税務署からの調査を実施したいという連絡は、通常実地調査の2週間程度前にあります。連絡のあと実地調査までの間に真っ先にすべきことは何か?元国税調査官である税理士が考えてみました。
申告内容の見直しと調査前の修正申告
やるべきことを1つだけ挙げるとすれば、「申告内容の見直しと調査前の修正申告」を挙げます。
以下の理由から、税負担の最小化と調査の早期終了を実現できる可能性が高まると考えられるからです。「なんだ、当たり前のことではないか。」と思われるかもしれませんが、実際に調査官として調査した経験からすると、これをやっている方はかなり少なかったという印象です。
売上を調整していた場合や架空の経費を計上していた場合は、重加算税の賦課を避けるためにも調査前の修正申告を検討すべきです。
国税庁は最近、下記のとおり税務署に対して指示し、消費税の連年無申告に対して無申告重加算税(税額の40%)をかけること念頭に厳しい姿勢で臨んでいます。消費税を納めたくないばかりに毎年売上を1,000万円以下で申告していた方は、必ず調査前の修正申告をすべきです。
個人課税事務提要【事務手続編】第10章第6節11(1)
消費税の加算税の取扱いについては、…、国税不服審判所の平成23年4月19日裁決を踏まえ、各課税期間の消費税の納税義務を隠蔽するために、これに対応する基準期間の課税売上高の一部を隠蔽する行為が、客観的にみて各課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠蔽行為と評価することができる場合については、消費税の増差税額の全額について、無申告重加算税を確実に賦課する。
特に、基準期間の課税売上高を連年1000万円以下に圧縮している事案については、連年1000万円以下に圧縮したことについて合理的な理由がなければ、原則として、その課税期間における消費税の増差税額の全額について、無申告重加算税を賦課する。
なお、申告内容の見直しと調査前の修正申告を行うメリットとして、以下の3点を挙げることができるかと思います。
重加算税賦課の予防につながること
そもそも加算税とは、修正申告や更正処分を受けた際に本税とは別に納めなければならないペナルティの税金です。加算税も何種類かありますが、その中でも一番負担が大きいのが重加算税になります。その税額は、新たに納める税額×35%(過少申告加算税に代えて課される場合)、場合によっては7年間(通常であれば最大でも5年)もさかのぼって課され、延滞税も約9%程度の利率で課されます。
では、どのような場合に重加算税が課されるのかというと、事実を隠ぺい・仮装し、その隠ぺい・仮装に基づいて申告書を作成し税務署へ提出した場合(当初申告をしているケース)に課され、申告よりも前の行為が問題となります。
そうすると、仮に隠ぺい・仮装に当たる行為があった場合、当初の申告よりも後に修正申告をしてもこれを治すことができないように考えらえるのですが、条文上は、修正申告書の提出が調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない場合は、重加算税が課されないこととなってます。
「更正があるべきことを予知」については、下記の記事で解説しています。
ただし、「更正があるべきことを予知」しないで修正申告をしても、税務署は簡単に重加算税の賦課を諦めませんので、この点は留意する必要があります(実地調査時に調査官に対して事前に修正申告をしたと言っても、「重加算税の賦課を検討する」と言われることがあります。このような場合に備えて、調査官に対して、きちんと「更正があるべきことを予知」しないでした修正申告であることを主張・立証できるように準備しておく必要があります。)。
加算税が軽減されること
重加算税が課されない場合であっても、調査の連絡後~実地調査前までに自主的に修正申告をする場合には、過少申告加算税(期限内に申告をした後に修正申告をした場合にかかるペナルティ)がかかります。ただし、その税率は以下のとおり
となっており、加算税が軽減されます。
調査官のモチベーションを削ぐことにもつながる
私が調査官だった時に、調査に行く前に修正申告が出てきた事案があり、調査のモチベーションが落ちてしまったことを経験したことがあります。「もう実地調査に行っても誤りを発見できる可能性は少ないだろう。」と思ってしまい、目の前の事案よりも次の事案をどうするべきかを考えてしましました。もちろんすべての調査官にこのようなことが当てはまるわけではありませんが、調査前に修正申告をすることで、調査官のモチベーションを削ぎ有利な状況を作り出すことができます。
1人でできなければ税理士に相談を
ただ、「申告内容の見直しと調査前の修正申告」といっても、具体的に何をするべきなのか分からないとか、時間がない、修正申告書の作り方が分からないということもあると思います。1人で対応できないようであれば、悩まずに税理士に相談してみましょう。相談料を支払ったとしても結果的にトータルのコストは押さえられることが多いです。