によって控訴人に慰謝料請求権が生ずるとみることはできない。また、②控訴人が母に本件土地を看守させ、控訴人において母の養護者となり、同人のことを気にかけている関係にあるからといって、控訴人と母が不可分一体の関係にあるとして、控訴人の母の損害を控訴人の損害と認めることはできない。
その他、控訴人が慰謝料の発生事由ないし増額要素として種々主張するところは、いずれも前記アの結論に消長を来さないものである。
(4) その他、控訴人は種々主張するが、いずれも前記1の判断を左右するものではない。
4 よって、控訴人の請求は3万3000円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5%の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なる原判決は一部相当でなく、控訴は一部理由があるから、原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。
また、主文第2項に仮執行宣言を付した上で、被控訴人の申出により仮執行免脱の宣言をすることとし、仮執行宣言の開始時期については、本判決が被控訴人に送達された日から14日を経過したときと定めるのが相当である。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官 佐藤 哲治
裁判官 清野 正彦
裁判官 石村 智
