租税法の条文を読んでいると、用語や言い回しがよく分からないということがありますが、その際に参照してみるべき書籍について、まとめてみました。
租税法の解釈は文理解釈が原則
租税法の解釈は、原則として法令の規定をその既定の文字や文章の意味するところに即して解釈(文理解釈)すべきとされています。その理由について、金子宏先生の「租税法〔第23版〕」123頁では、
租税法は侵害規範(Eingriffsnorm)であり、法的安定性の要請が強くはたらくから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない
と説明されています。
また、最高裁平成22年3月2日判決(民集64巻2号420頁)においても、
租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく
と判示されているところです。
なので、租税法の条文を読むときは、文理に即して解釈していくことになるのですが、条文の中に用いられている用語の中には、条文には定義がなく、民法や会社法といった他の法分野で用いられている概念の用語が用いられていることがあります。そういった用語については、
私法上におけると同じ概念を用いている場合には、別意に解すべきことが租税法規の明文またはその趣旨から明らかな場合は別として、それを私法上におけると同じ意義に解するのが、法的安定性の見地からは好ましい。(金子宏「租税法〔第23版〕」127頁)
とされており、原則として、本来の法分野におけると同じ意義に解釈していくことになります。
条文の言い回しがよく分からない場合に読んでみるべき書籍
条文を読んでみると、上記のような他の法分野で用いられている概念以外で、言い回しや建付けがよく分からないといったことがあります。そういった場合、まず以下の3冊を読んでみると、なにかしらのヒントが得られることが多いです。
新訂ワークブック法制執務(第2版)
霞が関で法制執務に従事する方の必読書とされている書籍です。財務省主税局に勤務していた方からも執務上本書をよく参照していたと聞いたことがあります。本書を出版している株式会社ぎょうせいのHPには、以下のような説明が記載されています。
『ワークブック法制執務』は法令審査の専門家が問答形式で法制執務の知識、立法技術を解説するもの。入門から実務のプロまで、国・自治体の法制執務担当者の必携書です。
法制執務のシステム化が進む今だからこそ、押さえておくべき「法制執務の基本」がこの1冊に網羅されています。本書の編著者である法制執務研究会は、内閣法制局で法令審査を長年担当してきた法制執務のエキスパート。極めて難度の高い法律の起案、審査などを手掛けてきた経験者集団にほかなりません。
法令用語の常識
内閣法制局長官を務められた林修三氏の書籍で、そのはしがきに「一般の人々にわかりにくいような専門的な法令用語、あるいは立法上のテクニックをなるべく平易に解説」すると記載されている通り、普段法令用語に馴染みがない人にもわかりやすく解説されています。現在はこの本の補訂書として、元衆議院法制局参事の吉田利宏氏の「新法令用語の常識」が出版されています。
なお、林氏の著作には、他にも「法令解釈の常識」や「法令作成の常識」があり、こちらも参考になります。
改訂第三版 税法の読み方 判例の見方
長年大蔵省主税局で税制改正の企画・立案等に携わった伊藤義一元松蔭大学大学院教授による書籍です。解釈手法や法令用語、判例の見方のみならず、句読点のつけ方ひとつで意味が変わるといったテクニカルなことまで記載されており、参考になる書籍です。
余談ですが、以前伊藤先生の税法の読み方の講義を税務大学校で受講したことがあります。受講当時で伊藤先生の年齢が80歳を超えていたと思いますが、年齢を全く感じさせないしっかりした講義でした。時を経ても通用する知識や経験を持っていれば、生涯現役で活躍できるんだなと思いました。
他の条文で同じ言い回しがされていればヒントになるかも
条文で意味が分からない言い回しが出てきたときに、他の条文でも同じ言い回しがないか確認してみると、なにかしらのヒントが得られることもあります。
e-Govの法令検索というサイトで、分からない言い回しを入れて検索してみると、同じ言い回しが使われている他の条文が確認できます。税法の条文だけでなく、他の法律の条文検索されますが、その条文の逐条解説などを読んでみるとヒントが得られるかもしれません。
期間に関する用語は税大講本国税通則法が参考になる
私は期間の計算の考え方をよく忘れるので、国税通則法のこのページは、税務署時代も財務省時代もしょっちゅう見返してましたね https://t.co/0uJmrx7ZyW pic.twitter.com/xgsW7p2Ts6
— キハラシンヤ@税理士・社労士 (@khrtax) December 14, 2021
以前、キハラ先生がツイートしていましたが、期間の計算に関する言い回しは、税大講本国税通則法基礎編(令和4年度版)の8頁が参考になります