租税条約と国内法との関係、解釈のルールは?

国際税務

租税条約が法律に優位することはご存じの方も多いと思いますが、そこからさらに踏み込んで、租税条約と国内法との関係、解釈のルールについて解説します。

租税条約と国内法との関係

憲法98条2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と条約遵守について規定していますが、租税条約が国内法と異なる定めをなしている場合、租税条約の定めが優先して適用されることになっています。

しかしながら、投資所得等のように、源泉地国の税率の上限(限度税率)を規定する場合、包括的な規定を置くことを通例とし、実際の課税に当たりその限度税率の範囲内のいずれの税率を適用するのか等までは言及していないため、国内法で補完又は補足する規定を置かなければその適用関係が必ずしも明確ではありません。

例えば、多くの租税条約は、利子の限度税率として「10%を超えないものとする」と規定していますが、10%以下であれば何%でもいいのかといった疑問の生じる余地が残ります。このため、これらの点を明確にし、租税条約と国内法(所得税法、法人税法及び地方税法)との橋渡しをする特例法として、実施特例法(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律)が制定されています。

具体的には、例えば実施特例法3条の21項では、租税条約の相手国居住者が支払を受ける配当、利子、使用料等につき、当該租税条約が限度税率を定めている場合には、その限度税率が国内法(所得税法213条1項等)の定める税率以上である場合を除き、国内法に定める税率に代えて、当該租税条約の定める限度税率によるものとする旨を規定しています。

このほかに実施特例法では、租税条約に基づく合意(相互協議の合意)があった場合の更正の特例、条約相手国への情報提供、条約相手国から情報提供要請があった場合の当該職員の質問検査権、非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度、条約相手国の租税の徴収共助、国税の徴収共助、送達共助等について規定しています。

また、所得税法でも、租税条約上の恒久的施設の定義は,条約交渉の結果として定まり,国内法で一義的に定めることは困難であることから,納税者の予測可能性の観点も踏まえ,租税条約で異なる定めがある場合には租税条約上の恒久的施設が優先されることを明確化するための調整規定が定められていますし、国内源泉所得についても、租税条約の内容が国内法に取り込まれて解すことができるよう規定が設けられています。

租税条約により国内法上の適用関係が変更される例

居住者

所得税法において居住者とされる場合であっても、租税条約の規定に基づき相手国の居住者とされるときには、「非居住者」として取り扱うことになっています(実施特例法6)。

恒久的施設

所得税法において恒久的施設とされる場合であっても、租税条約の定義する恒久的施設の範囲に含まれないときには、恒久的施設として取り扱いません(所法2①八の四ただし書)。

国内源泉所得

所得税法上、「国内源泉所得に該当しない所得」であっても、租税条約において「国内源泉所得」としている場合には、「国内源泉所得」として取り扱います(所法162)。

課税の軽減又は免除

非居住者の受け取る貸付金利子(所法161①十)に対する所得税法上の源泉徴収税率は20%ですが、租税条約において相手国の居住者の受け取る利子に対する源泉地国の課税の上限(限度税率)が10%と規定されている場合には、日本では10%を超えて当該相手国の居住者には課税できないこととなります(実施特例法3の2①)。

また、非居住者の受け取る使用料(所法161①十一)に対する所得税法上の源泉徴収税率は20%ですが、租税条約において相手国の居住者の受け取る使用料に対する源泉地国免税が規定されている場合には、我が国は課税できないこととなります(実施特例法3の2②)。

なお、租税条約と国内法の関係に関する国際的な一般原則として、次の二つがあり、租税条約上明文で規定されている例もあります(日米租税条約1条2項及び4項等)。

プリザベーション・クローズ(Preservation Clause)

両締約国の国内法上有する租税の減免措置は、租税条約の締結によって、制限されることはなく、更に、両締約国間で締結された他の協定による減免措置も制限されることはないとする考え方です。租税条約が適用された結果、国内法よりも税負担が増えることは基本的にないということを意味します。

セービング・クローズ(Saving Clause)

租税条約は、原則として、自国の居住者に対する課税に影響を与えないとする考え方です。ただし、租税条約における対応的調整に関する規定、二重課税除去に関する規定、無差別取扱いに関する規定、相互協議に関する規定などはこの原則の例外となります。

租税条約の解釈

一般に、租税条約は、国内法に比べて簡素な規定振りとなっていることから、解釈の余地が広くなりやすい傾向があります。仮に両締約国の解釈が相違する場合には、二重課税や二重非課税といった事態となり得るため、租税条約の解釈はできるだけ両締約国が統一的に行うことが望まれます。

租税条約に限らず、広く条約に関する基本的な規則を定めている「条約法に関するウィーン条約(通称「ウィーン条約法条約」)は条約の解釈に関する規則を定めており(31条~33条)、この規則が租税条約の解釈についても適用されます。

第三十一条《解釈に関する一般的な規則》
1 条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。
2 条約の解釈上、文脈というときは、条約文(前文及び附属書を含む。)のほかに、次のものを含める。
(a)条約の締結に関連してすべての当事国の間でされた条約の関係合意
(b)条約の締結に関連して当事国の一又は二以上が作成した文書であつてこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認めたもの
3 文脈とともに、次のものを考慮する。
(a)条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意
(b)条約の適用につき後に生じた慣行であつて、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの
(c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則
4 用語は、当事国がこれに特別の意味を与えることを意図していたと認められる場合には、当該特別の意味を有する。

第三十二条《解釈の補足的な手段》
前条の規定の適用により得られた意味を確認するため又は次の場合における意味を決定するため、解釈の補足的な手段、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠することができる。
(a) 前条の規定による解釈によつては意味があいまい又は不明確である場合
(b) 前条の規定による解釈により明らかに常識に反した又は不合理な結果がもたらされる場合

第三十三条《二以上の言語により確定がされた条約の解釈》
1 条約について二以上の言語により確定がされた場合には、それぞれの言語による条約文がひとしく権威を有する。ただし、相違があるときは特定の言語による条約文によることを条約が定めている場合又はこのことについて当事国が合意する場合は、この限りでない。
2 条約文の確定に係る言語以外の言語による条約文は、条約に定めがある場合又は当事国が合意する場合にのみ、正文とみなされる。
3 条約の用語は、各正文において同一の意味を有すると推定される。
4 1の規定に従い特定の言語による条約文による場合を除くほか、各正文の比較により、第三十一条及び前条の規定を適用しても解消されない意味の相違があることが明らかとなつた場合には、条約の趣旨及び目的を考慮した上、すべての正文について最大の調和が図られる意味を採用する。

そのため、租税条約は、一般に、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとされています(ウィーン条約法条約31条)。

なお、最高裁は、OECDモデル租税条約コメンタリーについて、ウィーン条約法条約32条が規定する「解釈の補足的な手段」として、日本が締結した租税条約の解釈に際して参照されるべきものと判示しています(最高裁平成21年10月29日第一小法廷判決)。