重加算税が賦課される場合にさかのぼる年数が7年である理由

所得税

税務署長が税務調査を実施して行う更正処分や決定処分は、法定申告期限から5年を経過してしまうとすることができないとされていますが、重加算税が賦課される場合(偽りその他不正の行為がある場合)は7年までさかのぼって処分することができることとなっています。この「7年」とされている理由について、数年前に読んだある雑誌に理由が掲載されていましたので、参考までにまとめてみました。

当初は10年さかのぼることで検討されていた

偽りその他不正の行為がある場合の更正・決定処分ができる期間は以前は、「5年」とされていましたが、昭和56年の税制改正により、「7年」とされました。この改正が行われた背景として、当時の政府税制調査会の答申では、以下のような提言がされています。

 現在、脱税の場合の追徴可能期間は五年とされているが、脱税に対する厳しい世論があることや、主要諸外国は比較的長期間にわたり追徴できることとしていることを考慮すると、一般的な国及び地方団体の債権債務の時効期間等との関係並びに法秩序の安定性の要請に配慮しつつ、賦課権の除斥期間の見直しを行うべきであると考える。

出典:「財政体質を改善するために税制上とるべき方策についての答申」33頁

これだけだと、なぜ「5年」から「7年」になったのか経緯が分からないのですが、税務署に勤務していた時に回覧されていた雑誌に、当時大蔵省主税局に勤務されていた伊藤義一元松蔭大学大学院教授がその答えを書いていました。ちょっと長いですが引用します。

 昭和51年はじめにロッキード事件が明るみに出た。田中角栄元総理の逮捕、5億円もの脱獄事件ということで世間を騒然とさせた。
昭和54年8月、総理府が行った世論調査に興味深いものがあった。これは、脱税額を10万円、500万円、1億円とした場合、それぞれに対する制裁の程度を問うという調査であり、結果は、10万円を脱税した場合はスピード違反に相当、500万円の場合は詐欺横領に相当、1億円の場合は強盗に相当するという意見が多かった。
この結果は、負担の公平を図る納税秩序に対する社会的意識の向上の表れである。そこで私は、この機会を逃すまいと、脱税犯に対する罰則の引き上げと税務署長が更正決定等をすることができる期間制限の延長を提案した。この提案について政権政党である自民党税制調査会の主なメンバー、政府税制調査会の主なメンバーの了解を得たので、その方向性で作業を進めることになった。
この改正は、(中略)、脱税の場合の更正・決定等の期間制限を「5年」から「10年」に延長することであったが、いくつかの問題点があった。
まず10年に延長すれば、国税庁は関連書類等を10年間保管せねばならないのだが、当時の簿書庫に10年間分はとても入りきらないという問題があった。自民党税調も政府税調も主なメンバーは10年の延長を認めていたが、簿書庫に入り切らないという理由から(電子化された今では考えられないが)、涙を飲んで「7年」になってしまった

出典:TKC会報2017年5月号「税と共に歩んだ六十有余年-生まれ変わっても同じ道を素晴らしい縁に恵まれ今日まで」

つまり、伊藤先生の記事によると、偽りその他不正の行為がある場合の更正・決定処分ができる期間が「7年」である理由は、単に税務署の物理的なキャパシティにあったというのが理由だったようです。

改正電子帳簿保存法が施行されると…

令和4年1月から、新しい電子帳簿保存法が施行されることになっています。詳しい説明は他のHPを参照していただくとして省きますが、これにより帳簿書類等を電磁的に保管する方が増えると思われます。また、税務署側もe-taxでの申告などによりペーパーレス化が進んでいる状況にあり、上記のような物理的なキャパシティの問題は緩和される方向に向かうのではないかと思います。

国の財政状況が悪化の一途をたどっていますが、いずれは帳簿書類等を電磁的に保管することによる更正・決定期間の延長が議論されることになるのではないかと、この記事を書いていて思いました。