暗号資産(仮想通貨)でハッキングの被害にあった場合雑損控除の適用はあるか?

仮想通貨(暗号資産)

暗号資産(仮想通貨)がハッキングされるというニュースを目にすることがありますが、その場合税務上は雑損控除が適用できるのかというのが論点となるとか思います。これについての国税庁の見解は明らかになっていませんが、適用の可否について検討してみました。

雑損控除とは

雑損控除とは、災害、盗難、横領によって、資産について損害を受けた場合などに受けることができる所得控除で、対象となる資産は、納税者本人と配偶者や親族の保有する生活に通常必要な資産となっています。

雑損控除の控除額は、基本的には「損失の額-総所得金額×10%」で計算される金額になります。

なお、雑損控除は納税者の意思に基づかない原因によって資産に損失が生じた場合に認められるとされているので、詐欺の場合は適用できません。

暗号資産は雑損控除の対象となる資産か

雑損控除が適用とな対象となる資産は、棚卸資産や事業用資産等、山林、生活に通常必要でない資産を除いた「生活に通常必要な資産」に限られます。ここで、「生活に通常必要でない資産」とは、例えば、別荘など趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で保有する不動産、貴金属(製品)や書画、骨董など1個または1組の価額が30万円超のものなど生活に通常必要でない動産をいいます。

「生活に通常必要でない資産」については、所得税法施行令に次のように規定されています。

(所得税法施行令178条1項)
法第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
一 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産(前号又は次号に掲げる動産を除く。)
三 生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの

同項の検討に当たっては、民法上物権の客体となる「物」は動産と不動産から構成され、それらは有体物に限定されていますが(民法85)、暗号資産は有体物には該当しない(暗号資産の一つであるビットコインは有体物ではないと判示した裁判例あり。東京地裁平成27年8月5日判決)と考えられることから、動産であることが要件となる1号及び3号は除かれ、2号の「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」に暗号資産が該当するか検討することになります。

ここで、支払手段として用いられる暗号資産の所有目的について、趣味、娯楽、保養又は鑑賞目的であると客観的に認定することは困難であるため、暗号資産については「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」に該当することは少ないと考えられます。

そうすると、暗号資産は一般的に雑損控除の適用対象となる資産に該当するものと考えられます。

ハッキングは「盗難」と評価できるか

「盗難」については、刑法上の窃盗と同一のものと解されており、「盗難」とは、占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転をいうと解されています。

ここで、窃盗罪について規定している刑法235条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし…」と定めているところ、この「財物」とは有体物をいうものと解されており、暗号資産は一般的には有体物には該当しないと考えられていることから、ハッキングによるデータの改ざんを窃盗と評価することは難しいと考えられます。

しかしながら、スキミング犯罪 ( 他人のキャッシュカードやクレジットカードの磁気記 録情報を不正に読み出してコピーを作成し使用する犯罪行為)より預貯金を引き出された場合は、警察署に被害届を提出しそれが受理した旨の証明があれば雑損控除の対象となるとされており(平成17年2月23日付「『スキミング犯罪』等による損失の雑損控除申告のための警察における証明事務の取扱いについて」)、暗号資産のハッキングの場合もスキミング犯罪と同様に取り扱われるのであれば、雑損控除の対象になり得ると考えられます。

「災害」と評価される可能性は…

「災害」については、「震災、風水害、火災その他政令で定める災害」(所法2①二十七)をいい、「その他政令で定める災害」とは、「例外、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害」(所令9)をいいます。

「災害」には、「人為による異常な災害」も含まれることとされており、裁判例においては「『人為による異常な災害』により損失が生じたというためには、少なくとも、納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな、納税者の関与しない外部的要因(他人の行為)による、社会通念上通常ないことを原因として損失が発生したことが必要である」と判示されています(大阪地裁平成23年5月27日判決・訟月58巻10号3639頁)。

そのため、納税者の関与しないハッキングによって生じたことが客観的に明らかである場合には、「人為による異常な災害」があるとして認められる可能性はあると考えられます。